161話 宝石の剣
前回のあらすじ「視察終了」
―「魔法研究施設カーンラモニタ・第三研究区画」―
「この延べ棒を使って強化じゃと!!」
「カシー!いくら何でもチョット待ってくれよ!こんな貴重な物を!!」
二人がカシーさんに近寄りアダマンタイトの延べ棒を使う事を強く拒否する。
「二人共!まだ延べ棒はあるから!」
「「え?」」
「その一本だけじゃないわよ」
「それ以外にクロノスの保管庫に90本あるのです。だから問題無いのです」
保管庫にアダマスの修繕用なのか、それとも別の用途があるのかアダマンタイトの延べ棒が床に直置きされた状態で置いてあり、数えると100本あったのでそのうち10本を拝借した。すでに8本は研究用にあっちこっちに渡している。
「そ、そうなのかい……いや、それでもビックリだけどね」
「分かるのです。あれを見て……それがアダマンタイトって聞いた時は私も悲鳴を上げましたから……」
「とりあえず、それもう一本、お渡ししますね」
僕は持っている最後のアダマンタイトの延べ棒をドルグさんの震える手に渡す。
「ああ……確かに受け取ったぞ!これを参考にアダマンタイトを造れるわい。と、いうことでお前さん達の武器を強化するぞ!というより泉達みたいにちょくちょく来い!」
「ドルグの言う通りだよ!魔法使いの武器はパワーアップさせていくのが基本なんだからね!」
二人がいつもの調子に戻そうとするが、その声はまだどこか震えている。
「す、すいません……可変性が無くなるのが怖くて」
「なのです」
「まあ、その気持ちは分かるんじゃがな……それでもパワーアップさせた方がいい。カシーに聞いたが壊されたんだろう?」
「ええ。まあ」
「強化すれば、可変性を失わずに、より強固な物が作れるかもしれん。もし失われてもこのアダマンタイトを使うんだからかなり強力な武器になるじゃろうって。もし入れ物に困るのならそのミスリルのアイテムボックスで何とかなるしの」
「そうですけど……これの最初が……」
「確かにとんだじゃじゃ馬だが……まあ、しょうがないじゃろう。それにお前さんの武器を調整するチャンスを今日逃すといつになるか分からないしの」
あご髭をさすりながらドルグさんが困った顔をしている。
「それってどういう意味ですか?」
「シュナイダーの足取りをさっき聞いたんだけど、炭鉱にいた囚人奴隷が全ていなくなっていたそうよ。そこにいた管理人達を皆殺しにしてね」
「それって」
「それと近くの領主の所まで逃げて来た奴隷達から、シュナイダーが囚人奴隷を率いて王都を襲う話が聞けたそうよ。俺達はあれにはなりたくないって泣きながらね」
あれにはなりたくない?それってどういう意味だろう……恐らく王都を襲うと言ってるのだ。シュナイダーの何かしら秘策なのだろう。だから、その秘策に賛同できないという意味だろうけど……。
「だから薫の武器を強化して準備をするのですね」
「いいえ?今回あなた達と泉達はお休みよ」
「え?だって……」
「……あなた達に人殺しはさせないわ」
カシーさんのその言葉を聞いて体が少しだけ反応する。今までは人外との戦闘だったが、今回は犯罪者とはいえ人を殺せるかと言われれば無理かもしれない。
「お前さん達には大変世話になっておる。ただ、今回の件はこの国の中での出来事じゃからな」
「まあ、魔法使い一組に奴隷1000人程だから問題無いけどね」
「ということだ。だから安心しろ」
皆が自信満々に言うが……。
「本当に問題無いと思うの?」
「……懸念事項はある。逃げて来た奴らのあれにはなりたくないと言った奴隷から聞いた話だが、何でも薫があっちで見た筋肉ダルマを見たそうだからな」
「それって……」
「魔族が関わってるのは間違いないが大丈夫だ。召喚獣を呼び出せるのは、今やお前達の専売特許じゃないからな」
「それはそうだけど……分かったよ」
魔族が関わっていることに心配する。が、あのロロックやダゴンでの戦闘から比べたら皆の魔法は比べ物にならないほどに強くなってるし、魔法使いたち以外の騎士さんたちの装備もパワーアップしている。
「それに、薫達に何でもかんでも頼っていたらこの国の為にならないからな。ここは我慢してくれ」
言いたいことは分かる。ただ、黙って見ているというのも出来ない。この国にはたくさんの知り合いがいるし、ユノの為にも何かしたい。
「ただ支援はするよ?レイスもいいよね?」
「もちろんなのです」
「それは頼む。むしろ戦闘中にいい食事にありつけるのは士気に関わるしな」
「話はまとまったか?ほれ。さっさとやるぞ」
「はい」
ドルグさんから催促が来たので、僕たちは釜の前に来て、鵺のパワーアップに取り掛かる。
「それで薫。材料はどうするのです?」
「材料か……」
可変性を失うのは怖い。……でも、どうせやるのだ。一気にやった方がいいだろう。
「男は度胸!アダマンタイトに……」
「まあ当然じゃな」
「男は度胸……似合わないねえ」
メメが何か失礼な事を言ってるが気にしない。僕はアイテムボックスから素材を取り出していく。
「ワイバーンの歯に悪魔の羽、残ってるユニコーンの角とミスリルにカーバンクルの魔石……」
出した素材を釜の中へと次々と入れていく。
「当然……じゃないんだけど。まあ、泉達も使ってたしね」
「これまで薫達が手に入れた物を全部投入かしら」
「だろうな」
「後は……」
僕はアイテムボックスからある物を取り出す。それは手のひら大の青い原石。
「セラさんに合成用の素材としてもらったこの石も」
「なにそれ!!」
カシーさんが僕の手から奪ってそれを眺める……が、すぐに興味を無くしてそれを僕に返してくれた。
「ただの宝石じゃないの」
「どれどれ……これは酷いな」
「この色……タンザナイトかい。素材に使う物じゃないよ」
皆から酷い言われようであるが、これを現実世界で売ったらどれだけの高値が付くか分かった物じゃない。
ちなみにこの世界の宝石事情だが色々な場所で採れるとのこと。アリッシュ鉱山でも鉄を取ってるはずのなのに、何故かダイヤモンド鉱石やらエメラルド鉱石、サファイアの鉱石と一つの山からありえない採れ方をしていたのを見た。タンザナイトは現実世界と同じように採取量は少ないがグージャンパマでは露店でも売っているくらいで、大した価値が無いとのこと。
また、これをセラさんから貰った経緯だが、セラさんが僕の武器に興味を持って鵺を見せた所、かなり興味深々で鵺について訊いてきたので作成時の話をしたのだが、その最中に黒一色というのも寂しいということでこれをオススメされたのだった。何でも宝石を混ぜる事で、強度が若干弱くなるが色付けが出来るらしいのだ。
「でも、あのセラさんがオススメするんだから入れていいかな?」
「お願いするのです」
「二人がいいならいいけどさ」
「どうなっても知らんからな?」
「分かってます。それじゃあ入れますね」
僕は釜の中にタンザナイト、そして鵺を入れてその場から離れる。
「では……いくぞ」
そして、錬成が始まる。
「なんじゃこれ?」
「落ち着いてるね?しかも……」
錬成をすると釜から強い光が発光するのだがそれが今回は無い。変わりに青い優しい光が部屋中に広がる。
「まさか、さっきのタンザナイト?」
「かもしれんの……」
その後、二人は時折会話を交わしながら錬成をするのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―15分後―
まるで釜に吸収されるように青い光が弱くなっていき……そして消えた。
「完成……でいいんだよな?」
「あまりにも静かだからね……むしろ何かうちらの体が良くなった気がするよ」
「お前もか?俺も腰が良くなった気がするんじゃが……」
「私は目が軽くなったわね」
「……何かとんでもない事になったんじゃないか?」
「僕もそう思う」
「なのです」
皆の疲れが癒される時点で何かおかしなことが起きているのは明白である。とりあえず、僕は釜を開けて中を確認する。
「え?これって……」
「どうしたの?」
僕は球体状の鵺を取り出す。皆がそれを確認してる中で僕はそれを黒剣にする。可変性は失われておらず色も真っ黒のままで何も変わっていない。
「何も変わっていない?」
「見た目だけじゃろうって。中身はより強固な物になってるはずじゃ」
そして、皆の確認が終わった所で釜の中にあったもう一本の武器を取り出した。
「「「「え?」」」」
「キレイなのです」
レイスが思わず感想を述べる。取り出した武器は刀身がタンザナイトのような透き通るような群青色をした細身の両刃剣……僕も思わず美しいと思ってしまった。
「これってエクスカリバーっていう物なのです?」
「どうだろう……」
錬成時の余った物は釜に残るとのことだったので、これは余り物で出来た剣……残念剣であるエクスカリパーかもしれない。
「これって余剰物?」
「薫。ちょっとそれをよこせ」
「あ、どうぞ」
ドルグさんに剣を渡すと、すぐに眼鏡を掛けて剣を丁寧に観察し始める。
「少しだけ待ってろ。調整してやる。メメ!」
「はいよ!!」
そのまま、釜のあるこの部屋から出ていってしまった。
「どうやら余剰物では無いようだな」
「そうね……でも、あれって一体何なのかしら?」
「分からん。とりあえず、後を付いていくぞ」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―さらに一時間後―
「完成だ!持ってみろ!」
作業場でドルグさんが叫びながら剣を持ってきてくれた。手に取り確認すると、釜から出した当初より全体的に輝きが違う。より刀身が光っていて本当に宝石で出来た剣かと思うぐらいだった。また持ち手の方もしっくりくる。
「全体的に磨いて、持ち手も少し堀を深くしといたんじゃが……どうだ?」
「しっくりきます。ありがとうございます」
「見た感じだと、それは余剰物じゃねえ。おそらくそれもお前さんの武器だ」
「何それ!キレイ!!」
作業場の入り口にユノと泉、フィーロがいた。
「どうしてここに?」
「薫が武器をパワーアップさせると言っていましたからね。城に戻る前に見てみようかと思いまして」
「何ッスかそれ!?宝石の剣?」
フィーロが出来立ての剣に触れる。
「凄いッス……魔力がキレイッス」
「キレイ?」
「フィーロと同じなのです。何というか淀みが無いのです」
「ああ。それは作業中に思ったよ」
「精霊にはそう感じるか……」
「ああ……」
ワブーも静かに頷いている。精霊だけ感じる魔力がキレイ……いや。まさか……ね?
「聖剣……?」
「セーブ・ザ・クイーン……?」
「却下!」
その後、性能が気になるということで演習場へ行って僕はその蒼の剣を振るうのだった。




