197話 グリフォンの悩み事
前回のあらすじ「薫様に跪きなさい!」
―「イスペリアル国・ニトリル山脈」―
(馬鹿者!!この方が手加減したから良かったものの、本来だったら討伐されてもおかしくなかったぞ!!冒険者よ。申し訳なかった。若い奴らがこんな事をするとは)
後に来た一際大きく威厳を感じるグリフォンが念話で訊いてくる。シエルと話すには契約をしないといけないのに、このグリフォンは普通に会話できるところ、先ほどからの他のグリフォンへの態度からして、このグリフォンは群れの中でも高い位置にいるのかもしれない。
「謝罪をお受けいたします。皆もいいよね?」
僕が訊くと、皆が頷いてくれた。ここでこれ以上、事を荒立てる気は僕たちには無い。むしろ話の分かるグリフォンと交渉できるなら、先ほどの件は……僕は話しているグリフォンの後ろにいるボコボコにした若いグリフォンを睨みつける。
「「「ピイィィーー!!」」」
叫び声を上げて、体を震わせている。これ以上は弱い物いじめになるので、ここで許すとしよう。
(面白いご婦人だ。それでここには……)
「僕、男……」
(うん?何の冗談だろうか?どう見ても……)
「すまない。彼は男だ」
(……は?)
その瞬間、話していたグリフォンが硬直する。そこまで理解不能なのだろうか。
(うーーむ。そう……なのか?貴殿に似た女性が前にここにやってきたものだから。人間の女性だと……)
「僕に似た人?」
(ああ……今の貴殿の髪を金髪にした女性だ。彼女は自分を女だと言ってたからな。てっきり貴殿も……)
「待って!僕に似た人が来たの!?どのくらい前?」
(私がまだまだ若い頃だからな……随分と前だったと思うが……)
「もしかして名乗ってなかった?アンジェって」
(おお!名乗っていたぞ。知り合いか?)
まさか、ここでお婆ちゃんが出て来るなんて……ここで一体何をしていたんだろう?とりあえず、このグリフォンから話を聞かないと。
「僕とこっちにいる泉はその金髪女性……アンジェの孫だよ」
(血縁の者か……娘達がいると聞いたが?)
「薫兄の母親は別の場所で暮らしてます。私のお母さんは事故で……」
(失礼した……申し訳ない)
グリフォンが不躾な質問をしたと頭を下げて謝罪をする。
(実は、娘がここに来るようなら、ある場所へ案内するように頼まれていたのだが……)
「ある場所!?」
まさかクロノスみたいにオーバーテクノロジーが積み込まれた施設が……!?
「母さん一応、年だから無理かな……どうかな?僕たちに見せてくれないかな?」
実際、母さんなら余裕で来てくれると思う。ユノと王子様と一緒にプールで遊べる体力があるのだから……でも、ここは伏せておこう。
(うーーむ……約束は娘だしな……)
どうしようかな……何としても見たいんだけど。
「どうすれば見せてくれるかな?」
(どうすればいいか……ある事はある……が……)
「何か……困りごと?」
(そうだ。かなり深刻でな……そもそも、アンジェが残したアレもそこにあるし……それに我には良く分からない物だしな……あの絵には何の意味があるのか)
「絵?」
(うむ。岩壁に描かれた絵だ。いや……掘られたというのが正しいだろうか)
掘って描かれた絵……もしかして、異世界の門?もしくは別の施設に繋がってる転移魔法陣だとしたら?
「見せて下さい!!もしかしたら大切な内容かもしれないんです!!」
(うーーむ……分かった。我らの問題解決に手伝ってくれたら見せるとしよう)
「それで、どんな問題を抱えてるんだ?グリフォンほどの聖獣が困るというのはかなりのことだと思うんだが……」
「カーターの言う通りよね……あ、もしかしてエサが少ないとか?」
(いや。実は……我々の巣が奪われてな……そこに居座る奴が厄介でな、この若い奴らもそれのせいでイラだってるのだ)
後ろのグリフォンたちが一斉に吠える。かなりイラだっているようだ。しかし先ほどカーターから聞いたグリフォンの情報ではかなり強いはずだったはず……。
「グリフォンにとって邪魔?グリフォンなら、大体の魔獣なんて……」
(奴らには我らでも無理だ……)
「奴らって……何がいるの?」
(……ドラゴンだ)
「「「「……」」」」
その瞬間、僕も含めた皆が黙ってしまった。精霊三人娘なんか遠い目をしている。カーターは……頭を抱えている。泉はどうだろう……あ、目が合った……え?無理?うん。分かってる……。
(その絵があるところは我らの巣でもあるのだ。それを奴らは……!!)
ああ……怒ってらっしゃる……棲み処を奪われたことを思い出してお怒りになられている……。
(どうか協力してくれないか!!)
「それは手伝いたいですけど……」
(もし討伐出来たら、我らが用意できる物ならなんでも……)
何でもか……でも、ドラゴン相手に戦うには……。
(頼む。ふかふかのベットで寝ていないせいで不眠なのだ……かれこれ10日以上……)
ああ……不眠は辛いですよね……。前の会社で仕事の関係で4時間睡眠で1週間過ごしたことがあるからその気持ちは分かるよ……あの時は辛かったな……。
「ベット?それって自分達の羽をお布団にしてるの?」
(うん?ああそうだが……)
「その羽を分けてくれないかな!?出来れば多めで!!」
(構わないぞ。棲み処が何より一番だしな。それに倒したドラゴンも山分けだ)
「……やる」
「「「「え!?」」」」
「やってやるわ!!ドラゴンが怖くて素材採取なんて出来るかーー!!」
泉が両手を上げてヤル気を上げている。泉の基準としてグリフォンの羽の方が勝ったようだ。
「ちょ!ちょっと待ちなさい!!相手はドラゴンよ!下手したらアクヌム並みに強敵よ!!」
泉たちのユニコーンも必死に鳴いている。きっと止めようと伝えているのだろう。
「なら、問題無いわね!この前、ぶっ飛ばしたんだから!!」
「僕たちとの相性の問題もあるからね!?あいつ単細胞だったから!」
知性派を演じていたが、アクヌムは絶対にそれでは無い。もし知性派ならもっと自分の姿を変えられる力を生かして、的確に暗殺とかすればいいのに、数と暴力でわざわざ派手にやっているのだ。アクヌムに勝てたのは、こちらが狡猾だっただけである。
「怖気ついている場合なの薫兄?ドラゴンを倒せば鱗が手に入る……つまり、オリハルコンが手に入るんだよ!」
「そ、それは……」
他の伝説の金属と違って、このグージャンパマの自然界には存在せず、合成でしか作れないオリハルコン。その最大の難点はドラゴンの鱗を要求している事、ここでドラゴンをグリフォンと協力して倒せば……あのオリハルコンを実際にこの目で見ることが出来る……。
「オリハルコン……」
「マズいのです!!薫があっち側に!!」
(それと……ユニコーンはドラゴンの肉を食ってみたくないか)
「「ヒヒーーン!?……ヒヒン!!」」
ドラゴンの肉……食べたい!っと涎を垂らしつつシエルが言ってる。魔獣の肉は僕たちには毒だが、聖獣とかは普通にご馳走なのか。
「落ち着きなさい!あなた達、死にたいの!?」
「……いいの?グリフォンの羽毛がたくさんあれば……お洋服どころか精霊サイズのお布団なんて簡単に作れるわよ?」
「そんなの……」
「そ、それは……かなり魅力的なのです……」
サキが何かを言い切る前に、レイスが目を輝かせながら答える。
「レ、レイス?何を言ってるッスか?」
「お城にいた時の寝具が……グリフォンの羽毛で出来ていて……心地よかったです。あのフカフカを思い出すと……」
その時の事を思い出してるのだろう。凄く幸せそうな表情をしている。ああ……これで残ってるのはカーターたちとフィーロの三人か……僕はまだ微妙だけど……。
「これで、ドラゴンを倒したらドラゴンバスターの称号を貰えるのかな?」
「……そう言って俺はそっちに行かないからな?」
「カーター……!よく耐えたわ!」
「ただ……やるしかなさそうだな」
「え?カーター!?本気なの?」
「ああ。グリフォンに訊くが……お前達、まともな食事が取れていないだろう?本に載っていたグリフォンと比べたら毛並みがあまり良くないし、それに体も瘦せ細っている気がするんだが?」
(……ここ最近あいつらの気配を感じて、近くにいた魔獣共がいなくなってな……私でかれこれ2日は何も食っていないな)
「ここでドラゴンを討伐しなければ最寄りの町へエサを求めてグリフォンが襲いかねないしな。それなら、ここで食い止めるのも騎士としての仕事だ」
「他国だけど……ここで何かあったらこっちに苦情が来るものね……やるしかないのか……」
はあ~~……。と深いため息を吐くサキ。どうやら覚悟を決めたようだ。
「あ~~サキの姉御も…………分かったッス!うちもやるッスよ!!こうなったらドラゴンでも悪魔でもかかって来るッスよ!!」
ついにフィーロも手伝う事を了承した。これで全員がドラゴン討伐に参加の意思を決めた。
「ただし!薫は分かってると思うが、無理そうなら、撤退して援軍を呼びにいくからな」
そのカーターの提案に全員が頷く。流石に引き際を徹底しないと命取りになりかねない。
「やるぞーー!!!!」
……その時は泉を気絶させても撤退しよう。そう心に決めるのだった。ということで、僕たちはドラゴン討伐のために、それぞれのユニコーンに乗って移動しようとする。
(うむ?そちらの騎士はいないのか?)
「ああ。それにユニコーンは女性限定だしな……本来は」
(ああ……そうだったな……)
「ねえ。そう言って僕を見ないでよ?」
疑いの目で見てくるカーターとグリフォンに注意する。
(なら、こやつの背に乗るといい)
「くぇ!?」
(今回、一番先に襲ったお前に罰を与えないとな……分かったか?)
「ク……」
「分かってる……よね?」
「クェエエ!!」
僕も一緒に念押しをする。
「薫兄が人に見せちゃいけないような恐ろしい顔を……」
「はいはい。そんな事を言わないの……ほら。カーター」
「ああ……頼むぞ」
「クゥ~~……」
カーターが僕たちを一番に襲ったグリフォンの背中に乗る。
「グリフォンに乗るカーター……」
鎧を着た騎士がグリフォンに乗る。その姿は様になっている。僕はスマホで黙って写真を撮る。それと同時に泉も撮っている……動画で。
「何を撮ってるんだ二人共?」
「いや……実に参考になる絵だったから。あ、次回の表紙はこれでいけないか相談してみようかな?」
「それは構わないぞ?どうせ俺には影響はあまりないしな。それに誰かからに注目を浴びることには慣れてる」
「慣れてるか……僕は慣れていないんだけどな……」
「いいや。嘘でしょ?」
「うんうん」
周りから色々言われているが……全然なれないんだけどな……。そう僕は思いつつ、シエルに飛翔をかけ直して再び空へと飛び立つのだった。




