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177話 帰投

前回のあらすじ「なお、泉が目覚めるまでカーターは近くにいた模様(城壁は王女様が対応との事)」

―「官邸」菱川総理視点―


「……そうか。ああ。分かった……何かあったらすぐに連絡を……それじゃあ。体に気を付けろよ」


 息子からの電話を切って、この場にいる全員の顔を見る。


「首謀者であるシュナイダーを無力化。そしてそれを裏で操っていたアクヌムという魔族を薫達が討伐……こちらの勝ちだ」


 俺のその言葉に全員が安堵の声を漏らす。あちらでの戦闘が始まってから何があってもいいように極秘の対策本部を設けていたがこれも終了となる。


「自衛隊はあちらでの支援活動を継続中。1週間以内に撤収の予定とする」


「そうですね。その方向で進めましょう。で、米軍は?」


「まだ、あちらとは連絡が取っていない。ただあちらも同じくらいを検討してるだろう」


(ひとまず安全は確保されたということですな)


 ディスプレイ越しに参加していたある分野の代表が訊いてくる。


「とりあえず……ってところですね」


(となると、この後が大変ですな)


「ええ。今回は色々動き過ぎました。しばらくは大人しくしていたいですね」


 これら今回の行動は野党からしたら格好の追及ネタにされてしまう。上手く処理しなければ……。


(しかし……また彼らに助けられましたね)


「ですね……はあ~……」


 今回は支援活動に徹するとのことだったが、結局、薫達がまた大物を仕留めてしまった。


(彼らの報酬……こちらで全部出しましょう)


「え?それは……」


(アダマンタイトの検証が済んだということです。あれはこの世界にあるあらゆる金属より硬く、耐熱、耐腐食……まさに夢の金属ですよ。製造方法に粉末状にした魔石を使わないといけないのが難点ですが、材料さえあればこちらでも作成できました)」


 画面の外側からアダマンタイトのインゴットを取り出し見せてきた。


(他の関係者達と相談し合って、全員で彼らに情報料として払うつもりですよ。アダマンタイトだけではなく今までの情報全てに対してね)


「ちなみに予定額は?」


(まだ決まってません。が、安過ぎる金額にはならないように気を付けますよ。それと……)


「それと……何ですか?」


(実はソフィアが所属している組織の代表……通称VIPの一人が日本に来るそうです。笹木クリエイティブカンパニーのお隣に作った会社の代表として。その際に彼らへの挨拶と一緒にお渡したいと)


「その代表……誰ですか?」


(ショルディア夫人。あのバルフィアグループの会長ですよ)


「なっ!!」


 バルフィアグループ。医療分野に化学分野、ファッションに軍事とありとあらゆる分野で活躍する超大企業。この会社の名前を知らないという人はいないくらいである。そしてその企業の舵取りをしているのが亡き夫の後を継いだショルディア夫人だ。しかし……。


「彼女は息子達に後を継がせて、一線から引いたはずじゃ?」


(だからこそですよ。彼女はVIPの中で現在唯一の役職持ちじゃない。しかも親日家で引退を機に日本に邸宅を構えるつもりだったそうですよ)


「はあ~~……また癖のある人物が来るのか……」


(ははは……。心中お察ししますよ)


 次から次へと問題がやってくるこの状況に、俺はまたまた大きなため息を吐くのだった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―ほぼ同時刻「???」シェムル視点―


「まさか!アクヌムがやられるとは!!」


 魔王様の前でネルが盛大に取り乱している。あの後、遠くから戦況を確認していた奴らから報告がありアクヌムがやられて作戦が失敗したとのことだった。


「やっぱりね……」


 全く……俺の予想通りだったね。


「……アクヌム。まさか、あやつを葬れるとは……な。少々、勇者共を侮っていたようだ……」


 玉座に座っている魔王様がフードを外さずにそのまま顎のあたりをさすっている。


「失礼しますわ!」


 緑色の髪を揺らしながら四天王の一人であるエイルが、遅れて玉座の間に入って来た。


「遅かったな」


「申し訳ございません魔王様。配下に後を任せるのに手間取ってしまいましたわ」


「となると、あちらは終わったか」


「はい!これでしばらくは問題無いと思われますわ♪」


 エイルが体をくねくねしながら喜んでいる……正直、キモい。


「そうか……」


 魔王様が何かを考えている。もしかして……。


「魔王様……俺、行ってもいい?」


 この中であっちに派遣する奴を考えてるなら……!


「いや……少しあちらを放置する」


 その発言に俺も含めた全員が驚く。


「ほ、放置ですか!?」


「しかし、魔王様!それならワタクシが!」


「アレの場所が判明した」


 魔王様のアレという発言に俺とエイルは首を傾げる。


「アレ……まさか!!」


 ネルはアレが何かを知っているようで大喜びしている。


「お前の知っての通りだ。これの確保が最優先だ」


「分かりました魔王様……。不肖ながらこのネル。この命に代えても!!」


「ははは!それでこそ我が腹心だ!ネル。シェムルとエイル、そして配下を連れてアレを確保せよ!それの成功を持って今回の失態を許そう」


「はは!!」


「シェムル!エイル!」


「魔王様の御身のままに!」


「はーい……」


 また、薫とのお遊びをお預けになったことで不貞腐れながら返事する。エイルがこちらを鋭い目つきで見てくるが気にしない。魔王様も気にしていないみたいだし。


「では……いけ」


 俺はネルの後について玉座の間を後にする。はあ~……さっさと終わらせようと。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―アクヌム討伐より1週間「ビシャータテア王国・王宮 城門」―


「これにてビシャータテア王国での支援活動を終了。これより帰投する。全員!敬礼!」


 隊長の敬礼に合わせて他の自衛隊員、米軍の人たちも敬礼をする。その対面にいる王様と王女様の後ろで控えている騎士団も右手を胸に当てる敬礼で応える。


「支援を感謝する。そちらに何かあったらこちらも出来る限りの事をしよう」


「ありがとうございます。それでは!」


 さよならの挨拶が済んだ所で僕たちを先頭にして、異世界の門(ニューゲート)があるカーターの邸宅へと歩いていく。後ろを振り返るとまだ帰れない避難民の方々も大きく手を振ってこちらへと感謝を示す。それに気付いた米軍の人たちが手を振ってそれに応える。また、現実世界への帰路に着く彼らに対して王都の住人たちが感謝の言葉をかけてくれたりしている。


「よかったですね」


 隣にいる隊長さんに僕は声をかける。


「ええ。今回の作戦に参加した隊員全員が無傷で無事に終えたことは喜ばしい限りです。ただ、これからを考えるとうかうかしていられないですけどね」


「どうしてなのです?」


「今回のあの筋肉ダルマに対抗するためには徹甲弾の配備が必要になります。それを各駐屯地に必要量用意しないとヘルメスの脅威に迅速に対応できない。それと薫さんが戦ったアクヌムを我々が戦っていたら果たして勝てていたのか……あのゲートを守る我々からしたらそこは問題点ですね」


「……今後どうするつもりですか?」


「まだ何も。とりあえず今回の任務の詳細を報告したうえで相談ってところですね」


「すいません……ご迷惑をおかけして……」


 隊長さんの頭を悩ませる原因を作った一人として謝罪をする。


「いいえ。全然、気にしてませんよ。それに素敵じゃないですか。お伽噺に出る魔法を誰もが使える世界……今度、生まれてくる子供のためにも実現して欲しいです」


 そう言って、隊長さんはポケットから少しばかりよれた写真を取り出してそれを見つめる。何が写っているかは見えないが話から察して奥さんが写っている写真だろう。


「ふふ。誰もが箒に乗って空を自由に駆け回る日が来るかもしれないですね」


「それは……実に楽しみですね」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―それから1時間後「薫宅 庭」―


「それでは!」


 両軍の人たちが手を振っているので僕たちも手を振って見送る。こちらに戻ってきた両軍は迎えに来た車両に荷物をせっせと詰め込み、気分良さそうに帰っていった。


「終わったのですね」


「だね」


 少しばかりそこで余韻に浸った所で、僕は背筋を伸ばして家へと体の向きを変える。


「今日はこの後、どうするのです?」


 レイスが僕の肩に座りながらこの後の予定を訊いてくる。僕のやる事は既に決まっている!これだけの濃い体験をしたのだ直ぐにでもしたためないと!


「書斎に籠る。小説の続きを書かないと!……レイスは?」


「私は静かに読書にしようかと」


「それじゃあ家に帰ろうか」


「なのです」


 こうして、ユノとのアリッシュの視察から始まり、王都防衛戦で幕を降ろした慌ただしい10月が終わろうとするのだった……。


「おかえり~!!」


「お帰り薫。外で待ってるのも変だから中に入らせてもらったよ」


「ただいま……それで何で母さんたちがここに?」


 と、今の状況を小説ならこんな風に締めようと考えつつ、玄関の扉に手をかけたら鍵が開いていたので不審に思っていると、居間で父さんと母さんがお茶を飲んでいた。


「あんた……母さんから私宛のメッセージがあっちの世界にあるって言ったの忘れたのかい?」


「「あ!」」


 母さんに言われて、すっかり頭の隅っこに放置していたその件を思い出すのだった。

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