19話 ようこそ異世界へ(精霊2名様ご案内)
前回のあらすじ「酒場で食事」
―「ビシャータテア王国・酒場ルルック」―
先ほどのハプニングから落ち着きを取り戻した店内。
「ということで、どうかしら? 契約してみない?」
「は、はい」
「うちは問題無いッス!」
レイスちゃんとフィーロちゃんが返事をする。レイスちゃんの魔法が使えない所はカシーさんたちに相談するとのことだった。
「って魔法使えないのに契約できるの?」
「出来るわ!! ……多分」
多分なんだ。とりあえずやってみようってところなのか。
「で、どちらと契約する?」
「うーん。あたいとしては泉がいいッスけど……。レイスはどうッス?」
「私もそれでいいのです。なんとなく薫さんの方が気が合いそうですし……」
「そんな感じでいいの?」
「私達がパートナーを決める時はこんな感じだぜ。いくらそいつが貴族で楽しく暮らせそうなやつでも性格や雰囲気が合わなければお断りだぜ!」
なるほど。パートナーに求める条件にその人とどれだけ性格が合うのかが一番大事になるのか。それはぜひ小説の設定に使わせてもらおう。
「じゃあ決まりね!! ということで薫、泉! 両手を前に出して!」
サキに言われて両手を出す。
「そしたら、その上に2人は乗る!」
言われる通りにレイスちゃんが僕の手の上に乗っかる。
「そしたらおでこをくっつけて」
手を上に持っていき、互いのおでこをくっつける。
「我、汝と契約結びし者。今ここに永久の契りを。って頭の中で強く念じる。口にしてもかまわないわ」
言われた通りに目を閉じて念じ始め、レイスちゃんは口にしながら念じる。すると僕の手の平が温かくなる。目を開けて見るとレイスちゃんが座っている両手の平に魔法陣が光っていた。
「これで4人とも契約完了よ」
「え? これで終わりなの!?」
早い。1分未満で契約とは。
「そうよ。契約自体すっーーーーごく簡単なのよ。ただ私達精霊が基本は自由気ままで1つの場所に留まる気質じゃないしマーバの言う性格の問題もあって難しいってだけよ。契約した精霊である私達は少し変わっているって捉えても問題無いわ」
「そうだな。確かにうちらは変人だな」
サキもマーバも僕が会った精霊って契約済みばかりだから今一その話にピンとこないんだけどな……でも、とりあえずは契約は完了したみたいだ。
―薫は「魔法使い(仮)」になった!―
内容:精霊と契約完了した物に与えらる称号。でも魔法は使えません!
「やったー!!」
泉がはしゃいでる。子供の頃の夢が遂に叶った瞬間だもんね。フィーロと笑顔でお喋りしてる。
「……あの~」
「うん? どうしたの?」
「良かったんですか?私とその、契約で……」
「それなら問題ないから心配しないで。魔法が使えるかどうかなんて僕には関係ないし。まあ……気楽にしてよ」
「は、はいなのです」
おどおどするレイスちゃん。暫くは魔法より互いの意志疎通が優先だな。
「とりあえず僕の事は薫でいいからね」
「わ、分かりました! わ、私はレイスでお願いしますなのです!」
「分かったよ。よろしくねレイス」
「こちらこそよろしくなのです」
正座して深々とお辞儀をする。……何だろう。こう話をしていると上手くやっていけそうな気がする。とういうか正座にお辞儀って異世界にあるんだな。
「……契約が出来るってことは魔法は使えるみたいだな」
「そうね。本当に使えないのなら契約も出来ないはずだろうし……。二人とも。魔法が使えない理由を調べてみるから、少し時間を頂戴ね」
「分かったよ」
「わ、分かりました」
「さてと。そしたら4人を送っていくとするか」
「だいぶ夜遅くなったもんね」
時間は10時を過ぎていた。僕達は酒場を後にして、シーエさんたちはさっきの事件のことで少し調べることがあるということでここで別れる。
「2人とも、きっと驚くわよ」
「それは楽しみっすね……レイスもそうッスよね?」
「う、うん!」
レイスちゃんとフィーロちゃんが楽しそうに話している……驚きすぎて気絶しないか心配なんだけどな……。
僕はそんなことを考えながら、レイスちゃんを肩に載せ、異世界の門があるカーターの家に向かうのであった。
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―数十分後「カーター邸宅・庭」―
「すごーい!ここに住んでいるのですか?」
「違うよ。ここは通り道なだけ」
カーターの屋敷まで帰ってきた僕たちは中に入り、朝来たガゼボまで来る。その際に執事さんが出迎えてくれたのはビックリしたのだが……帰ってくるまで待っていたのだろうか?
「いつもナイスなタイミングで来るわねローリンさん」
「プロの執事なら当然って言ってたけどな」
それプロで済む話なのかな……もはや魔法使いじゃないの? そう心には思ったがツッコんでもしょうがないので黙っておく。
「これって転移の魔法陣ッスよね? 王都から遠いんッスか?」
「え? だって私達……」
「さあ、起動させるから乗って!」
泉の言葉をサキが遮った……言わせないつもりだ!
「転移の魔法陣で移動なんて初めてなのです…」
「楽しみッス」
ワクワクしてるところ悪いけどこれの行き先は……。僕はもう静かに黙ったまま魔法陣に乗るのだった。
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―「薫宅・蔵」―
「ここは?」
「僕の家の蔵だよ」
「見たことのないような道具があるのです」
蔵の外に出る。冬の空はとても澄んでいて星がキレイに輝いていた。
「それじゃあ俺達はこれで帰るから」
「2人への説明よろしくねー」
そう言って2人は再び魔法陣を起動させて帰っていった……。
「説明って何ッスか?」
「あー。そのー」
「ここって王都からどの位離れた所なのですか?」
「かなーり遠くかな?」
「曖昧な表現ッスね?」
「それは異世界だもの。世界が違うんだから距離もへったくれもないわ」
「「へ?」」
「え?」
やっぱり……。さっきの会話からもしかしたらとは思っていたけど泉は気づいていない。
「泉。僕たちが異世界の住人だってことを知らないよこの2人は?」
「「はい?」」
「あれ? さっきの食事の際に話さなかったけ?」
「一度も言ってないよ。サキたちわざと言わないようにしてたし。僕たちが魔法使いになれば後々楽になると思って何とか契約させようとしていたしね」
「「え!?」」
「えーと。つまりね……2人はまんまと乗せられた感じなのかな」
「ねえ薫兄。下手すると詐欺だよね。これ」
それを知りつつ黙っていた僕も僕だが。そして全てを知った2人が互いに顔を見合せている。
その後、夜の寒空に、レイスちゃんとフィーロちゃんの悲鳴が木霊するのであった。
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―「薫宅・居間」―
「あ、あわわ。た、大変なことになったのです……」
「あの異世界に来るなんて……。聞いてないッスよ!?」
「言わなかったからね」
そこで僕はお茶をすする。暖房で暖まった部屋で2人にこちらの世界について話す。……ミカンを食べながら。
「周りにある物は魔道具じゃなくてキカイと言われる物で、魔力を必要としない道具なんて……」
「す、凄すぎてついていけてないのです」
「まあ、こちらで生活するんだからゆっくり覚えていけばいいのよ。とりあえず夜も遅いし、お風呂に入って寝ましょ。ということで薫兄、泊まっていくからね」
「いいよ。それとお風呂に入るならレイスたちも一緒にね。女の子だし道具の使い方とか色々あるからさ」
「いいわよ。それじゃあ2人とも行きましょ。着替え以外の荷物はここに置いていいからね」
「は、はいなのです」
「か、かしこまりッス!」
3人がお風呂場に向かった。居間に1人になった僕は手帳を取り出して今日の事をまとめていく。さらにその中から小説のネタとして使えそうな所をピックアップしていく。
「これは使えるかな……」
後は魔法陣についての調査と進展、仕組みと……。精霊。問題点……。1人黙々と手帳にそれらを書いていき、時には考察を書き記す。
「お風呂出たわよ」
泉たちがタオルで髪を拭きながら、居間に入って来る。
「分かった。それで2人ともどうだった?」
「さっぱりしたのです」
「キレイになったッス!」
「問題なく道具を使えてたわよ。意外にも、この子達見た目と違って結構力あるわよ……普通にレバーを回していたし」
「そうなんだ」
一緒に暮らすのに精霊には不便なところがあるかと思ったけど。そういう問題が無いのは本当にありがたい。
「でも……」
「でも?」
「レイスちゃん飛べないと厳しいかも」
「……やっぱり解決策を考えとかないと」
そう答えて僕は手帳を閉じ、入れ替わりにお風呂場にむかうのだった。
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―「薫宅・お風呂場」―
「ふぅ~」
湯船に浸かる。外が寒かったのでお風呂の温かさは身に染みる。明日は仕事だからしっかり体を休めないと。そういえばレイスも一緒に来てもらった方がいいかな。きっと、昌姉は大喜びするだろうな。とりあえず次にあっちに行くまでにもっと親睦を深めないと。
そんな風に今後の予定とか考えながら体をキレイにしていく。
「……マーバみたく外にいないよね」
ふと、気になった僕は一度、浴室の扉の開けて脱衣所に誰もいないことを確認するのであった。
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―それからしばらくして「薫宅・居間」―
お風呂から上がり脱衣所で髪をドライヤーで乾かす僕。髪を乾かし終え居間に戻ると3人してゲームをしていた。といっても泉がやっている所を2人は見ているだけなんだけど。
「スゲェーッス!!」
「カッコいいのです!」
「よし! 最後に召喚獣でトドメよ!」
魔法陣からド派手に召喚獣が登場し炎の魔法で残りの敵を片付ける。
「はあ~。こんな魔法使えたらな~」
「……そう…だね」
「あっと! ゴメン…」
「ううん。気にしないで。私だってそう思ったのです」
魔法が使えないレイスからしたらさっきの発言は悪言だったのかもしれない。
「大丈夫よ!! 薫兄と契約出来たってことは魔法は使えるってサキ達も言ってたんだから安心しなよ!」
「はい……」
「昔は使えてたんッスけどね。むしろ学校の中でも一番上手くて……でも、本当にある日突然なんッスよ使えなくなったの」
「何か理由があるのかな?」
「あ。薫兄いつの間に?」
「召喚獣が敵をボコスカしてた時からだよ。で、きっかけとかないかな?」
「あ。それならあるッスけど……。でもかなり……というか何というか……」
「何なの?」
「あの。その、ですね……」
「どうしたの? 言ってみなよ。何が原因か分かるかもしれないよ」
レイスが黙り込む。何か言いづらいことなのかな?
「……です」
うつ向きながら小さい声で何かを言った。
「え?」
「何で火は燃えてるのか分からないのです」
「「はい?」」
どういうことだろう? 火は燃えてるのが分からないって何だろう? 思わずポカーンどする僕と泉。
「やっぱり……」
「あーー。2人に説明すると火って魔法でも魔石でも火打石でも着くじゃないッスか?それで……」
「それも何か違うのです……。先生に聞いても変な事を言うんじゃないって怒られて、両親に聞いても同じで……次第に周りの子から変な目で見られて…それから魔法が使えなくなって…ううっ……」
レイスが泣き始める。フィーロは慌ててその頭を撫でる。
「それで前は憧れの存在なのに、魔法が使えなくなったら途端に気味悪がってイジメられたんッスよ。先生達も触れたくないというか……。親も何が分からないのって怒られて……で、こんな所にいたらダメだと思って家出したんッスよ」
「そうなんだ……。ゴメンね。何というか変な事を聞いちゃって」
「大丈夫……なのです。変なのは……私ですから」
泣きながら返事をしているレイス。今の話を聞いて僕は必死に何かを思い出そうとする。
確か、これに似た話をどこかで……。えーと。何だったけ…?小説に使えないかな~なんてネタでストックしていたような。
「それで酷い時は呼吸とかも上手く出来なくなったりすることもあって……」
そうそう。それもあったな。えーと。何だっけ?
「それは辛いでしょうね。って薫兄聞いているの!?」
「何かこう。もう少しで思い出せそうなんだけど……」
「思い出せる?」
僕はテーブルの上に置いておいた手帳を開き捲っていく。確かネタに出来ないかな~と書いていたはず……。
「あ、あった」
「あったって何がですか?」
「それと似た症状になった女の子の話。泉は聞いた事がないかな? 1+1=2が分からないの話」
「何それ?」
「知らないか」
「どういう内容なのですか?」
「要はレイスと同じだよ。1+1=2の数式がなんでその結果になるのか、そもそも2って何なのかって考えが頭の中から抜けずに次第には生活にも支障をきたすって話。この子の場合も呼吸関係で支障をきたしたみたい」
「あ!」
レイスも共感している。どうやら感じるものがあるようだ。
「む、難しいッス。そんな当たり前のことを言われても……」
「ご、ゴメン。私も……」
「今回のレイスの悩みは始まりは火って何ってところから始まって、次第には他の魔法についても同じように考え出したんじゃないかな? 例えば、水とは何なの? って感じで。」
「そうなのです! それなのです!」
「となると……結論として強迫性神経症を発症して魔法が使えなくなったっていうのが答えかな」
「キョウハクセイ?ショウ?」
……そういえば、あっちの病気についての知識はかなり時代遅れだったんだよな。
「つまり心の病気だね」
「病気って……。治るんッスか? 薬は? 神父は?」
「薬は必要ないし悪霊も関係ないよ。それより先にココアを淹れようと思うんだけど飲む?」
「飲むわ」
「ココア?」
「甘い飲み物だよ」
「甘い……」
「どう?」
「「ぜひ!!」」
ココアを淹れに台所に行く。どうやら僕が魔法を使えるようになるのは案外早くなるかもしれない。今はとにかく美味しいココアを作ってあげようと僕は思うのだった。




