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174話 四葩の片鱗

前回のあらすじ「アクヌムボディ 効果:物理攻撃無効、魔法攻撃無効 オートリジェネ。みたいな感じです」

―少し時間を戻してアクヌムが王都内に入った頃「???」シェムル視点―


「それで、アイツ上手くいってるの?」


「ああ。最後の報告ではビシャータテア王都に侵入を決行したようだ」


 アクヌムが残した後始末を終えて帰還した俺は魔王様へ報告し、魔王様と一緒にいたネルと一緒に玉座の間を後にして部屋に戻る最中だった。しっかし相変わらず、魔王様もネルもフードを深く被っているな。


「これでビシャータテア王国の王族共を始末出来れば、しばらくの間は混乱することだろう」


「全部破壊しないの?」


「それはダメだ。アオライはあれで問題無かったが……ビシャータテアには用途があるからな」


「めんどくさ」


「ふふ。そう言うな。その面倒ももう少しだ」


 ネルが機嫌よく笑っている。何かいい事でもあったのか?


「ネル。機嫌よく笑ってる所悪いけどアクヌムを心配した方がいいんじゃないの?あの筋肉バカ、また失敗するんじゃないの?」


「織り込み済みだ」


「へ?」


「あいつには王族始末を優先で指示した。が、当然王族共は自分達を守る為に切り札を用意するだろう?」


「ああ……王族の始末に失敗しても薫達が死ねばオッケーってことか」


「ああ。むしろ個人的にはそちらの方を始末してもらった方が助かるがな。本人でも無くても精霊さえ始末出来ればただの人間だしな」


「なるほどね……でも、筋肉…ってバカな事を言っているスライムであるあいつが失敗しないと思うの?」


「ま、あいつにとってはアレが体だからな。本人にとっては間違いないんだろう」


 ネルは全くその事に気にせずに、話を続ける。


「あいつの普段は大型の魔族の見た目にしているが、実際は大量の水を身に纏い凝縮したスライムだ。それゆえに物理、魔法による攻撃は通用せず、時には攻撃を受けるふりして擦り抜けさせて油断を生んだり……それゆえに単独での戦闘であいつに勝てるのはそうそういないだろう。そこそこ知能もあるしな」


「そう?知能があれば俺が後始末しなかったんだけど?」


「まあ、そう言うな。とにかくこれでビシャータテア王国に大きな被害を出せるだろう」


「上手くいけばいいけど……ね」


「安心しろ。そんな奇跡など起きない」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―戦闘開始から10分経過「ビシャータテア王国・王宮 謁見の間(緊急指令所)」―


「どうした!どうした!!」


「わわ……!!」


「こっちなのです!!」


 レイスの言う方向へと逃げる。しかし、両端から氷の棘が伸びてくる。


「蝗災!」


 素早く破壊して擦り抜ける。それを何十回も繰り返している。


「いっつ!!」


「泉!?」


「大丈夫!それよりも!」


 泉に向いていた視線を戻して、蝗災で逃げ道を確保する。


「かかったな!!これでしまいだ!!」


 辿り着いた逃げ場所から辺りを見返すと辺り一面に氷の小さな塊が浮いていた。そしてそれは氷の針へと形を変えていく。


「鵺。城壁!!」


 僕は先ほどから床にしていた鵺を地面から盛り上げるようにして城壁を用意する。しかし、全面をカバーできる訳では無い。


「死ね!!アイス・ヘル・プリズン!」


 奴の掛け声と共に無数の針が360度あらゆる方向から襲い掛かってくる。


「くっつあ!」


 泉が氷の針でケガをしたのだろう。その痛みを堪えている。僕も針が刺さった痛みを我慢してる。そして長く感じたその攻撃が終わる。攻撃が止んだ所で恐る恐る防御を解く。


「はあ……はあ……」


「薫兄……大丈夫?」


「それお互い様だよ……」


「待っていたぞ!!この時を!!」


 油断。奴が先ほどからいた場所から反対側へと移動していた。


「終わりだ……!!」


 奴の腕が巨大になり、それが僕たちを潰し、体のあっちこっちをぐちゃぐちゃにした……。


「ハハハハハハ!!!!」


 あれだけの大ケガでは死は免れないだろう。奴が僕たちを始末した事に大笑いしてる。


「……えげつないのです」


「うん……あれが分身って分かりにくいだろうね」


 と、実際に攻撃を受けていたらそう思ってただろうなと考えつつ、自分たちの分身が死んでいるのを柱に隠れて様子を見ていた僕たち。


「声付きの私達の幻影……ふふふ、私達って天才!」


「ッスね!!」


 アクヌムの猛攻を始まってから少しして、アイツの視界から外れたほんのわずかな隙をついて、泉たちがグリモアを使ってミラージュの強化版であるファントムを発動。作った分身と入れ替わりその様子を隠れた場所からずっと眺めていた。ちなみに下からの攻撃を防ぐために鵺と蝗災だけ僕たちが動かしている。ちなみに今はやられたふりして蝗災は自然の砂?のふりをしている。


「まあ、鵺がこの距離でも動かせるというのが一番驚きなんだけど……で、どうする薫兄?やられちゃったけど?」


「そこだよね」


 あれだけの魔法を使って奴の疲労感はゼロ。ゲームで言うならMP切れは望めそうにない。水も周囲の水蒸気から吸水してるだろうし……かといってここで死んだふりして奴を外に逃がすと、避難している人々が襲われかねない。援軍は……。


「どうですか?」


 戦闘が始まる前から隠れて様子を伺っていたというハリルさんの配下の人に尋ねる。


「シーエ隊長達はシュナイダーと交戦中。自衛隊と米軍の方々、それにハリル様とアレックス様率いる部隊がシュナイダー達の兵の対処。それ以外は王と姫様の警護。援軍としてはこの私ぐらいですが……」


「流石に無理ですよね?」


 僕はアクヌムに指を差す。


「申し訳ありません」


「いや。分かってますから……アレだけの攻撃を受け流すのは……ね」


「何だこれは!!」


 アイツが大声を上げた。柱からこっそり見ると魔法が解けて、分身が水に戻っていく。


「奴らは!?」


「(ど、どうする!?)」


「(うーん……)」


 先ほどより小声で会話をする。これ以上は待てない。すぐにでも姿を現して外に出ないようにしないと……。


「見つけたぞ!!」


「気付かれました!!」


 柱から顔を出すと奴が突進してくる!!慌てて僕たちはその場を散開する。アクヌムはそのままその柱を体当たりで粉々にした。しかし、そこから素早く僕とレイスを見つけてその腕をもの凄い勢いで振りかぶろうとしていた。あの位置から伸ばして攻撃をするつもりなのだろう。


「ご自慢の武器が無いのは分かってるぞ?」


「薫兄!!」


 ヤバイ!このままだとやられる!何か武器を!!……あ!!


 この時まですっかり忘れていた四葩。僕は持っているもう一つの武器を素早くミスリルのアイテムボックスから取り出す。


「そんな剣なんど貴様らごと砕いてくれる!」


 僕は取り出した剣を盾にしようと前に構える。すると、あの淡く青い光が発生して、それが奴の腕に触れた瞬間にスピードが極端に落ち始めた。


「な!?」


 それを見た僕はすぐさま攻撃に転じて、その腕を切る。その切り落とされた腕が床に落ちると、その腕から出たとは思えないほどの凄い量の水が発生して地面を濡らしていく。


「何だ……今のは?」


 奴が伸ばした腕を引っ込めると切られた部分の腕を再生させる。それを見た僕は慌ててレイスと一緒に奴の水で濡れた床から逃げようとする。


「アイス・ニードル!!」


 間に合わない!地面からくる攻撃に思わず手を前に交差して衝撃と痛みに備えようとする……が、何も起こらなかった。


「どういう事……だ?」


 奴が驚いている。もしかして四葩で切ったからか?


「薫兄!大丈夫!?」


「レイス!?」


 アクヌムの後ろにいる二人が手を振ってこっちに声をかけてくる。


「薫!!」


「う、うん!レイス!僕について来て!」


 僕は四葩のある能力を考え、そのままアクヌムの横を抜けようと突っ込んだ。


「この!?」


「蝗災!鵺!」


 蝗災が奴に巻き付いて行動を一時的に阻害、鵺はそのまま腕輪にして回収。そして最後にアクヌムの横を通り過ぎる際に、四葩でその脇腹を切り捨てにする。


「ぐぁああああ!!??」


 泉たちと合流した僕たちが再びアクヌムを見ると、脇腹から大量の水が流れ出した。


「ど、どういうことだ!?」


 奴は慌ててそれを止めようとするが急には止められずに、ゆっくりと少しずつ止めている。


「何したッス?あれ」


「フィーロ大丈夫だよ。薫兄のお決まりのチート機能が働いただけだから!」


「僕じゃ無くて四葩のせいだからね!?」


 そう言って四葩を泉たちに見せる。今回の不思議現象の原因は全てこれのせいである。


「そんなことより!これって、あの召喚魔法と組み合わせれば倒せるのでは?」


 レイスに言われて、この千載一遇に僕も慌てて脳を働かせる。


「いける!でも、その後泉たちの召喚魔法も必要になるね」


「セイレーン?でも……」


「今回のセイレーンの役目は後始末。セイレーンには発生する水を外に逃がして欲しいんだ。戦闘自体は僕たちで終わらせるよ。それで……」


「名前は教えられない決まりですので……今後は我々の事をシャドウとお呼び下さい」


「分かりました。それでシャドウには……」


 この後の流れを簡単に全員に説明する。


「分かりました」


「オッケー!任せたよ薫兄!レイス!」


「時間を稼ぐッス!」


 シャドウはアクヌムが空けた穴から外へ。泉たちはアクヌムに向かって攻撃を再度始める。


「くっそ!」


 泉に氷の棘が襲い掛かるが、攻撃が当たるとそれは消えてしまった。


「当たらないよ!」


 二人は時間を稼ぐために、ミラージュをメインに使用しつつアクヌムと戦闘を始める。この隙に……。


「召喚獣……」


 僕はグリモアを使って地属性の魔法陣を地面に映し出し、僕はその中に入る。そして蝗災を近くに待機させる。


「レイス。これ」


「はいなのです」


 レイスには地属性の魔石を手渡す。これで召喚獣を呼ぶ条件は整った。僕は一度深呼吸をしてイメージを最大限に働かせる。呼び出すのは地元の伝奇に出て来る妖怪。


「数千年を生き、数多の妖術を習得せし古狸(こり)よ!今、我が呼びかけに応え。かの地より馳せ参じよ!守鶴!」


 レイスの持っていた魔石がより強い輝きを放ったところで、蝗災にその魔石を飲み込ませる。すると砂が変化し始めて、手に錫杖を持ち、顔には僕が妖狸として変装に使う似たお面を着けた僧侶の姿をした美少年な狸妖怪が地面より少し浮いた状態で出現する。そしてその狸の周りを1つの茶釜と2つの和傘が浮いている。


「さて……行こうか守鶴」


 守鶴は頷いて、僕たちの後を付いてくるのだった。

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