185話 パジャマパーティー
前回のあらすじ「男子禁制!(薫は除く)」
―夕食後「薫宅・居間」―
「ここで……クリを組み合わせて……」
「ああ。なるほどです」
「この組み合わせ、難易度高いよね」
夕食を終えた後、予定していたゲーム大会が始まり今日の話の話題に出ていた異世界開発―ミルクルの錬金術―をプレイしている。
このゲームの内容は簡単に言うと、主人公が異世界に飛ばされて、前の世界で培った錬金術を使って異世界を発展させていくというストーリーだ。メイン以外にも色々なサイドストーリーやミニゲームなどが用意されていてやり込み要素が非常に高い物になっている。
「これで、召喚魔石バハムートの完成ですね」
「さっそく使ってみなよ!これの演出好きなんだよね!」
「はい。それではいざ!」
ユノがあみちゃんたちと仲良くゲームをしていて、レイスたちもあみちゃんたちの頭に乗った状態でゲーム画面を眺めている。そして僕と泉はその後ろでお菓子をつまみながら、のんびり眺めている。
「そういえば薫兄」
「うん?どうしたの?」
そんなのんびりとした空気に、ふと泉が話しかけてくる。
「守鶴っていう召喚獣を創っていたけど……どうしてあんなのを創ったの?」
「っていうと?」
「強力と言えば強力だけど……麒麟と比べたら弱いよね?それに完全にアレって地元アピールだよね?」
その質問か。どうやらゲームで召喚獣の話をしていた事で、以前から疑問に思っていたことを思い出したのかもしれない。
「ああ……アレなら悪立ちしないからね」
「悪立ち?」
「この地域で生まれた妖怪。それがその地域の伝承にもなっている守鶴を呼び出したとしても不思議ではない。っていうイメージを少しでも植え付けたかったんだ。流石に麒麟の召喚は色々問題になりそうだし……もしかしたらこっちでも使うかもしれないからさ」
召喚時に雷雲が生じて、そこから降りてくる麒麟。ロロックとの戦いの後、しばらく神の御使いと少しの間だけ恐れられたのだ。そして現代文明が発達したこの世界でも、あんな異常な物を、そんな演出で出してしまったら……新たな信仰を生みかねない。
「守鶴を?それってヘルメス対策として?」
「分からない」
「分からない?」
「うん。黒の魔石を保有しているヘルメスは当然なんだけど、その黒の魔石をどこから入手したのか考えると、もしかしたら魔族は既にこっちに侵略している可能性もある……でも、もしそうならシェムルにアクヌムはもっとこっちの世界の知識や技術を持っていてもおかしくないないはずだし……」
「ああ……そうだよね……」
シェムルは雷属性の魔法に驚いていた。アクヌムはビシャータテア王国侵攻の際にこっちの技術を使用してなかった。
「だから……魔王率いる魔族、黒の魔石を有するヘルメス、そして第三の勢力……なんてね」
「薫さん!?それって、なんてね♪で済みませんよ!?」
いつの間にかゲームを中断して雪野ちゃんたちが話を聞いていた。僕、そんな可愛らしく言ってないんだけど?
「そんな……世界に危機が迫ってるってことじゃ……」
「ゴメン!心配させちゃって……でも、あくまで推測だからさ。それに、もしそんな奴らが悪だくみをしていたらアメリカやラエティティア、それに知り合いの組織が何かしら情報をキャッチしているはずだしね」
「あ、そうか。薫さんたちってそんな裏組織と繋がってるんですもんね」
「その言い方だと悪いやつみたいだけどね」
僕のその一言に皆が笑い出す。あくまで確認できてるのはヘルメスだけだ。魔族に第三勢力はあくまで僕の妄想であって、しかも現実的ではないだろう。
「まあ……色々謎が残ってるのは確かだから調べないといけないけどね」
「薫。逆はどうですか?」
「逆?」
「はい。グージャンパマはどうなんでしょう?」
「それは……」
ユノに訊かれて、僕はどう言うべきかを考える。
「魔族は確定。でも……それ以外は正直に言って分からない」
「どういう意味ッスか。それって?」
「まずは魔物。魔族と魔物は別グループの可能性がある。となるとその魔物たちは今はどこで何をしているのか」
「それはお父様達の会議でも別として捉えてますね」
「次にコーラル帝国とユグラシル連邦。こっちの世界で比べても、超高度な文明を持つ彼らが本当に滅んだのか?もしそうでないなら……」
「何か映画だと地下世界で地上が浄化されるまで待っているってオチですよね?」
「雪野ちゃん。それなら宇宙っていうパターンもあるよ?」
「なら、うちは異世界に賭けるッスよ!」
「そんな話をしていないのですよ。それで薫。他にもあるのです?」
「無いかな?ただ、あちらだとこっちみたいに情報システムが整っていないからひっそりと裏で悪巧みをしている奴らがいるとなると……分からないかな」
「それって……」
「ただし。そんな大規模な組織があるとしたら魔法使いを何名かを囲っていないといけないし、それにハリルさん率いるシャドウクラスの隠密部隊とかいないと難しいかな……だから可能性としては薄いかも」
「そうですか……」
僕が話を終えると、皆が静かになってしまった。マズい……そんな不安を煽って静かにさせるつもりじゃなかっただけど……。
「ほら!そんな事を考えても分からないからさ!今は今でしっかり楽しまないと……」
「え?薫兄が親父ギャグ!?」
「今と居間をかけたつもりは無いよ!?」
「笑えないですよ……ユノたち何か意味不明だと思いますし」
あみちゃんの目線をたどると、グージャンパマ出身であるユノたちが頭にハテナを浮かべている。
「いや!?そんなつもりは無いからね!?」
静かにしてしまった空気を何とかしようとした結果がこれは流石に嫌なんだけど!?
「薫兄……歳とったね」
「違うから!たまたまだから~~!!」
「ふふ!必死になる薫、可愛いですね」
「そうですね」
どうやらシリアス雰囲気をぶち壊せたみたいだけど、こんなのは本当に嫌だよ!
「ギャグじゃないからね!?信じてよーー!!」
僕の悲痛な叫びが家の中に木霊するのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―そこから2時間後―
「…………」
一人だけお風呂に入ってなかった僕はタイミングを見てお風呂に浴してきた。居間に帰ってくると、お菓子とジュースを置いたテーブルを囲んで、パジャマ姿になった皆が楽しそうにお喋りをしている。
「あ、おかえり~」
「ねえ?僕のパジャマは?」
「着てるッスよね?」
「かわいいのです♪」
「しっかりフードを被ってくるなんて分かってるね」
「着ぐるみパジャマって恥ずかしいからね!?30歳にもなって……」
僕は余りの恥ずかしさにウサギフードで顔を隠す。お風呂から上がると何故か置いてあったいつもの寝間着が無くなっていて、替わりにうさ耳フード付き着ぐるみパジャマが置いてあったのだった。流石に下着姿で出る訳にはいかなかったので、渋々これを着て文句を言いに来たのだが……。
「あ。着替えて……」
「取り押さえて!」
「「はい!!」」
2階から着替えを取りに行こうとするとあみちゃんたちが僕の両腕を掴み逃がさないようにする。しかしこのくらいなら……
「えい!」
すると、今度はユノが僕の足を押さえる。
「ちょ!?」
そのせいでバランスを崩しそうになるが、ここは耐える。
「「えーい!!」」
すると今度は後ろから風が起きて前に押し倒されてしまう。レイスたちが風の魔法を使ったのだろう。
「って!何この連携プレー!?」
「おひとり様ご案内!」
「ああ~~……」
そのまま、テーブルの前に座らされる。何なのこの執念は?
「パジャマパーティーにようこそ~!」
「僕……もういいや」
「あ、薫さんがあきらめた」
ここまで来るとあきらめるって。僕はそのままお風呂上りの喉を潤すために、テーブル上にあるコップに緑茶を入れて飲み始める。
「それで、ずっと気になっていた事を訊きたいんですけど……」
すると、あみちゃんが真剣な表情で僕を見る。僕も気を取り直して話を聞こうと姿勢を少しばかり正す。
「薫さんって、色々やってますけど具体的に何をやってるんですか?」
「あ。それ私も知りたい!薫さんって料理教室の講師もしてるし妖狸だし……色々働きすぎな気がするんですよね」
「そういえば私も何をやってるか知らないかも……」
「それは……レイスは言ってないの?」
「言ってないのです。それに時々、フィーロと泉で一緒に行動することがあるのでいない時は何をしてるのかは知らないのです」
「その時は小説家として執筆してるよ。後はひだまりでウェイターをやってるし」
「それと朝に私に軽く武術の稽古したり……」
「レイスと一緒の時にクラックウルフを狩ったり……」
「確か料理教室以外に農業支援もしてましたよね?」
「うん。それも合ってるよ」
「「農業支援?」」
「あっちにはこっちみたいに化学肥料が無いから、いかにあっちの物で作るかを念頭にやってるよ」
「出来るんですか?」
「あっちで米が流通してたのが功を奏してね。お陰で米ぬかと雑草を使っての堆肥が作れたし、海にいるギガントオーガシェルフィッシュって呼ばれる貝から石灰を作ったりしてこちらは順調かな」
「あ。それカーターさんも手伝ってるやつ?」
「うん。カーターのご先祖様がこっちの野菜を持ち帰って農業指導をしていたせいで、代々一家が農業に携わってるんだって、カーターもあの邸宅で野菜や果物を実験的に育ててるしね。つい最近だと……白菜とかの世話をしたかな」
「チョイスが渋くないですか!?」
「漬物にできるのを選んだ結果かな……あっちだと食料事情が全然違うから。長期保存が可能な物を育ててるんだ」
「へえ~。なるほど……ところで」
「うん?」
「ギガントオーガシェルフィッシュ……名前からして魔獣ですよね!それ!しかもかなりデカそう!」
雪野ちゃんが先ほどスルーした魔獣の名を持って来る。確かにアレはデカかった。
「うん。石灰を求めてアオライ王国にデカい貝がいるって聞いたから、倒して貝殻だけを頂いたんだよね」
「最初見た時は倒せる?と思ったのですが、意外に早く終わったのです」
「それはお二人だからであって……悪魔の島と言われてる災害級の魔獣が出たら大慌てですよ?」
そう言って、呆れた表情を浮かべながらユノは両手で持った飲み物を飲み始める。
「「え?島?」」
「というより……そんな話を初めて聞いたッスよ?」
「日帰りだったしね……でもつい最近だよ?視察に行く前だったし」
「アリッシュ領に行く前ですか?」
「ねえ。その話をしてよ!」
「いいよ……あれは」
話の流れで、僕とレイスでアオライ王国での貝狩りの話を始めるのだった。




