16話 情報交換
前回のあらすじ「城到着」
―4人が悲鳴を上げてから数時間後「王宮・二階 客室」―
「な、なるほど。病気の原因の一つに我々の目では見えないくらい小さい生物が起こしているものがあるということですね」
「はい。他にはその人自身の心理状態が原因で体調を崩したり、病気となったりするものもあります」
スメルツさんは持ってきたメモ帳に僕が話したことをどんどん書いていく。それだけではなく王族の方々も驚いているようだ。
「す、すごいですよ!こんな情報周りが知ったら大変な事になりますよ」
「そんな大袈裟なんじゃ……」
泉はそう言うが、実際は大変な事である。とりあえずそのことについて説明するとしよう。
「そうでもないと思うよ泉。こっちでは病気の原因が悪霊とか霊的の物だったのに、病原菌や心理状態が引き起こすってなると対策が全然違うから」
「薫の言う通りね。今までいかに体内の悪霊を祓うとかいう考えだもの。目に見えない小さな病原菌が引き起こした物となれば研究の方向性が全然変わってくるわ」
「と、となると薬草は人体に留まっている悪霊や邪気を祓っているのではなく。その病原菌に効いているということか、も、もしくは人体にある抵抗力を上げるというということになるということですよね?」
「僕は医者じゃないから確実とは言えないけど、僕たちの世界の薬の中にはそういう物もあるよ」
「これはすげぇな。となると何の薬草がどういう理由で効いているのかを研究する必要があるな」
「そ、それには顕微鏡や他にも色々必要になりますね。ど、どうにか手に入らないかな」
そんなことを話ながらカーターたちを除く魔法使い2組がメモを取る。カシーさんたちも何か研究に利用するのだろうか。
「こう話を聞かせてもらうと改めて文明の違いを知りますわ」
「だな。カーター達から異世界について聞いた時は驚いたが当人から聞くと余計にちげえな」
そういって王様は手を顎に当てて考える仕草をする。王子様たちはお伽噺を聞いているかのように聞き入っていた。
「私達からしたら魔法や魔石なんかに驚きなんだけどね。機械じゃないのに勝手に点灯、消灯するライト。光る石から火や水が出る。もはや手品でも見てるみたいなんですけどね」
「遠くの人と絵も含めた情報交換が出来る小型の通信機、馬が引いていないのに走る鉄の馬車。俺達からしたらそれらの方が不思議なんだけどな」
「カーターの言ったスマホのそれらの機能は色々な設備が必要だから少し無理かな。車も荒れ道でも大丈夫な4WDとかなら問題ないと思うけど、燃料であるガソリンのこともあるしな……」
「そちらの技術をそのまま利用するには環境が整ってねぇってことか」
「声だけを伝えるならトランシーバーとかならいけるんじゃないかな。小型で持ち運びできるし、でも近距離だから余り意味ないかも」
「通信用の魔道具があるから余り意味ないかもしれないわね。王都内での連絡の取り合うには便利そうだけど」
食や医療以外に関してはこっちの技術は僕たちの世界とあまり変わらないほどレベルが高い。なんせ色々あるが掃除機や炊飯器に似た物がこっちの世界にはあるのだから。しかも電力不要だし。
「やっぱり魔石は反則だわ。便利すぎるもの」
「泉も思うよね…やっぱりそういうのに詳しい直哉を引き込む必要があるかな」
「そうね……でも引き込んで大丈夫なの?」
「うーん」
すでにレベルの高いこの世界にある物を、さらに技術的に進化させるには科学に詳しいアイツは必要だろう。そうすればこちらの世界の通信魔道具を小型化したりこちらの世界に対応した車なんかも作れるかもしれない。
「はあ~。皆様の話を聞いているととんでもないですわ。お兄様はどうですか?」
「同じくだ。そちらの確か科学? という技術と魔法が組み合わさるとどうなるのか想像がつかない」
「魔法と科学か……。魔法科学……魔導工学って言った方がかっこいいかも」
今の泉の発言にカシーとワブーが食いつく。
「魔導工学か。いいかもしれないな」
「ええ。それに名前があった方が何かと便利だわ」
「いいんじゃねえか。特に意見が無ければ、今後その名前でいいだろう」
全員が首を縦に振る。この日をもって魔導工学が発足された日として後世に伝わるのだろう。
「私……うっかりで歴史が動いた瞬間を目にした気がするんだけど」
「歴史書が出たら泉が名付けたって残るかもね」
「間違いないと思うわよ。けれど……これからカーターと一緒に世界を往復する日々になるのかしら」
「あら。私達も行くわよ。研究するには実際に行かないといけないし」
「父上。私達もあちらの世界を知るためにも訪れるべきかと」
「わ、私もです」
「俺もだ。あっちの医療技術についてはかなり詳しく知りたいしな」
異世界の皆様が、行ってみたい。とそれぞれ口にする。しょうがないとは思うけど……。
「あはは……この人数は無理かな……」
今、異世界を知るのは僕に泉、そして昌姉夫妻の4人。あっちの世界に行って案内するには少人数が心許ない。仮に警察に職務質問を受けたらパスポートなんて無いし。捕まったらどうしようにもならない。
「待て待て。全員落ち着けって。2人はあちでは一般の市民なんだろう? 無理はさせられねえよ。とりあえずまずは2人の出来る範囲で案内とか協力を頼む。それでいいか?」
王様がこっちを向いて同意を求める。こちらとしても問題無い。
「分かりました」
本当に王様が話の分かる人で良かったよ。と心の中から思った。
すると……外から鐘の音がする。僕はとっさに腕時計を見ると、時間的にお昼の時間である。
「そろそろ昼飯時になるな」
「そしたら僕が用意します。材料も持ってきたので」
「あ、薫兄。それなら私が持ってきた荷物出してもらっていいかな?」
「分かったけど何を持ってきたの?」
アイテムボックスから鞄を取り出しながら尋ねる。鞄を手渡すと泉は鞄のファスナーを開けてそこから本を出していく。
「ファッション誌。あっちの衣服がどんなものか知るには丁度いいでしょう?」
なるほど。僕たちの世界に来るというなら事前にどんな服装を着ているか知っておいて損は無いはずだ。
「是非、知りたいわ!!実はさっきからその召し物に興味があったんですの!!」
お姫様が泉の近くに来て、一緒にファッション誌を見始める。年頃の女の子として異世界のファッションとか興味があるのだろう。
「わ、私もです!!」
「見させてもらっていいかしら?」
「どうぞどうぞ!!」
精霊も含めた女性陣が泉の元に集まり本を見始める。
「これかわいい」
「私はこちらの方が」
「そ、それなら……」
さっきより話が盛り上がっている気がする。研究熱心なカシーさんもこの時だけはファッションの話に興味深々だ。
「そしたら、俺達はどうしますかね王様」
「女性陣はすっかりファッションの話だしな」
「とりあえず、この後のことを相談するぞ。今度の会議で他の国から色々聞かれるからな」
「会議?」
「カーターから聞いているだろう? 他国との取り決めを決める話し合いだ。大体は半年に1回行われるんだが……各国のスパイが王都内にいて情報を集めているから、どうせお前達の事は知られているだろうし、それとあのエルフと精霊についての処罰も必要だしな」
そういえば、戦争の事で取り決めしてるって言ってたな。しかも半年に1回ペースか……戦争中でも頻繁に集まるんだな……。
「それにこいつの異世界魔法に対しての弁明を用意しないとな。異世界の転移魔法は国の認可が無いといけないことになってるしな」
「カーター大丈夫なの?」
「まあ俺っちの方で何とかするわ。というよりかは俺が密かに許可したっていえば問題無いだろう。多分だがな」
「まあ、とにかく文句を言うやつはいないだろうな」
「ワブーの意見には俺も賛成だな。こんな情報を持つ奴等に、そっぽを向かれたくないだろう。むしろ自分たちも利益を得るために必死に薫にお近づきになろうとするだろうしな」
「ちょっと待ってザックスさん。え? 僕も行くの?」
「ザックスでいい。俺は当然だと思っていたんだが?」
「そうしてくれると俺も助かる。薫が、王様が許可を出していた。って会議で言って貰いたい。王様もこれでいこうと思っているんだが……ダメか?」
「別にいいけど……そうか。他の国は僕らにゴネられると困るのか」
「ただでさえ一度この国は異世界への往復を成功させている。そしてそれによる発展を他の国々も見ているからな。喉から欲しいと思うぜお前らの世界の知識はよ。すでに俺達の分野の研究は方針転換で決まりだしな」
「カシーやここにいない他の魔法使いや研究者の奴らとも相談したんだが、そのスマホや車という物の開発をすることは決まったしな」
「というわけでこっちの事情が色々あってな。まあ~……頼むわ」
何か危ない目に遭いそうな気もしないが、でも異世界の国際会議か……いいネタだよね……。
「……分かりました。日程が決まったら教えて下さい」
「その時はカーターに伝言を頼むわ。ここからは馬車だと2週間程度かかる遠い場所なんだが移動は転移魔法だからな。会議だけで考えてもらえれば1~2日位で見といてくれや。カーターも頼むぞ」
「はい」
「分かりました王様」
「でも、凄いな~。馬車で2週間かかるところを転移魔法であっという間なんて。電車や飛行機とか使わなくても遠くに移動できるって便利すぎだよ」
「電車? 飛行機?」
僕が発した言葉にファッションに興味がいっていたカシーさんがこちらを向いて迫ってくる。
「ねえ薫? 車と呼ばれる乗り物以外にも移動手段があるの?」
カシーさんが僕の肩を持って顔を近づけて見てくる。あの肩痛いんだけど……。
「えーと……色々あるよ。電車は車と同じように地上を走るんだけどレールというのを引いてその上を走るんだ。飛行機は空を飛んで……」
「「「「「「空を飛ぶだと(ですって)!!!!」」」」」
今度はこの部屋にいる全員が僕を見る。あれ? また変な事を言ったかな?
「まじかよ……。そんな技術まで確立されているのかよそちらの世界は」
「すごいわ!! 空を飛ぶなんて!! で、どんな物なのかしら!?」
カシーさん顔近い!! 美人だから思わず僕の顔が赤くなる。と、とりあえず離れてもらうためにも……。僕はスマホを取り出し以前に撮った飛行機の写真を皆が見やすいようにテーブルの上に置く。
「これだよ」
「……これが!! 魔法の研究の中で長年の悲願だった空を飛ぶがあっちでは実現してるなんて!!」
「まさかスマホ、車の研究が決まったと思った矢先でこの事実を知ることになるとは」
「他にもヘリコプターっていうのもあるよ」
今度はスマホにヘリコプターの写真にする。
「また形は違うがこれも飛ぶのか!!」
全員が各々感想を言う。
「えーと。飛行魔法ってないんですか?」
泉がカシーさんに尋ねる。飛行魔法って扱いが難しいとか、習得が難しいとかそんな理由だと思っていたが……どうやら違うみたいだ。
「無いわ!! むしろこれが出来るなら城壁の件も空を飛んで物資を届ければいいのだから!!」
「転移魔法の弱点は目的地にも同じ魔法陣が必要なところだ。そのためまず最初はそこへ向かわないと行けない。となると当然手段としては馬なんだが……。転移魔法の陣はかなり難しくて詳しいやつが行かないといけない。結果、賢者であるカシーとワブーを馬で目的地まで行ってもらわないといけないのがほとんど。その間、最大戦力がいなくなるから国の防衛が手薄になる。さらに転移魔法は設置できればどの魔法使いでも使用できる。それが敵でもな。だから無暗やたらに設置できねえのよこれが」
「だ、だけど空を自由に飛べれば問題解決。そ、それだから解決するためにも魔法使い全員が研究のために協力しているじ、事項なんですよ!!」
「風魔法の出力をどれだけ安定させていられるかってことで研究していたんだけどこれが難しいのよ。それだからこの飛行機とかはすばらしいわ!!」
まさか、こんなに反応されるとは……皆の気迫からかなり重大な事だったらしい。空を制覇するもの世界を制するってことかな?
「これを見るとかなり難解な造りだけど……。全魔法使いの力を集結させれば何とか」
「そうだな。俺も協力しないとな……」
カーターたちも燃えている……。でも、いきなり飛行機やヘリコプターを作るなんて難しいだろうけどな。それなら気球や飛行船なんか……。あれ? これって魔石の力も使えばかなり簡単に出来るんじゃないかな、気球なら膨らませるためのバーナーを魔石にすればいいし、風を起こす魔石を使えば多少自分たちの意思で移動できるだろうし。
「どうしたの薫兄?」
「え、いや気球なら今すぐにでも作れるなって思ってさ」
また誰かに肩を掴まれる。うん。カシーさんだな。だから痛いって。するとまたまた体の方向を変えられて、これまたカシーさんの顔が近づいてくる。
「今すぐってどういうこと!? 気球って何!?」
この後、気球と飛行船の説明を全員に説明をすることになり、遅めのお昼を取ることになるのだった。ちなみにお昼は王様達が食べたいカレーで、涙を流しながら「美味!!」と言って食べてくれた。
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―「王宮・二階 客室」カシー視点―
薫が用意してくれたカレーとなる物を食べた後も話は続き、日も沈んだところでお開きとなった。カーター達に護衛を頼み送ってもらっているが…。
「驚きでお腹一杯だな…」
「そうですわね」
「父上と同意見です。まさか空を飛ぶのに布があれば飛べるなんて……。これが出来たらこの国の事情はかなり変わることになりますね」
「王子の言う通りですね。薫が提案してくれた内容も考慮すれば試作品は早めに作れるかと」
「も、もうあまりの内容にビックリですよ」
ここにいる全員がため息ともとれるような感じで息を吐く。あまりにも衝撃的な一日だった。
「とりあえずだが、薫たちとの付き合いは最最優先事項として皆頼む。他の魔法使いにも知らせておいてくれ」
私は黙って頷く。これほどワクワクしたのは本当にいつ以来だろうか。ワブーも手帳を何度も見直しして精査している。しばらくの間は、いや私が生きている間に退屈になる日はもう無いかもしれない。
「それより私はあのかわいい服や装飾品……欲しいですわね」
「ユノの気持ちは分かります。今まで見たことの無いデザインでしたから」
「それなら私は食ですかね。あのカレーというのはおいしかった」
「……仲間達にあれが食べられるぞって言えば契約して魔法使いを増やすことができそうだな」
「ザックスの言う事がマジでありえすぎて何も言えねーよ」
「こ、今回の異世界との交流はカーターさん達の曾祖父が残した功績より遥かにす、すごいことになりそうですね」
「だな」
そういって王様がソファーに体を預ける。王位継承してからこれだけの衝撃は始めてで疲れたのだろう。
「あの2人のどちらかをうちに迎えることができねえかな……。どうだユノ? あの薫ってやつと付き合う気はないか?」
「お父様。いくらなんでもそれは娘に対してどうかと思いますが……」
ユノ様が少し怒ってらっしゃる。まあ照れ隠しなんだろうけど。するとメイドが夕食が出来たことを伝えてきたのでお開きにすることになった。アレックス様とユノ様、スメルツ達が部屋を出ていったところで王様達にユノ様の事で話をする。
「脈ありですわね。」
「あら。分かったのかしら?」
「だって、ユノ様って可愛いものに目がないじゃないですか。結婚する相手も男らしい男を選ぶんじゃなくて薫のような人を選ぶと思っていましたよ」
「まあ、あいつはそれを隠しているけどな。……バレバレだが」
「バレバレですわね」
精査に集中しているワブー以外の3人で笑みを浮かべる。将来、私が薫様と呼ぶ日が来るのかもしれないのかしら? ただ……。
「真面目な話なのですが……もし私達の世界の住人が薫の祖先だとして……どの種族だと思います?」
ワブーもこの話に興味を持ったのかこちらを見る。
「ああ。見た目が年より若いなんてエルフかドワーフ……それか魔物だな。」
「やはりそうなのですね。」
お二人とも気付いていたようだ。遥か昔に戦争をしていたあの魔物の末裔なのかもしれないのだ。
「まあ、どちらだろうと今は関係ない。少なくとも悪人じゃないしな。まあ、ガチでユノと結婚とかに発展しても問題無いだろう」
「ですね。あまり血筋とか気にしませんし」
「そういうことでしたら、しばらくの間は、このことに関しては誰にも言わずに黙ったままにしときます」
「ああ。ワブーも頼むぞ」
「かしこまりました」
右腕を胸に当てて敬礼をする。研究の片手間に調べてみてもいいかもしれない。まあ、薫もこのことにすぐに気付くかもしれないけど。そんなことを考えながら私は少し冷めたお茶を飲むのであった。