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193話 撮影会

前回のあらすじ「スコーンを上段にするか中段にするか……それが問題だ」

―夜「カフェひだまり・店内」―


 お客さんのいない、ひだまりの店内で梢さんの持つスマホのシャッター音だけが聞こえる。


「いいですよ~薫さん!これで扉絵、それに挿絵もバッチリです!絵師さんも気合を入れて描いてくれるそうです!」


「そうですか……」


 僕は和風ゴスロリの格好のまま、近くにあった椅子に座る。スカート短いなこれ……。そう思っている間にもいろんな角度から他のシャッター音が聞こえる。


「何で撮ってるの?」


「え?可愛いからですよ?」


「雪野ちゃんと同じくです」


「……」


「昌。反応してやれ……」


 この僕の質問をしてる間にも昌姉は無言でどんどん写真を撮っていく。


「着替えて来たよ!ユノちゃんも!」


「ど、どうでしょうか?」


 ユノと泉も着替えて、店内に登場する。その格好は僕と色違いの和風ゴスロリ服だった。


「何か同じ格好した奴らが三人もいると、ヒーロー戦隊みたいだな」


 他のメンバーがスマホの中、一人だけ本格的なカメラを持つマスターがカメラを下ろした状態で僕たち三人を見る。


「そうですね……お二人共、薫さんを挟むように立ってもらっていいですか?」


「こうですか?」


 梢さんの指示でユノと泉が僕の両端にそれぞれ立つ。


「そこでポージングを……」


「え、えーと……」


「私は薫兄に背中を向けて……ユノちゃんは薫兄のほっぺにキスするような仕草で、横目でカメラを見る感じで。で、薫兄は王女様風に足を組んで、軽く相手を見下すような目線でカメラに向いて……」


「分かりました!」


「分かりましたじゃないから!?何をさせようとしてるのさ?」


「妖狸様の日常」


「日常って何!?」


「いいからいいから!さあ、早く!……ね?」


 そう言って、ニコリ!と笑顔で昌姉のスマホに指を差す泉。


「脅しだーー!!!!」


「いいの?あのきわどいみ……」


「うわーーーー!!!!分かったよ!やるよ!やればいいんでしょ!!」


 見せられない。あれは見せちゃいけない!何としても阻止しなければ……かと言って、このまま黙って撮られるのも何か嫌だし……悪あがきで僕は梢さんのカメラに向かって下卑た笑顔を向ける。こんな顔をしたら撮るのも躊躇うはず……。


「すごーい!薫さん妖艶です!」


「しっかり悪女感が出てますね!」


 何か変な誉め言葉が出て来たので、なら今度は子供っぽく……。


「今度は何か小悪魔感が出て来たな?」


「あら~いいじゃないの~♪」


 そう言って昌姉がスマホをこちらに向けてシャッターを切っている。


「どうしてこうなるの?」


「美女だからしょうがないのです」


「そうッスね。これで来月の一大イベントは決まりッスね」


 そう言って、別の席でお菓子を摘まみながらこちらを見ているレイスとフィーロ……。


「ん?」


 今、フィーロが何か不穏な発言を……。


「そうだね。薫兄の小説の宣伝にもなるからこの線でいこうか……」


「なら、私も手伝いますわ!」


 ユノが……手伝う?12月の一大イベントって……!


「そんな欲にまみれた男共がいるイベントにユノを参加させられないから!!」


「ユノちゃんが参加なら……私も参加しようかな久しぶりに?」


「昌姉も参加する!?それなら私、用意するよ!久しぶりのブレイカーズの活動だね!」


「「ブレイカーズ?」」


 あみちゃんたちが頭上にハテナマークを浮かべている。するとマスターが分からない二人に対して説明を始める。


「ブレイカーズってのは昌に泉、そして薫の三人が撮影会に出る際に名乗っていたチーム名だ。泉が衣装を用意して、それを三人が来てポーズを決める。するとカメラを持った奴らがキレイな円を作って囲み喜々とした表情を浮かべながら撮影する。そいつらの表情が骨抜きにされてる様子から、男女構わずに魅了し心を時には肉体を破壊するグループとして付いた名前だな」


「何それ?怖いんだけど?それに僕、初耳なんだけど?」


「結構、有名だよ薫兄?」


「泉ちゃんの言う通りでそうよ?というより一番の破壊者は薫だからね」


「記憶にございません!」


「その笑顔で心を破壊して、痴漢をする失礼な奴には肉体を破壊する……って事をしてたじゃないの?」


 昌姉はそう言うが、確かに撮影中にマナー違反した痴漢相手を捻った事はあるけど肉体は破壊してはいない。一番酷くても相手の顔が2周り程膨らんだ程度である。


「今回はユノに昌姉も参加か……いいね!」


「よくない!ねえユノ!」


「楽しそうですね!」


「聞いていない!?」


 むしろ楽しそうな表情を浮かべている気が。


「まあ……私も王女としてそんな目で見られるのは慣れてますし、そんな噂も聞きますから……だから、そんなには気にしませんね」


 眩しい笑顔で答えるユノ。確かに王家としてどうしても注目を浴びるのはしょうがないとは思うし、この容姿なら他の男共がそう考えるのは納得できちゃうんだけど……。


「気にして欲しいな……こ、婚約者なんだから……」


 少し恥ずかしいので、腕で顔を少しだけ隠してしまう。ユノも僕の言葉を聞いて頬を赤くしている。


「薫……恐ろしい子なのです!」


「あれで何人のカメラ小僧が血の海に沈むんッスかね?」


パシャ!パシャパシャ!


「いただきました。思わず私自身にもダメージが……」


 梢さんが鼻を押さえている。こんなので出血しないで下さい!何か恥ずかしさもどこかへ行ってしまう……とりあえず、これ以上変な事になる前にどうにかしないと……。


「マスター?いいの?今はお客さんがいないけどまだ営業中でしょ?」


「うん?聞いていないのか?これから予約客が来るぞ」


「予約客?」


 すると、ちょうどそのタイミングで扉のベルが鳴る。


「あら。こんばんは。可愛らしい格好をしてるわね」


「そうですね……彼が男とは思えないですね」


 そこにいたのは先ほど一緒だったショルディア夫人と菱川総理。


「え?どうしてここに?というより総理が何故ここに?」


「この近くまで視察があってな。その帰りに寄っただけだ」


「そうね……ここで総理と会談かしら?」


「何を言ってるんですか……会談という名のお食事会じゃないですか」


「お食事会?」


「そうなの。総理がこちらに来ていると聞いてたから、お誘いしたの」


 ショルディア婦人とはついさっき話したばかりだったので、何か意味があるのでは無いかと思ってしまう。


「とりあえずだ。あみ、雪野。お二人を席へ」


「こちらへどうぞ」


 あみちゃんと雪野ちゃんが店内にある席の一つに案内して、座りやすいように椅子を引いた。そして二人がそこに腰掛ける。


「お酒はいかがしら?」


「少しだけいただきます」


 二人が食前酒としてワインを頼む。晶姉がボトルとグラスを持ってくるのだが、何故かこの店では見たことの無い高級ワインが出てくる。


「これは珍しいワインですね。このお店は庶民的と聞いていたのですが?」


「たまたま入荷しまして。いつも卸していただいている店からお礼に頂いたんですよ。先日の件で儲けさせてもらったということで」


「ああ。あの商店か。となると……このワインは、そこのお嬢さん宛なのでは?」


「誰がお嬢さんですか総理?僕はこんな格好でも男ですから!」


「「「「え!?」」」」


「何で皆そろって驚くの!?……もういいや。とりあえず僕は気にしていないのでどうぞ」


「そうしたら一杯。流石にあなたを差し置いて飲めないわ」


「薫。ほれ」


 ショルディア夫人の要望を聞いたマスターがすぐにグラスを僕に渡す。


「……でも僕、車で」


「田部に送らせるから安心しろ。な?」


 グイグイとくる菱川総理。僕としてはこの服を脱いで着替えたいところなのだが……。菱川総理にショルディア夫人の表情が何かを訴えかけている。


「はあー……分かりました。そうしたら着替えてから……」


「うん?そのままでいいぞ?別に気にならないしな」


「ええ。むしろ……似合ってるわね」


「……やっぱり」


「はいはい薫。国の代表がそのままでいいと仰ってるのですよ。素直に聞きましょう♪」


「ユノ!?いや?ちょっと……」


「薫……座っとけ」


 マスターからの命令……というより、その表情からして、諦めろ。と慰めている感じだろうか。僕が周りを確認すると皆が無言のまま、座りなさい!と目で命令をする。どうやら駄々をこねても誰も助けてくれないようなので諦めて着席する。


「何故かそっちの方が違和感が無いんだよな……コスプレなのに」


「そうね……」


「そんな事はいいですから……とにかくお注ぎしますね」


 僕は立ち上がってワインを手に取る。ワインオープナーを使ってコルクを抜いて、ショルディア夫人と総理の順でグラスにワインを注ぎ、最後に自分のを入れる。


「そうしたら乾杯の音頭でも取ってくれないか?」


「思いつきませんよ?」


「何でもいいんだよ」


「それじゃあ……僕たちの活動が良き未来に繋がるとして……乾杯」


 そう言って、僕は軽く前にグラスを出す。グラスを持った二人も同じように出してワインを飲む。


「それじゃあ、お料理をお出ししていきますね」


「お願いします」


「二人共!手伝ってくれ!」


「「はーーい!」」


 マスター達が厨房に入っていく。


「私はここで失礼しますね。それと……今後ともよろしくお願いします」


 梢さんが二人に挨拶をする。


「ああ。くれぐれもこの件は内密に」


「もちろんです。薫先生が安心して書いていただけるように調整するのも仕事なので、それでは!」


 そう言って梢さんが店を後にしようと扉を開けるとスーツを着た男性二人が立っていて、梢さんは驚きその場に立ち止まった。一方、その男性二人はこちらに顔を向けているのだが、菱川総理が手で指示をすると二人は人が通れるように横へとずれる。それを見た梢さんは一度こちらに一礼をして店の外へと出ていった。


「驚かせてしまったな」


「しょうがないわ。全く護衛を付けない総理なんていないわよ」


「ですね……」


「でも、どうしてここに?他にも場所なんて」


「全従業員がグージャンパマを知っているレストランなんてここだけだ。おかげで気軽に話せる。ああそうそう盗聴器なんかも無いか調べたから安心してくれ」


「それいつ調べたの?で不安になるッスよ」


 笑顔で答える総理に、フィーロがツッコミを入れる。僕としても同意見なのだが……。


「え?こっそり安全かを調べるのは普通ですよ?」


「同じくなのです」


「二人の言う通りよ。淑女の嗜みよ?」


 フィーロの意見に反対するショルディア夫人たち。


「あれ?反対意見が少数?」


「泉。ここにいる上流階級の割合の方が高いから。僕ら一般市民は3人だけだよ」


「言っておくが、君たちも一般市民からはかけ離れているからな?」


「もう……普通には戻れないんッスね……」


 脚を組みつつ、ため息一つ吐いて哀愁を漂わせるフィーロ。どこかのゲームキャラのマネ事なのだろう。その後、運ばれて来た料理を二人が食べてる間も、僕たちの様々な話題で会話を弾ませるのだった。

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