表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
197/503

196話 野生の掟

前回のあらすじ「ミッションスタート!」

―「イスペリアル国・ニトリル山脈」―


 降りた場所に北欧柄の厚手のレジャーシートを引いて、そこにバスケットに入れた軽食、それと温かい紅茶の入った魔道具の水筒を取り出す。


「おしゃピク?」


「そんなつもりは無かったんだけどね……」


 僕のセンスで選んで用意したんだけど……確かにそれに見えてしまう。


「一枚取っていい?変なのは写さないから」


「いいよ。とりあえず……皆どうぞ。軽食は軽い物にしといたから」


「ホットサンドッスね。冷たいけど」


「中はバナナとチョコを挟んだ物と栗のペーストとバターを挟んだ物だよ。それに合わせて紅茶は無糖にしといたから」


「流石、薫ね……先手必勝よ!」


 サキが精霊三人娘用に準備したホットサンドに一番に手を付ける。


「ああ!ずるいのです!」


「うちらも食べるッス!」


「ちゃんと数があるから慌てなくてもいいだろうって……」


 カーターが静かにレジャーシートへ座る。


「肌触りがいいな……これって高いんじゃないか?」


「ううん?全然だよ。ホームセンターで買ってきたし。費用も……2億を貰った後じゃ……ね」


 2億に比べて、このレジャーシートは数千円程度である。さらに用意した軽食も食パンとか栗のペーストとか、今までの金銭感覚なら買うのに躊躇っていたいいお値段の物を使用している。それでも数千円程度で懐のダメージはほぼゼロである。


「薫兄の気持ちが良く分かるよ。私も普通の買い物でなるべく安いのを買う必要性があるのか悩み始めたもの……」


「そうなんだよね……カーターたちに初めて会った時に食料を提供したけど、その出費なんて今なら余裕で出せちゃうからね……初心を忘れないようにしないと」


 余りにも懐に余裕が出来過ぎてしまった今では、数千円程度は安く感じてしまうのだ。これは気を付けないと破産しそうだ。


「そんな事を言ってないで食べないッスか?」


「あ、うん。食べる食べる……それとユニコーンたちにも……と」


 シエルたちユニコーンにも同じ物を与える。馬ならアウトだろうが、馬ではない彼らには問題無い。僕はお皿に一口大に切っておいたホットサンドと底が深いカップに入れた紅茶をユニコーンたちの前に置く。


(うまーーい!これぞ役得!)


 一口食べたシエルが喜び、そのままの勢いで次を食べていく。泉たちのユニコーンも勢いよく食べているのでどうやら気に入ってもらえたようだ。


「僕も……と。いただきます」


 僕もバスケットからホットサンドを取り出して口にする。栗の甘さとバターの甘さが口の中に広がる。自画自賛だけど、かなり美味しい物が作れたと思う。


「うまいな……」


「そうよね……薫達に付いていくは美味しい物にありつける。と同意。この定説は変わらないわね」


「そこは間違いないかな……薫兄って料理上手だしね」


「泉も作れるじゃん。それに……」


「い、言わないでよね?」


「分かってるって」


「どうかしたのか?」


「ううん。気にしないで。それより、ここから先のグリフォンの巣だけど……カーターはどうする?このまま引っ張られるのも……」


「そうだな……ここまで来たら警戒しないといけないしな……まあ、グリフォンが突如襲ってくるなんて無いと思うがな」


「そんなに温厚なんですか?」


「ああ。何せこのユニコーンと同じ聖獣だしな。この二匹だって男を乗せないが、むやみやたらに男性へと危害を加えないだろう?」


「そうですね……」


「……泉。ジト目でこっちを見ないで。僕は男だから」


「例外中の例外である薫は置いといて……と、それでグリフォンも何の理由も無しに人を襲う事は無い。それに……前にあったんだがユニコーンと同じように契約できるらしい」


「(グリフォンと契約……素材を取り放題……?)」


 泉が小声でそんな事を言ってるが、そんな邪な理由で契約するとは思えない。


「じゃあ……カーバンクルとも契約できたのかな?」


「聖獣に付いて調べたんだが……出来るらしいぞ。ただカーバンクルは猫みたいな性格で、契約は本当に稀だそうだ」


「まあ、ユニコーンと契約した僕たちもゴリラチンパンジーモンキーとの戦闘で気に入られた感じだしね」


 シエルがそれを聞いて、ヒヒーンと一声鳴いた。その後、何故か空を見上げている。


「それだから、安心していいと思うぞ?」


「……カーターさん!それを言っちゃダメ!フラグが立っちゃうわ!!」


 フラグって……まあ、すでに何か起きている時点で意味が無いのだが……。そう思いつつ、僕はシエルが向いている方へと見上げる。


「もう遅いかもしれないけど……」


「薫。流石にそう何度も変な事が起きては……」


「上にいるあれってグリフォンでしょ?」


「「え?」」


 二人も空を見上げる。空には翼はあるが鳥とも似つかない何かが上空を旋回している。


「グギャアアアーーーー!!!!」


 すると、一際大きい声を上げて、それがこちらへと目掛けて下りてくる。


「くっ!?」


「ちょ!」


「鵺。城壁」


 グリフォンの突進の速度に合わせるように黒く高い壁を造り出す。するとすぐに何かがぶつかった音が起こり、そのまま静かになった。皆が唖然としてる中で僕はゆっくりと立ち上がり、城壁を解除してぶつかって来たグリフォンを確認する。


 グージャンパマのグリフォン……その姿は地球で伝わっているあのグリフォンと同じで鷹の翼と上半身、下半身は獅子の姿だった。その前足の鋭い鉤爪で襲われたら人間なんて、ひとたまりも無いだろう。それに何かしらの魔法も使えるのだから、真正面から戦ったら相当苦労する相手のはずだっただろう……気絶して無ければの話だが。 


「これでミッションコンプリート……」


「いやいや!?」


「ダメだからね!!」


 二人からツッコミが入ってしまった。これを連れて帰ればクエストクリアなのに。


「いつも通りよね……」


「なのです」


「慌てない慌てない……ッス」


 精霊三人娘は慌てることなく紅茶を飲んでいた。少しは慌てて欲しい所なのだが。僕は再び伸びているグリフォンへと視線を向け直す。


「さてと……これからどうしようかな?」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―数十分後―


 あの後、出した休憩セットを片づけて、すぐにグリフォンを拘束する。それからすぐに目覚めたグリフォンがその拘束を外そうとして少しばかり暴れたが……今は大人しくなった。


「さてと……お話しようか?」


「グルル……」


 蝗災で拘束したグリフォンが恨めしそうな表情でこちらを見てくる。


「それでどうして襲ったのかな?」


「グル!」


 グリフォンがそっぽを向いてしまった。


(貴様らに話すことなど無い!って)


 シエルがグリフォンが何を言ってるのかを翻訳してくれた。


「なるほどね」


「薫。こいつは何て言ってるんだ?」


「話すことなど無い!だってさ」


「いきなり襲ってきて身勝手なのです!」


「グルル!」


「うわ……下等な生物のクセにだって」


 泉が軽蔑した目でグリフォンを見る。その隣にいる泉たちのユニコーンも怒っているらしく後ろ足で地面を強く叩いている。


「何かムカつくわね……それでこのグリフォンどうする?燃やす?」


「サキ……」


「グル……」


 グリフォンが何か蔑むような目線でサキを見る。ちなみにユニコーンの翻訳によると、ふっ……!だそうだ。


「こいつ!!明らかに私をバカにしてるでしょ!!カーター!燃やしましょう!跡形も残さずに!!」


「そんな事をして他のグリフォンと仲が悪くなるだけだろう」


「でも……」


「グルグルグル!!」


 ああ。愉快愉快。か拘束されてるのに余裕だな……あ!


「なるほど……余裕なのはこれか」


「うわ……これ逃げられる?」


 上空には無数のグリフォンが飛んでいる。しかも、こちらを睨みつけながら。


「グルルルル!!!!」


 勝利を確信している拘束されたグリフォン。


(これチョット厳しいかな……)


「逃げるのは難しいか……泉の方はどう?」


「同じく」


 ざっと見ただけでも20匹程のグリフォンの群れ……逃げるには少し難しいだろう。そう……()()()()()()()()()()()


「グルグルグル!!」


 さあ、大人しく我らに喰われろか……。


「皆……ここは僕に任せてくれないかな?」


「どうする気なの?」


「まあ、見てて……レイス。チョットいい?」


「はいなのです」


 レイスと素早く打ち合わせをする。それが済んだら僕はすぐにアイテムボックスから最近ご無沙汰になっている長年の相棒を取り出す。


「グル?グルル?」


「はいは~い。お薬しますね……」


 僕は少し素直になるお薬をグリフォンの片目に向けて、勢いよく引く。


「グルルルルルル!?!?!?」


 グリフォンがまたまた大暴れする。けれど蝗災のせいで動けていない。


「か、薫?」


「ねえ。君?いきなり襲ってきて……僕らを下等生物と見下してさ……いい加減、僕も怒ってるんだよね……」


 僕は目は変えずに口角だけを上げる。目が笑っていないと言われる表情を意識して作る。


「クエ!!」


「うるさい!!雷連撃!!」


 僕たちは空を飛んでいるグリフォンに当たらないように考慮しつつ、拘束されているグリフォンの周りに雷を落とす。


「クェ!?」


「さて……悪い子にはもう一回しないとダメかな……?」


 僕はさらに口角を上げて、グリフォンの無事な片目で見えるように、手に持っている催涙スプレーをチラつかせる。


「クエー!クエ!クエ!」


「ふふふ♪鬼?悪魔?止めろだって?」


 僕は打ち合わせの際に決めた右手を上に上げる。魔法名を言わずに雷撃を放つというサイン。その手筈通りに雷が拘束されたグリフォンの目の前に落ちる。


「拒否権は無いんだよ?それとも……これをその口に突っ込んであげようか?」


 今度は逆に僕が蔑むような目でグリフォンを見る。


「クェ……ククェ…………」


 遂には怯え始めるグリフォン。空を飛んでいるグリフォンたちも怖がってるのか、こちらへ近づこうとしない。


「まあ、そんなの関係無いけどね……レイス?」


「オッケーなのです!」


 今度は鵺を玉にして黒星を発動、そのまま空を飛んでいるグリフォンたちに目掛けて投げつける。時間差で起きる引力の力によって、グリフォンたちの群れが力の発生元である鵺に引き寄せられる。聞こえるのはグリフォンたちの悲鳴。僕は混乱しているグリフォンたちにかかっている黒星の魔法を解除する。急に魔法を止めたことでグリフォンたちがそのまま地面に落ちてくる。僕はゆっくりとした速度で落ちて来たグリフォンたちへ近づく。


「その取り巻きも同罪だよね♪」


 同じように目が笑っていない笑顔でグリフォンたちを見る。グリフォンたちが体を震え上がらせている。ここまで怖がらせれば、もう襲ってくることは無いだろう。後は、本来の目的である素材の回収である。


「さてともう一度君に尋ねるけど……どう落とし前付けますか?」


 僕が自分に出来る怖い顔で、最初に拘束したグリフォンに平和的な解決のため、そちらの出来る事を尋ねる。


「グ……ェェ……」


 後は落とし前として素材である涙と羽を、お詫びの品としてもらえばオッケーだろう。


「二人共……それ恐喝だよ?」


「そうッスね……」


「え?喧嘩を売ってきたのはアイツらよ?命だけは取らないなんて優しいじゃない?」


「まあ……そうだな」


「力で訴えるなら、より強い力で屈服させる。野生の掟に従うのならこれが正しいと思うのです」


 泉たちの意見にカーターたちがこれの正当性を唱えてくれたが、泉たちの言う通りで、今回、僕のこのやり方は誉められたものでは無いのは自分でも分かっている。けど、人が作った法律とか礼儀を知らない聖獣相手なら、このやり方の方が効くだろう。


「グエエェェェェーー!!!!」


 すると、一際大きい声が上空に響き渡る。その声に反応して上を見上げると、そこにはここにいるグリフォンたちより、さらに大きいグリフォンがいた。その筋骨隆々とした肉体に前足の立派な爪……王者の風格さえ感じる。すると、凄い勢いで、そのグリフォンは地面に降りて来て……僕の前で、その頭を下げるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ