165話 開戦
前回のあらすじ「ちなみにポーションは100個ほど送られた模様」
*0話→序章へ変更。また長かった前説も少しカットするなど変更しました。
(内容への変更として曾祖父→先祖に変更のみ)
―翌日の夜「ビシャータテア王国・執務室」王様視点―
「ここまで準備万端で戦になるとはな……」
各所からの報告書を確認する。本来だったらもっと費用も人員も必要なはずだったのだが、かなり少なく済んだ。おかげで近くの領主の私兵や冒険者を無理して呼ばずに自衛にまわせたのは大きい……。
コンコン……
「入れ」
「失礼します。王様。必要な回復薬の用意が出来たとスメルツ達から報告がありました」
「そうか」
それを聞いて思わず笑みを浮かべる。
「大分、余裕ですね」
「仕方ないだろう?本来ならもっと莫大な費用と労力を必要としたのだ。それが大量のポーションでここまで用意できるとは……」
「お役に立てて光栄ですわ」
ポーションはこちらでも少々値の張る物だがそれでも大量生産が可能なのだ。そしてこれを作れるのは魔法使いだけ……つまり魔法使いを雇っている王国で作ってるのだ。ほぼポーションの原材料の費用でこれだけの用意を出来たと考えれば実に安い。
「頑張ったスメルツ達に何か褒美を考えないとな……」
「薫の世界にある幾つかの道具をイスペリアル国ではなくこちらにも置きたいと言ってましたわ」
「分かった。自国の発展にもなるしな。それと内部に不審な輩の調査は?」
「ハリル達からは見当たらないということです。ただ、用心は必要かと」
「薫にも言われたさ。あれだけの姑息な奴が愚直に何もしないのはおかしいとな」
「となると……すでに薫の方が何かしら策を講じているでしょうね」
「戦わせる気は無いのだろう?」
「ええもちろん。騎士の士気を上げる調理師、後は策士としてですね」
「……全く。お前も悪い奴だな。自国の民ではない薫達を戦わせる気は無いのではなかったのか?」
「ふふ……本音と建前は違いますわ。王様もそうでは?」
「ふう……まあな」
戦争では負ければ全てを失う。それなら如何なる物を使ってしても勝つのが普通なのだ。しかし王の威光を見せるために見栄を張ったりもしないといけない。
「アオライでのダゴンでの戦闘では各国の賢者を総動員して鎮静化させた。その対価として大型魔獣の素材の受け渡し。あれだけの数なら大損しないと決め込んだあの女王の考えだな」
「思ってはいましたが、こちらにも得のある話でしたし、魔族の戦力を削るにもちょうどいいですから」
「食えない女狐だな」
薫を引き抜こうと考えていたオルデ女王は性格はアレだが王としては有能だ。自国の危機に対して最善の策を取り、その見返りも自国の復興費用、自分への支持を考えてもプラスになるように考えている。
「そう言いますが……我が王が一番食えないのでは?何せ薫と泉の双方に自国の民を結ばせたのですから」
「正直言うが、それは偶然だ。まさかあれだけ娘のタイプに似合った男がいるとは思わんだろう。しかもその両親が相手を絶賛募集中とは……カーターの方は、でかした!としか言いようがない」
「実に色々と頼みやすくなりましたからね……お義父様?」
「お前の父親ではない」
「くす……分かってますわ。それで……」
「薫たちへの報酬だな。金や魔道具で返せるのが無いな……この際だ領土はいならないと思うから王都の土地と家を与えるとしよう」
「他国の王から何か言われないですか?」
「逆に作れと言われた」
「え?」
「我も予想外だったが……勇者や魔導士には土地も家も無いという事自体が少し面倒となった。彼らが住むのはあっちだからな。こっちに家が無くても全然問題無い。ただ、それを知らない者からしたら……な」
「なるほど」
「泉はカーターの邸宅と言ってもいいんだが……薫がな……」
「まさかこのお城と言えませんもんね」
「ああ。だからこの際に家と土地を用意したい。それにあっちでは領事館となる物があるらしいからな。こっちでの自宅としてもらってもいいし、それとして使ってもらっても構わない」
「色々、薫の負担が増えそうですが」
「そうだな……頭の痛い所だ。まあ、そこは手伝うとしよう。それに……」
「他に何か?」
「……こっちにそれを作らないとユノ。それと将来生まれてくる孫がこっちに来なくなりそうだ」
「親バカですね」
「何とでも言え」
あんなにかわいい娘と会えなくなるのは寂しいんだからな!!と心の中で思いつつもグッとその言葉を飲み込む。
「まあ、それは無事にこれが終わった後にでも考えましょうか……それと」
「何だ?」
「そろそろ口調を本来のそれにしたらどうです?薫が、最近王様のキャラがブレてますけど……。ってボヤいてましたよ?」
「……そうか」
カシーが部屋を出た後、私は窓から外の景色を見る。月がキレイに輝いている。
「ふう……難しい物だな」
自分の演技下手に落ち込みつつ、これ以上下手な芝居をせずに済んだことに安心するのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―戦闘開始直前の早朝「ビシャータテア王国・王宮 庭」―
「よし」
「薫さん。どうですか?」
「準備出来ました。運んでもらっていいですか?」
「分かりました」
王宮のお手伝いさんに頼んで料理を運んでもらう。いよいよシュナイダーの率いる軍と接触しそうなので本格的な支援活動をしている。追加の食料も持ってきたので飢えとかは大丈夫だろう。
「静かなのです」
「でも、もう少しで戦闘になるからね。安心は出来ないよ」
今の所は静かである。ただ、この静かさも後少しなのだろう。
「薫兄!」
「来たッス!」
「ありがとう。それであっちは?」
「セラさんと直哉さんに頼んでる」
「そうしたらこっちに専念できるね」
僕たちがこっちにいる間もあっちの復旧作業を止める訳にはいかないので他の方々に任せている。本当は僕たちもあっちなのではと思ったのだが。直哉から、最大戦力であるお前達があっちにいるとこっちも安心だし、王様達の本音はここにいてだろう。それと……嫁の実家に孝行しとけ。と言われた。
「戦わせる気は無いといってたけど……どうなの?」
「それは嘘じゃないよ。ただ、不測の時……魔族が攻めて来た時は退治して欲しいと思ってるんじゃないかな?」
「その時は全力で追っ払いますか」
「というより来ないで欲しいッス」
「なのです」
レイスとフィーロが玉ねぎの皮を剥きながら答える。その意見には同意である。
「……もしかして?」
「どうしたの?」
「……ハリルさん」
「ハリルは別の件でいませんが何か?」
僕が呼ぶとハリルさんの部下の方がいきなり現れる。魔法使いではないのにどうやって現れるのだろうか気になってはいるが、今現在も良く分かっていない。
「ハリルさんに伝えて欲しいんだけど……」
僕の考えをハリルさんの部下の方に話す。
「なるほど……すぐに伝えます」
「何かあったらすぐに連絡を」
「はい。それでは」
その場から部下の方が消える。
「これで大丈夫かな……」
「薫兄も色んな意味で慣れて来たよね」
「……うん」
泉が食材を切りながら話をする。確かに。ハリルさんたちの隠密部隊が王都内なら当たり前にいると思って呼んでる時点で、僕も大分こっちに染まっている気がする。
「さてと……次の仕込みをしますか」
僕はそちらに気を付けながらも次の料理の準備をするのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―「ビシャータテア王国・城壁 南側」シーエ視点―
「……まだ来ないですね」
「ああ」
すでに農作物を刈尽くして地肌が見えている地面を眺めつつ、その向こう……森で隠れた場所を眺める。
「どんな策で来るのかしら」
「ですね……」
「シーエ!すでに城門は閉じたぜ。撃退準備も出来てるとさ」
飛んでやって来たマーバに私は労いの言葉をかける。これでここの準備も完了……。
「そうしたら俺達は東の門に戻るか」
「そうね。カシー達は西にすでに待機してるしね」
「連絡は予定通りに」
「ああ。分かってる」
そう言って、カーター達が自分の持ち場に戻った。王都に入るには3ヶ所ある城門のいずれかをくぐらないといけない。そしてその入り口である3ヶ所に人員を配備できた。
「いよいよだぜ」
「ええ……」
「何か心配なのかよ?」
「ハリルの配下から聞いた話では彼らの姿は薫さんたちが戦った異常な筋肉が付いた人間です」
私はハリル達の配下があちらにあるカメラを使って遠くから撮った写真を取り出して再度確認する。その異常な姿は不安しか感じない……マーバも近くに来てそれを見る。
「気色悪いな……それで?」
「何か……見落としているような気がして……」
城門は閉じた。相手がここを攻めるのには農作物を狩り尽くし見晴らしが良くなった場所を歩かなければならない。それは城壁の上にいるこっちからしたら格好の的だ。そんな所を何の考えも無しに突破するとは考えにくい……。薫さんが話してくれた筋肉ダルマとの戦闘内容を思い出していく。すると、ある考えが思いつく。
「まさか……通信兵!」
近くに待機している通信兵に声を掛ける。
「はい!」
「すぐに防御壁を発動させるように各所に連絡!」
「え?しかし……」
「今すぐに!」
「はい!!」
「ここもすぐに発動して下さい!」
すぐに防御壁を発動。通信兵もすぐに魔道具の元へ走っていった。しばらくして他の場所も準備できた知らせが来る。
「どうしたんだよ」
「薫さんたちが戦闘済みで助かりましたよ……恐らくあいつらの最初の一手…それは」
「来たぞ!!」
その声にすかさず双眼鏡で森林からあの集団を確認する。そして奴らの一人が近くの木を強引に引き抜き、こちらへと走ってくる。
「木を武器にする気かよ……あれで攻城は」
「マーバ。あれは近接武器じゃないですよ」
「近接じゃないって……そういうことか!?」
マーバが理解して驚くと同時に、そいつは魔石や弓矢などによる攻撃射程ギリギリの場所からその木をこちらへと投げてきた。
「魔石部隊!風か氷の魔石で落とせ!」
「ウインドカッター!」
「アイスランス!」
待機していた魔石部隊から猛烈なスピードで向かってくる木に対して攻撃が放たれる。木は風の魔法を受けて失速。城壁にぶつかるが防御魔法を発動させていたので無傷だった。
「薫さん達には後で感謝したいですね……」
「だな……」
鉄の塊を軽々と投げられる。ということは彼らにとってそこら辺の石や木はいい投げ道具になるという意味に他ならない。
グォオオオオーーーー!!!!
化け物たちが一斉に声を上げる。
「遂に開戦ですね……総員!現時刻を持って戦闘を開始!相手はあらゆるものを投げ飛ばして来ます!常に前方に注意をして下さい!相手は人であって人に非ず!下手な情は捨てて徹底的に排除を!!」
「「「「おおーーーー!!!!」」」」
「マーバ!」
「分かってるって!」
何としてもここは守る!騎士団隊長の誇りにかけて!
―クエスト「3000のバケモノ部隊討伐!」―
内容:3000にもなるバケモノの集団が王都を襲撃してきます!中に被害が出ないように城壁の外で片づけ、大将であるシュナイダーとキクルスは必ず討ちましょう!また、魔族にも気を付けましょう!




