159話 アダマスと戯れてみた
前回のあらすじ「相談中」
―「魔導研究所クロノス・玄関前」―
「何してるの君たち?」
直哉たちがメインコンピューター室から正面玄関に移動していると、セラさんから報告を受けたのでそちらに行くとアダマスを興奮気味で囲んでいた。アダマスは静かに佇んでいる。
「分かるだろう!!ロボットだよ!ロボット!!戦闘型完全自立二足歩行!!こんなの興奮するなっていう方が無理だ!!」
「カイトの言う通りだな……しかも、これに人が乗れるんだろう?」
「うん。アダマス?」
(カシコマリマシタ)
僕が指示すると前方の鎧が開く。そこには椅子があって一人だけ座れるようになっている。
「「「「おお~~~~!!!!」」」」
田部さんとソフィアさんが連れて来た特技兵のお二人も興奮しつつ互いに何かを話している。
「(……便利……でも……戦争に……)」
「(……大事に……)」
ああ。なんとなくだけど聞こえた。恐らく災害派遣に使用出来たらすごく便利だけど、これが戦争に使われたら、すごーーく!面倒だね!というような話をしているみたいだ。
「おお!鎧が閉じると、外の景色が見えるようになっている!!某機動戦士みたいだ!!」
アダマスの鎧が閉じていて、その中から声が聞こえる。どうやらカイトさんが乗っているようだ。
「コントローラーはあるのか?」
「ちょっと待て……いや。無いな。これはどうやら音声指示のようだ」
(ソノ通リデス。ナオ現在、指示ヲ出来ルノハ証ヲ持ツ薫様ダケトナッテマス)
「なるほどね……薫!少し動いてもらえるように指示してくれないか?」
「いいですよ。アダマスお願い」
アダマスが剣を抜き構える。そして最初に軽く素振りをして、その後、走ってからの切り込みやジャンプしてからの唐竹割りと一通り動く。
「薫!止めてもらっていいよ!」
僕が再度指示を出して止まってもらう。すると鎧が開いてカイトさんが出て来る。
「いや~~!貴重な体験だよ!」
「中の振動は?」
「無い。しかもGが思ったより少ない。これで僕が指示をだせるなら座ったまま相手を薙ぎ倒せるだろうね」
「す、すばらしい!!つまりそれってほぼ完全に振動を消しているってことになる!これをロケットや戦闘機に応用できたらすごい事になるぞ!」
「つまり、特殊な訓練がいらないと……」
カイトさんと直哉、それに特技兵も混ざってじっくり話をしている。一方、グージャンパマの研究者は……。
「この鎧……確かにアダマンタイトね」
「はは……ここまでふんだんに使われている?冗談きついぞ……あはは……」
「まあ、薫さんの話だと生産出来るみたいですから、手間暇をかければ作れるんでしょう」
「それで材料は?」
「えーと……分かってるのは……」
こちらはこちらで真剣に話し合いをしている。あちらで完全にマスターをしたのだろう電子パッドのタッチパネルを簡単に使用している。
「……」
「薫兄?どうしたの怖い顔して?」
「うん?ああ、ごめんごめん。ネタに何か使えないかなっと思って、ついついガン見してた」
「こんな所を使うんッスか?」
「常にバトルする内容を書いている訳じゃないからね」
僕の書いている小説は僕の体験談を元に書いている。だから、このような日常も大切なのだ。ただ、僕が見ていたのはそこではなく使用している電子パッドだ。
今、電子パッドを操作してるのは精霊以外である。賢者たちの相棒である精霊はパートナーと一緒に操作していて、つまり精霊用の電子パッドが存在しないことになる。それとさっきのセラさんの言葉……。
「それでどうしますか?何から着手しますか?」
セラさんが全員に聞こえるように尋ねる。それを聞いた皆がこちらへと集まってくる。
「とりあえず施設の復旧が一番だな」
「ただ、必要な道具を持ち込むためにも転移魔法陣の設置が必要ですね。薫さんに許可を出してもらいましょう」
「設置基準はどうしましょう?」
「イスペリアル国。笹木クリエイティブカンパニーの出張所に置きましょう。道具の運搬にはアイテムボックスを使えばイケるでしょう。完成したミスリルのアイテムボックスおかげで魔石関係も運べますから」
「こちらに備蓄してあった資材を調べてから着手しましょうか。必要量は各国で相談してですかね」
「日本政府も加わらせてもらいます。必要な道具は笹木クリエイティブカンパニー経由で」
「アメリカと私の所属する組織も混ざりますよ!すでに許可もいただいてますから!」
「で、必要な道具だけど……」
そのまま僕たちを置いて相談し合う。
「混ざらなくていいの?」
「僕が口出せる内容じゃないからね」
ここは専門家に任せて、持ち込まれた資材を搬入していいかセラさんと一緒に確認して許可をだせばいいだろう。
「セラさん。とりあえず入場許可証とか無いかな?僕がここにずっといないといけなくなるからさ」
「少々、お待ちください…………断定できませんが、おそらく所長室に保管されているかと」
「所長室は?」
「三階の奥の部屋になります」
「それじゃあ取りに行きますか」
僕は直哉たちに一言断ってから、3階の所長室へと向かうのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―「魔導研究所クロノス・三階 所長室」―
ボロボロになった階段と通路を通って何とか所長室までやってくる。僕たちはボロボロになった両扉を開けて中に入る。
「え?」
所長室もボロボロだった。置いてある木で出来た机や本棚は腐食していて、中に入って本を手に取ると、本は風化していてボロボロに崩れる。窓ガラスは割れていて室内に土が入ってきている。
「埋まってる……」
「まあ、当然と言えば当然だよね」
「そうだな……もし、こんな建物が地上に存在してたら誰かしらが気付いてるはずだろうし、領主である俺の所に話も来るだろう」
「でも、どうして埋まってるッス?」
「恐らくですが、この施設は処理のために埋められたのだと思います」
「でもセラさん。ここは鉱山なのです。2000年程度で鉱山になるなんて……」
「おそらく施設内の動力用の魔石の影響です。ここが埋められた後、それの影響で鉄鉱山に変異したんだと思います」
「ソーナ王国の王都みたいだね。あそこも落雷によって木が燃えたことで広域の森林帯が変化を起こしてるし……」
「魔石の影響……恐るべし」
「そうッスね」
魔石の恐るべき力を改めて思い知らされる。
「魔石……」
すると、セラさんが何か思いつめている。
「どうしたんですか?」
「実は魔石に関する情報もこの施設で扱ってるのですが……確認したところ一部が消されてます」
「消されてる箇所って何かか分かる?」
「えーと……」
セラさんが目の前に出したパネルを操作して色々確認する。
「魔石の色による特徴と影響…魔石の液体化……」
「セラさん?」
「魔石の発見とその歴史が無くなってます」
「歴史?」
「はい。何が記載されていたかは不明です」
「思い出せないッスか?」
「バックアップの記録媒体からも消去されているので復元は不可能です」
魔石の発見に歴史……それを消した?
「それってお婆ちゃんが消したの?」
「いいえ。別の誰か……あ」
「どうしたのです」
「所長でした」
「薫兄が?」
「泉。それは違うよ。セラさんの言う所長…つまりララノアだよ」
「はい。ログによるとララノア様の権限で消去されてます。またこれにはマクベス様も関与してる恐れがあります」
「何か不都合な理由でもあったのかな?」
「恐らくそうだろうな。偉い奴がもみ消すというのはそんな物ばっかりだ」
「同意見ですね」
領主様とユノが泉の意見に同意する。二人の言う不都合な情報……聞かない方が身のためだろう。僕は気を取り直して腐食している机の引き出しを開ける。そこには何かの植物の葉を刻印したバッチのような物が出て来る。
「バッチ?」
「これですよ。これが許可証になります」
バッチが許可証。セラさんに訊くと内部に魔石が入っていてその波長を読み取ることで不審者とかを分けることが出来るとのことだった。
「現在は緊急時のため薫様の許可のみで出入り可能になってますが、出来ればそれの着用もお願いします」
「分かったよ。それでこれの追加製造とか修理とかは大丈夫?」
「それに関してはデータが残ってますので可能です」
「良かった。これなら出入りする人が増えても大丈夫ってことだね」
今後、この施設には多くの人が出入りすることになる。本格起動の為にも今からこのような物の準備も必要だろう。
僕はそれを机の上に置いた後、念のために他の引き出しも開けていく。
「うん?」
一番下の引き出しに、このボロボロの机には似合わないキレイな本が置いてあった。表紙にはキレイな模様が施されている。
「それは?」
「分からない。一番下にあったんだ」
「それカーターさんの家の紋章だよ」
「そうですね……でも、何でそんな物があるのでしょう?」
となると、これはカーターの先祖であるプライムさんたちが残した物になるのだが……。
「これはカーターたちと一緒に見た方がいいかな」
「ですね」
本をアイテムボックスに入れて、他に何か無いか探す。
「こういう時ってこの本棚に何かあって秘密の部屋が……」
「どーーん!と登場ッスね!!」
「管理者である私が知らないので無いと思います」
セラさんの容赦ない一言に泉たちが落ち込む。まあ、彼女の言う通りなのだが……うん?この本。
「どうしましたか薫?」
「いや……この本もずいぶんきれいだなって」
僕はその本に触れて引っ張る。しかし本は抜けずに、変わりに、ガコン!っと変な音がする。
「あったようですね」
「なんとまあ……ベタな」
「昔も今も一緒ということか」
ソフィアさんと田部さん、そして領主様が呆れる中、本棚が開いて扉が現れる。
「私の知らない部屋があるなんて……」
セラさんがその場で倒れ込む。AIなのにそんなところまで再現するとは……。
「とにかく……開けるよ」
恐る恐る扉を開けると、そこは四畳ほどの狭い部屋で何も置かれていない。ただ、地面には見覚えのある魔法陣が。
「異世界の門……」
僕の家の蔵に設置されている魔法陣が置かれていたのだった。




