151話 起動する巨人
前回のあらすじ「なおサイレントバットの魔石は蝗災が美味しくいただきました」
―「アリッシュ鉱山・最奥の間」アリッシュ領主カリストロの視点―
「本当に……娘は無事なんだろうな?」
最奥の間に続く坑道へと歩を進める私は、そうさせている河豚野郎に訊く。
「ええ。無事ですよ?あなた方が変な事をしなければね」
「くっ!卑怯者め!」
「おや?いいんですか?そんな事をいうと妹様が……?」
「落ち着けルオット」
「くっ!」
私は息子であるルオットをなだめる。ここで何かあれば娘の命が危ないのだ。こうなるくらいならあの兵器を王へ報告するべきだった……。
ここ数年の鉱山の採掘量が少なくなってるのに気づき、そしてここから出た鉄が密売されている事を知った私は密かに調べていた。多額の金が手に入る以上、その盗人はその金を使って何かしら行動するはず、当然だが主犯がこの町の商業ギルドのマスターというのはすぐに分かった。こいつが野盗を飼い、私欲を肥やすために様々な犯罪も行っていたことに。そこで冒険者ギルドにも協力してもらいこいつを捕らえようとしていたまさかこのタイミングで……。
「まさかお前がこの犯罪に関わっていたとはな……セバスチャン」
「あなた様の傍で仕えてこの時を待っていたのですよ。最強の兵器がここに眠っていると知った時から!」
いつも表情を表に出さないセバスチャンが醜悪な笑みを浮かべる。そして、でっぷりとその体を肥やした商業ギルドマスターも同じような顔を浮かべる。娘さえ人質に捕られてなければすぐに殴り飛ばするのに!
「あなた方が気付いた以上、ここで計画を実行するいい機会だと思いましたよ。それにそろそろ王家の誰かが視察にくるはず、それを捕えれれば……」
「ありえないな。王家の護衛に騎士団や賢者の誰かが就く。野党に手に入れた魔道具を装備させたくらいじゃ不可能だ」
「ええ。もちろん彼らを舐めてる訳じゃありませんよ?だからこそ最後にあなた方の持つ兵器を頂こうと伺ってるんじゃないですか?対価は……クオーネ様の命でね?」
「おのれ……!!」
「まあまあ落ち着いて……。おっとどうやら最奥に着いたようですね?」
こいつらを連れて最奥へと着いてしまった。ここは領主を受け継ぐ際に連れて来られる秘密の場所。広く整えられたこの場所は横はきれいに整備された岩壁、天井もきれいに平にされている。そして奥には白い鉄でできた装飾を施された壁と我が家の紋章が刻まれた静かに佇む巨人。
「これが魔物との戦争の際に使われ、その攻撃に対してキズ一つつくことがなかったアダマンタイトの鎧を身に纏った巨人……ふふ!すばらしい!!」
「さあ旦那様?その胸元に付けているペンダントをこちらへ……変な事をしたら」
「分かってる」
私は肌身離さず持っていたペンダントを渡す。
「よろしい。では兄者」
「ああ。分かってる」
こいつセバスチャンの兄だったのか。あまりにも似ていないので兄弟とは疑うことすらなかった。
「さあ!動け巨人!!」
河豚野郎が命令すると、巨人の一つ目が赤く輝き始め、そのまま立ち上がる。
「よし!」
「さあ、娘を……!」
言い切る前に首元に激痛が走る。そこから温かい何かが流れていく……。何故か私はそのまま地面に倒れてしまった。
「父上!!」
息子が横たわる私のところに駆け寄り、私に何が起きたかを教えてくれた。息子の両手が真っ赤になっていた……そうか切られたのか。
「あれがなくても、当主の指示なら命令を聞くと思ってましたので先に始末させてもらいました。あちらで会えるといいですねクオーネ様と」
「っ!!セバスチャン貴様ーー!!」
「大丈夫ですよあなたも直ぐにあちらへと向かうのですから」
「ルオッ……ト……!!逃げ……ろ!!」
「しかし!!」
「いいか……ら!!」
「おや。まだ生きてましたか?それなら親子共々クオーネ様の所へ……」
「使えるべき主人に手を出すとは執事としては失格ですね」
広間の入り口から誰かが連れを伴ってやってくる。あれは……。
「おや?予定よりお早い視察で……ユノ姫様?それとシーエ様ですか」
「その二人から離れなさい!」
「おや?あなたがたはどうすると?もし魔法を使おうとするなら……領主様が死にますが?」
「くっ!」
「……いけ巨人。ユノ様を捕えよ!!」
……不味い。このままだと……。
パーン!!
破裂音がした。するとセバスチャンは肩を抑えて、一瞬だけ隙が出来る。するとシーエ隊長が剣を振って私達とセバスチャンを離す。すると変わった武器を持つ女性も近くにやってくる。
「早打ちには自信があるのよね……アイツには効かなかったけど」
「あれは比べたら負けだと思うぜ?あいつ人と魔物のクオーターだしな」
「そうだったのね……いや。それであんなことが出来るのかしら……?と、とにかく私が援護射撃するわ!」
「それなら私達は接近戦でアイツらを相手にします」
三人はそう言って巨人とあの兄弟に向かっていく。
「大丈夫ですか!?」
こちらへとユノ様が近づいてくる。
「ユノ様!?」
「も…う……」
「喋らないで下さい!」
「ユノ!って大丈夫なのその人?」
また、誰かがこの広間へと入って来てこちらへと来る。普通の女性か……?
「薫!ハイポーションを!!」
「分かった!!」
その娘はアイテムボックスからハイポーションを取り出して、それを私の首元にかける。
「くっ!!」
「父上!?」
「はあはあ……だ、大丈夫……だ。色々痛むが……」
「無理しないで下さい。これだけの出血、絶対安静です」
「ああ。すまない……それでこんな時にすまないんだが……」
「何ですか?」
「この息子と結婚を……」
「余裕ですね!!??ってそんな事、言ってる場合か!!」
その娘は、そう言って私の頭を叩く。いや……この娘の美貌を考えれば、思わず息子の嫁にと思ってしまうのはしょうがないともうのだが?
「父上!男としてこれだけの美人を前に一瞬思ってしまうのは当然ですが……時と場所を弁えて下さい!!」
「すまない……死を目前にしてお前の幸せを思ったら……」
「死なせませんからね!!??ねえユノ!?」
「その通りです。それにクオーネも無事ですよ」
「それは本当ですか!」
「はい。今、安全な場所にいるので安心して下さい……それであの巨人は?」
ユノ様に言われてあの巨人を見る。シーエ隊長が魔法を使って氷の壁を作り防御するが、巨人はそれを持っていた大剣で叩き割る。ただシーエ隊長にとってそれは織り込み済みだったようですぐに他の魔法を使って攻めていく。
「あれは……私の先祖が打倒王家と残した魔物との戦争に使われていた兵器です」
「打倒…王家……?」
「はい。私の先祖はビシャータテア王国に従うふりをして、頃合いを見てアレを使って王国を乗っ取る算段だったようです」
「でも、何でしなかったの?」
「結局、世代交代する中でそれが如何にくだらない考えかと知り、それより領主としてここの住人を幸せにする義務を果たすのが我々の使命だ。という考えに至り結局アレはそのまま放置することになったのです」
「それでしたら何で王家に報告をしなかったのですか?」
「ユノ。あれ。鎧に紋章が刻んである」
「その娘の言う通りです。あれのせいで偶然にも発見と言い訳もできずに、逆に何で今まで黙ってたのかという嘘もつけずに……」
「処分に困っていたと」
「面目ありません……」
まだ立ち上がることが出来ない私は目を伏せてユノ様に謝罪する。
「気にしていませんわ。あなたがこの領土を良くしようと動いているのは鉱夫の方々やお店の人からも聞きました。そんなあなた方に王家が罰を与えるという事はありませんわ」
「……ありがとうございます」
そう言ってユノ様が笑みを浮かべる。この事で何かあったとしたらどうなるか心配だったが……これでひとまず安心か……。
「余裕ですねユノ様?」
いつの間にかセバスチャンがこちらへとやってきていた……。その両手にナイフを構えて。
「ユノに何か用かな?」
娘が黒いネックレスに付いた赤い魔石を前に出す。ユノ様のお付きのメイドかと思ったが護衛だったのか。
「ふふ。威勢のいいお嬢さんですね……」
そう言ってセバスチャンはその娘をいやらしい目で見てくる。
「実に襲いがいがありますね……ユノ様と一緒に躾けたいほどに」
「させると思うの……?」
「本当に威勢はいいですね。ただ……!」
セバスチャンが消えた!?しま……!
「な、なんだこれは!!」
セバスチャンの叫び声が聞こえたのでそちらへと顔を向けると、セバスチャンの周りを小さい羽虫のようなものが飛んでいる。
「魔石を使った高速移動からの背後からの一撃か。オーソドックスだね」
「解除しないでそのまま連れて来て良かったのです」
すると、今までどこにいたのか精霊が現れる。
「ま、魔法使い!?こんな小娘が!?」
「ご名答。それで……」
娘の持っていたペンダントが形を変えて、黒い手甲になる。なんだあれは……?
「ユノにちょっかいを出す悪い奴は潰しとこうか♪」
そう言ってどす黒い笑みを浮かべた娘は指をパキパキと鳴らしてから構える。そしてその先端には何か黒い物体が渦巻いている。
「黒い武器!?ま、まさかゆう……!!??」
「潰れろ!!獣王撃ーーーー!!!!」
その娘が拳を思いっきり振り抜き、セバスチャンにぶつかると同時にセバスチャンは吹き飛んだ。そして岩壁に叩きつけられてそのまま張り付いてしまった。
「ちっ!頑丈な奴……」
「か、薫!本当に潰したら死んじゃうのです!!」
「痴漢、暴漢……死すべし!!」
この娘からさらにどす黒い変なオーラを感じる……!?な、なんだこの子は?
「薫にあのような暴言を聞かせるなんて……命知らずですわね」
「お父様!」
「クオーネ?」
クオーネがこちらへと走ってくる。白馬のようなのを連れて……。
「クオーネ様?あそこで待っててと!?」
「すいません勇者様!けど、どうしても心配になって……」
「「勇者!?」」
思わず私と息子はその娘を見てしまった。そうか……この娘…じゃなく彼が勇者だったのか……。




