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147話 商売と情報収集

前回のあらすじ「初めて二人で寝ただけ」

―「アリッシュ鉱山・第3坑道」―


「嬢ちゃん達!こっちに2つずつそれをくれ!」


「1つ10ルクス!銅貨1枚です!」


「こっちもだ!!」


「まだたくあんあるので落ち着いて下さいなのです!」


「どうぞ!」


 さらに奥の坑道に入った僕たちは持ってきたパンを売りさばいていく。しかし……これは予想外だった。


「こんなにパンが売れるなんて思わなかったよ」


「薫の見立ててでは物珍しさで買うのを戸惑って少しずつの予想でしたよね」


「うん」


「でも、予想以上に忙しいのです」


 このままだと予定の一時よりもっと前に売り終えてしまうだろう。しかし、どうしてこんなに速く売れるのだろう?


「そりゃあ、嬢ちゃん達のパンが安くてボリュームもあって珍しいの三拍子だからな。こっちの長い肉を挟んだパンは見たことが無いぞ?」


 すると、近くで座って食べていた頑強な肉体を持った鉱夫たちが話しかけて来た。


「僕としては食べ慣れていないパンだから、少しばかり買うのに戸惑うと思ってたんだけどね」


「確かにな。でもこれって例の異世界の料理だろう?」


「はい。こちらはよくあるサンドイッチですが、こっちの長い肉を挟んだ物はホットドックと言って、あっちではポピュラーな料理になります」


「なら売れるってもんだ!異世界の料理はどれもこれも美味しいって聞いてるからな。外で露店をやってる店でも異世界の料理を売ってる店を狙うのがオススメってこの中じゃ一般常識になってるからな!」


「なるほど」


「しっかし今回の嬢ちゃん達の所は大当たりだったな!このサンドイッチもあっちの何かしらが加わっているんだろう?」


「ガルガスタ王国から輸入したチーズを使ってるのです」


「おいおい……ガルガスタ王国ってここからだとかなり遠いだろう?それとこの値段は釣り合わねえだろうよ?」


「今回の商売の目的は商品の感想を聞くためなんです。鉱夫の方々のように力仕事をメインとする客層にはどのようなのが好まれるか、必要なら別の具材を用意しようとも考えているんです」


「なるほどな」


「なら嬢ちゃん達、もっとお肉を挟んだやつは無いか?もっと食べ応えのあるやつがいいんだが」


「それならハンバーガーですかね。お肉をバンズっていうパンで挟んだ料理なんです。こちらも片手で食べられる料理なんです」


「いいじゃねえの!」


「これもいいが……やっぱり米がいいな。ただおにぎりも飽きたしな」


「なら、ライスバーガーですかね。ハンバーガーのパンを平たく焼いた焼きおにぎりでサンドするんです」


「用意できるのか?」


「それでは明日、持ってきますね」


 僕は営業スマイルでそう答える。まあ明日もここに来るのか分からないけど。ちなみにユノも笑顔を浮かべている。


「俺、あの子達に惚れた……」


「ああ。俺もだ……そこの嬢ちゃん!!俺にもパンをくれ!!」


「こっちもだ!!」


 周囲にいた鉱夫の方々がこちらに近づいてパンを買っていく。ちなみに買う際にそれとなく僕たちにセクハラしてくる奴らは手を抓って追い返す。さらに、それに気付いた鉱夫たちがセクハラした奴を足で踏んで粛清を加える。皆さんご協力ありがとうございます。


「ははは!頼むぜ!こちらとしては金は稼げても使う場所が少なくてよ!」


「景気はいいんですか?」


「ああ。この調子ならまだまだ大丈夫そうだな」


「そうなんですか?最近、ここの産出量が減ってるって変な噂があったもので……」


 ユノが今回の目的である鉱山の近況について訊いてみる。


「いや?いつも通りだよな?」


「ああ。他の奴らからも聞いたことがないぞ」


「そうですか……」


「でも何でそんな噂が出たのかが分からないのです」


「そうだな……誰か心当たりないか?」


 先ほどから話していた鉱夫が周囲の仲間に訊いてくれる。ただ、他の方々も首を傾けたり、手を振って知らないと回答したりする。


「すまないな。誰も心当たりが無いそうだ」


「いいえ。こちらとしては助かりました。ここで商売をしようとしてすぐに廃坑なんてシャレになりませんから」


「ははは!それもそうだな!まあ、ここが廃坑になるようなら領主からすぐに連絡が来ると思うがな」


「領主様が?」


「ああ。ここの領主は先見の明があってな。ここもいつ鉱山が廃坑するか分からないから、農業にも力を入れてるしな」


「俺もそれ聞いたぞ!あと、戦争が終わって商人の行き来が多くなったから宿場や花街を整えたり街道も馬車が行き来しやすいようにしてるしな」


「俺なんかはもう年だからよ?今後の仕事に関して紹介されたりしたぞ?」


 鉱夫から話を聞くと悪い話が出てこない。むしろ仕事が出来る領主ということで尊敬すらしているようだ。


「(演技……じゃないね)」


「(ですね)」


「(となると領主はシロなのです?)」


「(うーーん……裏で何かやってるかもしれないしな)」


 小声で手に入った情報について皆の意見を聞く。


「あっ!いたいた!!あそこだよ!旨いパンを売ってる美人さん達がいるって!!おーーい!!こっちにもパンを売ってくれ!!」


「はーーい!ただいまいきまーーす!!ユノ、レイス!」


「はい」


「なのです」


 他のお客さんが来たので、お世話になった鉱夫にお礼を言って別の場所へと向かうのだった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―その日の夜「宿屋」―


「それでどうかしら?」


「こっちは特に」


「こっちもだぜ」


 昨日と同じ宿屋の食堂で、お互いの成果を発表するが特にこれといった情報を聞く事は出来なかった。


「あ、それともっと肉多めのパンがいいって」


「そうしたら明日はハンバーガーを作るよ。それとライスバーガーかな」


「私達はパンを売りに来たわけじゃないですがね……」


「だな……」


「分かってるわよ。でも怪しまれないようにするのも大切よ?」


「でもシーエの言う通りですね……シーエ。あなたはこの辺りのお店を巡って、怪しいうわさが無いか調べてもらえませんか?」


「それなら私も付いていくわ。そっちの方が専門だし」


「じゃあ明日はそれで」


「……ねえ」


「なんですか薫?」


「そろそろ僕の服……」


「「「「そのままで♪」」」」


「あ、はい」


 これで3日連続女装で決まりである。そろそろ男に戻りたい。


「むしろ……このままで」


「ユノ!?」


「私としてもこの方が納得……」


 ……ああ。早く戻りたい。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―翌日「アリッシュ鉱山・坑道」―


「ありがとうございまーす!!」


「おお。これはいいな!」


「うめえーー!!!!」


 ハンバーガーを求める鉱夫たちを相手にどんどん売りさばいていく僕たち。


「ありがとうございますなのです」


「はい!3つですね!」


「この調子だとすぐに完売だね」


「ですね」


 素直に商品が売れる事に喜ぶ僕たち。商人だったら嬉しいで終わりなんだけどな……。


「よっ!嬢ちゃん!」


「あ!昨日はどうも!!」


 昨日、お世話になった三人組の鉱夫さんたちが顔を真っ黒にしてこっちに来た。


「これがハンバーガーか……すまないがここにいる奴ら分くれ」


「はい。1つ20ルクス…60ルクスです」


 銅貨を受け取って商品を引き渡す。すると昨日と同じように近くで昼食を取り始める。


「このライスバーガー……うめぇ~~!!!!このパンとは違ってカリカリするのが何とも!!」


「このソース…歯ごたえのある酸っぱいやつがいいアクセントになって……生きてて……よかったあぁ~~~~!!!!」


 一人が立ち上がって両手を上にあげる。こんなリアクションをする芸人が昔いたような気がする。


「お前ら落ち着けって」


 笑いながら仲間の二人を落ち着かせている。そういう自分も髭にケチャップを付けていて説得力がない。


「ふふ。お鬚にケチャップがついてますよ?」


「うん?おお。すまねえ」


 ワイルドに手で拭って髭についたケチャップふき取る。


「しっかし、本当に嬢ちゃん達の料理はいいな。明日も来るのか?」


「それは……」


「……どうやら訳ありか?」


 僕は咄嗟にこの鉱夫の仲間を見るが、その二人はお喋りに夢中になっていてこちらを見ていない。再び目線を戻すと鉱夫が姿勢を整えて、しっかりとした目つきでこちらを見る。この雰囲気は……。


「もしかして騎士様?」


「元な。そっちの嬢ちゃん中々の手練れと見えるな」


「もしかして、ロックですか?」


「やっぱりユノ姫ですか」


「まさかお知り合い?」


「我が国の元騎士団でも有名な方ですから」


「……となるとこの時期の恒例の視察か。そっちの嬢ちゃんは護衛ですか」


「いいえ。私のフィアンセですよ」


 ユノが僕の手を組んで体をくっつける。


「……え?」


「すいません。僕、男です」


「……な!?」


 ロックさんは慌てて口を押えて驚きを抑える。


「それで私は薫の相棒の精霊なのです」


「おいおい……女っぽい男で魔法使いって……今、巷で噂になっている勇者ってことか」


 ロックさんが頭に手を当ててため息を吐く。


「でも、何で騎士を辞めて鉱夫を?」


「まあ俺も歳で女房にも迷惑をかけるしな。そろそろ前線ではなくて普通の職で働こうと思って親父の影響で鉱夫をやっている」


「そうなんですね」


「それでユノ様。差し支えなければここに来た理由をお聞かせ願えますでしょうか?」


 ユノが一度こちらを向く。僕はそれに首を縦に振って答える。彼の事を知っているユノが大丈夫ならいいだろう。


「実は……」


 ユノがロックさんに説明をしている間、新たに来た客を相手に僕とレイスでハンバーガーを売りまくるのだった。

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