152話 アダマンタイトの巨人
前回のあらすじ「今日も元気に暴漢狩り!」
―「アリッシュ鉱山・最奥の間」―
「クオーネ様。こんどこそユノたちと一緒にここで待っててくださいね」
「はい!」
「でも薫。あれをどうする気ですか?」
三人が巨人を相手に戦っている。しかし、先ほどから攻撃を受けているのにその体に傷が一つも付いていない。
「ふはは!!弟がやられたか!しかし……!」
「雷撃!!」
手っ取り早く、操っているあの河豚獣人をやってしまえば……?
「く!これが勇者が使う神霊魔法というの物か……しかし、こっちが喋ってるのに攻撃とは勇者とは思えない素行の悪さじゃないかな?」
そんなの知るか。そもそも悪人にズルいと言われる筋合いはないのだから。それよりも…だ。あれはやっかいだな……雷撃が落ちる前にあの巨人がその体で防いでしまった。
「あの巨人。私がアレに撃った弾丸を全て防いでるのよね……あんな巨体でどう素早く動いているのやら」
銃の弾倉を入れ替えながら答えてくれたミリーさん。プロの射撃術を持つ彼女の弾丸を防いでいる以上、それはかなりの脅威だ。
「ふふふ!だが!いくぞ巨人よ!!」
河豚獣人がその声と共にペンダントを高く上げる。すると巨人の前鎧が開いて、そこに河豚獣人が入り込んですぐに閉まってしまった。
「いくぞ!!もはや我に敵なし!!」
「まじ?」
「まじだぜ?」
まさか乗り込めるとは思っていなかった僕たちは呆気に取られてしまう。これで操る術者を一番に潰すという作戦が使えなくなってしまった。
「薫。あなたの国のアニメにこんな状況はどうすればいいかやってなかったかしら?コックピットにサーベルをザスッ!とかライフルをビューン!とか」
「どれもこれも頭にビームが付くよねそれ!そんな魔法はありませんからね!?」
「あったとしても魔法攻撃が効くのか分かりませんがね」
シーエさんたちがグリモアで強化していない状態のアイスランスを放っている。牽制程度の攻撃をして対策を考えているようだ。
「へこんでもいいくらいじゃないのかしら?」
すると巨人が手に持っている鉄の大剣で切りかかるので、それをミリーさんは体を転がして冷静に避ける。
「ミリーさん?対戦車用の武器は?」
「あるわよ?対ゾンビ用に」
「何で対ゾンビ用にロケットランチャーを持ってきてるんですか」
「ジョークよ」
そう言って銃で、人で言うなら関節部分に当てているが動きは鈍くなるとか無かった。
「雷連撃!!」
僕たちも雷を連続で落とすが……効いていない。
「ゴーレム相手に雷は相性悪いか……」
「効かん!効かんぞ勇者~~!!死ね~~!!」
巨人が大剣を大きく振り上げる。僕の後ろにはユノたちがいるので鵺を城壁にして防……。
ピキッ……
「レイス!」
「はい!」
「氷壁!」
さらに氷壁を使って壁を厚くした僕は急いでユノたちに避難を促す。領主には僕が肩を貸して歩かせる。
パキーン!!ガシャーン!!!!
鵺の城壁と氷壁を粉々にして大剣が地面に刺さる。あのままいたら真っ二つになっていただろう。
「鵺が破られるなんて……」
レイスは驚いているが、僕としてはある程度予想していたのであまり驚きというのは無かった。それにだ。
「鵺。黒槍」
僕の声と共に鵺が僕の手元に一つになって黒い槍の状態になる。決まった形を持たずに、姿形を変える可変武器である鵺。これがこいつの強みなのだ。強度は相手を倒せる堅さがあれば問題無いのである。まあ……この巨人にはかなわないが。
「鵺を壊すにはそんな荒い方法じゃ……ね。皆さんはもっと後ろに下がってください!」
僕の指示を受けて、ユノたちがさらにそこからこの広間の入り口付近まで下がってくれた。それを見た僕は再び剣を構える巨人に注意を向ける。
「厄介だね」
「やっぱり後で鵺の強化は必要なのです。ミスリルもありますし……」
「それはとりあえず後回しだよ」
強化の話は後にしてこいつを倒す方法を考える。僕たちの魔法で有効打を打てるのは獣王撃くらいだろうか?水破斬で切断できるか怪しいし、麒麟はもしかしたら有効かもしれないがこんな狭い場所で撃つものでは無い。
「ほらほら!!どうした!!」
巨人が再びこちらに近づいてくる。
「アイス・スリップ!」
シーエさんが魔法を唱えた瞬間に地面が凍り付いて、巨人は激しく仰向けに転んだ。
「な、なんだ~!?」
中にいる河豚野郎が慌てふためいている。そのせいか巨人は起き上がろうとするが再び滑ってしまう。
「この魔法は有効みたいですね」
シーエさんとマーバ。それにミリーさんも集まってくる。
「魔法が効かない……というよりあらゆる打撃が効かないってどんな金属を使ってるんですかあれ?」
「あれだけの攻撃を受けて効かないって……私が知る限りだとオリハルコンにアダマンタイト、ダマスカス……それにヒヒイロカネかしら」
「それはこちらでも見ることの無い金属ですよ……いや確か数年前に王家にダマスカスで作られた王剣が造られて貯蔵された気が……」
「え?製造できるんですか?今でも?」
「ええ?ドルグとメメが作りましたから」
「ミリーさん……ダマスカスってあっちのダマスカスと同じ……」
「違うわよ?」
「そうか……よかっ」
「あっちのは超高炭素鋼で、グージャンパマは自然にできた鉱石だから別物よ。そういえばあっちのダマスカスは刀剣にする技術が失われていたわね。カイトの部隊が普通に魔石を使ってキレイな木目上のナイフを作って作業していたから忘れていたわ」
「か、薫どうしたのです?」
「……キニシナイデ」
僕は頭を抑えて考える。こっちとは違う金属で安心した束の間、なんと失われたダマスカス製の刀剣が作れたという事実……ミリーさんは大したことじゃないみたいなノリで話したが……これ教えていいのかな?…………気を取り直してっと。
「領主様ー!!あの巨人には何の金属が使われてますかー?」
僕は剣を地面に刺して、起き上がろうとする巨人に指をさして領主様に訊いてみる。
「そいつにはアダマンタイトが使われている!!非常に強固で壊すのはほぼ不可能だ!」
「なるほど。これはお手上げね」
「カーターとサキがいれば何とかなるかもしれないぜ?」
「確かにあの二人なら高温の炎で溶かしてくれるかもしれません。でもその間に、あれはこの町を荒らしますから却下です」
「シーエさんの言う通りだね」
「そう言うけど策でもあるのかしら?」
「まあ……ね」
「同じく」
シーエさんも何か策があるようだ……それなら。
「シーエさん。トドメをお願いしてもいいですか?僕の方法は動かないようにするだけなので」
「それなら私達がトドメを差しますよ……中のアレ事ね……」
「理解したぜ……あれを使うんだな」
「そう言う事です。少しだけ注意をそちらに向けてもらえませんか?」
「それなら僕たちがやるよ。ミリーさんは僕の援護してくれる?」
「分かったわ」
「それでは頼みました!マーバ!」
皆が離れた所で、倒れていた巨人が起き上がっていたので注意を向けようと思ったのだが……。
「シーエさんたちみたいに、もう一回アイス・スリップで転倒させれば……」
「ぐぬぬ~~!!よくも!!」
巨人がこっちに向けて走り出す……足元をスパイク上にして。
「無理そうなのです」
「それに……攻撃してないのにどうしてこっちに来たのかな?」
「……さあ?」
レイスがそう言って僕の格好を見てくる。そういえば女装……まさかね。勇者って分かってるはずだし……。
「……とりあえず、蝗災」
僕が呼ぶと砂の蛇が隣に現れる。
「そんなのでどうとも出来るのか!このアマが~~!!」
「……勇者が女性と勘違いしてるのです」
「……」
僕は黙ってそのまま手を前に上げて、蝗災を巨人に向けて突進させる。
「叩き切れ!!」
巨人が大剣を上に振り上げたその瞬間、蝗災を分散させる。
「何!?」
そして蝗災を巨人の膝の関節部分に突っ込ませる。
「ふん!そんな事をして……?」
突如、走ってきた巨人がそのままの勢いで前倒しになる。
「いってて……な、何が!!」
「攻撃は効かなくとも……脚の関節部分に砂が大量に入ったら動かすのに阻害が起きるよね?」
巨人は起き上がろうとするが脚を曲げられずに棒状のまま、うつ伏せになったまま体を揺らしている。
「そんな!どうしてだ!こいつは最強の魔人なんだぞ!!」
「他の属性には対処していたようなのです……でも」
「最弱の土属性の魔法には無頓着だったんだろうね……多分」
関節への攻撃を考えて壊されないように強くは作られていた。そして水が入ってもいいように関節部分には排水用の隙間もあって一見すれば完璧だが……今回はそれがあだとなって、そこからの砂の侵入を許してしまった。まさか一気に関節部分に大量の砂をぶち込む奴がいるなんて思ってなかったのだろう。
「くっそ!!」
片手を使って体を起こした状態で、もう一方の剣を持っていた手で攻撃を仕掛けようとする……が。
ドオーーーーン!!!!
巨人の頭付近で突如、大爆発が起きる。そこから左側に目を向けると、肩にランチャーを担いだミリーさんがいた。
「おお~♪あれってロケットランチャー!!……すごい。本物だ!!」
「びっくりしたのです!」
生のロケットランチャー……カッコイイ!!でも……もし、あれをミリーさんと最初に会った蔵の前で使われていたら……。
「やっぱり近代武器も十分に強いよ……」
魔法はチートとか言って強いとかいうけどやっぱり近代武器である重火器は恐ろしいと改めて思うのだった。
すると今度は反対側から猛烈な冷気が発生する。今度はそちらへと顔を向けると魔法陣の中にシーエさんと魔石を持ったマーバがいた。
「召喚魔法なのです!」
レイスの声の後、シーエさんが呪文を唱え始める。
「汝、霊峰を守りし神獣なり……汝、悪しきものを断罪する選定者なり……今、我らの命によりここへ馳せ参じよ!零鳥・シルフィーネ!!」
すると、マーバが持っていた魔石が少しずつ浮き始め猛烈な光の後に、一羽の鷹ぐらいのサイズをした青く光る羽と長い尾を持つ鳥が優雅に空を翔る。翼を羽ばたかせると青い光が零れ落ちて、その秀麗な姿に目を奪われてしまう。そして鳥がしばらく旋回するとシーエさんの肩に掴まった。
「キレイ……」
「なのです……」
「さあ!トドメといきましょうか!」
シーエさんが剣を前に掲げ、この戦いを終わらせるための一手を繰り出すのだった。




