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175話 守鶴

前回のあらすじ「四葩、実戦初投入。」

―「ビシャータテア王国・王宮 謁見の間(緊急指令所)」―


 僕は鵺を足場にしつつ、泉たちへと歩いていく。


「なっ!召喚獣!?」


 アクヌムが戦闘の手を休めてこちらを見てくる。泉たちは僕たちが隣に立つと守鶴をマジマジと見つめてくる。


「おお……なんかかっこかわいい……」


「確かにかっこかわいいッス……」


 二人が守鶴を見てそんな感想を述べているが無理も無い。今回の守鶴は僧侶といえばこれをイメージするであろう五条袈裟の姿にお尻の辺りから狸っぽい尾が出ていて、妖狸時に着けている僕と同じタイプの狸のお面を被った美少年なのだから。


 守鶴の名前は元ネタである分福茶釜に登場する狸が僧侶の時に名乗っていた名前である。また守鶴の周りに浮いている茶釜と和傘は物語に出て来る道具だ。美少年設定の理由は……レイスの提案である。


「あ!あれレイスの好きなキャラクターに似てるッスね」


「そういえばそうね」


「まあ、薫に頼んでそうしたのです」


 どんなイメージにするか決める時に、レイスがある物を擬人化したキャラの一人を推薦したので。僕も特に反対する理由もなかったのでそれを採用した。


「二人共ここでバトンタッチ。後はお願い」


「分かったよ」


「頼むッス」


 二人が事前の打ち合わせ通りに、守鶴の被害を受けないように後ろへと下がる。そして僕たちはアクヌムと対峙する。


「ふふふ……報告で聞いていた麒麟とは別のようだが……そんな小さな奴でどうする気だ!?ははは!!!」


 召喚獣を見たアクヌムが大笑いしながら訊いてくる。それを聞いた守鶴が仮面に隠れていない頬を膨らませて怒っている。まさかそんな反応するとは思っていなかった。


「まあ、見た目と違って凶悪な術を持ってるから注意した方がいいよ?」


 守鶴は手に持っていた錫杖で床を叩くと、崩れた柱などが粉々になり3体の蛇型の蝗災を作り出す。この蝗災には僕たちが操った時のように分散とかは出来ず、最大4体までの蛇型の砂が襲い掛かるだけであり、蝗災とは別に砂蛇(さじゃ)と名付けた。そしてその砂蛇がアクヌムに対して襲い掛かる。


「ふん!」


 アクヌムはそれらを殴り破壊するが、蝗災と同じようにすぐに再生。そのままアクヌムの足元に巻き付いた。


「ははは!なんだ!?こんな締め程度……痛くもかゆくも無いわ!アイス・ニードル!」


 アクヌムは砂蛇を無視して今度はこちらへと攻撃対象を変更して体から水の棘を伸ばしてきた。


 しかし守鶴が錫杖を前につき出すと、今度は2本の和傘が僕たちの前に移動し傘が開いてその攻撃を防ぐ。これが防御魔法である和芸和傘の能力である。


「ダメか……ならこれはどうだ!」


 そう言って今度は巨大な氷の塊を即座に作り凄い勢いで、こちらへと投げつけて来た。


「鎌鼬!」


 これは和芸和傘では防ぎようが無いので、僕は風を纏った四葩で縦に一刀両断にする。


「ふん。どうやらこれは防げないようだな!なら!」


 アクヌムはどんどん巨大な氷の塊を作り投げつけてくる。それを僕たちは風を纏った四葩で切っていく。切った氷は四葩の持つ何らかの力の影響で普通の水になって地面に大きな水だまりを作る。


「セイレーン!お願い!!」


 事前の打ち合わせで、泉たちにセイレーンを呼んでもらい、溶けた水を空泳ぐ魚の群れにしてこの部屋の入り口から外へと出していく。お陰で床が浸水することは無い。


パン!!


 すると大きな氷の塊に隠れるように、小さな氷の塊が僕の方へと飛んできたがそれを和芸和傘が守ってくれた。


「面倒な傘だ!」


「さあ、どうする?」


「それはこっちのセリフだ!先ほどから呆然一方ではないか!!」


 そう見えるか……どうやら気付いていないみたいだ。


 僕たちが創った召喚魔法だが、召喚獣の行動パターンをイメージする際に、攻撃技として必殺技以外に最大3つの技が使えるようにしている。それ以上になると魔石が割れたり、出て来ても召喚獣の行動がおかしくなったりするのだ。これはカシーさんたちを含んだ賢者さんたちと一緒に調べた。


 つまり守鶴は砂蛇(さじゃ)と和芸和傘、それともう一つの技を持っていて、そしてそれはすでに発動しているのだ。


「どうだろうね?」


「何!?」


「しばらくすれば分かるよ……どちらに死神が憑いてるかね」


「死神?そんなのはお前らに決まってるだろうが!!」


 アクヌムが足に先ほどから巻き付いていた砂蛇を無理矢理引きはがし、そのままこちらへと体当たりを仕掛けてくる。


「鵺!城壁!」


 床に這わせていた鵺を前に出して壁にする。すると壁の向こうからドンッ!!と音が聞こえて一部がへこんだ。


「アイス・ニードル!!」


 壁の向こうでアクヌムが魔法を発動させるが、こっちでは何も起こらない。そして僕はアクヌムによって城壁のへこんだ箇所まで近づいて、鵺を操作して四葩の刀身が通る程度の穴を空けてそこから四葩を差し込む。


「ぎゃあああ!!!!」


 何かを貫いた感触。それはすぐさま離れて四葩をその体から抜いた。僕は鵺を解除して黒刀にして右手に持つ。


「な、何でだ!何でアイス・ニードルが発動しない!?邪魔なそれは壁になっているのに!?」


「だったらもう一度発動させてみなよ」


「なっ!?」


「……もう。終わったんだ」


「なのです」


 そう……普通なら戦闘はもう終わっている。これは相手がアクヌムだからこそまだ続いているのだ。


「何をバカな事を!!」


 そう言って、氷の剣を作り出し僕に切りかかる……が。


「無駄だよ」


 僕はそれを何の魔法もかかっていない鵺で切ってしまう。切られた氷の剣は溶けて水だまり……を作ることなく消えてしまった。


「な、何が?」


 アクヌムが自身の作った氷の剣があっという間になくなる現象を見て困惑する。まだ気づかないのか……。


「気付いていないんだね」


「な、何をだ?」


「……君。自慢のその腕。細くなってない?」


 アクヌムは急いで自分の先ほどより細くなった腕を見る。


「な……何が…!?」


 そして今度は自身の体を見る。その体も細くなってきている。


「赤城颪」


「あ…あかぎ……おろし?」


「この守鶴発祥の地って冬になると乾燥した冷たい強風が吹くんだ。それをモチーフに作った領域魔法、赤城颪。効果は……僕たち以外を激しく乾燥させる」


 これが最後に残っている浮いている茶釜の効果であり、ここから微細な砂が空中へと撒き散らかされている。その砂は、常に周囲の水分を吸収し範囲外に出す。を繰り返し行って局所的に極度な乾燥地帯を作る。


「な!!」


「そして砂蛇に巻かれた奴はその速度が激しくなる……つまりね。君が気付かないうちに大分その体の水分が失われていたってわけだよ」


 これが生物相手ならすぐさま喉の渇きを覚えてしまうくらいに強力な脱水効果がある。そんな中で奴は自身の水を大量に消費していた……自分の体は回復しないのに。


「あ……ああ~~~~!!!!」


 アクヌムが急いで砂蛇を引きはがそうとするが、一体引きはがすと、別の砂蛇が。さらにそれも引きはがすとまたまた別の砂蛇が……常に一体が巻き付いている状況を維持している。


「こ、この~~!!」


 今度はこちらへと先ほどと比べたら弱々しくなった体当たりを仕掛けるが、今度は和芸和傘がそれを防いでくれる。どうやらこれも壊せないほどに衰弱したようだ。


「どうやら効果テキメンなのです」


「だね。それじゃあ……」


 守鶴が僕の声に反応して頷き、トドメの必殺技の準備を始める。それはこの守鶴が正体がバレて、寺から去る日に人々に幻術で見せたと謂われるある歴史上の戦い。


「源平合戦―屋島の戦い―」


 砂蛇に和芸和傘、茶釜……そして赤城颪の影響で乾燥して風化していた石床。それらが砂となって一度集まりそして無数の砂で出来た武者を作り出し、それがアクヌムへと襲い掛かる。


「くぉ!!」


 まず最初にアクヌムの後ろにいた武者たちが先んじて切りかかり、その後、前にいた武者たちが切りかかる。この武者たちの刀の切断能力は高くない。ただ切った際に相手の水分を奪える効果がある。そんな刀を持つ武者たちが一気に襲い掛かれば、その水分はどんどん失われていく。


「あ……あああ……」


 どんどん切られて弱っていくアクヌム。武者たちの切りかかりはまるで演舞のようでリズムよく攻撃していく。その影響でアクヌム自身の水で作っていた衣服が色、形を保てずに透明になっていきアクヌムの姿をあらわにする。


「……なるほど。その服はその魔石を隠すための物か」


 体の中心にある黒い魔石。それがあいつの体を構成しているのだろう。するとそこに弓を携えた武者が一人近づき弓を構えた。歴史上なら海の上に浮かぶ船に取り付けられた扇の的を射るはずなのだが、今回その矢はアクヌムに向けられている。


「……射て」


 僕の合図に砂の矢が発射、それは黒い魔石と一緒にアクヌムの体を貫き破壊する。


「かっ……」


 それを確認した僕はその場から走り出して、すっかりやせ細った男性サイズのアクヌムの単眼を四葩と鵺でx状に切る。


「これも君の体……だよね?」


「そ……そんあ!!こえのお、えれさまっが……しべるおうの……!!」


 単眼と魔石を破壊されて満足に話せなくなっているアクヌム。すると喋っているアクヌムの首が吹き飛ぶ。アクヌムの頭があった場所には守鶴の錫杖が。僕は親玉の首を刎ねた守鶴を見ると、こちらに気付いたようでその口元を上げてくれた。

 

 そして……水で出来ていたアクヌムの体はその場で崩れていき小さな水たまりを作った。


シャン……シャン……


 守鶴が錫杖を鳴らすと、武者たちは消えさり床を一面砂だらけにする。そして守鶴もどこかへ行くような素振りで僕たちから離れながら砂となって消えていった。


「……勝った……のです?」


「そうみたい……疲れた~~!!」


 僕は砂だらけになるのを覚悟して地面に倒れる。


「レイス!」


 すると、フィーロが飛んできてレイスに抱き付いた。


「やったッス!勝ったッスよ!!」


「なのです!!」


 二人が喜んでいる。


「お疲れ薫兄」


「お疲れ……はい。これ」


 泉も来たので、僕はアイテムボックスからペットボトルのお茶を取り出す。


「ここ乾燥してるから喉渇いたでしょ?」


「うん。いただきます……セイレーン!」


 泉の目線を追いかけるとそこにはセイレーンの姿が。セイレーンは空泳ぐ魚の群れを室内で何回も往復させる。


「乾燥してるから魚の群れで適度な湿度へ……」


「なるほど」


「泉~!うちにもくれッス!」


「私もなのです」


 室内を泳ぐ魚の群れを見ながら、僕たちはお茶で一足早い祝勝会を開くのだった。


―薫は召喚魔法「守鶴」を覚えた!―

効果:四葩か鵺、術を強化する魔法陣があり、かつ土属性の魔石を消費することで使用可能。召喚後、指定された3つの行動を制限時間ギリギリまで行い。術者の意思または終了間際でかつ対象が撃退されていない場合、トドメの必殺技を放ちます。


守鶴の攻撃内容は以下の通り

・砂蛇(通常攻撃):最大4体まで砂で出来た蛇を作りだし相手を攻撃します。また赤城颪の適用下で、その体を相手に巻き付かせることで乾燥能力を向上させることが出来ます。

・和芸和傘(防御魔法):宙に浮いている2つの和傘で相手の攻撃を防ぎます。ただ、強い攻撃には耐えきれないので注意しましょう。

・赤城颪(常時発動):茶釜から半径10m付近の水分を取り除き、極度な乾燥空間を作ります。


・必殺技「源平合戦―屋島の戦い―」:上記3つの技を解除後、使える砂全てを使い大量の武者たちを作成し吸水効果のある刀で一斉に切りかかります。術の最後には弓を携えた武者が矢で相手を射ぬきます。


補足内容:この術の威力は術者の状態、武器、魔法陣、土の魔石によって継続時間増・威力増大・負担減・技の追加が可能です。


―クエスト「3000のバケモノ部隊討伐!」クリア!―

報酬:なし(え?王都内の土地と家は?…………確定じゃないので問題はナシ!)

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