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168話 狂気の作戦

前回のあらすじ「夜戦は優位の状態で終わった模様」

―翌日の早朝「薫宅・居間」―


「……よし!」


 いい具合に出来たトロトロの半熟スクランブルエッグを、カリカリに焼いたベーコンの隣に載せる。スープはオニオンスープ……食パンもすでに焼けた。一人で早起きして作ったそれらの料理を居間のテーブルの上に置いていく。


(いよいよシーズンも終盤……我ら……)


 居間にあるテレビからニュースが流れていた。見るとそこに映ってたのはサッカー選手である大輔の姿が。どうやら大輔のチームはJ1昇格の順位内にいて、その立役者である大輔は前年とは比べ物にならないほどに活躍しているとのことだった。


(あれだけのケガをしたのにすぐに退院。そしてこの結果には驚くしかないですね……)


(本人曰く。女神様にケツを叩かれたと言ってるそうですよ。それで……)


「ハイポーションが効いたのかな……」


 まさか、大輔に長年蓄積していたケガとかも治したのかな……。と、思わずアイテムボックスからハイポーションを取り出してそれを眺めてしまう。


「おはようございます……」


 そんな奇怪な事をしていると、パジャマ姿のユノが居間にやって来てしまった。僕は慌ててハイポーションをアイテムボックスに戻す。


「どうかしたのですか?」


「ううん!何でもないよ……それより、おはよう。よく眠れた?」


「はい……」


 起きてきたユノを見るが……その表情は優れていない。よく眠れていないな。


「おはようなのです」


 飛んで入ってきたレイスが目を擦りながら居間のテーブルの上に座る。こちらはしっかり休めたようだ。


「おはよう。ご飯できてるから食べちゃって」


「はいなのです」


「ほら。ユノも。すぐにあっちに行くんでしょ?」


「はい!」


 ユノも気合を入れ直してから朝食を取り始めた。これでご飯を食べたらグージャンパマに戻って、支援の続きを……。


「泉たちは?」


「「……」」


 その後、僕は寝ている泉たちをたたき起こしにいったのは言うまでもない。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―それからおよそ1時間後「ビシャータテア王国・カーター邸 庭」―


「特に異変は無いかな」


「そうですね」


「おはようございます。ユノ姫様」


 邸宅の方から執事さんがこっちへと歩いてくる。


「おはようございますローリン」


「おはようございます」


「皆様もおはようございます」


「カーター達は?」


「一度こちらにお戻りになって少しだけ休息と身支度を整えた後、また城壁へと行かれました」


「そうですか……」


 カーターたちも一度休んだみたいだが、十分に休息を取れたのか心配である。


「そういえば執事さんは逃げないんですか?」


「ここは避難場所の一つですから、備蓄品とかが置いてあるので管理する者が必要なのです。主に替わりにそれを私が。他の者は避難してもらってます」


「大丈夫なんですか」


「ここに何かあればすぐに避難するのでご安心を。それにハリル様の使いの者が近くにいると思いますので」


 そう言って邸宅の方を見ている。どこにいるか分からないが執事さんだけには分かるように話をしてるのかもしれない。


「必要な事があったら言って下さいね」


「ありがとうございます。皆様もどうかお気を付けて」


 執事さんに挨拶をして、僕たちは王宮へと向かうのだった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―それから数時間後「ビシャータテア王国・王宮 庭」―


「どうなんだろうね……」


「さあ……ここも危ないのかもね……」


 避難している人々から不安の声が漏れている。


「なあ。姉ちゃん。俺と一緒に……」


「何を考えてるんですか……?」


 怒気を込めた声、笑みを浮かべているが明らかに怒っている表情で男を睨みつける。お肉を切っていた包丁を見せつけながら……。


 僕のその姿を見て怯んだ男は足早にその場を去っていった。こんな非常時にこんなバカがいるとは……。


「流石、薫兄……」


「魅了スキル、恐ろしいですわ」


「あのね……君たち」


 レイスとユノの言葉にツッコミを入れようとする……と。


「何だと!それは本当か!!」


 その声に驚いた僕たちはそちらへと顔を向けると米軍と自衛隊の方々が何かを話している。


「どうかしましたか?」


「え!?あ……すいません。ちょっと想定外の事があっただけです。お気になさらず」


「想定外?何があったのですか?」


 ユノが答えてくれた自衛隊の人に問い詰める。


「少しだけ相手が戦術を変えて来ただけですからお気になさらず。その方法に驚いただけなので」


 戦術を変えた……それに驚くとはどんな方法なのだろう。


「私は王家の人間です。後々、知ることになります。どうか」


 そう言うと、答えてくれた自衛隊の人は渋る。それ以外の方々も答えたくない顔を浮かべている。


「……」


 黙ったまま、ユノが表情を変えずに相手を睨んでいる。ただし相手はプロの軍人……話さない。


「(どうするの薫兄?)」


 小声で泉が訊くのでどうするかを考える。


「……あの~」


「何か?」


「それは緊急性は無いのですか?」


「すいません。隊長の指示を受けずに答えるのは……」


 困っている。となると緊急性はあるがこちらには伝えないという意味だろう。わざわざ僕に嘘ついているし……。


「ユノ。ここは引いてあげてくれないかな?困ってるみたいだし」


「でも……」


「あっちの軍にも規律ってのがあって、上の指示なしで外部に漏らすというのは禁止事項なんだ。だから……ね?」


「……分かりました」


「泉」


 泉に頼んで炊き出しの手伝いに戻ってもらった。僕は二人がテントに戻って話が聞かれないのを確認してから自衛隊の人に訊いてみる。


「非人道的行為ですか?指揮官さん?」


「ふう~。助かります」


 その時、ユノがいなかったので分からなかったと思うが、答えていた自衛隊の人は避難場所の準備の際に僕と話をしてくれた指揮官の人だった。つまりここの隊長である。


「各員。援護に回るぞ!」


「ラジャー!」


「こちらもだ!上から降ってくる物に注意をしろ!」


 そう言って、米軍と自衛隊の人が走ってどこかへ行く。


「で、何があったんですか?」


「……投げる弾の種類が新たに追加された」


「弾?何ですか?もしかして爆弾とか?」


「……それならどれだけよかったのやら」


 そう言って指揮官さんが黙る。その顔は非常に辛そうで……いいや。怒りに満ち溢れている。


「人だ」


「え?」


「恐らくだが、襲った村々の人をここまで連れて来て投げている」


「!?」


 僕はそれを聞いて、すぐにでも城壁に向かおうと思ってしまった。それぐらい……胸糞悪い内容だった。


「それと指揮官と思われる男が東の方に現れたようだ」


「それで?」


「城の城壁の守りを俺達がやる。魔法使いは攻めにいくそうだ」


「……」


「行くな?」


「……分かってます」


「我々はここの任を外れ、城壁の援護に向かう!ここは任しました!」


 そう言って敬礼を指揮官が僕にしてくれた。そして他の隊員が向かった方向へ走っていく。


「……誰かいますか?」


「ここに」


 ハリルさんの配下の人がふと現れる。


「今のは……」


「本当です。人を投げて攻撃。当たらなくても精神的なダメージを負わせられますから……」


 冷静に勤めているが、明らかに怒っているのが分かる。


「我々の一部も攻撃に転じます。だから……」


「分かりました。ユノには……」


「ごまかすのでご安心を」


「そうか……それとなんだけど……注意して」


「このタイミングってことですね……分かりました」


 そう言って、一瞬にして消えてしまった。


「薫兄?」


「あ、今行く!それと泉」


「何?」


「プランB」


「……オッケー。二人にも伝えないとね」


 僕はユノがいない間に泉たちと決めた作戦。それに移行するのだった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―ほぼ同時刻「ビシャータテア王国・城壁 東側」カーター視点―


「……ふざけやがって!!」


 俺は怒りのまま城壁の壁を殴る。あまりの行為に怒りが治まらない。


「落ち着いてカーター」


「無理も無いわ……私だって今すぐ大将の首を刎ねに行きたいもの」


 王女様、城壁にいる騎士、それに手伝ってもらっている軍人もその行為に不快感と怒りを見せている。


「王女様。ここをお任せします」


「ええ。安心して行ってきなさい!」


「サキ!」


「ええ!」


 俺達はグリモアで魔法陣を作り、その上に立って魔法を放つ。


「フレイム・ナイト!!」


 フレイム・ソルジャーの強化版である炎の兵を4体呼ぶ。見た目こそ変わらないが、炎の色が青色になっている。


「いけ!」


 フレイム・ナイトが敵へと走っていく。そして俺達も城壁からフライトで飛び出すのだった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―カーターが飛び出して10分後位「ビシャータテア王国・城壁 西側」カシー視点―


「ディピロ・エクスプロージョン!」


 私達は敵に空中から接近して爆発でそれを投げる前に仕留める。私はその人に近づく。


「死にたくなければ走りなさい!」


「は、はい…!!」


 倒れていた人は起き上がって、よろよろと城門へと向かって行った。今、門は少しだけ開けて人一人が入れる状態になっている。


「うわあああーー!!」


 声のする方へと向くと、人が飛んでいる。それは城壁を超えることなく……。


「くっ!!」


「……本当にあの子達を立たせなくてよかったわ」


「ああ。おい!」


 ワブーの指差す方向に今まさに人を投げ飛ばそうとしている奴が……!しかし、それは投げ飛ばす前に急に倒れてしまった。投げ飛ばされそうになった人はそいつから這いつくばりながら抜け出した所で、私達は近くにまで来て城門へと向かうように指示する。


「助かったな」


「ええ」


 私達は城壁へと顔を向ける。今、バケモノを仕留めたスナイパーに心の中で感謝しながら……。


「さあ、行くぞ」


「ええ」


 ワブーの声に、私は次の奴へと飛んでいくのだった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―カーターが飛び出してから30分後位「ビシャータテア王国・城壁 南側」シーエ視点―


 びちゃ……


 城壁の上にいる私達の下にそれがぶつかり、ただの肉塊となって落ちていく。その肉塊がどんな顔をしていたのか見ることは出来なかった。


「ひでぇ……」


「クソッ!!」


 狙撃手が引き金を引く。轟音を立てて弾がまた放たれた。


「あいつら……頭の中もバケモノなんじゃねえか?」


「落ち着け」


「落ち着いて……!」


「落ち着いて確実に仕留めろ。一発も外すな……次は右だ」


 声を震わせながら、指示を出している。その手をよく見ると震えていた。


「……ああ。分かったよ」


 そして、そのまま二人は黙ったまま次へと銃口を向けていく。追加で配備された軍人達が次々へと相手を仕留めていく。すでにカーター達もカシー達もさらに前に出ている……私達も!


「これ以上は我慢の限界だぜ!」


「そうですね……これは少々、度が過ぎてますね……!」


「シーエ隊長……」


「あなたにここの指揮を頼みます。私は……」


「お任せください!ここにいる一同、全身全霊でここを死守します!!」


 近くにいた騎士達が真剣な顔つきのまま、右手を胸に当てて敬礼をする。


「ご武運を!」


「頼みましたよ!」


「ぶっ飛ばしてくるぜ!」


 皆に見送られながら、私達は城壁から奴らに向かって飛びかかるのだった。

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