164話 物資供給
前回のあらすじ「和風ゴスロリ服はユノの分も含めて作成予定(泉&フィーロ談)」
―カーターからの頼みを聞いてから3日後「鈴木食材店」―
「すげえ量だけど……これどうするんだ?」
「僕じゃなくて別の人に頼まれたんだ」
ひだまりがご贔屓にしている鈴木食材店に注文した商品を取りに来た。
「別の人?まあ、それはいいけどこれどうするんだ?あの車じゃ運べねえだろう?」
目の前にある山積みにされた食料。これで大型トラック2台分が一杯になったと聞かされている。対して僕が乗ってきた車は普通の自家用車なので王都にいる人たちの炊き出し用に買ったこれらを運べないだろう。
「それに金額も凄いぞ?薫ちゃんだから信用して用意したんだが……」
「あ、それもう少しで来ます」
「来る?」
「あ、薫さん!遅れてすいません!」
そこに駐車場に停まった高級車から颯爽と降りてくるソフィアさんの姿が。
「こちらの別嬪さんは?」
「ご依頼主だよ」
「支払いですが……いかほどで?」
「この金額だが……」
明細書を見るソフィアさん。すると車に戻り小さいアタッシュケースを取り出してきた……まさか。
「この金額でいいですか?」
小さいアタッシュケースには帯の付いた札束が10束……1000万ってことか。隣にいる店長を見ると目をこれでもかと見開いて驚いている。
「なっ!!お、おお、多い!多すぎるって!!その3分の1で十分だ!」
「追加でお願いしたいんですが?必要ならここから3倍程出せますが?」
「さらに追加!?しかも3000万まで出すと!?」
「ええ。少し事情がありまして最短で大量に必要なんですが……どうですか?」
「……わ、分かった。ただ時間……今回と同じ量なら2回に分けて…1回目は3日ほど必要だが」
「分かりました。それじゃあ3日後に追加分を取りに来ます。最後の追加分の納期時期はその時にでも」
店長とソフィアさんのやり取りを見ていると、今度はジープや輸送車両という自衛隊の方々が乗った車両がお店の駐車場に到着する。
「薫さん。こちらの物資でよろしいですか?」
「はい。お願いします」
「了解です。総員!物資を車両に急いで積めろ!」
「「「「了解!!」」」」
自衛隊の方々が物凄い勢いで荷物を乗ってきた車へと積んでいく。そしてその場の偉い人とソフィアさんが何か相談し始める。
「薫ちゃん……?」
「何かな店長?」
「……何をやったんだ?」
「小説の仕事の関係でソフィアさんや他のお偉いさんに頼まれたんだ……目立たないで大量の食料を補給できないかって。それと料理も頼まれたよ」
「そうか……訳アリみたいだしあまり聞かねえことにするわ。あの戦闘服を着た奴らってことは悪事に関わってる訳じゃないしな」
「うん。ただ、少し極秘の厄介ごとみたいだけどね」
あくまで僕は相談を受けただけということで、知らないふりをする。
「ふぅ~……。うちはまあ儲かるからいいけどな。それより注文書を作るから事務所に来てくれないか?」
「分かりました。ソフィアさん!」
「聞いてました!こちらは運んでおくので追加の注文をお願いします!」
僕はあっちで作る献立を考えつつ、必要な材料を注文をしていく。
「あ。それと店長。もしかしたら、この注文書からさらに追加で注文する可能性があるからお願いね?」
「はは……いい話し過ぎて笑え無いな……なあ、本当の予算は幾らか訊いてもいいかのかい?」
「……億までとは」
「本当にいい儲け話だよ……全くよ」
店長はどこか呆れたような表情を浮かべつつ、注文書を作成するのだった。。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―それから3時間後「ビシャータテア王国・王宮 庭」―
アイテムボックスに入っている食材を王宮の庭の一角に設置されたテント内に置いていく。
「これで、しばらくは大丈夫かな?」
「十分過ぎるんだが……?」
王様が呆れた表情で持ってきた荷物を見ている。
「頼んだ俺が言うのも変なんだが……まさか、ここまでやるとは」
「あっちのお偉いさんたちがすごく協力的でして……」
カシーさんに頼まれてある報酬と引き換えに支援物資の依頼をした所、ソフィアさんと田部さんを通して、ぜひ協力する!!と言ってくれたのでお願いした結果……こうなった。僕が持つ金貨の使いどころと思っていたのだが……今回も不使用となってしまった。
「現在、あっちとグージャンパマを行き来出来る安全なゲートはビシャータテア王国にしかありません。なら、こちらも全力で対応させてもらう……。と言ってましたよ」
一緒にいたカシーさんがサラッと答える。
「そうか……追加は必要か?」
「ご安心を。最初の段階で大量のポーションを送ってあります。お偉いさんたちからしたら喉から手が出るほどだったようなので」
「暗殺防止なのですね」
「分かりやすいな……」
「一般人からしたら納得しにくいよ!それ!」
王様とレイスの言葉にツッコミを入れる。確かに毒や病気、即死以外なら有効だろうけど……そうえいばソフィアさんがポーション買ってこい!って言われたことを話してたけど、てっきり新薬の開発や便宜を図るために使うと僕は思っていたんだけどな……。
「設営完了!これより炊き出しの準備に入る!」
「「「「イェッサー!!」」」」
外で米軍の方々が炊き出しの準備をする。ここには見えないが自衛隊の方々も避難者が滞在するこの場所で仕事をしている。
「米軍はともかく。自衛隊はいいのかな?それなら消防庁や警察庁とかの方がいいような……法律的にも……?」
「緊急事態で火器を使用するかもしれない。何せ警察の銃が通用しない相手になるかもしれないからね」
そこに今回の現場の指揮を執る自衛隊の指揮官がやってくる。
「どうしてここに?」
「避難の方々が他に何か困っていないかを確認と報告です。すでに報告があったので仮設のトイレ、それと入浴施設の設置を完了。必要ならさらなる設置も検討しています」
「助かる。必要な魔石があるなら言って欲しい。すぐに手配しよう」
「ありがとうございます。お陰様で不衛生な環境にならずに済みます」
「いや。礼を言うのはこちらの方だ。国民の為に尽力を尽くしてくれて感謝する」
「いえ!これが我々の任務ですから!それと薫さん!」
「は、はい!」
はきはきとした勢いで僕の名前を呼んだため、僕も釣られて大きな返事をしてしまった。
「今回、ここは戦闘も要する場所。さらにこの国に何かあればそれはすぐに日本の危機にもなる。だから、火器を使えて未然に防げる可能性のある我らが来ているのです」
「でも……海外の軍事行動とか専守防衛とか問題になりませんか?」
「はい。だから今回の作戦は米軍も含めた双方にとってこれは極秘任務になります。他言は無用でお願いします」
「わ、分かりました」
「それと非情な話になりますが……何かあればすぐにこの場を撤退。繋がるゲートの破壊の命も受けてます」
「それはこの国の王として認めよう。我々からしてもそちらに何かあったとしたら悔やみきれない」
「お心遣い感謝します!それでは任務の方に戻らせていただきます!」
指揮官さんは感謝の言葉を述べてから敬礼して仕事に戻っていった。
「色々、問題があるのに手伝ってくれてありがたいわね」
「カシー!シーエ達が呼んでいるぞ!」
「ええ!今、行くわ!それでは……」
「ああ。動きがあったら魔道具での報告を忘れずにな」
「分かってますわ」
感心していたカシーさんがワブーに呼ばれてその場を後にする。
「相手はもうそこに?」
「予測では明後日だ」
「そうですか……そういえば他の国は?」
「何かあれば連絡をして援軍を送ってもらうようになっている。まあ……ソーナ王国は最初から送ると言ってるのだが……」
「敵の大将がシュナイダーだからですか?」
「そういうことだ。まあ、魔族が関わってる以上、ここが陽動の可能性もあるから待ってもらっている」
「なるほど……確かに今回の作戦って無策ですよね……」
「ああ。アイツらは単純に近くの村々を襲いながらこちらに向かってきてるだけ……少し怪しいものだな。だからお前さん達も気を付けろよ?もしかしたら狙いはお前さん達かもしれないんだからな」
「もしそうだったら……徹底的に叩き潰します」
もし僕たちが原因ならその時は容赦なく徹底的に叩く。これ以上の被害を生まないためにも……そして今回の件ですでに亡くなった方々への弔いでもあるのだから。
「……まあ、お前さん達には手を出させないつもりじゃから安心しろ。何せ可愛い娘の婿だしな」
そう言って笑いながら背中を少し強めに叩く王様。ただ、これからの戦局を不安に思っているのだろう少しだけ心配そうな表情だった。
「ありがとうございます……そういえば泉たちは?」
「騎士団の防具を見てもらっている。鎧なんかはドルグとメメの所が大急ぎで見てるんだが、それ以外は専門の奴らに調整してもらっているんでな」
「そうですか……」
僕は指を口に当てて考える。シュナイダーが率いる総勢3000程の化け物の軍。確かにあのバス事件の筋肉ダルマが3000と考えるとそれだけで十分な気もしなくもない。ただ、あのシュナイダーという男はベルトリア城壁での戦いにおいては相手を弱らせるために姑息な手段をふんだんに使っていた。そんな奴が無策とは考えにくい。
「お父様」
僕がそんな事を考えていると、ユノがやってきた。
「城壁の修復作業が終了。備え付けの大砲も前のワイバーンの際に整備したので問題無く動かせるとのことです」
「ご苦労。すまないなこんな仕事をさせて」
「王家の務めですから」
「そうだな……ユノ。前にも話をしてるが分かってるな?」
「……はい」
「一応、そちらの準備もしておくように」
「分かりました。それでは」
ユノが一度僕たちにお辞儀して何も話さないで去ってしまった。
「薫……」
「分かってます。何かあったらですよね」
「ああ……」
いざという時にユノだけは現実世界に逃がす。前にユノが言ってたことだ。忘れていない。
「大丈夫ですよ。きっと」
「……ああ」
その後、僕たちは王様と少しだけ話をしてからテントを後にする。
「大丈夫なのです?」
「大丈夫だよ。皆、強くなってるしね」
レイスの不安を拭うように笑顔で僕は答える。確かに今回の戦いがどんな風になるかは分からない。でも……。
「(思い通りにさせないからね)」
僕はレイスにも聞こえない小さな声で決意を口にするのだった。




