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15話 謁見の儀

前回のあらすじ「街散策」

―「ビシャータテア王国・王都王宮前」―


「ほれ。着いたぞ」


「すっごーい!!」


 街の探索をしながら歩いていると城門が現れ、その門をくぐり抜けると僕らの目の前に白い壁が映える立派な城があった。城の周囲は水に囲まれていて、僕たちの世界だとイタリアのシュノンソー城が一番近い形だろうか。


「今さらだけどさ。僕、お客様としてこんな風に招かれてお城に入る日が来るとは思わなかったよ」


「そうか。薫達は貴族とかではなかったな」


「うん」


「まあ、さっきも話したがマナーとかは気にしないでくれや。お互い別の世界の住人で何が普通で特別なんて分からねえからよ」


「分かりました」


 王様にこんな風に言って貰えるのはありがたい。街の案内でもそうだったが王様だからといって傲慢な所は無く本当に気さくな人だった。


「ここもお庭がキレイ……さっきも言ったけどゲームの世界に本当に入り込んだみたい。あ! ここにもあの花がある」


「ああ。それはローゼリウスという花ですよ。通年で咲いていて枯れにくい花なんです。自ら魔力を取り込んでいるので傷や風邪なんかに効く薬の材料としても重宝されるんです」


「この庭って見た目だけじゃなく実用性も考えているってことですか?」


「そういうことです」


「有事の際はここを解放して避難場所としても使えるんだぜ。最初に来たカーターの家も同じだぞ」


「商業地区や学業地区なんかあるのですが、この街では貴族が住む地区を設けないことで住む場所を分散させ、一般市民との交流もさせるという仕組みになっているんです」


「なるほど。有事の避難場所は貴族の住む家になるのか」


「あら。あなたお帰りなさい」


 話をしていたら、中世ヨーロッパの農民姿のしたキレイなブランドヘアーした女性がこちらに来る。


「ああ、ただいま。例の客人連れてきたから一度王の間で謁見を執り行うから準備してくれ」


「分かりました。直ぐに準備致しますわ。それではお客様方。一度この場を外させていただきます。それでは」


 ブランドヘアーした女性がその場を後にする。


「シーエ。ということで謁見の間で儀を執り行うから他の者も呼んでくれや」


「かしこまりました。マーバ行きますよ」


「りょーかい!」


「カーターは2人を客間に連れていってくれや。少しぐらい城内を案内してもいいからな」


「分かりました」


 カーターが右腕を胸の前に持っていったところで王様もその場を離れる。カーターのこのポーズがこの国の敬礼みたいだ。


「ねえ。もしかして今さっきお庭を整備していた女性って?」


「確かにいきなりだったわね。先程のお方はサーニャ・クレーン・ホワイト。この国の王女よ」


「王女様が庭の整備してるの!?」


「王女様だけじゃ無いぞ。庭師もいるしな。ほらあそこに」


 指差した方向にエプロンを身に付けて枝切りバサミで男性が作業している。こちらに気付き麦わら帽子を脱いで会釈をしてくれた。


「あ、本当だ。……じゃなくて王女ですよ!王女様ってもっと国に関わる仕事とか、華やかでドレスを着ていたりするんじゃないですか?」


「仕事は色々しているぞ。後は動きやすいように服装も普段はあのように軽装だ」


「そ、そうなんだ。何だろう私の中の王女様のイメージが……」


 泉が頭を押さえる。まあドレスとかの服装は動きずらいし普通の生活をするには実用的じゃないもんね。それより王女様も気さくそうな人だな。


「で、謁見の儀は異世界との交流をしました。ってことを内外に知らしめるためかな?」


「そういうことだ。これを正式な発表として各貴族・大臣なんかに伝える意味がある」


「王様の前ではどうすればいいかな?」


「普通にしてもらえばいい。ほらシーエ達に会った時に挨拶した感じで」


「了解。何とか上手くやるよ」


「私、薫兄に合わせるから」


 難しい儀礼が無くて良かった。マナー研修でやるような程度でいいなら気が楽だ。


「じゃあ、お客様用の控室に案内するぞ」


「はい!」


 勢いよく返事をした泉がカーターの後を付いていくので、僕も少し遅れてその後ろに付いていく。お城の門の前には騎士の人がいて右手を胸に当てて敬礼する。城内に入ると、そこは広々としたエントランスになっていて両脇に階段がありそこにも騎士が立っていた。


「2階は王様達の居住区だからああやって警備の騎士がいるんだ」


「ということは謁見は1階で行うの?」


「ああ。1階の説明をするとエントランスの両脇がメイドや警備する兵士用の待機部屋。階段前の通路は謁見場に会議場、大臣の執務室などがあるぞ。で、控室も1階だ」


 王様達のプライベートはしっかり確保されているようだ。歩いている廊下の周りの調度品を見ると絵画や壺などが置かれていていかにも王宮って感じがする。


「そういえばさ、ここを照らしているシャンデリアって魔道具?」


「そうだ。周囲の明るさによって自動調整するし、夜は自動消灯するぞ」


「すごいハイテク!!」


 泉がシャンデリアの性能に驚く。前回来た時に使用者の気持ちを汲み取って明るさを調整するライトがあるのだから、オート機能を持つそんなのがあってもおかしくはないのだろう。やっぱり万能じゃないかな魔法って……。


「と、ここが控室だ」


 とある一室の前で立ち止まるカーター。その部屋の中に入るとテーブルを囲んでソファーが置かれている。ここにも調度品が置かれていていずれも細かい細工などがあって高そうだ。それでいて落ち着いた色合いで統一しているのでなんか落ち着く。

 

 ソファーに座ると扉をノックして女の人が入ってくる。クラシックなメイド服をまとっているのでメイドさんで間違いないだろう。そしてメイドさんが持っているお盆の上にはお茶とお菓子がありそれらをテーブルの上に置いていく。


「どうぞお寛ぎ下さい」


 そういって一礼をすると部屋を出ていく。ティーカップに注がれたお茶を口につける。泉はドライフルーツを入れたクッキーみたいなお菓子に口をにしている。


「うん。美味しい!」


「こっちにもドライフルーツがあるんだね」


「クコの実って言って、そのままだととても酸っぱくて食べれないんだが乾燥せることで甘くなるんだ。ただ甘いと言ってもあっちの果物やケーキみたいに甘くは無いがな」

 

 僕も食べてみると、ドライフルーツのほのかな甘みがする。確かに甘みは薄いがそれでもこれはこれで美味しいと僕は思う。


「あっちの甘味を味わった後だと、物足りなさがあるな」


「そうね……。またケーキを食べたいわ」


 どうやら僕たちの世界の甘味を知った2人には物足りないようだ。食べた感じだとクッキーの生地は小麦と水、卵を練ったものかな? 砂糖にバターとかミルクは使われてない感じだ。


「こっちだと牛乳とかバターとかないの?」


「「何それ?」」


 こっちでケーキやアイスなどを再現するには時間がかかりそうだと思ったが、2人に説明してみるとどこかの村でそれらしいものがあるかもということなので意外にも早く再現出来そうだ。塩、コショウしかない世界かと思ったが、もしかしたら意外に知られていないだけで多くの食材がこの世界にあるのかもしれない。


 そんな事を思いつつ部屋の中で談笑しながら待っているとシーエさんがやってくる。


「準備できたのでご案内しますね」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―「王宮・王の謁見場」―


「我が王宮によくぞ参られた異世界の客人よ!!」


 マントを羽織った王様と、さきほどの農民姿からうってかわってきらびやかなドレスに豪華な装飾品を身に付けた王女様が玉座に座り僕たちに対して歓迎の言葉をかける。喋り方もまさに王様という感じになっている。


 装飾の施された柱がある広々としたこの謁見の間には、今多くの人が集まってこちらを見ている。服装は西洋ヨーロッパの貴族が着るような格好が多いが、中にはさきほどの王妃様みたいに軽装な人も混ざっていることから意外にも服装は自由みたいだ。


「こちらもお招きいただきありがとうございます。私の名前は成島 薫。こちらは多々良 泉と申します。私たちの世界のことでお聞きしたいことがあるとのことで参りました」


 僕も場に合わせて口調を変えておく。


「うむ。今回の邂逅はお互いの世界に多大なる影響を与えかねない。いい方向に向かうように協力して欲しい」


「もちろん。私たちの出来る範囲ですが協力させていただきます」


「そしたら別室でそちらの世界の事を聴くとしよう。それと先日のソーナ王国の侵略行為に対して首謀者の確保の協力の礼としてこれを受け取って欲しい」


 王様の隣にいたシーエさんがこれまた細かな彩飾がされたお盆を持ってこちらにくる。そのお盆の上には布袋が置いてありこれが礼とのことらしい。手に取るとずっしりとした重さがある。


「これは?」


「こちらのお金で金貨30枚を入れてある。有効に使って欲しい」


 アイテムボックスに金貨30枚ってこちらの貨幣価値とか分からないが何かもらいすぎな気がするが……後で尋ねるとしよう。


「ありがたく頂戴致します」


 ということでこの場では何も言わず受け取っておく。このような場で受け取りを拒否するのは失礼な態度になるだろうし。


「彼らは我らにとって最高の客人だ。もし見かけたら丁重にもてなすように。ここに来れなかった者達にも伝えといて欲しい。これで謁見は以上だ。集まった者達も各自仕事に戻ってくれ」


 その後、カーターに再度案内されて今度は2階に案内されるのだった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―「王宮・二階客室」―


「緊張した~~。あれだけ大勢の人に囲まれながら観られるなんて」


「レイヤーやってるのに?」


「それとこれじゃあ別よ」


 この城に2階の客室に移動した僕たち。さっきも話があったように2階は王様たちの生活スペースになっているので、他の人が気軽にこれる場所では無いだろう。


「とりあえず、無事に終わって良かったよ。何か変な粗相が無かったかな?」


「大丈夫だ。やっぱり薫に任せて問題なかったな」


「まあ、会社勤めでそんな研修を受けていたみたいだし、心配する必要無いとは私は思っていたけど」


「そうね。一応この中では一番年上だし物腰はしっかりしてると思っていたし」


「だな」


 そう言いながら扉を開きカシーさんたちが部屋に入る。ちなみに二人も謁見の儀にいて王女様の傍に立っていた。


「二人はどうしてここに?」


「勿論! 話を聞くためよ!」


 ビシーっとこちらに指をさす。はい。研究熱心ですね。


「というのは半分冗談で、王様に呼ばれたのが一番の理由よ。研究のためとはいえ私も流石に王様達のプライベートな空間にそうそう入る訳にはいかないわ。後、スメルツ達も来るわよ。」


「スメルツって初めて聞くけど誰なの?」


「私達と同じ魔法使いで薬を主に研究しているエルフの娘よ。カーターがそっちの医療の話をしたら興味深々って感じで」


「スメルツってもしかして。お2人の近くにいた背の高いエルフの女性のこと?」


「そうよ」


 エルフか……。お伽噺に出てくるエルフとついにお話する日がキターー!!と泉は嬉しそうだが、僕の初めてはあのアンコウ顔の変態だったからな……。思い出したらまたぶん殴りたくなってきた。


「しかし、魔法使い全員揃うなんて久し振りだったわね」


「そうだな」


「……全員って?」


「玉座の近くにいただろう精霊と一緒にいたやつらが」

 

「そういえば」


 確かにあの場に何人かはいたけど……。


「私達の国では私も含めて魔法使いは7組いて役職の関係上全員集まるのは少ないわ」


「え? 7組だけなの?」


「そうだけど……どうしたの? そんな驚いて?」


「いや待って、魔法使いってもっと沢山いるんじゃ……?」


「いないわよ? 他の国もその位だと思うし」


「俺ら精霊は基本一ヶ所に留まるのを本当に嫌うからな。だから俺達のように人と契約するのはそうそういない」


 異世界に来るのに魔法使いで無いといけない、そして多くの犠牲者が出たとも言うからかなりいるものだと勝手に思っていた。


「他の魔法使いも聞きたいことがあったようだけど、大人数になるのと仕事でまた今度だって。シーエも仕事だから今日は来ないわ」


「話を聞きたいって、僕そんなに医学知識ないけど?」


「むしろそれだからいいのよ。まずは一般の人が知る基礎知識から知らないと。専門なんてその後よ」


 そういえば医学が遅れているこの世界。薬の専門家とはいえ最初はその位の方がいいのかもしれない。


 そんな事を考えていると、扉がノックされ王様と王女、他に4人が入ってくる。ちなみに王様たちの服装は派手なものではなく王国の人たちが着ていたような物より少し高価な印象を持つ物になっていた。


「お疲れさん」


「お二人ともお疲れ様でした。私の名前はサーニャ・ホワイト・クレーン。こちらの4人ですが、私達の子供と国の薬の研究を担当している魔法使いになります」


 それに続いて他の4人が頭を下げる。


「私の名前はアレックス・ホワイト・クレーン。こっちは妹のユノ・ホワイト・クレーンです。宜しくお願いします。」


 そう言って2人が挨拶する。2人ともブランドヘアーをしててバランスの整った顔をしている。


「わ、私スメルツと言います」


「これの相棒のザックスだ。宜しく頼む」


 おどおどしたエルフと厳つい顔をした精霊の2人も挨拶をする。4人の自己紹介の後、僕たちも再度自己紹介をする。するとカーターが何かに気付き自己紹介中に入ってくる。


「で、勘違いする前に言っとくがこっちのやつは男だからな」


「カーター何を言っている?」


「ど、どうみても女の子じゃないですか?しかもかなりお、お若い人で」


「薫兄は男ですよ。30歳の」


 事実を知らない4人から悲鳴と驚愕の声が城中に響き渡り、聞いた騎士が駆け付けるハプニングが起きたのは言うまでもない。


「ねぇカーター?伝えて無かったの?」


「ああ。混乱するから黙っていたよ……」

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