18話 酒場での夕食
前回のあらすじ「悪い大人には眉間にパンチと火球」
―夜「ビシャータテア王国・酒場ルルック」―
「ほんっっっとうに、ありがとうございました!!」
「ありがとう…なのです」
女の子の精霊2人からお礼を言われる。少しおどおどしてお嬢様らしい黒髪の子がレイス、茶髪の子がフィーロという名前で、2人を連れてカーターのオススメの店にやって来た。ちなみに倒した男たちは騎士が連れていった。カーターが明日3人の取り調べを行うとのことだ。もし彼らが冒険者に所属しているならそこへ連絡もしなければならないし、忙しくなるとのことだった。
「あたいの怪我をポーションを使って治してくれたりして……皆さんには感謝してもしきれないッス」
「気にしないで頂戴フィーロ」
「そうだぜ」
机の上で精霊たちのガールズトークが始まる。なんだろう……なんか和む。なるほど。ゲームのキャラはこんな気持ちでこの光景を見てるんだな……。
「こうなんかいいよね。ゲームの酒場って雰囲気で」
泉に言われて辺りを見る。日本でもカウンター席のある西洋風の店ということならこの位はあるだろうが多様な種族に大剣や槍、そして目の前の精霊がいたりするところは正しくファンタジーの世界だろう。
「どんな料理が来るか分からないってドキドキするね」
「言葉は翻訳されていても文字はダメみたいだからメニュー読めなかったもんね」
王宮でファッション雑誌を見ていた時も泉が何が書いてあるかを周りの女性陣に説明をしていた。あの魔法陣に組み込まれているだろう翻訳魔法は文字に関しては無力なのは既に知っていたが、文字とかも訳して欲しかった。
「なんで文字はダメなんだろうな?」
「多分だけど意思が無いからじゃないかな? 僕たちは話せば何を伝えたいかを思い描くけど、文字にはそれが無いから……」
「なるほど。確かに考えられますね」
「テレパシーの一種ってことなのかな。言葉ではなく頭の中で私が考えたことを相手に伝えるみたいな」
「そうかもしれないね」
魔法といえばお馴染みであるテレパシーだと考えているが……でも、これだと色々説明できないことがあるので、恐らくは他の要因が混ざっているのは間違いない。
「そう考えると、やはりあの魔法陣を作った奴は賢者でも最高位だな」
「ええ。これほどの事ができる魔法陣は他国でもまず無理ですね。言葉の違いが無かったから作る必要が無かったともいえますが……」
こちらの言語は統一されている。それだからどこにいっても誰とでもすぐに会話できるし文字も同じなので幾つもの言語を覚える必要が無い。あるといえば方言があるかどうかぐらいだそうだ。
「お待たせしました~」
会話をしていた僕たちの所にエルフのウェイトレスさんが料理を置いていく。サラダに焼き魚に……。
「刺身なんてあるの?」
「それもそっちの世界から来たんだ。生でも新鮮な魚なら食べられることが出来るってな。海で釣り上げた魚を魔道具で氷付けにして運ぶから新鮮なままなんだ。だから周りに海の無いこの王都でも食べれるって訳だ。それじゃあ料理も来たことだし頂くとするか」
「そうね。あなた達の分も頼んだから食べていきなさい」
「いいんッスか!?ありがとうございます姉御!」
「あ、ありがとうございます……です」
全員で料理を食べ始める。異世界の食堂では精霊用の皿とコップ等が用意されていて精霊も好きな物を取っていく。僕が最初に手に取ったのはアルグータと呼ばれる魚で、油がのっており鯖に近い感じだった。刺身は別の魚で身は白く透き通っていて、変な臭みとかなく確かに新鮮な物が使われているのが分かる。サラダを見るとお馴染みの玉ねぎに……なんだろう変わった色の葉物野菜があった。変というのも鮮やかなオレンジ色だからだ。葉物としては肉厚で食感も変わっていてシャクシャクという表現が合っている。味付けが塩とコショウだけだがこれはこれで美味しい。ちなみにカーター達が一応仕事中ということもあってお酒は頼んでない。
「美味しい!」
「美味しいか……そうか。気に入ってくれて良かったよ」
「この何とも言えない感じの味に食感。最高!」
「ああ。それはぺぺって野菜で…」
「マーバ―!それ私の!」
「いただきだぜ!」
「いや~。良いッスね」
「うん!」
皆、お喋りを交えつつ食事を楽しむのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―数十分後―
「はあ~。食ったッス」
「満足なのです」
精霊が食べた後の皿を見た泉が僕の耳元で小声で聞いてくる。
「精霊が食べた量、明らかに自分の体以上な気がするんだけど……」
「実は僕もそう思ってたんだけど…どこにいってるんだろう?」
こればかりは毎回不思議である。食後のお茶が出てきたところで先程の事件について話をしてもらうことにした。
「王都に着いたあたしらが道を歩いていたらあいつらが突っ掛かってきたんッス。で、あいつらと一緒にいるつもりが無いから断ったんッスけど、そしたらいきなり、親切心で声かけたのに何様だ!? って逆上されてそれでレイスが捕まったんッスよ」
レイスちゃんもコクリと首を縦に動かした。
「なるほど。近くにいた人が同じ事を話してくれたので間違いはなさそうですね」
「それにあの男達評判が悪かったみたい。薫兄があいつらを倒した後なんだけど、私の後ろの人達が、また、あいつらかよ。って話してたわ」
「ああ。私も聞いたぜ。良くトラブルを起こしている奴らだってな。特に女性には強引な方法で迫っていたらしいぜ」
どうやら、ただの酔っ払いというわけではなく、しかも女なら年端のいかない精霊でもおかまいなしのようだ。
「彼等が行った悪事はこちらで調査させて頂きます。それとお二人に関しては聞くことは以上になりますので宿に戻られても結構ですよ」
「は…はい。ありがとうございました……」
「本当にありがとうございました!」
2人が礼を言う。が……少し気になる。単なる言い間違いかもしれないし、まして襲われた事実は変わらないし、相手が悪いというのも変わらないが念のために聞いてみる。
「ねえ? 聞いてもいいかな?」
「え? は、はい。どうぞ」
「何で歩いてたのかな? 精霊だから飛べるよね? それに……歩くなんて、体の小さい精霊だと踏まれる心配があるから危険じゃないかな?」
僕の話を聞いて、他の皆も話がおかしなことに気付く。
「……そういえばそうよね。薫の言う通りだわ。私達って小さいから基本的には飛んでるわ。歩いていたら踏まれかねないし」
「あ~~。それなんッスけど……」
「……ごめんなさい。私、飛べないんです」
恐る恐るレイスちゃんが口を開く。それを聞いたサキとマーバが首を傾げている。
「飛べない? そんなことがあるの?」
「昔は私も自由に飛べてました。けど……ある日から飛べなくなって、それで魔法も使えないから周囲からイジメられて……」
話ながら涙を浮かばせていく。それを見てサキが彼女の頭をさすり始める。
「それは辛いでしょうね。精霊なら魔法は使えて当然っていうのが常識だもの」
「それを見たあたいが、旅に連れ出してこの国に着たんッス。この国は以前に異世界行きを成功させた例もあって、それこそ魔法が再び使えるようになる方法があるかもって。まあ、あたい自身。イジメてる奴らや、それをどうすることも出来ない教師。そんなのと一緒にいるのが嫌になったんッスけど」
「家族には?」
「旅に出ます。探さないで下さいと……。手紙は置いといたのです」
「あたいも」
典型的なイジメ問題と家出娘である。確かに学校の中にいるよりかはいいのかもしれない。しかし家族はどうなんだろう?
「2人のことを家族には伝えといた方がいいじゃないの?」
「それはなんとも言えませんね。しかもノースナガリア国から捜索願いとかはきていないですしね」
「ノースナガリア?」
泉には始めての言葉で、前に聞いた僕が説明する。
「精霊だけの国だよ。精霊が住みやすいように整備した国だから他の種族の人は住んでないんだって」
「へー。精霊だけの国か……」
「ここに来るまで大冒険だったッス! ハラハラして楽しかったッスよ!!」
「わ、私は危ないことをするから心配ばかりだったのです」
「あのぐらいなら大丈夫だって。馬車の時に比べればさ~」
「あの時は……」
2人で旅の思い出話をしている。僕たちにとっては何て事の無い大きさの物でも、彼女たちからすれば自分たちを潰す巨大な物になるのだからその道中は大変そうだ。
「とにかく今日の宿を決めないと……」
「そうッスね」
「あなた達、宿は決めてないの?」
「いやー。なんせ本当にこの国に着いたばかりで……」
「それなら家に泊まるか?」
「泊めていただけるなら……」
カーターの家は広かったしまず問題は無いだろう。と思っていると先程から考えていたマーバが何か閃いた表情を浮かべて、そのままサキに耳打ちする。それを聞いたサキは悪い笑みを浮かべて頷いている。
「カーター!! それよりいい所があるわよ!!」
「そうだぜ!!」
「うん? どこだ?」
「この2人よ!!」
といって指をこちらに差す……はい?
「ねえ。あなた達この2人と契約しないかしら? 凄い場所に住んでるのよ!!」
「え、えーと。契約ッスか? そんないきなりすぎッスよ。というかどんな家に住んでるんッスか?」
「動く絵画や人を乗せて走る鉄の箱なんかを持ってて一緒に居てきっと飽きないわよ!!」
「そ、そんなのあるのです?」
「あるぜ!! なあ2人とも!!」
「テレビと車のことかな?」
「そうそう」
「おいおい。ちょっと待て2人とも」
「そうですよ。少し落ち着いて下さい」
カーターたちが話を止める。マーバとサキが2人に近づき小さい声で話し始める。
「(考えてみろよ。異世界の門は精霊がいないと使えないんだぜ。だったら、今のうちに、あちらからも来れるように契約してもらった方がいいんじゃないか?)」
近くにいる僕に話し声が全部聞こえているよマーバ……。とにかく僕たちを魔法使いにしちゃえという企みらしい。それを聞いた2人も少し考えている。
「……そうですね。それはいいかもしれないですね」
「マーバの言う通りだな。この2人も魔法使いになったらこちらも有り難いしな」
「だよなだよな!!」
……僕は止めるべきだろうか? そうこうしている間にも話は続く。
「契約ッスか? でも……」
「薫!!」
なんとなく言いたい事が分かったので、スマホを取り出し写真をスライドショーにして見せる。
「絵が次々と変わっていくのです!?」
「ドローインの魔法じゃ無いッスよね!? なんなんすかこの魔道具は!?」
「ねえねえ! 私もあるわよ。ほら!」
そう言って薫も見せる。投稿するために取った自撮り動画だ。
「こっちは絵が動いているのです!」
「自画像が動いている? それにこの絵にある食べ物はなんなんッスか?」
「ふふん! どうかしら? この2人と契約したらこんな道具が使えるし、その絵の中の食べ物も食べられるのよ!!」
それを聞いてレイスちゃんが考えている。自由をとことん愛する精霊が人と契約するにはそれなりの覚悟がいると言っていた。だから、あれが当然の反応だろう。それだからフィーロちゃんも……。
「さ、させて下さいッス!」
まさかの即答だった。自由を愛する気持ちはどこへ?
「え、えーとでも私?」
「この2人と居れば気分転換になって魔法が再び使えるかもしれないぜ?」
「うーん??」
「レイス! 契約するべきッスよ!!」
「フィーロ……」
もはや周りは契約推進派ばかりで止める人がいない。やっぱり冷静に考えてもらうためにも止めるべきかな? でも魔法使いか……いや憧れるけどさ。
「私も賛成!!」
「ふぇ!」
真剣に考えていたところに、真横からのいきなりの大声で思わずビックリする。というか変な声が出て恥ずかしいんだけど!?
「い、泉?」
「魔法使いよ。魔法使い! 子供の頃に見ていたあの魔女になれるんだよ! あの日曜の朝にやっていた!!」
泉が目を輝かせながらグングン近づいてくる。かなり興奮しているようで体からキラキラ! とキラめく何かが見える。
「次のコスプレはそれで決まり~!! 薫兄はどの子をやってもらおうかな? あ! 青髪の男っぽい子がいい?」
手をバタつかせながら歓喜する泉。とりあえずここは落ち着かせるか。
「いや。契約するか決まっていないし、そもそも男の僕を巻き込まないでよ」
「「え!?」」
2人が声を上げて驚いた表情でこちらを見る。
「あれ? 言ってなかったけ? 僕、男だけど。それに泉が薫兄ってさっき言ってたけど……」
レイスちゃんとフィーロちゃんが目を見開きながら、僕を見る。そして……。
「「ええええええーーーーーー!!!!!!」」
もはや、最近の定番になっている気がする。というか店の他の人達もこちらを見て驚いてる!? あそこの人なんか持っていたコップを落っことしてるし!
「そ、そんな。な、何かの呪いを受けてしまったのですか?」
「いや、受けてないよ!」
「じ、じゃあ変な薬を飲んで……」
「違うよ!」
「性別を替える薬か……。あったら確かに飲ませたいな」
「そうですね……」
「お姉ちゃんか~。いいね!」
「同意だぜ!」
「賛成よ!」
「!?」
何? 性転換薬みたいな物があったら、僕って問答無用で女性にされるの!?
―えーと?薫に性転換フラグが立った!―
方法:性転換薬を手に入れろ! ただそれだけ。……これでいいのかな?
「なんか変なフラグが立った気がするけど変わる気はないからね! というか……もういい加減にしてーー!!!!」
酒場内に僕の悲痛な声が響くのだった。




