17話 夜散策
前回のあらすじ「王宮でお喋り」
―その日の夜中「ビシャータテア王国王宮内・ユノの部屋」ユノ視点―
「全く。お父様ったら」
入浴を済ませた私は部屋のベッドに寝転がり呟く。今日は異世界から来たという2人の話を聞くことになったのだが、それは驚きの連発だった。ファッションに食事、医療、はたまた空を飛ぶ乗り物など本当にお伽噺のような内容ばかりだった。きっと、この国は大きく変わっていくだのだろう。
「薫様……」
でも、何より一番の収穫は彼だったのかもしれない。男と言われなければ決して気付かないほどの美女。髪は首にかかる位の亜麻色の髪。瞳は大きく黒。きめ細かそうでいて白い肌。私の部屋に飾っているお人形がそのまま人になったらあんな感じなんだろうか。
「~~!!」
声にならない声を上げながら枕を抱いてベッドの上をのたうち回る。そう……もろに私の好みなのだ。もうこれでもかってほどに。筋肉ムキムキとかカッコいいとかじゃなく美しい女性みたいな人。それが私の求める異性の外見である。それでいて彼は間違いなくパーフェクトだった。声は少しハスキーだが、その意外性が余計に突き刺さる。内面はまだ知らないところがあるため評価しようがないが、見た目だけなら彼は最高得点である。しかもお父様のあの発言。つまり彼が結婚の相手でもいいってことだ。お父様公認である。
「いけないいけない」
悶々と考えていたが私はこの国の姫だ。周りから見られ、私の行動が王家の評価になるのだからしっかりしないと……。そう思い灯りを消して眠りに付くのだが……今日は眠れるかな。
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―お城を出てから10分ほど「ビシャータテア王国・商業地区メインストリート」―
王都の街を街灯が照らし出す。それは電気によって光る電球などの照らし出す灯りよりどこか暖かみのある灯りであり、よく見るとキラキラとした粒子が落ちてくるのが見える。その灯りに照らされた石で引かれた道と西洋風の町並みはファンタジーの世界そのものだった。また王宮に向かっていた時とは違い、露店の多くは店終いしておりやっている店は酒場ばかりだった。
「薫兄!! 写真撮って!!」
僕は言われるまま、ポケットからスマホを取り出し撮る。
「どう?」
「いい感じに撮れたと思うよ」
泉がスマホを覗き込む。笑顔を浮かべているところからして上手く撮れたようだ。
「本当に不思議。あっという間に撮れちゃうんだから。私も欲しいわ」
物欲しそうにサキがスマホを見る。カメラだけならこちらに持ってくるとか何とかなるかもしれないが、精霊であるサキのサイズは厳しいかも……。
「ほら、3人とも行くぞ……少し目立っているしな」
周りを見ると人々がこちらを見ているので、僕たちはそそくさと歩き出す。
「すいません。街の雰囲気が良かったもので……」
「なに問題はないさ。俺もそっちの世界に行った時はそんな感じだったしな」
「自分達が暮らしている街とは全然違う街並みだもの。ちょっとした冒険みたいでテンションが上がるのは分かるわ」
僕も海外旅行気分だからその気持ちは分かる。それだから、皆の話に合わせて頷いていたりする。
「それで2人は晩御飯はどうする? こちらで食べるならオススメの店か俺の家に招待するんだが……食文化が遅れているからな、2人が満足する料理を提供できるか分からないんだ」
「うーーん……泉はどうする?」
「異世界の料理食べてみたい!!」
「それなら僕もかな」
「カーター。そしたらお店で食べていきましょう。執事さんには王宮に行く前に伝えておいたから」
「手際がいいなサキ……それじゃあ、そこの通りを右に行った先にあるから行こうか」
期待はしないでくれとは言われるが、さっき出されたクッキーの味は悪くなかった。それだからどんな物なのか楽しみだったりする。
「やめろッス!!」
どこからか声がする。ケンカかな?
「薫兄あそこみたい。人だかりができてるよ」
「2人共すまない。ちょっと確認させてくれ。」
道の脇で人だかりができていた。近くにいくと酔っ払ったいかにも柄の悪い男性3人組と女の子の精霊がケンカしていた……って!?
「カーター! 奥の男が握っているのって精霊だよね!?」
「間違いないな」
泣きながら嫌がっている精霊が男に捕まっている。
「お前らにはついていかねえって言ってるッス。さっさとレイスを話すッス!!」
「俺様達に逆らうとは生意気だぞ! 黙って俺達に着いてこい!!」
いい年した連中がへらへらしながら精霊の女の子を人質にして脅している。
「いやなのです!! 離してくださいなのです!!」
捕まっている女の子が懇願する。けどそれが男の癪に触ったのか掴んだ状態で振り回す。
「きゃあーー!!」
「テメエ!!」
「うるせえ!! がたがた言わず俺達についてこいや!!」
仲間達が大声を出して笑う……ムカつく。
「薫達はここで待っていてくれ」
そう言って、カーターは人込みを潜り抜け、前に出ていく。
「そこまでだお前達。その子を離してもらおうか」
男達がカーターを見る。楽しんでいる所を邪魔されたことでイラついている。
「何だテメエは!?」
「俺達はこの子達と遊んでやろうとしているだけだぜ!? 邪魔するんじゃねえよ!!」
「その子達は嫌がっているようだが?」
「チッ! テメェ生意気だな!」
「おうおう。イケメン君がカッコつけてると痛い目にあうぜ?」
「奇遇だな。俺も同じようなことを思っていたよ。バカなやつほど痛い目を見るってな」
「何だとコラァー!!」
「殺す!!」
そう言うと男2人の手に大きな剣が現れる。アイテムボックスを使って収納していたみたいだ。そのまま1人がカーターに向かって切りかかる。
「オラァー!!」
早く振り降ろされてはいたが隙だらけの攻撃……それを、カーターは横に体を少しずらすという最小限の動きでその攻撃を避ける。そしてそのまま男の腹を殴り、体が前屈みになった所で急かさず膝蹴りをかます。
「クソ野郎が~~!!」
「ねぇ?」
もう1人の武器を持った男が声のする方に振り向く。その瞬間、サキの炎の魔法が男の顔面に直撃する。大した威力ではないが怯ませるのには十分だった。すかさずカーターが接近して蹴りをかます。
「ぐふ!」
2人がやられたことで、最後に残った男から焦りの表情が見られた。
「お前……魔法使いか!?」
「そうだ。さあ。大人しく離してもらおうか」
「カーター副隊長!」
そこに巡回中の騎士さん達が人混みを掻き分けて入ってくる。
「な! カーターだと!?」
男は驚き、その顔が青ざめていく。
「巡回中の部隊か?」
「はい! 先ほど市民から通報がありまして急いで来たのですが……。この男達ですか?」
「ああ。そうだ」
「くそ! 何でこんなやつがいるんだよ!!」
「何でって。私達がいて当然でしょ。この国の騎士だもの。当たり前じゃん?」
全く持ってサキの言う通りである。しかもここは王都なのだから遭遇する確率も高いに決まっている。そんな事も分からなくなるなんて……よっぽど大量のお酒を飲んだのか、それともただの馬鹿なのか……呆れて物も言えない。
「くっ!!」
「さあ、その子を離してもらおうか」
「……」
男は黙ったまま壁を背にして……アイテムボックスからナイフを取り出し、それを掴んでいる精霊に近づける。
「おい。やめろ」
カーターが男を落ち着いた声で説得しながら近づこうとする。
「来るな! 来るんじゃねぇ!!」
「そのナイフを降ろしなさい!」
「うるせえ!!」
捕まっている精霊は目の前に見えるナイフを見て、恐怖の表情を浮かべてる。男の注意がカーターたちに向いている。
それを確認した僕はアイテムボックスからドリルスティックを取り出し装着する。
「危ないよ」
「分かってる。もしものためだよ」
その時、捕まっている精霊の仲間である女の子が男の目を盗んで猛スピードで飛び出す。
「!!」
男はそれに気付き、飛び出した女の子をナイフで攻撃。女の子はナイフの面の部分が体にぶつかり、そのまま地面に打ち付けられる。それを見た僕は咄嗟に人混みから飛び出す。アイツが僕に気付いてナイフをこちらに向かって振るってきた……が、ド素人の攻撃なので、僕はそれを軽々と避ける。そのままカウンターでドリルスティックを持っている左で、男の眉間を打ち抜く。
「ぐはっ!!」
「きゃ!」
捕まってた精霊が男から解放され、そのまま地面に落ちそうになったので、慌てて両手を出してなんとかキャッチする。
「このアマが~!!」
振り向くとさっきの攻撃を耐えた男が僕に再度ナイフを向けようとする。僕が次はどこを潰してやろう。と思っていたら、その前に相手の顔にバスケットボールサイズの火球がぶつかる。
「ぎゃああああ~~!!」
男の顔が激しく燃える。男は必死に火を消そうとして、その場でもがいている。
「薫。大丈夫か!?」
「あ、うん。大丈夫」
「薫。ナイス!!」
サキが親指を立てて褒めてくれた。
「でも僕たち全員、顔面に攻撃って……」
見るとさっきの男の火はすでに消えており、巡回中の騎士によって身柄を押さえられた。顔は大火傷、眉間からは出血しており顔面が酷いことになっている。間違いなく日本なら過剰防衛になるだろうな……これ。
「そうだ! あっちの子は大丈夫なの!?」
「大丈夫だぜ。気を失っているだけだし大したケガはしてないみたいだからな」
声をする方へ振り向くと、そこにはマーバがいた。君っていつも唐突に現れるよね。と思ってしまう。
「大丈夫ですか?」
「あ、シーエさん」
そこにシーエさんも駆け付ける。
「シーエか。この騒ぎを聞いて来たのか?」
「ええ。精霊に手を出すバカ共がいると聞いて駆けつけたのですが……。3人がいて助かりました。それで薫さんの手に座っているその子も被害者ですか?」
「はい」
その子に目をやると、僕の掌で女の子座りして呆然としている。ショックが大きかったみたいだ。
「君。大丈夫?」
僕が彼女の前で手を振って意識があるか確認する。その子が目を大きく開いて黙ったまま僕を見る。どうやら目を開けたまま気絶とかはなさそうだ。女の子は少しの間その状態を保っていたが、直ぐに目に涙を浮かべてその場で泣き出す。
「よーし。怖かったでしょ。もう大丈夫だからね」
泣いている子供をあやすかのように、その子の頭を僕は指で撫でてあげる。
「……薫兄。お母さんみたい」
泉……そこはお父さんでお願いします。
「あのお姉さま……。カッコいい」
「痺れるな~。あのパンチ。紅一点として、うちのパーティに加わって欲しいぜ」
見ていたギャラリーから女性として盛大に勘違いされてる。いつか男らしいって誰か言ってくれないかな……。
「多分、来ないと思うぜ!!」
「マーバ……人の心を読まないでよ……」
僕は泣いた子の頭を撫でながら、溜息を吐いて落ち込むのであった。