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183話 薫の欲しい物

前回のあらすじ「ハンバーグで一時休戦中」


*設定ミスで投稿が遅れてしまい大変失礼しました。またゴールデンウイーク中に水曜日より前にもう一話投稿予定なのでよろしくお願いいたします。

―「イスペリアル国・笹木クリエイティブカンパニー出張所内 料理教室」―


「うおおおおおぉぉぉぉ!!!!」


「クソっ!何でできない!」


 トロトロ卵のオムレツを実際に見て、そして食べたコック達が何かに憑りつかれた様に猛練習する。


「そこはヘラを使って下さい!私のトントンでの作り方は上級ですから!!あ、そこ火から下ろしてください。その後は形を整えましょう!!」


 ここにいる誰もを感動させたオムレツを作った雪野ちゃんが必死に説明をする。


「雪野ちゃん。いつでも自分で食べれるように必死に練習してたからな……」


「感動だったのです……あんなのがあるなんて……」


「出来ました♪」


 ユノがキレイなオムレツを作ってこちらに持ってきた。ナイフを入れると中は半熟トロトロだった。


「完璧!?」


「すごーーい!!雪野ちゃん!」


「ん?おおー出来てる出来てる。よかったですね薫さん」


「え?何で僕?」


「彼女さんに作ってもらう、ふわとろオムレツ……食べたくないと!?」


「いや!それは!」


 食べたいけど……それを30歳にもなる男が素直に口にするのは恥ずかしい。


「美人である薫がそれを素直に言っても違和感ないのです。安心するのです」


「レイス……心読まないで、それと、その安心は嬉しくない」


「薫?嬉しくないのですか?」


 ユノが心配そうな顔でこちらを見つめる。


「ううん!嬉しいよ!恥ずかしいだけだから気にしないで!!」


 思わず声が上擦ってしまう。


「それじゃあ……あーん」


 ユノがスプーンでオムレツをすくって僕の前につきだす。え?このタイミングで?皆の視線がこっちに向いているこの中で……?


……ぱくっ。


 ユノをあまり待たせすぎるのも、それはそれで悪いので覚悟を決めて食べる。


「うん。美味しい!」


 思わず顔が緩んでしまう。それほどにこのオムレツはひいき目を差し引いても一番だと思う。


「ここまでのオムレツ初めてかも……」


「ふふ。それは良かったですわ♪」


 僕の感想を聞いてユノが笑顔になる。エプロン姿のその姿は実に若奥様って雰囲気だ。


「これがストマッククロー!!」


「鷲掴みなのです!!」


 うわ!恥ずかしい!って二人共、何も言わないで!静かに、そっとしておいて欲しいんだけど!


「そうだね……って!そこ卵固まってる!!」


 雪野ちゃんの一言でコックさんたちが慌ててフライパンの方に意識を戻すが……あれは失敗だろうな。ああ。そこの方、こちらを呪殺するような目で見ないで下さい……。目から血涙出ててますよー……。


「あの~失礼します」


 ドアからノックが聞こえた後、修道士を着たエルフさんが部屋に入って来た。


「薫さんですね?すいません少々お願いがありまして……それとご馳走様でした」


「鼻血!拭いて下さい!」


 僕はアイテムボックスからティッシュボックスを取り出して修道士エルフさんに渡す。


「すいません……あまりの甘い空間に思わず……眼福でした」


「煩悩を消して下さい!修道士でしょうが!!」


「それとこれは別です」


「真顔で答えるな!」


 思わず修道士エルフさんにツッコミ用の空手チョップを喰らわすのだった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―煩悩修道士エルフの説明後―


「……ってな事がありまして」


「はあ……ご足労おかけいたします」


「いえいえ……」


 先ほどからずっと笑顔のまま、話し続けるエルフさん。もうこれ以上はツッコむまい。


「それでどうでしょうか?今から用意できますか?」


「薫さん。材料余ってるので作れますよ」


「だそうです」


「それではお願いします」


 そう言って修道士エルフさんがその場を去ろうとする。


「あ。これどうぞ」


 あみちゃんが焼きたてのハンバーグを小皿に載せて修道士エルフさんに渡す。


「ここまで来て食べないなんてかわいそうですから」


「ありがとうございます!それで……は!?」


 修道士エルフさんが体を強張らせ、鼻をヒクヒクと動かしその後ゴクリと唾を飲み込む。そして、このハンバーグを食べるための覚悟を決めた所で、おそるおそるスプーンでハンバーグをすくって口に入れる。


「美味しいーー!!何?この肉汁は!?」


 驚いた表情を見せつつ、ハンバーグを勢いよく食べ進める。ほどなくしてハンバーグを食べ終えてしまった。


「ありがとうございます天使様……これで明日も頑張れます!それでは!!」


 ウキウキ気分で修道士エルフさんが部屋を去っていった。さっきあみちゃんに祈っていたが……その後ろにうっすらとハンバーグを食べている大天使が見えたのは気のせいだろう。


「あの……さっきの後ろのアレ……」


「気のせいだよあみ。うん。気のせい……それより作らないとね」


「う、うん……」


 僕たちは雰囲気ぶち壊しの大天使を忘れて、王様達に食べてもらうハンバーグを作り始めるのだった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―数時間後「イスペリアル国・聖カシミートゥ教会 会談の間」―


「ウマい!!ウマいぞ~~~~~!!!!」


 どこぞの美食家ばりのコメントをするローグ王。いや。旨いからって目と口から光を放たないで下さい。


「しっかし、これは美味しいな。これ牛肉を使ってるだろ?」


「はい。ガルガスタ王国だと乳牛を育ててると思うんですが、これは食用ですね」


「食用も育ててるぜ?これ人気になりそうだから育てる数を増やしてもいいかもな……」


 ヴァルッサ族長はハンバーグが売れると判断して今後の国の食料生産を見直している。


「本当にあっちの世界の料理には驚くことばっかりね。レイスが羨ましくなりますね」


「大分、慣れてきたと思っているんですが……やはりあちらの料理には今も驚く事ばっかりです」


 レイスは母親であるソレイジュ女王と仲良く話をしている。


「これをバンズというパンで挟めばハンバーガーか。シーエ。騎士団の遠征時の献立に役立つか?」


「どうですかね……薫さんの話では作り置きするなら冷凍が必要と言ってましたし、手間暇も少々かかるとも」


「遠征時の旨い料理は士気にも関わるからな……後でコックとも相談してみるとしよう」


 サルディア王はシーエさんはハンバーグを遠征時の料理メニューに取り入れられないか検討している。


「どうかしら~……私の専属コックになってもらえないかしら~」


「私もですわ。どうかしら?」


「いや~~……まだまだ修行中でして。ねえ。あみ?」


「うん。コックを名乗るならもっと腕を磨かないとと思っているので」


 雪野ちゃんたちがシーニャ女王とオルデ女王のお誘いをやんわりと断っている。二人が乗り気だったら止めるつもりだったが杞憂だったようだ。


「そこを何とか~……報酬は弾みますよ?あっちだと珍しい宝石とか……あて!?」


 何か危ない雰囲気を出すオルデ女王の頭をハリセンにした鵺で叩いて止めさせる。


「あっちでグージャンパマの宝石は売れないですから!二人共!そこは注意してね!それやると変な組織から追われるからね!」


「分かってますって!」


「身の安全が一番ですから!」


「よろしい」


「う~いいじゃないですか?そんな微々たる影響ですし~」


「その微々たる影響が後々で面倒ごとを起こすのですよオルデ女王。だからダメですよ?」


 ユノが笑顔でオルデ女王に詰め寄る。その有無を言わせない雰囲気にオルデ女王も渋々従う……。


「婚約者となったユノ姫様に言われたくないのですが?」


 引き下がらない!まさか喰らいつくかそこで!?


「……オルデ女王?」


 ユノがオルデ女王の耳元に口を近づけて、小声で何かを話し始める。すると次第にオルデ女王の表情が変わっていく……何か顔面蒼白になってるけど……。


「……です!いいですね?」


「は……はい。従います……ユルシテ」


 一体、何をしたのユノ……あのオルデ女王が完全に降参してるけど!?


「ユノ……一体何を言ったの?」


「え?……乙女の秘密ですわ♪」


 どんな方法で黙らせたのか訊くと、はぐらかされて笑顔で口元に指を当てるユノ。今、その笑顔が一番怖いです。


「武力の薫さんに、知将のユノ……かな?」


「お似合いの夫婦ですね♪」


 雪野ちゃん。そのお似合い……素直に喜べないんだけど?


「それで薫さん。話が変わるのですが今、何か必要な物。もしくは欲しい物とかありますか?」


「必要な物ですか?」


 シーニャ王女に訊かれて考える。


「おいおい本人に訊くのかよ?」


「一番これが確実ですから」


「確かにそうですね。ここで色々、私達が出し合うより勇者様達に直接訊いた方が早そうですね」


「どういうことですか?」


「アクヌム討伐の報酬です」


「ああ……別に気を使わなくても」


「冒険者ギルドも関わってる案件なのだ。やはりここまでの我が国の窮地を救った英雄にお礼なしというのは……な」


「と、いわれても……泉たちの報酬でもあるしな……」


「呼んだッス?」


 後ろを振り返ると泉たちが部屋に入って来た。


「どうしたのです?」


「うちが実家に帰宅してたッスよ」


「それであっちに戻ろうとしたら薫兄達がここにいるって聞いたから帰るなら一緒に帰ろうと思ったんだけど……私達がどうかしたの?」


「アクヌム討伐の報酬。何がいいか訊かれたんだよ」


「私は特に……」


「うちも……」


「そうか。レイスは?」


「しいて言うなら本が欲しいですけど。購入可能なので特に私も」


「というより薫兄は?あるの?」


「……一応」


「「「「「「え!?」」」」」」


 各国の代表の方々が盛大に驚いている。


「あの……欲しい物が無くて金を余らせている薫が欲しい物!?」


 ローグ王。失礼じゃないですか?


「明日は大雨にでもなるのでしょうか?」


 コンジャク大司教。あなたもですか……というか、あみちゃんと雪野ちゅん以外の全員が驚いているのか!?


「皆さん。失礼じゃないですか!僕だって欲しい物ぐらいありますよ!」


「いや~……あまりにも意外過ぎてな。ユノも驚いているしな」


「ユノ~~……」


「薫からそのような話が出ることが無かったので……それで何を?」


「家と土地だよ……こっちの」


「「「「「「ええーーー~~~!!!!!!」」」」」」


 外に聞こえるんじゃないかというくらいの大声で驚かれる。本当に失礼じゃないかな君たち?

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