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172話 プロミネンス

前回のあらすじ「マキナの必殺技の別名は自爆特攻」

―「ビシャータテア王国・王都付近の森」カーター視点―


「ぐっ……」


 倒れていたシュナイダーが起き上がってカシーを殴ろうとしていたのを何とか防いだが……!


「コノ!クソヤロウ共ガ!!」


 喉を焼かれたせいでかすれてしまった声を張り上げ、シュナイダーは俺の体を掴み持ち上げ、その真っ黒な顔を近づける。


「オマエラガイナケレバ!!アノ異世界人ガイナケレバ!!」


 そう喚き散らしながら、俺を掴んでいる手の力を強めていく。このままだと握りつぶされてしまう。


「「「「カーター!!」」」」


 俺を助けようとシーエとカシーが武器を構え直すが、俺が近くにいることで無暗に攻撃が出来なくなってしまっている。


「攻撃シテミロ!コイツニモ……ウグッ!?」


 俺はお喋りなこいつの口に左手を突っ込む。


「サキ!!」


「あれね!」


「ああ!……これで本当に最後だ!喰らえプロミネンス!!」


 グリモアによって黒い靄を纏った獄炎が俺の左手を燃やす。


「ウグ?ウ……!!」


 その燃えている左手はシュナイダーの口の内部を焼いていく。俺に身に纏っているせいで他の操作がいらないその炎は、ただ純粋に高温になるようにだけ操作が注がれている。すでに奴の歯は高温によって使い物にならず、俺の腕を嚙み切ることが出来ない。そして。


「ウッ!!!ウウウ~~~~!!!」


 遂にシュナイダーの目から炎が噴き出す。すると俺を掴んでいた手の力が弱まり、俺は地面に落とされてしまった。


「カーター!大丈夫ですか!!」


 すぐさまシーエが近づいてきて、俺をそいつから引き離す。


「大丈夫だ……ちょっと火傷したがな」


 泉に頼んだ手袋で炎を身に纏っても火傷しないようにしたつもりだが……少々、無茶だったようで左腕がヒリヒリしている。


「フロー・ウォーター」


 カシー達が近づいて俺の左腕に水を流し始める。水をかけた瞬間、左腕から蒸気が盛大に立ち昇り、次第に蒸気は収まっていった。カシーがガントレットが冷めたのを確認して外し、そのガントレットの下に装備していた泉特製の耐熱アームカバーを脱がせると、俺の腕は赤く腫れあがって、水ぶくれも起こしていた。


「火傷してるじゃないの!」


 カシーがそのままアイテムボックスからハイポーションを取り出して左腕にかける。お陰で物の数秒で元通りの腕になった。


「うーん……アームカバーは改善が必要か……」


 地面に置かれたアームカバーとガントレットはもう使い物にならないほどにボロボロになってしまった。


「全く無茶をするぜ。何だよあの魔法?」


「プロミネンスよ。前に泉が話していた漫画の話をしていて、炎を身に纏えないかな?ということで前々から練習と防具の開発をしていたのよ」


「超接近戦で確実に相手を仕留める必殺技だな。しかし上手くいったな!!」


「火傷してるでしょうが!!」


 カシーが頭を平手打ちする。顔を見ると申し訳なさが良く見て取れた。


「気にするなよ?」


「あんたがそんな性格なのは知ってるわよ……全く」


「何にせよ……これで完全に終わりましたね」


 シーエがそう言って、ここにいる全員がシュナイダーを見る。シュナイダーは顔を内部から焼かれたことで顔は消失して体だけがそこに横たわっていた。


「後でソーナ王国には報告しておきましょう……シュナイダーがこのような行動を行った経緯も含めて……」


「……ああ」


 シュナイダーがこのように歪んだ原因。妻を他の魔法使いが手にかけたから……。以前にシュナイダー達は真面目な魔法使いとシーニャ女王が言っていて、にわかには信じられなかったが……。


「……」


 それが無ければ……今回のこの悲劇は起きずに済んだのかと思ってしまうのだった。


「ご無事ですか!!」


 少ししみじみしているとハリルの配下……シャドウと呼ばれる部隊の一人が現れた。


「ええ。首謀者は討伐。後は……」


「凶報です。城内に魔族が出現!」


 その突然の知らせを聞いた俺達は急いで王都へと引き返すのだった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―シュナイダー討伐より少し前「ビシャータテア王国・王宮 謁見の間(緊急指令所)」王様視点―


「落ち着け……ユノ」


「けど!」


「お前の長所は戦闘では無い。この戦いの後の復興こそお前の得意分野だ」


「分かっています!それでも何があったかくらいは教えてもらっていいじゃないですか!」


 ユノが部屋中に響くように怒鳴る。その声に情報をまとめていた若い書記官が書類を落としてしまった。まあ、こっちはユノが怒った表情で部屋に入って来た時に仕出かしたとは思ったが……。


「教える訳にはいかなかった。薫達もいたしな」


「薫達は……」


「シャドウから報告を聞いている。あっちの軍人達に伝えて無かったからな。我も爪が甘い……」


「薫達にも伝えないつもりだったのですか?」


「ああ。今回の戦いは我々、ビシャータテア王国の戦いだからな。いくら彼が愛娘の婚約者で、勇者で、S級ランクの冒険者だとしても頼りっきりというのは……な。それでなくても今回の支援活動には大助かりだ」


 今回、彼らが食事面でサポートしてくれているが、こちらでは珍しいスパイスを使った料理を提供してくれているお陰で今回の戦闘でテント生活をしている避難民の精神的なストレスを和らげている。


 さらに、今こちらを全面的に協力してくれるあっちの世界の軍人も、元をたどっていけば薫達のあっちでの行動のお陰なのだ。


「なるべく彼らに頼らないと強気は言ったが……結局、彼らに多大な協力を求めてるのには変わらないな」


「お父様……」


「この戦いが無事に終わったら、色々考えないといけないな……」


「無事に終わればいいな?」


 その声に反応して謁見の間の入り口付近を見ると、そこには一人の細い男が……。


「何者だ!ここは立ち入り禁止だぞ!!」


 すぐに護衛の騎士、そしてシャドウの隠密の一人も私とユノを守るように陣形を取り、その男を警戒する。しかし、相手はそれに気にせずにこちらへと歩いてくる。


「止まれ!」


 騎士からの制止命令……それでも止まらない。騎士の一人がその男に目掛けて走り、そして切った……はずだった。


「え?」


「邪魔だ!」


 その男は胴体を切られていた。しかし、その傷はすぐに塞がり、驚いていた騎士をその細腕で殴る。殴られた騎士はそのまま壁に叩きつけられてしまった。


「魔族!」


「ご名答」


 すると、奴は粘土のように自身の形を変えていく。細かった体は筋肉質に普通の身長は3m程に、そして角ばった男の顔に額に一本の角。そして……その体は透き通っていた。


「ふふふ……」


 そして、瞳が黒い単眼でこちらを睨みつける。


「我が名はアクヌム。魔王様直属の四天王が一人だ!」


 その姿に全員がさらに警戒を強める。そして騎士の一人が前から、隠密の一人は横から攻撃を仕掛けようとする。


「ファイヤー・ボール!!」


 そして私達の近くにいた魔石使いが遠距離から攻撃をする。


「ふん!」


 しかし、突如素早い動きで隠密に襲い掛かって、その拳で一撃で沈める。


「ハッ!」


 すると、今度はそのまま騎士に肩から体当たり。騎士は勢いよく吹き飛び、私達の近くにある柱にぶつかり、その口から血を吹き出した。


「デヤッ!!」


 騎士を吹き飛ばしたアクヌムは、今度はそこから手刀を繰り出すと水の刃が地面を沿うように発生して、魔石使いの杖を真っ二つにした。


「あ……」


 柱の近くでぐったりと倒れ、血を流している騎士を見て、ユノがその場にしゃがみ込んでしまう。私が再びアクヌムに目を向けるとこちらに迫ってきている。


「ユノ!はや……ぐふ!」


 その巨体に似合わない速度で近づいたアクヌムに体を殴られる。殴られた時に死んだと思ったが、体への鋭い痛みを感じるので、まだ死んでいないようだ。


「きゃーー!!」


 悲鳴のする方へ痛みを堪えて顔を向けると。そいつは片手でユノの首を持って体を持ち上げていた。ユノがそいつの手から脱出しようと、両手を使ってその手に攻撃を仕掛けているが効果が無い。


「あ、あ……」


「止めろ……!!」


「何でお前のいう事を聞かないといけない?それに最高じゃないか!親の前で子供を殺し!そして絶望の状態から王様(もくてき)であるお前を殺す……ただ、それだけのことだ」


 そう言って、奴はその目をにやつかせる。その瞬間もユノは必死に抵抗するが徐々にそれが弱くなっていく。


「くっ!……!」


「はははは!!」


 どうすることも出来ない状態、抵抗していたユノの腕が力なく垂れ下がる……そんな……。


「良い顔だな!!ははは!!」


「ウィンド・バースト!!」 


 私の苦しむ顔を見て高笑いしていた奴の腕に風の塊が直撃して、その弾みでユノが奴の手から解放される。


「何!?」


「吹き飛べ……獣王撃!!!!」


 そこに変わった衣装を着た女性……いや、男性が颯爽と現れ、奴をぶん殴り吹き飛ばす。吹き飛んだ奴は壁にぶつかり、落ちて来た壁によって埋まってしまった。


「ユノ!?大丈夫!!」


 その男性は解放されたユノをその腕に抱き寄せる。


「けほけほ……!薫……?」


「ごめん!遅くなって!これポーション!あ、王様も!」


 そう言って薫がポーションをこちらへと投げて渡してくれた。私はそれをゆっくり飲んで傷を治す。


「くっそ!!」


「もう一度止まってなさい!ウィンド・エッジ!!」


 泉たちは戦闘を継続していて、黒い靄をまとった風の刃をアクヌムに向かって放っている。


「雷連撃!!」


 さらに薫達も追撃で雷を連続で落とす。二人の攻撃の衝撃によってまた壁が壊れ、奴は再び壁の下敷きになる。


「どうッスかね?」


「多分、無理かな?」


「やっぱりこのスライムって、ぷるぷる……僕は悪い魔物じゃないよ……。のスライム……じゃないよね」


「こっちのスライムはそのスライムであって欲しかったなあ……」


「あのゲームならヒノキの棒で一撃なのです」


 彼らが何か意味不明な言語を発している?何を話しているんだ?


「気を付けて下さい。どっかの悪の科学者が作ったような見た目ですから……」


「あ。ユノちゃんの言う通り確かにそれっぽい!」


「それなら岩男が来てくれないかな……」


 ユノも話に混ざっている!あっちになじめて良かったような遠くに行ってしまったようで悲しい気が……。


「くっそ!!」


 奴が瓦礫を吹き飛ばして脱出してきた。それを薫の鵺が壁となって塞いでくれた。


「お話はここまでかな……さあ、プランB!魔族撃退戦の開始だよ!」

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