194話 新たな波乱の予感
前回のあらすじ「和風ゴスロリで撮影会中」
―それからしばらくして「カフェひだまり・店内」―
「アリーシャ様も日本に?」
「ええ。これで関係者が日本に一同に集まる事になるわ……そして本格的にレルンティシア国の復興が始まるわね」
前に海外にあるラエティティアの施設を閉鎖して、その全てを日本に集めさせるという作業をしているとはミリーさんから聞いていたが、それが終わったという事か。
「ラエティティアの大半はこの町に住むそうだ。それ以外はこの日本の主要都市に拠点を作り、サポートに入るそうだ」
「それは……この町も賑やかになりますね」
「この地方都市にこれだけの有力者が集まるなんて、普通では無いだろうな……」
ワインを飲みながら話す総理。その顔は笑顔だ。
「何かいいことでも?」
「……今回、こっちに来たのはそのためでな。その際にこちらに有利になるような情報をリークしてくれるそうだ。今回は対立する有力野党議員の裏金問題をくれたよ」
……何かとんでもない事を聞いたような。
「出版社に売るなよ?」
「分かってますって……」
「それとだ。ある情報がこちらにもたらされた」
そう言って、菱川総理が僕たちに真剣な眼差しでこちらを見る。僕にお酒を勧めたりしていたのはこのためだろう。
「何か問題があったんですか?」
「ヘルメスの奴らが怪しい動きを見せていてな。どうやら幹部クラスが動くらしい」
「幹部クラスが?」
「ああ。そして……目的は日本らしい」
「日本に来る目的は僕たちだと?」
「それは分からん。単純にボロボロになった日本での活動を補佐する目的だってあるしな。ただ、日本での活動の障害になる君たちを排除しようと何かしらのアクションを起こしかねない」
「それに薫が銀行で捕らえた男は実行犯のグループリーダーであって、ヘルメスから命令を受けて指示した者では無いわ。もしかしたら、すでにそちらがあなた達を追ってるかもしれないわ」
「それって二人に危険が迫ってるということですよね……」
ユノが指を口辺りに当てて考えている。
「そうしたらお父様に相談しておきます」
「アリーシャ女王も何かしらの手を打つと提案を受けているわ。それだからビシャータテア王国がこっちに人数を省く必要は無いわよ?」
「人を人と見ない非人道な者には過剰と思えるぐらいがちょうどいいんです。なるべく戦える魔法使いを常駐できないか伝えておきます」
「僕たちも身の回りに怪しい人物がいないかチェックしないとね」
「うん」
「まあ、君たちについては気付かれていないはずだし、もし怪しい人物がいれば即座にバレるはずだ。だからそんなに不安にならなくて大丈夫だから安心してくれ」
「分かりました」
二人はそれだけを伝えると、お会計を済ませて帰っていってしまった。
「……後ろで聞いていたが戸締りをしっかりしとけよ?」
二人を見送ったマスターがこちらへと注意を促す。
「分かってるって!そっちもしっかり戸締りしてよ。もしかしたらおびき寄せるエサとして襲われるかもしれないんだから」
「そうだな……」
泉の言う通りで、僕たちだけじゃなくて、周囲に迷惑がかかるかもしれない。
「念のために、テレビでやっている防犯グッズとか家に取り付けたほうがいいッスかね?」
「直哉達に相談してもいいかもね。あまりショルディア夫人とか総理に頼むと一般家庭のセキュリティにしては厳しすぎて逆に怪しまれるかもしれないし……それと、掛かる費用は僕が出すからね?もとはと言えば僕が原因だし」
「そうだな……その時はお前さんに頼むよ。その方がお前も少しは気が楽になるんだろう?……あまり責めるなよ?」
「うん」
それに資金もあるのだ。ここで使ったって誰も文句を言わないだろう。
「私達の国を助けてくれた薫達にお礼も兼ねてお手伝いしますからね。必要な事があれば言って下さい」
「ありがとう。それと戦える魔法使いって言ってたけど、カーターたちだよね?」
「そうですけど……何か要望でも?」
「出来れば、周囲への被害が少ない方で……カシーさんたちだと爆発魔法であっちこっち壊しちゃいそうで……」
「あの二人は研究メインですからそこは無いかと、むしろハリルたちシャドウ部隊を派遣したほうがよさそうですね」
「それは……すごく助かるかな」
あのシャドウ部隊は超人の集まりだしな……。そんな人たちが警備してくれるなら安心感が全然違う。
「それでは……」
パンパンとユノが手を叩くと、扉から何と口元を隠した獣人の女性が入って来た。……って、この人。アクヌム戦の時に話していた人だ。
「というより、こっちにいたのね……」
「あの時は王都防衛の為に戻っていましたが、通常はユノ様の警備などでこちらに常駐してます」
「え?どこで生活してるの?」
「薫様のお住まいの蔵の2階です。あ、だからと言ってご自宅へ侵入はしていませんのでご安心を」
「いや!そこに住んでるならご飯とか……」
「ご安心を。シャドウ部隊の一員として、そこはしっかり準備してますし。後は休憩のために交代要員も来るのでお気になさらず」
「はあ……」
まさか、自宅のあの蔵の上で泊まり込みをしていたとは……恐れ入る。
「今後は薫様達もお呼び下さい。近くにいれば先ほどのユノ姫様のように手を叩けば、現れますので」
「分かりました」
「それでは!」
するとシャドウの彼女は外に出て、すぐにジャンプして僕たちの視線から消えてしまった。
「お前さん……まるで殿様だな」
「もう……否定しないよ」
「私はお姫様かな?」
「ふふ。その通りですね」
僕の知らないところで、皆色々やってるなあ……。と呆気に取られてしまい、和風ゴスロリの服から着替えていなかったことに気付くのに少しばかり遅れるのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―ほぼ同時刻「どこかの埠頭」―
「ふう~。この国に来るにも一苦労だな」
「わざわざご足労いただき感謝しますスパイダー」
私は対面に座っている男に深々と礼をする。破壊活動、要人殺害を専門とし、その手腕を買われてヘルメスの幹部となったスパイダー様がこの日本に来るとは。日本での活動の全権を持つ私でさえも会うのは初めてだ。
「ボスの命令だ。あの女どものせいで我らの評判がガタ落ちなのでな。粛清せよ。とのことだ」
「こちらとしては助かりました。政府が開発した極秘兵器かと思い洗っているのですが今だに手掛かりを掴めない状態だったので」
「あれから随分と時間が経つが?」
鋭い視線でこちらを睨みつけるスパイダー様。組織にいて使えないようなら、今すぐにでもここで切るおつもりなのだろう。しかし、私もこの組織に入って長いのだ。当然、何かしらは用意している。
「申し訳ありません。ただ分かった事が」
「何だ?」
「この件に国は関わっていないようです」
私は調査内容がまとまったタブレット端末をスパイダー様に手渡す。
「巧妙に隠したのでは?」
「いいえ。そもそもそれがありませんでした。国から民間へと委託した事業かと思い洗ったのですが、政治家特有の裏金とか脅すのに格好のネタは見つかるのに、武器の研究や開発に関して不審な所は一つもありませんでした」
「うむ……」
スパイダー様がじっくりと報告内容を確認する。その少しの待ち時間は私にとって緊張でしかない。渇きを潤すために用意したペットボトルのお茶を口に含む。
「となると……あれは個人がやってると?」
「あるいは国と関わっていない一企業ですかね。今後はそちらにシフトして調査します」
「ふん。お前の報告書に嘘はなさそうだな。しかし念のため洗い直しとけ。見過ごしている何かがあるかもしれないからな」
「はは!」
「それと……これを渡しておく。分かってるな?」
私は静かに頷く。スパイダー様は他の配下と一緒にその場を去った所を見送った所で、私もその場を後にして車に乗り込み走らせる。次、会う時までには何かしらの成果を上げなければ……。
「死か……」
助手席に無造作に置いた黒い液体入りの注射器を横目で見るのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―その日の夜中「薫宅・居間」―
「召喚魔法……」
今日は色々あったせいか、眠れずにいた僕は気晴らしに机に座って小説を書いてる。レイスはすでに自室で眠ってしまい、今、書斎には僕一人である。
「今後、どう強化すればいいのかな……」
カーターたちは腕の防具を利用したゼロ距離で放つ高火力火炎魔法のプロミネンス。シーエさんたちはすべてを凍らせるシルフィーネ。カシーさんたちは爆破のオンパレードのフラムマ・マキナ。そして泉のセイレーン。と各々の必殺技を思い浮かべる。
「他の賢者さんたちが使う召喚魔法は……イマイチか」
小説を書きつつ、今後、どんな魔法を覚えるかを考えている。何が言いたいかと言うと……ネタ切れである。今の僕は召喚魔法が2つ。水破斬と雷切の剣型の魔法。黒星のような拘束魔法。弾系の遠距離魔法。水壁の防御魔法。蝗災の色んな魔法を合わせたような複合魔法。そうしたら次はどうするかと考えた所、僕とレイスで思いつかなかったのである。
「色々、魔法があっても器用貧乏になるし……今の魔法の強化版や派生版を作ればいいのかな……」
蝗災の強化版が守鶴のように、既存の魔法を強くするしか無いかな……。
(俺は魔法カードを発動!これにより……こいつは進化する!!)
(何!?進化だと!!)
スマホで音楽を流していたのだが……いつの間にかどこかのカードゲームの動画が流れていた。
「進化か……」
一人のプレイヤーが先ほどのカードのキャラより大きい4枚の翼を持った姿が描かれているカードをフィールドに出した。
「……出来るかな?」
ふと思いついた強化版。明日の朝にでもレイスに話してみようと思うのだった。




