181話 講師としてのお仕事……の前
前回のあらすじ「守鶴は賢者達を倒した!Lvが上がった!……気がする!」
―早朝「ビシャータテア王国 カーター邸宅」―
「おおーー!!ここが異世界!!ビシャータテア王国!!」
「来ちゃったんだね……」
雪野ちゃんとあみちゃんが大声を上げて感動をあらわにする。所長としてクロノスでの仕事をした僕とレイスは、今度は前から予定していたイスペリアル国での5度目である料理教室の開催の為に二人を連れてグージャンパマへとやってきた。
「ここからさらに移動して、イスペリアル国に行くんですよね」
「なのです。そこが料理教室になるのです!」
「うわ……ドキドキする。というよりいいんですか?私達まだ料理人の卵ですよ?それをプロに教えるって!」
「問題無いよ。この世界の料理技術って大分遅れていて……数か月前まで塩とコショウだけだったから……」
「「え?」」
「つい最近、揚げ物とかミルクを使ったスイーツとか流行り出したくらいだから……全然問題無いよ」
「そんなに遅れてるんですね……」
「うん。魚介類でとる出汁とか野菜の端材でとる出汁とかを教えたり、裏ごし、半殺しに皆殺しとかも教えたくらいだしね」
数ヶ月前のグージャンパマでの料理は切る、焼く、煮込むが基本。揚げるというのもあるにはあったのだが何故か知名度が低かったりする。これもロロック達の仕業だと思うのだが……その後の調査の結果、これにどんな意味があったのかは分からずじまいだった。
「それで今日のお題であるハンバーグ、それとオムレツを流行らせると」
「その通り。今は調味料である醤油とかお酢がないから和食の再現はまだまだだけど、今のうちにあっちの色々な料理を教えながら、こちらの文化を知ってもらおうという訳」
「なるほど。じゃあ今回の料理の味付けも塩、コショウのみになるんですね」
「味噌もあるんだけどね……手前味噌だけど」
「それでも大助かりですね。でも……ハンバーグとオムレツとくればケチャップが欲しいですね。もしくはデミグラスソースとか」
「安心して……事前にデミグラスソースとクリームソースは作ったから」
「作ったんですね」
「材料が揃ったんだ。ただ作り方をあまり知らないから教えるのが大変だったよ。ネットにあるような簡単レシピとかを教えるわけにもいかないしね」
「クリームソースはともかく、デミグラスソースは時間がかかりますよね」
「3日間はかかるからね……と、立ち話も変だから歩きながら話そうか」
「「はーーい!!」」
僕は第4回の料理教室の事を思い出しながら、楽しそうにしている雪野ちゃんのとあみちゃんを連れて王都の中心へと歩き出すのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―しばらく経って「ビシャータテア王国・王都商業地区メインストリート」―
「あ、ここ地図のお店ですね」
「うん」
僕は二人を連れて商業地区のメインストリートを歩いていく。二人が見ている地図はこっちに初めの頃に貰った地図で、来た時にこっちで気になるお店とかを調べて書き込んでいったので、今や僕の持つ地図はちょっとした王都のガイドブックになってたりする。
「お!勇者様達か」
声のする方を振り向くと、前に服の生地を買った商人のおじさんがいた。
「あんたらのおかげでまたここで仕事が出来るよ!ありがとうな!」
「どういたしましてなのです」
「礼だ。安くしとくよ!」
「ありがとうございます……あれ?この商品……」
そこには幾つもの布を使って出来たブレスレットが置かれていた。
「うん?ああ。新しい商売を始めたんだよ。ただ生地を売っただけじゃ利益が出ないからね。生地を整える際に出た端材を幾つか組み合わせて、家内が女性用のオシャレなブレスレットを作ったんだよ」
「へえ~……奥さん器用ですね」
「ああ。っていうか他の露店も同じでさ。色々、工夫した商品が売られているぜ」
僕が周辺の露店を見ると、確かに各露店ではその店にあった趣向を凝らした商品が売られている。
「最近はそんなお店が多くなったな……あそこなんて笛とかいう楽器を売ってるしな」
「だいぶバリエーション豊かになりましたね」
「ああ。これも勇者様たちのお陰かね?」
「さあ?どうですかね」
実際は笑っている商人さんが手に持っている硬貨にかかっている魔法が解けかかっているだけなんだけど。その事実はもう少し時間が経ってから知らされる予定だ。
「あ、これいいですね」
「確かに!」
「それならこっちは?似合うんじゃないかな」
「なのです……」
僕の横でレイスたちがブレスレットを見て感想を……うん?一人多いような気が?
「ユノ!?」
「あ、おはようございます薫」
いつの間にかユノが混じってお喋りをしていた。
「ユノ?……え?お姫様?」
「そうですけど?」
「……これは失礼を!!」
商人さんがユノの方へと体を向けて接客を始める。
「気にしないで下さい。それとこのブレスレットおいくらで?」
「1個10ルクスです!」
「それじゃあ……」
「ユノ。僕が出すよ。ここにいる人数分ですけどいいですか?」
「ああ。全部で40ルクスだよ」
「薫さんいいんですか?」
「いいよ。こっちに来た記念にでもさ」
「ありがとうございます!」
それで各々が1個選んで腕に付ける。
「はい♪」
レイスが大きなブレスレットをこっちに手渡す。ちなみにここには精霊用の小さいサイズも売っている。
「これデカくない?」
「薫のですよ?」
よく見るとレイスはすでに選んで腕に着けていた。このブレスレットは僕用……。
「いいや。女物だからね?」
「大丈夫なのです!違和感は無いのです!」
すると店主も含めた全員が頷く。
「それはタダだ。お礼にな」
「ありがとう……ってまた、このノリ!?」
「いつものことですからお気になさらず♪」
「ユノーー!?」
全員に押される形で結局、僕もブレスレットを買う……いや、貰うことになるのだった。
「まいど♪」
笑顔の店主に見送られながら僕たちは店を後にする。
「それでユノ。どうしてここに?」
しばらく歩いた所でユノが何でいたのか訊いてみる。
「実は……休むように……」
ああ。カシーさんたちから聞いていたけど、復旧活動のために毎日仕事をしているって言ってたもんな。きっと王様に……。
「城の方々から懇願されまして……私達が休めないと……」
「どんだけ休まず仕事をしてたの!?」
少々、斜め上の回答だった!
「私としては普通に仕事をしていただけなんですけど……それでお父様達から外出許可を出すからリフレッシュしてきなさい。と」
「それで護衛は?」
「それが復旧活動のせいで人の往来が激しくて……新人の方でしたし」
護衛の騎士が人ごみに飲み込まれて、お姫様~~!と叫んでいる風景が思い浮かんでしまった。あ。レイスたちもクスクスと笑っている。きっと同じことを考えているな。
「それで一人で歩いていたら……薫が見知らぬ女性の方と一緒に……」
びくっ!
あれナニコレ?何も悪いことしていないのに体が……それにユノ、笑顔なのに何か雰囲気が怖いような……。
「あの~。もしかしてこちらが薫さんの婚約者の方ですか?」
「え。うん」
「うわ……お姫様なんですよね!すごーーい!私は柏木雪野!よろしく!」
雪野ちゃんがその勢いのままユノの両手を掴んで握手する。
「私は小貫あみです。私達、二人共薫さんが勤めているひだまりで働いているんです」
あみちゃんは落ち着いた雰囲気のまま自己紹介をする。
「あ…そ、そうなんですね!」
「それと薫さんとは何の関係も無いのでお間違いなく!私達の好みとはかけ離れているので!」
「むしろ……付き合ったら自身無くしそうです」
「二人共酷くない?」
「いや。婚約者が女性を連れて歩いていたら心配になりますって!ねえ?」
「薫さん……そういう所が甘いですから」
「ぐふぁ!」
雪野ちゃんはともかくあみちゃんにそんな風に言われるとは……というより二人にそんな風に思われてたってことかな……何かショック。
「皆、思ってる事なのです」
バタリ……。
レイスのトドメの一撃に静かに……僕はその場に跪く。
「か、薫……」
「うん……大丈夫。気にしないで慣れてるから……うん。ナレテルカラ」
「ちょっと言い過ぎたかな?」
「かも……」
「ダイジョウブダヨ~~……」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―それからしばらく後「イスペリアル国・街路」―
何とか心のケガから立ち直った僕は城の転移魔法陣を使ってイスペリアル国に来た。あ、それとユノを見失った新人騎士さんは城内にてカーターに怒られていました。
「キレイな町並みですね」
ユノがイスペリアル国の町並みを見て感嘆の声を上げる。ということでユノは僕たちと一緒に行動することになりましたとさ。
「サントリーニ島みたいに真っ白な町並みなんですね」
「修道服を着た獣人にエルフさん……凄いです。あの最新ゲームの世界みたい」
「もしかして、異世界開発―ミルクルの錬金術―ってゲームですか?」
「え?お姫様分かるんですか?」
「泉の家にお泊りに行くので……その際に」
「この前は盛り上がったのです!」
「へ~……精霊さんと一緒のお泊り会って楽しそう」
「それなら泉さんに訊いてみますね」
「いいの!?」
「泉さんがご迷惑じゃなければだと思うんですが」
「それなら薫の家でやるのです。使っていない部屋もあるので」
「なるほど」
確かに使っていない部屋があるし、居間なら大人数で遊ぶのに十分な広さがある……って。
「それ。女の子だけのお泊り会じゃなくなるよね?」
「大丈夫ですよ?薫さん女性みたいなもんですし」
「気にならない……かも」
「僕、男!!」
気にして!見た目はそう見えても立派な男!裏の顔はオオカミなんだよ!!
「よぉ!嬢ちゃん達。ちょっと付きあ……」
ドゴーン!!
「兄貴!よくも!」
バゴーン!!
いきなり唐突に現れたナイフを持った世紀末感を感じるガラの悪いナンパ男二人組を、何も言わせないまま蹴りで地面に埋めこんでおく。見回り中の僧兵さんたちがこっちに来たので事情を説明して、その人にたち任せた。
「痛そう……」
「薫さん……凄い!これ魔法!?」
「何もしていないのです。こっちに何も言えないから男共に不満をぶつけたのです」
「レイス。分かってるならそろそろ止めてくれない?」
「でも……こういう時にやっぱり頼りになりますね♪」
ユノがいつもの笑顔で、いつものように腕に抱き付いてきた。
「妬けますね~……!」
「そうだね~……」
後ろからの二人のからかいに何も言い返せずに、僕はただ頬を赤らめるのだった。