169話 大将出現!
前回のあらすじ「非人道的」
―少しだけ時間を戻して「ビシャータテア王国・王都付近の森」アクヌム視点―
「では、私も行って参ります」
「うむ。存分に我の為に働け」
「ははっ!」
膝をついていたシュナイダーという奴が、立ち上がり東の門へと歩いていく。
「ふん……」
従順……そして計画遂行のために残虐な手段もいとわない…か。ロロックも面白い駒を残して死んだもんだな。
「さてと……」
我も動くか……。偉大なる魔王様の為に……。
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―城壁から離れて1時間後「ビシャータテア王国・城壁 南側」シーエ視点―
「スパイラル・アイス・ランス!」
高速で回転する氷の槍を前方に放ち、バケモノを貫く。
「すぐにここから逃げるんだぜ!!」
「「はい!!」」
「私の後に付いて来て下さい!」
父親が子供を背中にしょって、夫婦はハリルの配下の一人と一緒にその場を後にした。
「今ので全員か?」
「そのようですね」
「シーエ隊長!」
そこにハリルの配下の一人である女性獣人が現れる。
「シュナイダーの居場所が分かりました。カシー様とカーター副隊長にも伝えております」
「案内するんだぜ!」
「かしこまりました」
そう言って、部下の者が手を上げると同じような格好をした者達が現れて、先ほどよりかは大分少なくなったバケモノ達へ向かって行った。
「残った奴らは彼らが相手します」
「そうですか……くれぐれも無茶しないように、遠くから攻撃をして下さい!」
彼らに声をかけてから、私達は女性獣人の後に付いて、シュナイダーの元へと向かうのだった。
「誘われてますね……」
「だな」
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―それより10分後「ビシャータテア王国・王都付近の森」シーエ視点―
案内されて着いたのは王都付近の森だった。ただし、そこまでの木々は抜かれていて森とは言えない状況になっていた。地面は木が抜かれた所がちょっとした落とし穴みたいになって非常に戦いづらい状況になっている。
「フランベルジュ!」
声のする方へと向かうと、捕らえられた人々をハリルの配下が先頭に立って近くの門へと連れていく集団と鉢合わせする。その集団を横目にその後ろで激闘を繰り広げているカーター達の元へと辿り着く。
「それではご武運を!」
「あちらは任せました」
案内してくれた女性獣人とここで別れる。
「カーター!」
「先に始めてたぞ。カシーももう少しで来る」
「そんな待ってられないぜ!」
マーバが、シュシュとその場でパンチを繰り出して、やる気を見せる。
「ですね……アイス・ブレード」
そのまま、襲ってくる敵に剣を向ける。相手は素手だというのに氷の魔法を纏った剣を難無く受け止めてしまった。さらに相手の方が腕力が強いために押し負けそうになるので、後ろに飛んで距離を取る。
「やっぱり堅いですね」
「ああ。ブレード程度じゃそのまま剣を持って投げられそうになるぞ」
「そうですか……なら……!」
エンチャントリングで魔法陣を発動させる。
「アイス・スリップ!」
魔法陣の力を借りて広範囲に魔法を発動。その範囲にいた敵は氷の地面のせいで足元を取られる。
「アダマスでお前らのようなマッチョには有効だってのは実証済みだぜ」
「お陰でいい的ね!カーター!」
「ああ!スパイラル・フレイム・ランス!」
「こちらもです!スパイラル・アイス・ランス!」
堅い敵の為に創った魔法で相手を次々と貫き倒していく。
「お前達専用に創った魔法だ……存分に味わえよ」
「まあ……こいつらにその言葉が通じてるか怪しいぜ」
「そうね……」
「どうしてここまで非情な事が出来ていたのか……今の彼らを見ると納得ですね」
次々と倒していくバケモノを間近で見て気付く。その目はどこか虚ろ、しかも彼らは互いに言葉を発しておらず連携という物が無い。ただただ命令を聞いて忠実に行動しているだけなのだろう。そう……彼らはすでに人間では無かった。
「薫さんが戦った相手は意識を保ったままと聞いていましたが、こいつらにはそれがありませんね」
「だな。この姿で連携を取られたら難しいと思ってたけど……そもそもこいつら簡単な命令しか出来ないんじゃないかだぜ?」
マーバが私と一緒に戦場を動きながら冷静に相手を分析する。
「……試しにやってみるか」
カーターがハイポーションを取り出して相手にぶつける。瓶は割れて中身が相手にかかる。
グォオオオオーーーー!!!!
しかし、何も起こらず。瓶を当てられたことに怒って、カーター達を殴ろうとする。カーターはそれを見て少しだけ体を逸らして避けた後、フランベルジュでその首を切断する。
「どうやら似ているようで違うみたいだな」
「薫は相手をハイポーションで戻せたと言ってたもんね……彼らには非情だけど倒すしかないわね」
サキの口調が暗い。彼らは囚人ではあるから鉱山から脱走した以上、その場で切り捨てるのは当然である。が、本当に彼らはこんな結末を望んでいたのか?そもそも脱走する気があったのだろうか?話をすでに聞けない以上、その真意を聞けないが……しかし、領主の所に逃げて来た囚人の事からするとかなり無理矢理だったのかもしれない。
「彼らにどんな背景があったかは知りませんが……」
私達に襲い掛かってくる一人に、心臓に目掛けて……冷酷に魔法で貫く。
「余計な情けは、死を招くだけです。いいですね?」
その場にいた全員が頷く。すると、四つん這いになって彼らが襲い掛かってくるのでそれを撃退しようと武器を構える。
「オクタ・エクスプロージョン」
すると、後ろから8個の小さい赤い球が彼らに目掛けて飛んでいき、そして爆ぜた。後ろを振り向くと、魔法陣の中に立っているカシーとその近くを飛んでいるワブーの姿が。
「トドメをお願い。オクタじゃ大したダメージを負わせられないわ」
その言葉に、私達全員がすぐさま前を向いて爆発によって倒れている彼らにトドメを差す。
「今回の戦い。俺達の魔法は相性が悪いな」
二人が不満そうな表情を浮かべている。カシーは火属性に素質がありカーターと同じである。しかし、カシーはスパイラル・フレイム・ランスを使えない。
薫さん達と関わっていく中で、同じ属性に適応していても得意、不得意な魔法があることが分かってきた。それは魔法使い達の性格や気質に関係するとのことで、今後はそのような要因がどのように関係るするかも研究するとのことだった。
「ディピロ・エクスプロージョン以外に有効な魔法が無いのは痛いわね。せめてシーエみたいに敵の行動を阻害できればいいんだけど……ここで召喚魔法を使うのも……」
「今、考えるのは止めとけカシー。それより……大将のご登場のようだぞ」
彼らの後ろから現れた一際大きい人?いや……。
「アンコウの化け物ね」
「カエルだろう?」
カーター達が武器を構えて、以前の雰囲気を残しつつも他の奴と同じように異常な筋肉を付け、口が耳の所まで裂けた怪物となったシュナイダーと蝙蝠の翼を携えて手足が獣のように毛が覆われたキクルスを見据えている。
「久しぶリダな……お前ら!」
「どこのどなたかしら?もっとでっぷり太った奴とありきたりな精霊の二人組しか知らないわよ?」
「うちもだぜ!というか……あんなに口を裂けてますますアンコウっぽくなったな」
「キサマら!」
シュナイダーが手を前に構えて、その手の平に赤い球が見えたのですぐさま横に避ける。するとシュナイダーの声と共に、自分がいた場所にファイヤー・ボールが着弾する。その威力は高く。地面が抉れていた。
「ケケケ!すげぇナ!」
「ふふふ……そうだな。これだけの力があれば負ける事などない!」
すると、今度はその巨体で走り出す。アイス・スリップで凍ってる地面を安定して走る為か器用にも四足歩行でだ。スピードもかなり速くその姿は熊や猪を彷彿させる。
「スパイラル・アイス・ランス!」
直進してくるので、それに向けて放つ。
「無駄だ!!」
その分厚い筋肉が付いた腕を振って私の魔法を弾いた。私は横に転がって奴の突進を逃れ、すばやく立ち上がる。
「ファイヤー・ボール!!」
「アイス・ハイウォール!!」
起き上がった私に対して攻撃魔法を繰り出す。それを防ぐためにエンチャントリングを使い素早く、黒い靄を纏った氷の壁を作る。それにファイヤー・ボールがぶつかり相殺する。その際に凄い量の蒸気を作り出す。
「(マーバ!こっちへ)」
「(おう!)」
すぐさま、また横へ逸れる。するとそこを奴がすぐに走り抜けた。
「ちっ!」
「そんなの当たんね……」
「アイス・ランス!」
すると、どこからか別の方角から魔法がこっちへ襲い掛かってくる。咄嗟にマーバを庇う体勢を取る。
「シーエ!」
「大丈夫です。もしものために鎧をミスリル製にして良かったですよ」
「油断大敵じゃないか!?」
すると、シュナイダーがまた突進をこちらへと……。
「ディピロ・エクスプロージョン!!」
ドッッドーーン!!と短い時間で2度連続爆発が起きてシュナイダーを吹き飛ばした。
「大丈夫か!」
「ええ。平気ですよ」
「バカ!その手!鎧に覆われていない場所から血が出てるじゃねえか!」
マーバが触れた場所……首の所を触れると出血していた。
「ポーションよ。あいつに気を付けなさい」
カシーの見る方……カーター達とキクルス。そのカーター達に向かって普通の魔法使いと変わらない威力で様々な初級クラスの魔法を放っている。
「あの魔法。あいつが!?」
「ええ。アレも黒の魔石の力で強化されているみたいだから気を付けなさい」
「お前ら。来るぞ」
マーバの見る方には爆発で吹き飛んだシュナイダーが立ち上がっていた。しかし……ケガは何一つしていない。
「これは……中々、厄介ですかね?」
「さあ?どうかしらね?」
私はポーションを口に含み傷を治しすぐに武器を構える。ただ黒い魔石で強化された彼らとはスペックの違う化け物……その存在に私は少し恐怖を覚えるのだった。




