207話 長期滞在……その前に
前回のあらすじ「実は泉の弱みをいくつかもっていたりする」
―翌日「カフェひだまり・店内」―
「これがドラゴンの鱗なんですね……キレイです……」
「うん。エメラルドみたいでキレイだね!まさか、ドラゴンキラーになるなんて……流石、薫さんたちですね!」
翌朝、家でグリフォンの羽を使って防寒具を作るために帰った泉たちを見送り、そしてヴルガート山に帰るハクさんをイスペリアル国まで送った後、いつものように本業である小説の執筆、夕方になったところで笹木クリエイティブカンパニーへ素材やサンプルを持っていき、その後、昌姉たちに無事を報告も兼ねて夕食を食べにひだまりへと来た。
「お疲れさん……ほれ」
マスターが僕たちに食後のコーヒーを差し出してくれた。店内の一角を見ると、火は付いていないが石油ストーブがすでに置かれていた。
「いただきます……うん。美味しい」
「なのです♪」
閉店に近いタイミングで来たのだが、運良くお客さんがいない状態だった。
「それで、そのドラゴンの鱗いる?しばらくは定期的にもらえるから、数とか心配しなくても大丈夫なんだけど……」
「それなら店に飾ってやるよ。しかし、お前さん達はグリフォンに会いに行ったのに、何故、ドラゴンと戦うんだ?」
「はははは……どうしてでしょう?」
「いつの間にかすり替わっていたのです……」
「まあ、おかげで色々、貴重な素材が手に入ったからいいけどさ」
「それでもかなり危ない目にあったんじゃないの?」
「昌姉の言う通りだよ……シルバードラゴンのハクさんが来た時は絶対絶命だったよ。あ、死んだ?って思ったもん」
「話の分かる奴で良かったな……」
「武人さんの言う通りだけど……でも、今後の事を考えると心配だわ」
「昌さんの言う通りですよ!お二人は何か対策を立てているんですか?」
皆が心配そうな表情で訊いてくる。
「うーーん……あるよ。クロノスで練習している魔法が」
「まだ、未完成なのです」
「泉たちから聞いたが……麒麟の強化版だっけか?」
「そう。ただ、どんな技をインプットさせようか考え中なんだ。しかも神速は使用不可になっちゃったし」
「轟雷と雷槍はそのまま……雷霆万鈞は変えた方がいいのです」
「そうだね。スピードの雷霆・麒麟。今回の麒麟はパワーとディフェンス特化型かな?」
今回の術の都合上、神速は使用不可になってしまった。それに付随して、高速で相手に近づいて極太の雷を放つ雷霆万鈞も使えなくなってしまったのだ。
「どのくらいパワーアップしたんですか?」
「……」
「……」
「何で二人して黙るんですか!?そんなに危険なんですか!?」
「アダマンタイトを……折った」
「「「「へ?」」」」
「実験用にアダマンタイトの延べ棒を的に雷槍を撃ったら、ポキッと折れたのです」
「もしかしたら、おとといのカーターたちのバルムンクぐらいの威力はあるかも」
アクヌムやギガントオーガシェルでの反省を活かして、より攻撃的な呪文を考えたのだから当然と言えば当然なのだが。
「それなら……大丈夫……か?」
「お二人が危険物な気が……」
「物扱いはしないで欲しいのです。それに必要な事なのですよ?」
「あ、はい!すいません」
レイスに怒られ、あみちゃんがそれに対して素直に謝罪する。ただ、その危険物扱いされてしまう事、自体は僕としてはしょうがないと思ったりする。逆の立場だったら僕もそう思うもん。
「とにかく、僕たちもしっかり対策してるから安心して。ただ、この頃こっちに来れなくて申し訳ないかな」
「安心しろ。あみちゃんに雪野ちゃんもいるんだ。こっちに関しては気にするな。もし、暇ならこっちに手伝いに来てくれればいい。妖狸効果とここが関係者の店ってことで売り上げはうなぎ上りだからな」
笑顔で答えるマスター。その雰囲気からして本当に問題は無いのだろう。
「ただ……ちょくちょく今日みたいに食べには来いよ。それとだが、あっちの調理器具を購入するときはよろしくな?」
「分かってるって。必要なら言ってね」
「無理しないでね?」
「うん」
「来月のイベントでコスプレするから忘れないでね♪」
「それは忘れたい」
「頑張って下さい!今回の衣装は腹だしだそうですよ!」
「あと、セクシー路線でいくって……」
あみちゃんのその発言……どんな服なんだ?
「薫……お前、泉でも怒らせたか?」
「……心当たりはあるかな。聞く?」
「話していいんですか?」
「恋バナなのです!」
「「ぜひ!!」」
あみちゃんたちが恋バナと聞いて食いついた。ちなみにマスターたちも聞くために自分たち用のコーヒーを用意し始めるのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―翌日「イスペリアル国・異世界領事館 資材置き場」―
「おはよう!」
「グオ!」
「ニ―!!」
「おはようなのです!」
レイスは挨拶を済ませるとそのままベビードラゴンに近づいて撫で始める。お父さんドラゴンが見当たらないが、恐らく狩りに出かけたのだろう。
結局、グリーンドラゴンの親子が住む場所が見つからず、どうしようか考えた結果、コンジャク大司教の許可の元、僕たちがこちらに滞在するのに手に入れたこの異世界領事館の資材置き場に滞在することになった。ただ資材置き場とはいっても、あのギガントオーガシェルの貝殻が置いてあるだけだったなのだが……。
「これ……造ったの?」
「ガウ!」
置いてあった貝殻を、恐らく魔法を使ってキレイに整形し、それらを積み上げ、さらに足りないところはどこからか取って来た木を使って雨風を凌げる立派な小屋を作っていた。床も地面むき出しでは無く、大半は枯草を敷いて、一部は羽毛を敷いていた。
「お見事です……」
「グオ!」
「ニー!!」
その見事なドラゴンの棲み処に唖然とするのだった。
「グオ……」
すると、お母さんドラゴンが棲み処の奥から何かを取り出して、それを地面に置いてくれた。
「うわ……いいの?」
「グオ!」
ここに住まわせてもらう謝礼なのだろう。この聖都周辺に生息するジャターユというハゲワシに似た大きな怪鳥を2匹譲って貰えた。棲み処に使われた羽毛はこいつのものだろう。この魔獣の特徴の一つで群れを成すので、そこを狙ったのかもしれない。
「勇者様!ソレイジュ女王、その護衛の方々が参られました!」
「あ、はーーい!レイス!」
「あ、はいなのです……じゃあね」
「ニー!!」
領事館で仕事をしているケモ耳修道女に呼ばれた僕たちは、待っているであろうソレイジュ女王に会うために領事館の中に入るのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―「イスペリアル国・異世界領事館 玄関前」―
その後、泉たちも領事館に予定通りにやって来た。どうしてここに泉たちもやってきたかというと。
「これ。帰省のお土産に……」
先ほど冒険者ギルドから頂いたレッドドラゴンの鱗を数枚、ソレイジュ女王の護衛の方々に渡す。若干だがその表情は引き攣っていた。
「こんな高価なお土産……いいのですか?」
「今後とも娘さんを連れ回してしまいそうなので……そのご家族に最大の感謝を込めて送らせていただきます。必要ならもう何枚か……」
僕はアイテムボックスからレッドドラゴンの鱗をさらに取り出す。
「それは止めておきましょう。護衛の兵士達が首を振ってますから」
護衛の方々を見ると、引き攣った表情で首を横に振っている。ちなみに鱗が重いから無理とかではなく、その希少性故にこれ以上は精神的に勘弁して欲しいという感じだ。
「まあ、大量に手元にあるので、後で必要なら言って下さい。何せレイスとフィーロの手柄でもあるのですから」
「ええ。分かったわ」
「あ、それと……」
僕はアイテムボックスから作ってきたクッキーも手渡す。
「精霊には大き過ぎると思うんですが……どうぞ」
「あ、私も」
泉も同じようにお菓子を渡す。同じクッキーだがこちらはスノーボールといわれる種類のクッキーだ。
「お茶菓子にでもどうぞ」
「ふふっ!ありがとう。食べるのが楽しみだわ」
「それじゃあ泉!いくッスね!」
「しっかり帰省を楽しんでね」
「うッス!」
「レイスもだよ?」
「はいなのです♪」
今日ここに来たのは前々から予定していたレイスたち帰省のためだ。フィーロは一度帰ったので、今回で2度目になる。それと、ここに滞在する理由が僕たちにはあって、領事館内部の調度品の位置を決めたり、それらの配置。他にも色々やることがあって、この施設に1週間程滞在する予定である。
「それじゃあ、いってきまーす!」
「いってくるッス!!」
「ゆっくりしていってね!」
「こっちは気にしないでいいからね!」
僕と泉はレイスたちを領事館前の門のところで見送るのだった。
「いっちゃったね……」
「淋しい?」
「いや。今生の別れじゃないんだからね?それに……」
泉がアイテムボックスから服を取り出す。それはかなり露出の多い服で、上半身は水着かと思うくらいだ。確かゲームかアニメでこんな格好をした女性キャラがいた気が……。
「来月のイベントの為にサイズ調整をしないと!」
「これかい!!え?これを僕が着るの!?」
下はスカートになっていて僕のあそこを隠せることは隠せるが……それでもかなりきわどい。少しでも風が吹いたらアウトな気がする。というか上……腹だしって聞いたけど……これ胸部しか隠れていないよね?
「いったでしょ?……見てなさいって?」
笑顔で答える泉。その背後から不気味なオーラが発せられている。
「ふふふ……。ここまでの薫兄の露出多めの衣装なんていつ以来かな……♪」
あ、すごーーく。根に持っていた。カーターとの事を弄ったことに対してすごーーく。根に持っていたよこの子は……。
「ふふふ♪」
もう、何も言わない。これ以上言ったらどんな格好をさせられることやら……。
「……はい」
僕は早々に敗北宣言をするのだった。




