162話 蒼の剣の名前
前回のあらすじ「ちなみにタンザナイトは非常にもろいです(超音波洗浄で割れる)」
―その日の夕方「薫宅・自宅」―
「普通の剣?」
「うーん。すごく硬い剣には変わらないかな?鵺と比べても重いし……」
一通り演習場で蒼の剣を振るって確認を終えた後、家に帰ってきた僕たちは晩御飯を食べながら話をする。
「魔法の威力は上がりましたが、それは鵺も同じなのです」
「形を変える訳でも無いし……普通よね」
「そもそも魔法使いの武器ってそう言う物ッスよね?」
フィーロの言う通り、そもそも鵺が超特別製であって蒼の剣が普通なのだ。
「もしかしたら蒼の剣が本来の僕の武器って可能性があるしね」
「ああ。直哉さんの変な部品を使った事によるエラーっても考えられるのね……」
「それはありえるッスね!」
「なのです!」
二人が食べ物でほっぺを膨らましながら答える。
「二人共、お行儀が悪いよ。……まあ、とにかく使用していくなかで何かがあれば分かっていくと思うよ」
というより普通でいいのである。そんな特別な剣とかは僕には不要なのだ。しかし、製作時にその場にいた人たちから疲れが取れたとの謎の現象があったりするので普通とはいかない気もする。
「そうね。そういえば、これで鵺の城壁を盾にして剣を構えたり出来るようになるわね」
「今までより戦術に幅が広がるのか、それとも器用貧乏に……なりそうかも」
僕は置いてある蒼い剣を見る。これをどう有効活用するか考えないとな……。
「そう言えば名前は?」
「え?」
「名前。この剣の名前。さっきから蒼の剣ってどこぞの入手度が困難な剣の名前を呼んでるけどさ」
「じゃあこれの名前は狂人剣ッスね!」
「何かバーサク化しそうなのでダメなのです!」
レイスと同じでそんな名前は僕も却下だ。何でそんなハードゲーマー共が根気をかけて取るような剣の名前を付けないとならないのか。蒼と剣……神話とかにそんな剣ないと思うけどな……ここは自分でしっかり名付けないと……じゃないと……。
「エクスカリバーが良いと思うんだけどな……」
それも却下である。最終的に光を集めて一刀両断などという剣技などしないからね!とにかく……蒼…青…水に空……でも、これって深みのある青だし……青紫?……名前はなんとか刀とか、なになに剣とか……いや、そんな風にしなくてもいいのか……。
「四葩……?」
「よひら?」
「うん。紫陽花の別名で四つの花弁があるように見えたから付いた名前だよ。青紫って考えたら何とか思いついた」
「四葩……良い名前なのです」
「そうッスね」
「最初は青い剣で相手の返り血で赤くなっていく……まるで色が変わっていく紫陽花のように……」
「そんな意味は無いから!!」
「冗談だって!でも、いい名前じゃないかな」
「う、うん。そうだね……」
3人が武器の名前を誉めてくれる……。ただ、一つだけ嘘を付いてしまった。そう。泉のその例えはあながち間違っていない。実は頭の中で武器=相手の命を奪う物と考えた時に死を連想させる物として地獄やら黄泉やら無間やら……そして、その中で現世と黄泉を分ける黄泉比良坂が思いついて……。言えない。まさかそれを略称したら、たまたま四葩が思いついたなんて……。
「花の名前って言うのもいいッスね」
「なのです!」
「流石、小説家!」
「あははは……」
この事は墓場まで持っていこう。僕はそう決めるのだった。
「ということで……四葩に決定だね」
―薫は「両刃剣・四葩」を手に入れた!―
効果:刀身が両刃になっている細身の剣です。製作の際にタンザナイトを使用したせいか透き通った深い青色をしています。現状、特に効果はなさそうですが、疲れが取れたとの話もあるので注意して観察していきましょう。
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―翌日「カフェひだまり・店内」―
「凄い……キレイ……」
「刀身を宝石で作ったって言われても疑わないですね」
今日は久々にひだまりで仕事をする為に出勤。休憩時間になったところで四葩を見せながら土産話をしている。ちなみにあみちゃんと雪野ちゃんが先ほどから四葩に心を奪われている。
「記念に一枚撮りたいです……宝石の剣ということで……」
「見せないならいいよ。妖狸としてこの剣を振るう可能性があるからさ」
「妖狸でこの剣を掲げられたら、変な噂が流れそうですね。妖狸!神剣を抜く!みたいに!」
「可能性大なのです」
レイスの言葉に話していた皆が笑い合う。
「ふふ……楽しそうね」
「だな。しかし見事な剣だな」
そこに、マスターたちがお盆の上に人数分のティーポットとティーカップを載せながら近くにあった適当な椅子に座る。
「そうね。私にも見せてもらっていいかしら」
「どうぞどうぞ」
二人がその剣を昌姉に渡す。昌姉は窓から入る光に剣をかざす。
「すごい……」
「ふぁ~あ!!キレイですね!!」
「太陽の光が剣を通過して青い光を放って……!!」
「美術品みたいなのです……」
女性陣が剣に夢中になる。
「あれって鵺みたいに何か効果あるのか?」
「特別な物は無いはず……かな。何か製作中に疲れが取れたってドルグさんたちが言ってたから否定できないけど」
~♪~~♪
僕のスマホが店内に鳴り響く。スマホの画面を見るとそこには橘さんの名前が……僕は電話に出る。
「もしもし………ええ。大丈夫ですよ。はい……分かりました」
僕は電話を切ってスマホをポケットに入れ直す。
「仕事か?」
「ヘルメスの奴ららしい男達が暴れてるって」
「らしい?」
「橘さんが言うには、どこからしくないだって。ただの不良に銃を渡しただけのような感じとか」
「何があるか分からねえからな……気を付けろよ?」
「うん。じゃあ行ってきます」
「なのです!」
そして僕とレイスは返ってきた四葩をアイテムボックスにに入れてから、妖狸のお仕事にいくのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―その日の夜「カフェひだまり・店内」マスターの視点―
「おう!お疲れ!二人共」
「「お疲れさまでした!!」」
最後の客が帰った所で、外の札をCLOSEにして本日の営業を終了する。
「どうだ?慣れて来たか?」
「はい!最初は忙しくて大変でしたけど何とか!」
「混雑時の捌き方とか凄かったです」
二人を雇ってしばらく経つが、真面目にいい仕事をしてくれている。お陰でこちらの負担も大分軽い。
「それじゃあ、賄いを作ってやるからそれ食ってから帰っていけ。薫達も仕事が終わってこっちに来るって言うから」
「ありがとうございます!」
「ふふ♪」
これで夕食を取って今日も一日が終わり……。
~♪~~♪
「え?お客様?」
入り口から誰かが入ってくる。確か、店の看板はCLOSEにしたはずなんだが……。
「すいません……」
「あれ?確かあんたは……梢さん?薫の担当者の?」
「はい。実はご家族であるお二人に尋ねたいことがありまして……」
「分からりました……どうぞ。こちらへ」
昌がテーブル席まで案内する。俺は話を聞きながらお茶を淹れる。
「実は……薫さんに連絡がすぐにつかないことが多くなりまして……」
「ああ……」
梢さんの言いたいことは分かった。それはしょうがない。なんせ薫の奴はその時はこの世界にはいないのだから。
「今までは遅くても夜とかに連絡をしてくれたのですが……最近は2,3日後とか。この前、電話をしたら電波の届かないまたは電源を切ってるになって……」
「なるほどな……どうぞ」
俺は淹れた茶を梢さんの前に出し、近くの椅子に座る。
「それで、薫さんに何かあったのかな~~と。何かあったなら、会話とかでその事に触れないとか原稿の納期とか気にしないといけないので……」
「本人がキツイとか言わなければ問題無いかと……」
「最近、ネタ探しでそんな所にしょっちゅう行ってるからな……」
薫自身は問題無い。まあ忙しすぎるというのはあるが、それでも体調を崩したり、精神的に参っているとかでは無い。それに本当にきつかったら、あいつの姉である昌がすぐに気づくだろう。
「そうですか?それならいいのですが……」
「薫にも梢さんに連絡を入れるように伝えときますから」
「いいえ!そんなお手間を取らせる訳にはいかないですから!それに徐々に人気を上げている先生にゆとりを持って執筆に励んでいただけるようにと思った次第なので」
「そうですか……」
「ただいま……昌姉」
「ただいまなのです」
「おう。お帰りふた……」
噂をすれば何とやらとは言ったが……。
「あ、薫さ……え!?妖狸!?」
「え?あ!梢さん!?あ、その……」
梢さんが声のする方へ振り向くとそこにいるのは妖狸姿の薫。そしてその妖狸はいつもとは雰囲気の違う口調で自分の名前を呼んでいる。これでは誤魔化しは効かないだろう。
「どうしてこうもタイミングが悪いのやら……」
まさか、妖狸の格好のままで入って来るとは……俺はため息を吐いて呆れるのだった。
「これで梢さんもこっち側なんですね……」
「なんだろうね……」
先ほどから黙って見ていた二人からポロっと言葉が漏れるのだった。
「嘘!?外の看板CLOSEになってたのに!」
「妖狸じゃなくて薫さん?え、え?つまり、世間を騒がせてる妖怪の正体って!?」
薫の一言に、あれ?これって俺のせいか?と思いつつ黙って梢さんと薫のやり取りを見守るのだった。




