163話 嵐の前の準備
前回のあらすじ「ちなみにヘルメスの奴らは全員ボコボコにしました(描写略)」
―それから十分後「カフェひだまり・店内」―
「それでは……やっぱり薫さんが妖狸で、あの小説に書いてある異世界はフィクションでは無くて本物と?」
「はい……」
僕は妖狸の姿でうなだれながら、梢さんに説明をする。
「なるほど……だから電話が繋がらなかったんですね。違う世界じゃ電話なんて通じませんから……」
「すいません。色々ありまして……」
「いいえ……何かもう一担当者程度じゃもう手に負えないような状態とは分かったので気にしてません。むしろどこの出版社よりいち早く、その世界の状況をモチーフにした本を出させて頂いてると考えたらこれはかなり美味しいですから!」
梢さんが椅子から勢いよく立ち上がり力説する。
「きっと真実が世の中に伝わったら、薫さんの本は歴史上に残るような本になりますよ!始めて異世界に行った、とある女小説家の話として!」
「何でわざわざ女にするんですか……?僕、男ですよ!」
「それこそマルコポーロの東方見聞録のように!いや!それ以上に!!」
「聞いていない!?」
梢さんが一人で盛り上がっている。
「ということで……薫さん!」
「は、はい……」
「なるべくフィクション性は少なめでお願いします。なるべく史実通りに……薫さんの恥ずかしいシーンも隠さない方向で!」
「それは拒否します。もし強制するなら……」
「冗談です♪ただ、薫さんが体験した事を書いていただければ問題ありません」
「そこは大丈夫です」
今、書いている小説の内容はほぼ僕が経験した事を書いている……黒歴史以外は。
「となると……話の順的には次はヘルメスとの初戦闘ですよね!?盗賊団をワンパンチで吹き飛ばすなんて痛快だと思いますよ!」
「そこは載せないようにしようかと。あくまで現実世界ではグージャンパマの人々との日常に留めようかと思ってます。下手に書いてヘルメスに気付かれて目を付けられる可能性もありますし……」
「あ~……そうですね……。流石にそれは御免蒙りたいですね。そこは諦めましょう……しかし、薫さんの服装はダメですよ!巫女服じゃなくてもせめて和風ゴスロリ服を提案します!」
「「……違和感が無いかも」」
「あみちゃんたち?何を言ってるのかな?」
しかも、息ぴったりだったし。
「大丈夫だ薫。お前以外は全員が似合ってると思ってるだけさ」
「マスター!!」
いつも僕の味方をしてくれるマスターがそんな事を言うなんて……。昌姉は笑顔でこちらを見てるだけだし……もう僕には味方はいないのか!
「薫……」
レイスが声を掛けてくる。もしかして……。
「フィーロに頼んで作ってもらうのです♪」
「レイス~~!!」
相棒のトドメを刺されるなんて……!
「写真……お待ちしております!それを元に挿絵を描いてもらいますから!」
「絶対に送りませんからね!?」
しかしこの2ヶ月後、挿絵どころか扉絵にも和服ゴスロリを着た僕に似たキャラが載ることを、この時の僕は知る由は無かったのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―翌日「魔導研究所クロノス・通路内」―
「……ということなのでお願いするのです!」
「任せて!バッチリ用意するから!」
「やるッスよ!」
施設内の復旧のために現在、施設内の瓦礫の撤去やら掃除をしている僕たち。そこでレイスが昨日の提案を泉たちに話をしていた。ふっ……これで和風ゴスロリを着る羽目になるのか……。
「そんな嫌な顔しないでよ薫兄!かっこかわいい服を用意するから!」
「かわいいは抜いてくれないかな?」
「「「却下!」」」
「……はい」
もう、勢いが止まらないのは分かってるので素直に諦めて掃除に精を出すとしよう。
「所長!こちらの瓦礫を運びますね!」
「お願いします」
「了解です!いくぞ!」
「「「はい!」」」
撤去する道具や瓦礫を所定の場所に運ぶ緑色の迷彩色を着た方々。
「ついには軍が投入……いいのかな……」
「国の発展の為ということで問題無いとは言ってたけどね」
「Hey! That's over there!」
「Give me the tools!」
英語で会話をする迷彩服を着た人たち。違う部屋では別のグループで迷彩服を着ていない人たちもいる。
「こっちは米軍……あっちは組織の人?」
「うん」
「薫殿!」
今度はドルコスタ王国のドワーフ賢者さんたちがこちらへと走ってくる。
「修理用の材料なんだけな。どこにおけばいい?」
「それなら実験場に置いて下さい」
「分かった。これから他にも置くと思うんだがそれらもそこでいいか?」
「はい。お願いします」
指示を出すとドワーフの賢者さんたちは走って実験場へと向かって行った。
「……カオスなのです」
「そうッスか?」
「まあ、ここまで色々な癖のある人たちが集まってるとね」
「一番、癖のある薫兄が言っても説得力が無いかも」
「「うんうん」」
「三人とも……組織の人たちとか軍の人たちより僕って癖が無いと思うんだけど?」
そんな話をしつつ、施設内を掃除する僕たち。
今日の朝、僕の家の庭に3台のワゴン車が入って来た。それぞれの車に自衛隊、米軍に組織の方々となっていて、車から色々な道具を担いだ彼らをこちらへと僕たちは案内をした。盗聴器やら変な物を仕掛けないかなと思ってたりしたのだが……。
「大丈夫ですよ?何か変な所があれば分かりますから」
セラさんがニコっと答えてくれた。恐らくだがこれは嘘ではない。前回の案内の際に賢者の一人がペンを落とした際に本人より早く気付いたり、潜り込んでケーブルを確認していると、そのケーブルなら……。と見ないで答えてるので、この施設内なら謎技術によってどこでも監視が出来るのだろう。そして彼らもそれに気付いてるのだろう……非常に真面目な仕事をしているとセラさんから報告が入ってたりする。
「セキュリティ……高いな……」
「薫兄?どうしたの遠くを見るような目なんかして」
「なんでもないよ」
直哉たちとしては2週間後には一部稼働。来月には本格稼働を目指して急ピッチで動くとのこと。
「とにかく僕たちも頑張らないと!」
「なのです!」
一日も早く稼働できるように僕たちも頑張らないと……!
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―「ビシャータテア王国・会議室」カーター視点―
「何だと!?その報告は本当か!」
「はい。すでにシュナイダーが率いる軍勢……およそ3000の化け物がこちらへと向かってます!」
「すぐに各所に連絡せよ!外壁の作物はすぐ収穫するように人員も出せ!」
「はい!」
「ハリル達は引き続き奴らを見張り、奴らの動きを逐一報告せよ!いいな!」
「「はは!!」」
ハリル達が返事をしてその場を後にする。
「騎士団にも収穫の手伝いをさせますが、よろしいですか?」
「ああ。頼む」
「俺は騎士団の一部を率いて今のうちに外壁に破損、ヒビが無いかを確認する。他にも備え付けの武器の手入れもだな……」
「ですね。カーター達にはそちらをお願いします」
「わ、私はすぐに薬の大量生産します!」
「だな。カシー……」
「言わなくても分かってるわよ。すでにカーンラモニタで武器の大量生産をしているドルグとメメにも話をしてるからすぐに使っていいわよ」
「ありがとうございます!では!」
スメルツ達もその場を後にした。
「グランツ達は?」
「あの洞窟からエーテルを採取。急いでこちらへと向かっていますわ。その後は街の警備に当たるそうです」
「そうか……どうやら戦闘の準備は間に合いそうだな」
「それでも王様。今回の被害は甚大ですわね。すでに一つの町が壊滅、小さな村々も襲われています。」
「それと、なんとか逃げて来た者達はすでに準備していた場所に避難させてるぞ」
「うむ……各ギルドと王都内の様子は?」
「王都内にいた冒険者たちに冒険者ギルドから依頼として出してもらっています。それと商業ギルドに必要な道具の販売を優先してもらっています」
「見回り中の騎士達の報告ですが、王都内での大きな混乱はまだありません。ただ、食料などが無くなると危惧した人々が買いだめしようとして供給が間に合っていないとの報告もあります」
「うーーん……」
シーエの報告に王様が頭を悩ませる。この後、防衛の為に通常の供給が出来なくなる。となると城にあるイスペリアル国の転移魔法陣か、俺の屋敷にあるクロノス経由でのアリッシュの転移魔法陣での供給になるのだが。その供給には人員と資金がかなり必要だろう。
「ちなみにここで薫たちに頼むと、速やかに解決するぜ……何か金貨1000枚あって使い切れないとぼやいてたしな」
ああ……それは助かるな。魔法使いで大容量のアイテムボックスを持ってる……たった一組の魔法使いで補給が出来るのは非常にありがたい。
「すぐに頼みたいところだなそれは……というよりそんなに稼いでいたのかあやつらは……」
王様が両手で頭を抑えている。まあ、危険な魔獣であるクラックウルフの群れをキレイな状態で一網打尽にしたらしいから、いい報酬を得たのだろう。
「頼むとするか。ただな……」
王様の言いたいことが分かる。あの4人に協力してもらえば問題解決だ。しかし。
「有事の際の自国の防衛を考えると、彼らの力を借り過ぎるのも問題ですわね」
彼らは強力な魔法使いでぜひ戦ってもらうと助かる。しかし、彼らはあちらの世界の住人であってこの国の住人ではない。そんな立場である彼らに頼み過ぎるのはこの国のためにならない。
「でも、支援はすると言っていたな。おそらく薫の得意な料理の支援だから炊き出しは安心だな」
「それなら後で報酬を与えるとしよう。タダ働きにさせないようにしないとな」
「それと王様?」
「何だ。カシー?」
「薫からいい情報がありまして……それを使えば大量の物資を得られるかもしれません。その際に薫に協力してもらいますが」
「言ってみよ」
「はい。それで……」
カシーの提案を聞いた王様はすぐさまにこれを採用。俺はすぐにクロノスに出向き、薫にその提案の協力を頼むのだった。




