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203話 冷静になって……

前回のあらすじ「ドラゴンバスター見参!!」

―「イスペリアル国・ニトリル山脈 グリフォン仮拠点」―


「まさか……ドラゴンに勝っちゃうなんて……」


「今さら冷静になるなよ……まあ、気持ちは分かるが……」


 首を切断されて完全に事が切れた大きなレッドドラゴンの死骸を目の前に、今さらだが、無茶をしたな……。と僕は思うのだった。


「しかし……これでオリハルコンが作れるのか?」


「どう……だろう?アレにはドラゴンの鱗しか書いて無かったから……」


 ドラゴンには生きた年数や強さによって鱗の色が変わるらしく、レッドドラゴンはドラゴンの中でも中位で、その上に黒、シルバー、ゴールドとなる。ちなみにレッドの下はブルー、グリーンとなっている。


「薫兄!!」


 泉が僕の名前を呼びながら、後ろに二体のグリーンドラゴンを連れてやってきた。いや、頭にベビードラゴンもいた。


「グオオ!」


「シエルちゃん?なんて言ってるのです?」


 レイスの言葉に反応して、シエルがドラゴンの言葉を翻訳してくれた。


「ありがとうだって」


「それじゃあ……どういたしましてなのです」


 レイスがドラゴンの家族に近づいて言葉を返す。熾烈な戦いが終わった後で、皆から穏やかな雰囲気が漂っている。


「とりあえず、やる事をやって帰るとするか……色々、報告しないとな……」


「この後、どうするッスか?」


「グリフォンから涙と羽毛を貰わないと!!」


「泉……それもあるけど……いや、涙の回収が一番だけど……」


 一応、3,4泊程を予定していたので飲食に関しては問題は無い。むしろ今後の予定が課題だ。泉の言った通りで当初の目的であるグリフォンの涙とついでに羽毛を貰い、中にある壁画の確認をする。次にグリーンドラゴンの移動先の確保、さらにさらに、このレッドドラゴンだ。


 まず、ドラゴンの肉は人は可食出来ないので、食べられるグリフォンやユニコーンたちに渡すことが決まっている。それ以外の鱗に骨、角、牙、そして魔石は僕たちが持っていっていいらしいのだが、カーター曰く、これらを売っただけで3世代は遊んで暮らせるほどの財産を築き上げられるくらいの価格になるそうだ。


「売上金は仲良く分配なのです」


「それはいいんだが……どうやって解体する?」


 一番の問題。それはこれの解体である。流石に大きすぎるし、仮に自分で解体するにもガルガスタ王国で多少の手ほどきしか受けていないので、上手く解体できる自信が無い。ということで。


「運ぶしかないよね……イスペリアル国の冒険者ギルドに。あそこなら解体のプロがいるから、どうにかなると思うんだ……その運ぶが問題なんだけど」


 虚空を使って軽くは出来るのだが……なんせ住宅サイズの生き物なのだ。軽くしたとしても運ぶ人員が必要になる。


「人を呼べば問題解決なんだが……ここまでの往復を考えると大分、時間がかかるな……」


「「グオ!!!!」」


 すると突然、ドラゴンの夫婦が驚いたような声を発する。その後、すぐに何かに対して警戒を始めた。


「どうしたの?」


「グオ……」


 その鳴き声をシエルが翻訳する前にそれがやってくる。レッドドラゴンより大きく、その秋の日光に照らされて銀色に輝く雄々しき翼。それが降下して僕たちの近くに下りて来た。


「ははは……冗談だろう?」


「冗談ならすぐに目覚めて欲しいわね……私、この夢から目覚めたら薫の作ったホットサンドを食べて……」


 カーターとサキの会話が良く聞こえてしまう。さっきのレッドドラゴン一体を相手に数人、数匹で戦ってようやく勝ったのに……その上のシルバーに勝てるなんて想像できない。


「グルル……」


 ドラゴンの夫婦が怯えている。それほど強いのだろう。ここはどうすれば……。


(そやつはどうやら退治されてたようですね……)


 倒されたレッドドラゴンを見て、淡々とした言葉を述べる優しくそれでいて凛とした女性のような念話。このシルバードラゴンのものなのだろう。


(あの~……すいません。身構えなくていいですよ?仕返しに来た!とか、そこの二人を連れ戻しに来た!とかじゃありませんので……)


 ……急に淀淀しい声で弁明するシルバードラゴン。


「えーと……」


(あ、すいません。私はシルバードラゴンのハクといいます。今回は同胞がご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした)


 深々とその長い首で頭を下げるハクさん。その行動に皆が呆気にとられてしまう。誰も話そうとしないので僕がハクさんに話しかける。


「ハクさん?謝罪は分かりました……では、ハクさんはどうしてここに?」


 ハクさんが僕に顔を向けて話を始める。


(そこにいる二人から話を伺っていると思いますが、ヴルガート山にある我々の棲み処では今、新旧のリーダーが争っています。私は中立な立場として行動しているのです。例えばそこの二人のように子供が生まれる直前の夫婦、または子育て最中の夫婦を巻き込むのを禁止、どちらに付くか考えている者に無理矢理、強要するのを禁止、と無駄な争いを起こさせないように見張っているのです)


「なるほど……それじゃあ、今回はこのレッドドラゴンを連れ戻そうとして来たのですか?」


(はい。子育てするドラゴン達が静かな場所に移動することは節度を守りさえすれば、私の方で容認していました。しかし、新しいリーダーはそれに反対してまして……それに賛同したこいつが追ってきたという次第です)


 そう言って、ハクさんが溜息を吐く。ドラゴンも溜息を吐くんだな……。


(お詫びとして、この者の亡骸はそちらがご自由にして下さって構いません。そもそもルールを破った哀れな者としてふさわしい処分でしょう。そこの二人も、子供が十分に育つまで他の場所に移動することを認めますので安心して下さい)


「「グオ!」」


「ニーー!」


 グリーンドラゴンの夫婦が揃ってお辞儀する。お母さんドラゴンの背中にいたベビードラゴンもそれを見て真似ている。


(すでに卵から孵っていたのですね……可愛らしい子供。しっかり育てるのですよ)


「グオー!」


 一際、大きな声を上げるお父さんドラゴン。新米パパとしてきっと頑張ってくれるだろう。


「クェーー!!」


 すると、グリフォン達がこちらへとやってきた。


(何があった!?)


「あ。えーと……」


(そちら、グリフォンの長とお見受けしますが……)


 そこから、僕たちに話した事の次第をグリフォンたちも話しして、迷惑をかけたことを謝罪する。


「クェーー!」


(お前は黙ってなさい)


 恐らく最初に僕たちを襲ってきて、レッドドラゴンとの戦闘の際にはカーターを乗せたあのグリフォンが、またグリフォンの長の風魔法で近くの木に叩きつけられる。アイツも懲りないな……。


(そちらの謝罪をお受けします。詫びの品として、この者の肉を貰えるなら文句はありませぬ。これで冬を無事に越えることが出来ます)


「ただ、どうやって解体するかだな……」


(宛はあるのですか?)


「あります。けど、そこまで運ぶ手段が……」


(なら、私がお手伝いしましょう。むしろ、罪滅ぼしとしてさせて下さい)


 その意見を聞いて一度皆で相談するがこちらとしては願ったり叶ったりなので、ありがたくその提案を受ける。


「グリーンドラゴンの家族も来てもらったほうがいいんじゃないかな?そうすれば代表達で何か案をだしてくれるかも!」


 泉のその提案……悪くないかもしれない。カーターたちもその意見に賛成とのことで、グリーンドラゴンの夫婦にも説明して一緒に行く事になった。


(では!さっそく……)


(ちょっと待っていただきたい。この者達は元々は我々に用事があって、まだ、その要件を済ませていないのです)


(あ、そうでしたか……それは失敬。それではどうしますか?)


「僕たちとしては今日はここに泊って、明日、イスペリアル国の首都に戻りたいと思ってます」


(そうですか……それでは私も今日はここに滞在するとしましょう……よろしいですか?)


(構わないが……その大きさだと巣には入れないぞ?)


 それを聞いたハクさんは目を瞑り、その体を眩しいほどに光らせる。その光が止んだ先には一人の銀髪の女性、その体に銀色の羽と尾をもっていた。


「これならいいでしょうか?」


「すごーーい!ドラゴンって変身魔法も使えるんですか!!」


 泉が興味深々でハクさんに尋ねる。


「この私、シルバードラゴンやリーダーであるゴールドドラゴンは竜人と言われる姿に変身できるようになれるのです」


「そうですか……その変身って誰かにかけたり出来ないですか?」


「え?それは……無理ですね……」


「そうですか……」


 泉がそれを聞いてしょんぼりする。どうする気だったのだろう?すると、僕に顔を向ける泉。


「ゴメン薫兄。上手くいけば完全体に出来たのに……」


「僕を女にする気で訊いたの!?僕は男!!最初から完全体だから!!」


「男性……ですか?それにしてはお顔が人間としてはおキレイとお見受けしますが?」


「ハクさん!僕は男です!どうあがいても事実は変わりませんから!!」


「私は無理ですが……リーダーならもしかしてその呪いを解くことが……」


 そのまま何かを考え始めるハクさん。


「聞いてない!?しかも呪い扱い!?」


 まさかドラゴンもそう扱わるとは思わなかったよ!!


(おーーい……早く要件を済ましたいんだが?)


「グリフォンの長さん!ちょっと待っててください!これは……男としての沽券に関わることなんです!」


「そんな風が吹けばすぐに吹き飛ばされる沽券はどうでもいいッスよ……早く行くッス」


「……だな」


「待たせるのも悪いわね」


 そう言って、何事も無かったように移動を始める皆さん……。


「薫……」


 レイスがその小さな手を僕の肩に置く。


「レイス……」


「男は諦めが肝心なのです!」


「認めてたまるかーー!!!!」


 僕の譲れない気持ちが声となって山中に木霊するのだった。

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