160話 施設見学の終わりに
前回のあらすじ「アダマス!行きま~~す!!」
―「魔導研究所クロノス・三階 所長室」―
「同じね」
隠し部屋発見後、セラさんに頼んでカシーさんたちに所長室まで来てもらって、置かれている魔法陣を見てもらった。
「やっぱり」
「俺達が後付けしたロックの魔法陣を抜けば完璧だな。薫の祖母であるアンジェはこれを使って帰ったのだろう」
「これって使えるの?」
「いや。使うとしたらまた魔石を使ったペンで再度描くか、お前の家の魔法陣みたいに彫って月の雫を流し込む必要があるな」
「この隣の部屋からこれを見つけたんだけど……」
表紙にカーター家の紋章をあしらった本をアイテムボックスから取り出して、カシーさんに渡す。
「拝見するわ」
カシーさんが本を開いてパラパラと軽く読んでいく。
「なるほど……この魔法陣はプライムたちが……」
カシーさんは本を閉じて、僕に返してきた。
「この施設に一度、カーターたちの先祖であるプライムがこの施設に侵入。この魔法陣を設置した旨が書いてあったわ。侵入方法は私達がここに来た際に使ったあの魔法陣。あれは普通の転移魔法陣とは違う特殊な魔法陣らしいわ」
「特殊?」
「通常の転移魔法陣は現地に行って魔法陣を設置しないといけないんだけど、これは対象を取ることでその場所に対になる魔法陣を設置できるらしいわ」
「対象って何を?まさか魔導研究所クロノスを?」
「アダマスよ。あのアダマスにはマーカーポイントになるように施されてるの。さらにアダマスのマーカーポイントの設定にクロノス施設内……ポータル場のあの場所に転移出来るようになっているみたい」
「かなり複雑な処理がされてるみたいだね」
「だな。しかし色々な謎が残る施設だな」
「やっぱり?」
「ああ。まず第一にあのアダマスを何故置いていったのかだ。セラが言うにはここは一度放棄されている。それなのに高性能で故障も見当たらないアダマスを置いていった」
「うん。それに資料や備品が一部そのままってのも怪しいと思う。しかも施設はボロボロなのにそれらは防腐処理されてるし。何より禁書を放置はおかしい」
「あなた達がいない間に他の研究者達で施設内を見て周ったのだけど、ここの動力室の魔石……かなり巨大な物だったのだけどそれも放置されてたわ」
「……薫。お前はどう思う?」
カシーとワブーが僕を見つめる。恐らく二人と同じ答えだろう。
「決まってる。この施設は放棄されたんじゃない……放棄と見せかけた隠蔽。秘匿に稼働している施設だと思う」
「同意だわ」
「同じくだな」
「この施設の目的……見せかけはボロボロだけど、必要な物を保護する保管庫的な役目だね」
そしてここの所長を僕が任命された。そこにマクベス、お婆ちゃん、もしかしてララノアさえも関係してるのかな?
「薫様。お客様です」
隠し部屋で話し合ってると、セラが声を掛けてくる。
「誰?」
「ポータル場に男性3人と精霊2人……男性の一人はカーターと名乗ってます」
「分かった。ここにお連れして」
「かしこまりました。ただいま予備に行かせますね」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―それから30分後―
「なるほどな~……」
王様が溜息を吐きながら、プライムの日記を閉じる。カーターたちと一緒に来たのはシーエさんたちと王様だった。忙しくなる前に一度、視察したかったとのことだった。
「プライムは秘密裏に自分家の馬小屋に地下と魔法陣を設置。ここに来てアンジェの為に必要な準備をしていたと」
「そして数十年前にアンジェが来て、施設の一部復旧とメッセージを残して帰っていったと」
「でも、それだと辻褄が合いませんね?」
シーエさんが日記の内容を聞いて、疑問を呈した。
「もし、ここがアンジェさんの娘である明菜さんのための施設だとしたら、薫さん達の世界とグージャンパマを繋ぐ異世界の門が無いといけません。しかし、ここにあるのは使用済みの魔法陣ですし……」
「多分、完全に準備が終わる前に死んだからだ」
カーターがシーエさんの問いに答える。
「ああ……なるほどな。確かにそれはあるかもな」
王様が一人納得している。プライムさんたちによって王国は繁栄したのだから、その最後も知ってて当然なのか。
「王様。それはどういうことですか?」
「プライムとタリーの最後なんだがな……農地の視察の際に落雷によって死んだんだ。恐らくそんな急な最期だとは思っていなかったんじゃないじゃないか?」
「でもお父様、そうなるとアンジェさんはどうして明菜さんに伝えていないのでしょう?」
今度はユノが疑問を投げかける。
「確か、アンジェの死亡原因は……衰弱。つまり老衰だったな」
「伝える時間も当然あったはずです。それなのに……」
「その答えは恐らく、母さん宛のメッセージに残ってるんだと思う」
「そうだったな……出来れば明菜殿にすぐに来てメッセージを聞いて欲しいのだが……」
「母さん。仕事が締め切り間近だからちょっと待って!!って言ってたから無理かな……」
父さんは会社務め、母さんは65歳にして現役の推理小説家として活躍している。電話の際に聞いた声からしてかなり慌てていた。本人としてはすぐに来たいみたいなのだが……。
「ということで無理かと……」
「しょうがない。明菜殿にも生活があるのだからな」
「それにここに関して言えば、そんなに急ぎじゃないわ。他にもやることが一杯だし」
カシーさんの言葉に、この場にいる全員が頷く。
「……もう少しで夕方ですね。今日はここでお開きにしませんか?」
田部さんに言われて、僕も時計を見ると16時半過ぎになっていた。
「そうですわね。このボロボロの施設内で煮詰めるより笹木クリエイティブカンパニーで詰めた方がよさそうですし」
「でも、警備はどうしますか?領主として私兵か冒険者を就かせる事も考えているのですが……」
「領主様。それには心配いりません。ここの警備はアダマスと私が担当しますのでご安心を」
「お願いします。それなので領主様の方はここに人が入って来ないようにお願いします」
「分かった。この前の件でいくらか内情を知っているロック達に頼むとしよう。彼らはかなり優秀な人材だ」
「あいつか。なら問題無いな」
王様が腕を組んで納得している。ユノも信頼できると言ってたし王様も言うのだから問題無いのだろう。
「分かりましたアダマスにもそのような指示をしておきます。ただ……薫様。お願いがありまして」
「何かな?」
「3台あるうちの一つをそちら……薫様の住む世界にご同行したいのです」
「え?でも本体ってこの施設だよね?」
「問題ありませんよ?この機械にも記憶処理がされてますのでこれも一応、私です。それに施設の修復に必要だと思われるので」
「うーん……いいですか?」
僕は田部さんに向かって確認を取る。
「後で総理には伝えておきます。くれぐれもご内密に」
田部さんが少し考えながらも許可を出してくれた。
「分かりました。セラさん。かなり制限があるけどそれでもいいなら」
「問題ありませんではこのままこの機械でご同行しますのでよろしくお願いしますね」
―薫は「セラ」を手に入れた!―
内容:魔導研究所クロノスの管理人。完全な3Dホログラムで姿を映しているがその下のお掃除ロボットのようなのが本体。魔石を使用してるので充電などは不要で半永久的に動けます。
「じゃあ帰りますか」
今日のお勤めはここまで!と思ってると……。
「薫、それとレイス。この後、一緒に付き合ってもらっていいかしら?」
「え。何?」
「お前達にやって欲しい事があるんでな」
「やって欲しい事なのです?」
カシーとワブーが真剣な眼差しで僕たちを見るので、重大な要件だと思い僕たちは了承するのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―そこから1時間後「魔法研究施設カーンラモニタ・第三研究区画」―
あの後、ユノも家に帰るとのことで荷物を持って来るのに領主様、それと施設の管理人になった泉とフィーロ、それと護衛にカーターとサキの6人を施設の外まで見送った後、直哉のグループと一緒にビシャータテア王国に帰還。さらにそこから分かれて、僕たちはカーンラモニタにやってきた。ちなみにセラさんには直哉と一緒に行くように指示をしておいた。
「やっと来たか」
カシーさんたちと一緒に第三研究区画……つまり魔法使い専用の武器を作った部屋までやってくる。部屋の中にはドルグさんと相棒の精霊であるメメが待っていた。
「おそかったね!何かあったのかい!?」
「この子達が見つけた物がそれほどの物だったってことよ。それとここでアダマンタイトの制作をするかもしれないから……これレシピね」
それを聞いたドルグさんはレシピを奪い取るような勢いで受け取り、そこにメメも我先に見ようとして体でドルグさんの顔を押し出すんじゃないかと思うような速度でぶつかりそのまま見始める。あの速度でぶつかったのにドルグさんはそれに関して無反応のままレシピを読んでいる。
「これがあのアダマンタイト……」
「薫」
「え?……ああ」
僕はカシーさんの言いたいことが分かったので、アイテムボックスからアダマンタイトの延べ棒を取り出して渡す。
「うおーーーー!!!!アダマンタイトの延べ棒じゃと!!冗談じゃないのか!?」
そう言って、ドルグさんが近くの机にあった眼鏡を掛けてじっくりと観察する。
「どうなんだいドルグ?」
「……あ、あう…」
ドルグさんが厳つい表情からうっとりした表情を浮かべる。
「間違いない。アダマンタイトの延べ棒じゃ……あのアダマンタイトがこんなにも……それにレシピもあるなんて……」
「ははっ!!!!こりゃ作り甲斐があるね!!」
「それでドルグ、メメ」
「うん?なんだいカシー?」
「そのアダマンタイトの延べ棒を使って薫の武器を強化して欲しいの」
「「「「ええーーーー!!!!」」」」
その一言にカシーさんとワブー以外が盛大に驚くのだった。




