198話 グリフォンの巣(仮)
前回のあらすじ「ドラゴン狩りにいこうぜ!」
―「イスペリアル国・ニトリル山脈」―
「……うわ。大きい。あれってグリーンドラゴンってやつ?」
「そうだな……ドラゴンはその色で強さが変わるんだが……緑色は一番若い奴らだ」
「一番若い……それでもグリフォンより強いんだよね?」
(ああ。我らもそれなりに強いが……個々では負けるな)
僕たちはあの後、グリフォンに案内されて、少し離れた上空で双眼鏡を使ってドラゴンを観察している。本来は空を飛んでいるグリフォンを見つけるために持ってきたのだが、その二つのレンズはドラゴンを捉えている。
「それでどうするのです?しかも二匹なのですよ……」
「うーん……そうだね」
僕たちはドラゴンを観察をする。ドラゴンはニトリル山の中腹にある洞穴にいて、一体は洞穴から顔をこちら側を向けて周囲を監視している。もう一体は奥にいるのか見えない……。そして、ここが肝心なのだが……時たまこちらと目が合う。結構、遠くから見てるんだけどな……。
「こちらがハッキリ見えてるのかな?」
「かもしれないッスね」
「それに随分警戒してるな。確かに個々では勝ててもグリフォンが集団で不意打ちすれば、負けると考えているのかもしれないな」
「グェエエーー!!」
(くっそーー!!アイツさえいなければ!!だって)
シエルがカーターが乗っているグリフォンが何を言ってるかを教えてくれる。その間もこちらを睨みつけるドラゴン……これは見えてるだろうな。
「そうしたら一回引きましょう。様子は確認できたことだし、作戦を練りましょう」
「……うん」
サキの言葉に皆が反応して引き返す。シエルが引き返す方向に進んでいる間、僕は後ろを振り返ってドラゴンを見る。あちらも引き返したのが分かったのか、そのまま頭を下げて寝てしまうのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―その日の夕方「イスペリアル国・ニトリル山脈 グリフォン仮拠点」―
「さてと、どうしようか……」
僕たちはグリフォンが仮拠点にしている場所で作戦会議をしている。ニトリル山の麓に広がる森の開けた場所にグリフォンたちが集まっていて、近くの木々を屋根代わりにしている。
(若いのを連れても被害を大きくするだけだからな……我らの中でも手練れの者を連れて行く事になるだろう)
先ほどから行動していた話せるグリフォン……グリフォンの長が自分たちが出せる戦力について話す。
「どれだけ連れて行ける?」
(うーーむ……20だろうか。戦える者は多くはいるが、ドラゴンが相手だとその位しかいないな……)
「それでも、陣形とかを組めば何とかなるかもしれないかな……でも……」
「どうした薫?」
「いや……気のせいかな?何か不自然と言うか……何というか?」
(不自然とは?)
「何か変なんだよね……」
偵察が終わって、改めてあのドラゴンの事を振り返ると、どうも納得いかないところがある。彼らはどうしてあの場所を襲撃したのだろう?それに……。
「かわいい~~♪」
「くぇ~~!」
歓喜の声がする方へ振り向くと泉が子供グリフォンに抱き付いていた。泉が何をしているかというと、僕たちから少し離れた所で母グリフォンと子供グリフォンだけが集まっているグループがあるのだが、そこで泉たちは子供グリフォンと一緒に遊んでいるのだ。
「フカフカなのです……ああ気持ちいいのです……♪」
「これはレイスが執着するのが分かるッスよ……」
「ダメ……これを知ったら普通の寝具に戻れなくなりそう……」
三人が大人しく座っている子供グリフォンの頭の上で寝転がっている。乗られている子供グリフォンはそれに対してあまり気にしていないよう様子で、そのままの状態でかわいい鳴き声を上げている。僕もモフモフしてみたいな……。ちなみにユニコーンたちには一度、疲れを取ってもらうために還ってもらっている。
「クェエエーー!!」
「いいんだよ。作戦とかを考えるのは僕たちの役目なんだから」
(これの言う事が分かるのか?)
「どうせ、何のんきに遊んでるんだよあいつらは!とかでしょ?」
(その通りだ)
「何かこいつの考えが分かるようになってきたな……」
何とも緊張感が無い作戦会議。これで明日にはドラゴン退治するとは思えない状況である。
「クェーー!!」
茜色の空を見上げると、数体のグリフォンがこちらへと降りて来る。その足には大きなオオカミを掴んでいて、それを見た子供グリフォンが大きな鳴き声を上げている。
「食料調達していたグループが戻って来たみたいだね」
(うむ。夕餉の時間だ……一回、ここで休憩にするとしよう。そういえば貴殿らはどうする?魔獣の肉は食えないのだろう?)
「僕たちは持ち込んでるからご心配なく。あ、それと……」
僕は今回のアイテムボックスの大半を埋めているある物をグリフォンの長の前に出す。すると、今までオオカミの方を見て大きな鳴き声を上げていた子供グリフォンがこちらを見て鳴き始めた。どうやら子供には気に入ってもらえたようだ。
(おおーー!!肉か!!しかし……いい肉だな)
「異世界で育てている食用の牛肉だよ。本当ならグリフォンの涙と羽を、これと交換で持ちかけようとしていたんだけど……非常事態だし、明日のためにもどうぞ」
(ハハハ!!確かにタダでやる訳には我らもいかないからな……こんな事態じゃ無ければ喜んで交換していただろう。しかし、いいのか?)
「今後とも物々交換出来ればと考えているので、その関係づくりも兼ねて」
(正直だな)
「ここで嘘を言っても仕方ないですから。それに、大事な一戦を前に腹を空かしていては戦えないのでは?」
(そうか……なら、ありがたくいただこう)
「まだまだあるからどうぞ」
僕は追加の牛肉を置いていく。アイテムボックスの容量の4分の3はこれである。
「「「「クェーー!!」」」」
子供グリフォンに続いて周りの大人のグリフォンたちも叫び出す。
(落ち着け!皆に行き渡るように分配する!いいな!!)
グリフォンの長の指示の元で、牛肉が各自に分配されていく。
「こんな大量の牛肉を良く準備できたね薫兄?」
先ほどまで、子供グリフォンと遊んでいた泉たちがこちらに戻ってきた。
「ひだまりがご贔屓しているいつもの商店に頼んだんだ」
ちなみに、大量の牛肉を引き取る際に、商店の主人から、今度は何をやる気なんだ?と訊かれてしまったりする。
「……牛肉ッスね」
「そうね……新鮮ないい肉ね……」
フィーロとサキが牛肉を一度見てから、振り返って僕の顔を見る。その目が何を言いたいかは分かっている。
「分かってるって。少しだけ待ってて、後ろでご飯を炊いているからさ」
僕の後ろに、この仮拠点に着いた直後に出しておいたキッチンで、ご飯を炊く準備を先にしていた。
「私、手伝うけど晩御飯の献立は?」
「牛丼と味噌汁に野菜サラダ。あっちで仕込みは済んでるから、後はちょっとした準備で終わりだよ」
「異世界で丼もの!いいね!」
「「牛丼?」」
「二人は食べたことが無いか」
「ああ。あっちで何回か手伝って賄いで色々食べたが……牛丼は初めてだな」
「それじゃあ、楽しみにしてて……」
「ええ!待ってるわ!」
僕は二人にそう言って、調理を開始するのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―30分後―
「はい。これが牛丼だよ」
僕は某チェーン店などで見られるような牛丼の野菜サラダセットを皆に出す。
「これは……美味しそう……」
「そうだな。しかし、こうもそっちの料理……いや、日本の料理を食べていると醤油と味噌が欲しくなるな」
「僕たちに頼めば買ってくるけど?異世界の門を置いてるんだから少しは私的利用してもいいと思うけど?」
「それをやると王様がな……」
「それなら大丈夫なのです。ユノがあっちに来るたびに持っててるのです」
レイスの言う通りで、ここ最近、王様は醤油に味噌を頻繁にこちらから購入している。ただ、日本のお金を持っていないので、こちらの銅貨を受け取っている。
「……それなら。出来ればシーエ達の分も頼みたい」
「分かったよ。それじゃあ持って来るね……泉が」
「私!?」
僕とカーターが話をしている間に自分の分を器に入れて食べ始めようとしていた泉が最初の一口を入れるのを止めてこちらを見る。
「ほら。僕って泉たちほど頻繁に来ないからさ。それなら泉たちにお願いした方がいいかなって……ね?」
ね?の所に力を込める。ここは泉では無いといけないだろう。それに泉の恋路を応援するようにという母さんと昌姉のお願いでもある。僕も妹のような泉が無事に結婚できるならそれを断る理由は無いし、真面目なカーターならお相手として問題は無いだろう。
「まあ……いいけど」
「カーターもいいでしょ?」
「問題無い。ただ、お礼とかはどうするか……変な物も困るから、ここは銀貨とかでいいか?」
「銅貨でいいですよ。地球では数百円ですから」
「分かった。その代わり、何かあればいってくれ。俺の気が済まなからな」
「は、はい……」
カーターの真剣な表情で見つめられた泉は頬を赤くして、その恥ずかしさをかき消すために夕食を食べ始める。
「カーターたちも冷めないうちにどうぞ」
「ああ。いただく……」
カーターがお箸で牛丼を掬って、口に入れる。
「美味い……!」
眩しいほどのイケメンスマイルが僕を襲うが……僕はなびかない。ただ、横でその笑顔を見た泉はその笑顔を見て撃沈。両手で顔を隠している。
「美味しいーー!!このお米と牛肉、そして玉ねぎの甘さ!どれが欠けてもいけないわ!!」
「いやー……美味いッス……お店より美味いんじゃ……」
「フィーロは大げさだよ。流石にそれは無いって」
素人である僕が、企業努力して作られた物をそう易々と超えるなんて出来ない。単純に開放感あふれる晩秋の夜空の下で食べるから美味しいのだろう。フィーロの隣でレイスも美味しそうに食べてるので僕も……。
「くぇー!!」
僕が食べ始めようとすると、足元には一匹の子供のグリフォンが僕の牛丼をねだってくる。匂いが周囲に漏れないように魔道具を使って消臭していたが、この子は僕の出した道具や調理が珍しかったのか近くまで来たようだ。
「クェ!」
すると、一匹の大人のグリフォンが子供グリフォンに近づき寝るように促す仕草をするが、子供グリフォンは僕の牛丼が気になって言う事を聞かない。これでは僕も食べれないので、余ってる牛丼の具を底の浅いお皿に入れて子供グリフォンの前に出す。気付いた子供グリフォンは美味しそうにそれを食べ始める。
「クェ~……」
大人グリフォンから、子供がワガママを言って申し訳ありません……。と言ってるのだろうか。頭を下げられる。そんな短いやり取りの間に子供グリフォンはそれを食べ終わって、満足そうな表情を浮かべている。大人グリフォンはその嘴で子供の首辺りを掴んで寝床へと連れて行ってしまった。
「くぇ♪」
お礼を言ってるのであろう子供グリフォンの鳴き声を聞いた後、僕は、今度こそ自分のお腹を満たすために牛丼を食べ始めるのだった。




