表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
183/503

182話 講師としてのお仕事

前回のあらすじ「薫、ご乱心」

―「イスペリアル国・笹木クリエイティブカンパニー出張所内 調理室」―


「それじゃあ、やっていきましょう」


「「「「はい!!」」」」


 会場となる笹木クリエイティブカンパニー出張所内にある調理室で料理教室を始める。


「その前に今回は指導のためにお二人の先生を呼びました。二人共?」


「柏木雪野です!私も勉強中の身ですがよろしくお願いします!」


「私は小貫あみです。私もコックとしては見習いですが知識は豊富なので、分からないことがあったら聞いて下さい」


「と、なります。二人は料理人の卵として優秀で、僕なんかより洗練された調理を見れると思うので参考にして下さい」


「「「「はい!!」」」」


 参加している料理人たちからも元気のあるいい返事が返ってきたところで料理教室を始める。


「それで……ユノも参加するの?」


 しっかりエプロンを着て、髪を後ろにまとめたユノに尋ねる。


「はい。やることがありませんし……それに薫と一緒に暮らすのに料理が出来ないのは……」


 僕を見つめながらユノが頬を赤らめながら答える。その姿を見た参加者の一人から、いいな……。と声が漏れている。良い彼女が出来ることを祈ってます。


「家庭で作るには手間がかかり過ぎるので、大まかな作り方を覚えていけば大丈夫だと思います。必要ならここだけは押さえといた方がいいところをお教えしますので……しっかり薫さんの胃袋をストマッククローしましょう!」


「それ。僕が悶絶するよね?」


「鷲掴み?」


「同じなのです」


 そんなボケをかましつつ、最初の工程である玉ねぎをみじん切りにしていく。


「ユノ。やっぱり慣れてるよね」


 ユノの包丁さばきを見るのだが、実にスムーズに切っていく。この前の視察の時や後方支援なんかで何回も見ているが手際が良い。


「料理もしたりするので」


「コックさんにお任せじゃないの?」


「基本的には。それでも色々な事を一人で出来るように教わってますよ」


「何かお姫様って聞くと、着替えとかお風呂とか従者にやってもらうイメージがあるんですけどそうじゃないんですね!」


「他の王族はどうか分かりませんが、私達は違いますね。お風呂も一人ですし」


「そうなんだ……やっぱり空想と現実って違うんですね」


「でも、あっちの物語を見てると当てはまる所もありますよ?」


「あ~……あそこですよね。分かるのです」


「え?どこどこ?」


「それは……」


 ユノがレイスと雪野ちゃんにあみちゃんと仲良くお喋りをしている。歳が近い事もあって何かと息が合うのだろう。ここら辺は僕でも指導できるので、お喋りの邪魔にならないように参加者の指導をしていく。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―30分後―


「炒めた玉ねぎもしっかりと冷ました所で混ぜます。その際に自分の手をしっかり冷やしてください」


 あみちゃんが塩とひき肉を混ぜたハンバーグのタネに炒めた玉ねぎと用意していた牛乳に浸していたパン粉やスパイスなども入れて混ぜ合わせる。


「どうして手を冷やしているんですか?」


 ユノがあみちゃんの説明で疑問に思ったことを僕に訊いてくる。


「冷やさないとひき肉の油が人の熱で溶けて、まとまりにくくなるし旨味が逃げちゃうんだ」


「はいは~い!それと塩とひき肉を先に混ぜたのもその予防だよ。しっかり混ぜて粘り気が出るんだ!」


「へえ~そうなんですね」


「このくらい粘り気が出た所で、楕円型にして……このように両手で投げ合って空気を抜いて、最後に楕円形に整えておいて下さい」


 あみちゃんの説明を聞いた参加者が同じ手順でハンバーグの形を整えていく。


「投げ合う回数ってあるのか?」


「投げ合う回数は10回ぐらいでいいですよ。あまりやりすぎても意味が無いので」


「これで大丈夫ですか?」


「はい!オッケーです!それと表面を滑らかにしておくとグットです!」


 あみちゃんと雪野ちゃんが丁寧に参加者たちに指導していく。お陰で自分の負担が減ってユノに教えることが出来る。


「ここは……こうね」


「なるほど……」


「上手なのです!」


「……いいな」


「聖域が……あそこに理想郷が……」


 そこの参加者、頑張って彼女を作って下さい。そちらの方は、料理に専念して下さい。と心の中でツッコむ。


「出来たら、こちらの冷蔵庫で冷やします。目安としては30分から1時間……こちらの世界だとこの砂時計が落ち切ったくらいになります」


 全員がハンバーグの形を整えきったところで冷蔵庫に入れて一度冷やす。そしてあみちゃんが魔道具で1時間を計ることが出来る砂時計をひっくり返す。


「それでは、ソースを温めると同時にオムレツの作り方を教えていきます。じゃあ、雪野ちゃんお願い」


「出番だね!」


 ここで二人が司会役を交代する。今回ハンバーグのこの冷ます過程があったので、その僅かな時間で雪野ちゃんの得意料理であるオムレツを指導していただく。


「オムレツ……誰でも作れるぞ?」


「確かに。普通に作るなら料理人には朝飯前でしょう……ですが!見ていて下さい!」


 雪野ちゃんがマイフライパンを手に、あの伝説のフワとろオムレツを作り始めるのだった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―ほぼ同時刻「イスペリアル国・聖カシミートゥ教会 大会議室」シーエ視点―


「……以上、事の発端を起こした魔法使い達は全員処刑。親族達は貴族権を剥奪、王都からも追放しました」


 シーニャ女王が戦争を起こしたシュナイダー達を嵌めて、人としての道を外す原因を作った魔法使い達の処分について説明した。


「魔法使い全員を処刑。結構、大胆にやったんじゃないか?」


「彼らのせいでシュナイダー達だけではなく、多くの有望な魔法使い達が潰されてしまいました。それを考えれば当然の刑です」


「まあ、俺も同じ処分を出すだろうな。そんなくだらない我が身の保身で可能性を潰されたら、たまったもんじゃないしな」


 ここにいる数名がヴァルッサ族長の意見に賛成している。国の豊かさを象徴する魔法使い達のあるべき姿から逸脱した今回の行為は、国を発展を脅かしかねない物である。私としても当然の結果と言えるだろう。


「こちらとしても十分な処置だ」


「いいのか?処刑したのか確かな証拠を出させなくて。犠牲者も大勢出たのだろう?」


「人の上に立つ身だ。シーニャ女王の姿を見れば嘘かどうかくらい分かるさ。それにシュナイダー達を討ったのはそこにいるシーエ達だが、その裏にいたアクヌムを討ったのは薫達だ。こちらの処分の割合としては……十分だ」


「まあ……そうかもな」


 サルディア王とローグ王の言う通りで、会議が始まる最初から今までシーニャ女王の表情は優れない。


「それでも復興の援助はさせていただきます。ここで何もしないというのは国として示しがつきませんから」


「分かった。無理に断るのは失礼だろうしな」


「それでは今回のビシャータテア王国での魔族侵略についての事後処理ですが、両国が協力して復興をするでよろしいでしょうか?賛同なら挙手を」


 コンジャク大司教の言葉に全員が手を挙げる。これでソーナ王国の我が国への支援が決まった。王都内の復興は目途が立っているが、奴らによって荒らされてしまった王都周辺の田畑、そして奴らが荒らした村々の復興に関してはまだまだ時間がかかりそうなので、ここで助け舟が来るのはありがたい話だ。


「それでは最後の議題ですが……」


「薫さん達ですね~……またまた手柄を~……」


「その通りですね……ここの冒険者ギルドも困ってますし……」


「金はあるみたいだしな。やっぱりここは土地か家……地位もアリなんだが……」


 そして今日の最後の議題。アクヌムを討伐した薫達への恩賞。本来ならビシャータテア王国内で起きたのだからサルディア王から出すのが普通なのだが、各国共通の危険因子を排除したという事で他の国々も出したいという事なのだが……。


「土地も家も邪魔になりそうでは?あっちの世界に家がありますし……」


「地位もすでに勇者と魔導士で決まってるしな……勲章は?」


「それだけっていうのも~……それに彼らのこちらでのホームはあった方がいいと思うんですよね~。ということで我が国に……」


「いや。そこはこっちだな」


 ヴァルッサ族長がピシャリとオルデ女王の話を遮り、自分の意見を述べる。


「そっち常に移動してるじゃないですか!やっぱり海の見えて夕日がキレイなこちらを!」


「なにを!?そっちに建てたらお前のせいで薫がゆっくりできねえだろうが!」


「まあまあ……それなら私共の国に。シュナイダーの件でご迷惑をおかけましたし……」


「いや!それならここに!」


 するとそれを皮切りに全員から、ぜひともここに!という意見が飛び交う。全員、薫達とよりよい関係を結びたいと意思が丸見えである。


「サルディア王はダメですよ~!すでにユノ姫を婚約者にしたアドバンテージがあるんですから~!」


「何を言う!かわいい娘の孫を拝むのに大変では無いか!!」


「それなら私はここに一票ですわ。娘が帰ってくるのに不便ですし」


「それなら転移魔法陣を置けばいいだろう。薫には俺の国を見てもらいたい」


「何を……!!」


「やるか~!」


 白熱する意見。話し合いだけでは無く手が出そうな雰囲気だ。


「薫さん……呼んだ方がいいですかね?」


 近くにいたローグ王の護衛がこちらに訊いてくる。


「今からでは時間が……」


「いえ?この国にいますよ。料理の指導とかで笹木クリエイティブカンパニーに……先ほど歩いていた修道士の方々が話されていたので」


「はっ!?料理の指導!!それってつまり美味しい物を作ってるってことかー!!シーエいくぞ!料理が私を呼んでいる!」


 マーバが叫ぶ。その声に反応して各国の白熱した話し合いがピタッと止まる。


「ちなみに何を作っていると言ってた?」


 ローグ王がそう言うと、この部屋にいる全員の視線がこちらに集中する。私自身は知らないのでローグ王の護衛に目を向ける。そっちも気付いたようで慌てて答える。


「はい!今日はハンバーグとオムレツとなる料理を作ると言ってました!!」


「お!ハンバーグいいんだぜ!肉汁たっぷり口の中でお肉がホロリと崩れる食感……思い出すとたまらないんだぜー!そうか……ついにあの料理をこの世界に広めるのか……楽しみだぜ!」


「ああ。あれは良かったですね。老若男女問わず親しまれそうですし……」


 あちらの世界を知るために、ひだまりで働いていた時の賄い料理としても出て来たが……思い出すと食べたくなる。


「私はバーベキューソースだったな!シーエは?」


「私はおろし醤油ですかね……後味がさっぱりしていて好みでしたね……ん?」


 ふと。先ほどからの視線がどこか殺意の籠った物になる。その気配がするほうへ視線を向けると我が国の王も含めた各国の代表の目と合う。しかも器用な事に口に涎をたらしつつ。


「シーエ……?」


「……それでは失礼します」


「「「「逃がすなーー!!」」」」


 他の国の護衛がこの部屋の扉に集まり捕らえようとする。まさか魔法を使って強行突破する訳にはいかないので大人しくこの部屋に留まる。


「お前!!食ったのか!!」


「はい。それとそれをパンで挟んだハンバーガーとなる物を、この前の視察の際にアリッシュ領の鉱山で販売してました……すごく美味しかったです」


「感想を述べるな!!お腹が空くだろう!」


「王への報告としては正しい情報をと思いまして……それでどうします?すぐに薫に頼みますか?早くしないと……」


「「「「頼む!!!!」」」」


「では……使いの者をこちらから出します。誰か!!」


 コンジャク大司教の声にエルフの修道士の一人が部屋に入ってくる。コンジャク大司教からの指示を受けた彼女はすぐさま部屋を後にした。


「美味しいは世界を救う……」


「あながち嘘じゃないかもしれないですね」


 マーバの意見に私は静かに同意するのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ