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150話 さらに奥へ

前回のあらすじ「薫さんの中二病大爆発!」

―「アリッシュ鉱山・坑道」―


「ここは痛みますか?」


「い、いいえ。大丈夫です」


「ごめん!ちょっとの間だけ口を動かさないで……そう、そのまま……」


 ハイポーションを含ませた布で、彼女の顔のケガや腫れている場所に当てていく。


「っ!!」


「あ、ゴメンね。沁みて痛かった?」


「いいえ。手当していただきありがとうございます」


「気にしなくていいよ」


 これが現実世界なら顔に跡が残っていたかもしれない。女性を相手にここまでするなんて……!


「薫。そうしたら後は私が」


「うん。お願い。ガーゼとハイポーションはいっぱいあるから気兼ねなく使ってもらっていいからね」


 ユノが体の具合を見ている間に顔や首とかの手当てはしたがそれより下……服で隠れている場所などは男として無理なので交代する。


「う……た、助けてくれ……」


 この子をここまで大ケガを負わせた男共が焼けた喉で弱々しく懇願する。


「乙女の体をここまで傷つけて何様なのです!!」


「レイスの言う通り自業自得でしょ?どうだい?高温の砂で体を焼かれた感想は?」


 僕はそう言って、こいつらを見下すような冷たい視線を送る。すると男共は口から悲鳴を漏らしたガタガタと体を震わせる。


 ちなみに襲った男たちは全身にやけどを負ったまま横たわっている。重症ではあるが女性をここまでにした暴漢相手に妥協なんて物はない。日本では過剰防衛ではあるが、グージャンパマでは正当防衛に当たるのだし問題無い。


「三人とも大丈夫?」


 そこにミリーさんを先頭にシーエさんたちもやってきた。それとこいつらの仲間の一人も縄で縛った状態で一緒に連れて来ている。


「シーエ。他の者は?」


「あの場にいた全員は取り押さえました。今はロック師匠達にお願いして見張ってもらっています」


「こちらもクオーネを無事に救出出来ました。ただそこに転がってる粗暴な男共に大ケガさせられたのでその治療中ですね」


 すると、シーエさんがクオーネさんを見ないように体の向きを変える。顔にケガしている彼女への配慮ということだろう。


「あ~~……こいつらか。これ薫達が当然やったんだよな?」


「はい」


 マーバが細長い石で男共を突っいている。火傷の酷い所を念入りに突いている所からして相当お怒りのようだ。


「これ良く生きてるわね。水ぶくれもしてるし……全身大火傷ね」


 ミリーさんはそう言って、そいつらに興味無さそうですぐに僕たちへと顔を向けた。ただ、連れて来た男共の仲間は倒れたそいつらを見て全身を震わせている。


「それでこの術の仕組みを教えるんだぜ!こいつを実験台に使ってもいいからさ!!」


 そこに笑顔で男に指を差すマーバ。質問だけではなく、さりげなく連れてきた仲間から情報を聞きだすために脅しも入れるとは……いや。もしかしたら多少の憂さ晴らしも含んでいるのかもしれない。連れて来た男に目を向けると青ざめた表情をしている。


「この砂を使ったんだよ」


 僕たちは近くに待機させていた魔石を混ぜ込んだ砂を一つの塊、蛇のように動かして皆に見せる。


「これって何か泉たちのセイレーンの触手みたいだぜ」


「間違いでは無いのです。仕組みは同じなので」


「仕組みが同じ?」


「これ珪砂という砂で均一にした砂なんだ。そこに魔石を砕いて細かくした物を撒き散らすことで、このように操作できるわけ」


 砂を右に左へと生き物のように動かす。


「なるほど。土にはたくさんの物質が含まれているから魔力の伝導率が悪いっていうのが薫さんの理論でしたね」


「うん。だから限りなく同じサイズで同じ素材なら、細かくした魔石を混ぜる事で水のように1つの物体として扱えるんじゃないかなって思ったんだ」


「なるほど」


 これが思いついたのはレイスからゴーレムの話を聞いてから数日後の事だった。ゴーレムが存在するなら魔法で人工的に作れるのではないかと思い、レイスの協力の元でただの土から始めてみたところ中々上手くいかなかった。簡単に言うと手だけが地面から現れるというもので操れないし、非常に脆かった。


 それでどうしようかと考えた時に料理教室の帰りに見たイスペリアル国の復興現場で左官用に使われていた細かい砂を見て、材料を均一のサイズにして成分も近い物にすれば泉たちのように操れるのではないかと考えたのだった。


 現実世界に戻ってきた僕たちはそのまま砂をこちらで探すことにした。理由としてはグージャンパマより現実世界の砂というのはJISという規格に基づいた試験をして、また粒径別に販売されているからだ。ホームセンターやネットで気軽に買えることもあって幾つかの候補の中、僕たちは砂場などに使われる細かい珪砂をネット注文してそれを材料に魔法の特訓……結果こうなったのだった。


「でも、これだとクラックウルフをどうやって倒したのかしら?あいつらは大ヤケドだし……」


「クラックウルフは全身を砂で覆って窒息死させたり、のしかかりとかで圧死させたんだ。これでも500キロはあるから」


 今の姿は3メートル級の大蛇に見えるがかなり圧縮した状態にしている。通常状態なら米袋で16袋ぐらいにはなる。


「一点に500キロの重さが加わったらたまったもんじゃないでしょうね」


「後は分散させて目潰しに使って、槍にした鵺で思いっきり叩きつけて頭をカチ割ったりして結構、多様な用途がある魔法だよ」


「……で、こいつらは?」


「これをセイクリッドフレイムで砂を高温にしてそれを分散させて襲わせただけだよ。」


「じわじわ焼かれるって痛いだろうな……」


「でも、実際に確認をしときたいですね……」


 シーエさんとマーバが連れて来た男を見る。男は泣き叫んでいる。


「た、頼む!!話す!!話すからこれだけは勘弁して欲しい!!」


「いいぜ!ちゃんと正直に話したら許してやるぜ!」


「ほ、本当か!!」


「でも、嘘やごまかしたりしたら、これの強化版の実験台になるわよ?」


「しないしない!!いや!これより強力って!?そ、そんなのを拷問に使ってもいいと思ってるのか!?」


「あら?反論する気かしら……薫?」


 ミリーさんに言われて、動く砂……蝗災をその男に近づける。


「わ、わ、分かったから!だから許してくれ!!」


「それじゃあ、きちんと話してもらいましょうか♪」


 そして、この男から今回の事件の詳細が明かされるのだった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―「アリッシュ鉱山・坑道」―


「まさか商業ギルドのマスターが首謀者だなんて」


 捕らえた男たちをロックさんたちと遅れてやって来たハリルさんの部下に任せて、坑道内のさらに奥へと僕たちは走りながら、男が話した事件の真相を振り返る。


「そして、その目的がビシャータテア王国の乗っ取りとは……」


「でも、そんな物がここに存在するの?金属で出来たゴーレムなんて?」


「……私は聞いたことがありません。もしかしたら領主になる際に引き継がれる秘密なのかもしれません」


 治療を終えて表面上は元通りになったクオーネが答える。本当はロックさんたちと一緒に鉱山の外で待ってて欲しかったのだが、本人がどうしてもということだったのと真相を見届けたいと強く懇願されたので、ユノと一緒にユニコーンに乗って何かあったらすぐに逃げるという約束をして来てもらっている。ちなみにユニコーンは走る僕たちのスピードに合わせてくれている。


「領主は何故それを報告して無いんだぜ?」


「恐らくだけど、何か言えない事情があるんだと思うよ」


「その事情とは何だぜ?」


「流石にそこまでは……」


「まあ、とりあえず先に進めば分かるでしょ?それに前から魔獣のお出ましよ」


 前からサイレントバットの群れが近づいて来ている。僕たちは一度止まって迎撃の準備をする。ミリーさんを見るとすでにナイフを両手に構えていた。


「ウインドブレード!」


 ミリーさんがナイフを勢いよく振るうと、風が発生してサイレントバットの群れにぶつかり何体かが切られて落ちていく。しかし、それでも多くの群れがこちらに目掛けてやってこようとしている。


「魔石使いじゃダメね」


「なら私達がやります……マーバ?」


「はいよ!」


 シーエさんがマーバに声を掛けると同時にエンチャントリングを付けた腕を前に出す。


「我が道を塞ぐ者どもに凍てつく嵐を……ブリザード!!」


 シーエさんが呪文を唱えると、エンチャントリングの黒い魔石が反応して光る。すると手から少し離れた所で青藍色したバスケットボールサイズの球体が出現して前方に目掛けて発射される。それがサイレントバットの群れに当たる直前で破裂し強烈な冷気の強風を巻き起こした。


「さ、寒い!!」


「二人共これ。上に羽織っておいた方がいいよ。」


 僕はアイテムボックスからブランケットを取り出して、ユニコーンに乗っているユノたちに渡す。


「あ、ありがとうございます!」


「流石、薫ですね。準備がいいですね」


「まあね」


 この前のガルガスタ国で夜の間に見張りをしてる時に寒かったので、あったら嬉しいなと思って用意しておいたのが功を奏した。


「あ、薫!足元に!!」


「えい!」


 ユノに言われて下を見るとそこに手だけを出しているマッドゴーレムが……その姿はまさしく某有名ゲームのあれを彷彿させる。僕はそれを文字通りに一蹴して、マッドゴーレムも一応魔獣なので出て来た魔石を僕たちの横をスルスルと動いている蝗災に回収させる。


「……弱い」


「なのです」


「あなたたちのそのゴーレムが強いだけよ」


「だぜ」


「それを言うならマーバたちの使ったブリザードも強いじゃないか。あれだけの数の魔獣をあっという間に行動不能にしたし」


 そう言って、僕が前を振り向くと氷嵐に巻き込まれたサイレントバットの群れは地面に一匹残らず地面に落とされていた。


「エンチャントリングのお陰ですね。元々この魔法は相手を凍死させる魔法ではなくて相手の行動を寒さで阻害させる効果ですから」


「便利ね。その道具」


「ただ、普通のブリザードより力を吸い取られるような感じがするので使い過ぎは厳禁ですね」


「即座に使用可能な黒の魔石と負担の少ない魔法陣を使うか……使い手の判断が必要そうね」


「ええ。とりあえずいい肩慣らしが出来ましたし先を急ぎましょう」


 魔獣の殲滅を確認した僕たちはこの坑道の最奥へと足を進めるのだった。

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