173話 対アクヌム戦
前回のあらすじ「俺の手が真っ赤に燃える!!!!」
―「ビシャータテア王国・王宮 謁見の間(緊急指令所)」―
「どうしてオマエラ勇者がここにいる!あっちでマズそうなメシを作ってたくせに!!」
「あれがマズそうならロクな食事をしていないようね。魔族って」
「なんだかかわいそうなのです」
「肉を生のまま丸かじりッスかね……」
「ぬぬぬ……オマエラ!!」
泉たちの挑発に激怒する四天王アクヌム。見た目は筋肉質な一つ目の大男。体はスライムみたいな半透明。あの服も体の一部なのだろう、先ほどの攻撃を受けているのに元通りになっている。
「まあ、女性相手に男が口喧嘩で勝つなんて無理なんだから止めといた方がいいよ……あれって男なのかな?」
「女性にであるお前に言われたくないわーー!!」
すると、アイツが腕を振りかぶってその腕を伸ばす。僕は咄嗟に近くにいるユノを抱えて端に避ける。そのまま腕は後ろの壁にぶつかり、そこからまるでゴムのように縮んでいきアクヌムへ戻ってく。というより男だったんだ。しかし、それよりも!
「僕は男!!そこ!間違えないでよ!!」
「知るか!そんな報告は聞いていない!!」
なんで、特徴とかは話してるっぽいのに僕が男という所は伝わっていないのだろう……。納得いかない!
「薫兄が男か女かはさておいて……!」
「良くないからね泉!!」
「あんたらの作戦は王族の抹殺だったというわけね。シュナイダー達はおとり。いいえ。捨て駒……そうよね?」
「ふっ……そんな事か。それがどうした?」
僕の主張がことごとくスルーされていく……くっ!こんな状態だし諦めよう。
「自分が王都内に入りやすいように、人を投げ飛ばして武器代わりにするなんて胸糞悪い事もお前が指示してたんじゃないの!」
「ふふふ……アレはシュナイダーという男の提案だが、まあ下等生物をどう扱おうと勝手では無いか?」
「こいつ……最悪なのです!」
「それは……誉め言葉だ!」
「城壁!」
奴が壊した壁の所から水で出来た棘が伸びて来て襲ってきたので城壁で防ぐ。
「何?」
「ファイヤー・ボール!!」
泉たちが横から炎で攻撃。水が蒸発されて棘が消滅した。
「お生憎様……君のようなタイプの攻撃方法は把握しているよ」
主に漫画だけどね!この頃、漫画でのスライムの評価が上がっていく中でその攻撃パターンも多岐に渡ってるお陰でどんな攻撃が来るか予想出来てしまう。
「あれで大体は一撃なのだがな」
「普通は切り離した水が攻撃してくるなんて思わないだろうね……」
僕はそう言うが既出のネタである。
「ふん!やりにくい相手だな……」
そのままお互いに対峙する。
「……お願いします!」
僕の掛け声に反応してハリルさん達が配下を連れて突然参上。王様に負傷者を素早く担いでいく。
「なっ!」
「ファイヤー・ボール!!」
「石弾!!」
泉たちは先ほどと同じ攻撃を。僕たちは崩れた城の大きい瓦礫の一つをアクヌムに向かって飛ばす。
「ふん!」
アクヌムは両手を前に出してガードする。
「ははは!効かないぞ?」
ニヤッと表情を浮かべる。……あの雰囲気だと本当に効いていないのだろう。そもそもあの体に痛覚があるのだろうか?
「薫!」
「姫様!こちらへ!」
ハリルとクルードがこちらへ来ようとするユノを抑える。
「二人共お願いします。それとユノ」
「はい……」
「さっさと終わりにするから安心して待ってて」
「……分かりました」
「させるか!スプレッド・アイス・ランス!!」
「ウィンド・ハイシールド!!」
アクヌムが大量の氷の槍を飛ばしてきたが、それを泉たちはグリモアを利用した風の障壁を出して防いだ。その隙に僕たち以外の人がこの場から避難する。
「これで作戦失敗かな?」
「いや……?」
またもやアクヌムがその単眼をにやつかせる。
「オマエラを殺すのも……」
「全員飛んで!!」
僕たちはその場で空を飛ぶ。その下を鞭のようになっているアクヌムの腕が通る。
「あぶなっ……!!」
「泉たち!油断しないですぐ来る!」
すると今度は伸びていない腕の方を前に出して、水の弾を連続で飛ばしてきた。それを僕たちは鵺を大盾に、泉はウィンド・ハイシールドを展開して防いだ。
「あいつ自身が水で出来てるから武器であり防具!普通に水魔法を使うより待機時間が短いから注意して!」
「何だ貴様は!?何でそんなことが分かる!!」
漫画の知識です!!
「教える気は無い!泉!」
「分かってるって!チビ・メテオ!!」
泉がアイテムボックスから小さい鉄球を取り出して撃ち出す。しかし、それは突き抜けずに当たって僅かに沈んだ所で吐き出されてしまった。
「無駄だ……!」
「雷連撃!」
今度は雷を連続で落とす。しかしダメージも麻痺も与えられていないようだ。その証拠にノータイムで攻撃を仕掛けてくる。
「アイス・ニードル!!」
唱えた瞬間、そいつの体から無数の鋭い棘が突き出し、素早く伸びて壁に刺さっていく。
「城壁!」
僕たちは泉たちの近くに寄って鵺でその攻撃を防ぐ。こちらへ来る攻撃は鵺で防げたが、それ以外の攻撃は城の壁に突き刺さったりして、あっちこっちを穴だらけにする。
「マズい……!」
穴だらけにしてそこに水を仕掛けると、本当に逃げ場が無くなってしまう。それでは壁を壊して外に逃げればといきたいところだが、それをやると今度は外にいる避難している人々、延いてはさっき外へと避難したユノたちを危険に晒してしまう。そんな事を思ってると奴のその攻撃が来る。
「リターン!」
空けた壁のあっちこっちから氷の棘が伸びる。アイツの棘が伸びたままのせいで避けられない……。
「どうするッスか!?」
「こっち!」
僕は全員に指示して、まだ大丈夫そうな床へと降りていく。そこにアイテムボックスから砂と粉末魔石を撒く。
「蝗災!」
そして、それが僕の指示で迫りくる氷の棘を砕いていく。
「泉!氷を僕たちから離して!」
「オッケー!ウィンド・バースト!」
風の塊を着地点にぶつけて砕いた氷を弾き飛ばしておく。その際に瓦礫も吹き飛んでアクヌムへと向かっていったが、本体から伸びていた棘を砕いただけで本体に当たった瞬間に弾かれてしまった。
「ぬ……ちっ!」
「砕かれた氷からまた攻撃を繰り出せるんでしょ?」
「ふん……やるな。しかし……アイス・ニードル!」
アクヌムが呪文を唱える。が。
「何故だ?何故……?」
「僕たちの下からこっそり氷の棘を伸ばそうとしたんでしょ?残念だけど……鵺で床を覆ってるから無駄だよ」
「なっ!?」
先ほどの無数の氷の破壊に風魔法による強烈な突風に瓦礫攻撃、さらに蝗災。これだけの目隠し要員がいれば鵺をこっそり床に広げるというのは簡単である。ただ、これも漫画……いや、これはゲームの敵キャラが使ってたいきなり地面からつららを出す。というのを見ていなければ予想できなかった。
「鵺の強度上げといて良かったのです……」
「アダマンタイトってやっぱりすごいッスね」
「アダマンタイト?バカなそれはこっちから排除したはず!!」
レイスたちの会話を聞いて露骨にうろたえるアクヌム。
「え?それってどういうことなの?」
「排除したって言ったッスよね?」
「それは……!」
このアクヌムの予想外の戸惑い。さっきの言葉も気になる内容だった。それなら……。
「……コーラル帝国」
「っつ!!」
何やら知っていそうな雰囲気なので、クロノスで知りえた情報を小出しして見たが、アクヌムが驚いた表情を見せる。
「なるほど……それじゃあマクベスは?」
「お前!まさかマクベスの者か!?」
「いや?違うよ?」
「とぼけるな!アダマンタイト、それに関わる技術も全て消したはずだ!!それを唯一知ってるのは……」
「そのマクベスって訳か……じゃあ」
ここで僕はもっとも聞きたいことを訊いてみる。
「アンジェは?」
「……何故。そ」
「僕の祖母だよ」
相手が、その名前を?を言わせる前に矢継ぎ早に情報を出す。これによって動揺して何か情報を吐いてくれるといいんだけど……。
「……ふざ」
「ふざ?」
「ふざけるなーーーー!!!!」
大声を上げたアクヌムがそこら辺に落ちている氷を一気に僕たちに飛ばしてきた。僕たちはそれぞれの魔法で攻撃を防ぐ。
「冗談も大概にしろ!!あいつは魔王様と一緒に死んだはずだ!!」
「どういう事?魔王様の命で動いてるんだよね……?」
「お前の魂胆は分かってる!これ以上、話すと思うか!!」
アクヌムは魔法を使わずにそのままこっちへ突撃。僕は蝗災を前に出して盾にする。
「そんな物が効くか!!」
アクヌムの言う通りで体当たりで蝗災を弾き飛ばしてしまう。しかしこれはあくまで目くらまし。避けるにしても全身が武器であるアイツからなるべく離れたかったので、これはちょっとした時間稼ぎである。そしてその予想通りに今度はその位置から棘を伸ばしてくる。僕はまたまたそれを蝗災で防ぐ。
「くっそ!!うっざたい魔法だ!」
「そうかもね……僕たちの魔法。蝗災も砂で出来た不定形の魔法。君と同じだもんね」
そう言って蛇型にした蝗災を横に立たせる。
「ふふ……しかし、どうやって倒す気だ?さっきから呆然一方じゃないか?」
「それは……」
うん。どうしよう……。雷属性は明らかに効いていない。同じ属性である水属性は論外。となると僕は土属性、泉は土属性に風属性となる。
「お前達の召喚魔法は聞いている。しかし……それらは我には効かぬぞ?」
「ですよね~……」
「ハッタリじゃないのです?」
「セイレーンの攻撃パターンだとアレには効かないだろうし……麒麟は……微妙だね。水に落雷が落ちると深さ方向じゃなくて水面に逃げていく性質があるっていうし……」
海に雷が落ちると魚はどうなるのかの理屈である。雷が落ちても深さ方向には海水が多いために分散されて威力が減衰する。それだから海水面にいなければ魚は感電しない。そしてアクヌムも表面ならダメージを与えられるが、深部にはダメージを負わせられないという事になる。
「それにアイツの体の水が普通の水と考えていいのか分からないしね……」
自身の姿を痩せてる男性に変えられ、ユノを掴んだり、体当たりで蝗災を吹き飛ばしたり、先ほどから壁に攻撃用に水や氷を設置したりしているのにその大きさは変わっていない。それらから考えると泉の召喚獣であるセイレーンと似たようなタイプの攻撃方法で、またアクヌムの体を構成する水は大量と推測できる。となるとあの体の水はただの水か疑わしい……。
「ふふふ……」
にやついているアイツに対して、僕はどんな手段を取るべきかを困り果てるのだった。




