146話 初めての夜
前回のあらすじ「その時!薫に緊張が走る!!」
―「鉱山の町アリッシュ・宿屋」―
「お風呂いただきました♪」
僕が気持ちを落ち着かせるために手帳を開いて、小説を書くために使えそうなネタをまとめていると部屋の浴室からユノがお風呂から上がってきた。濡れた長い金髪をバスタオルを当てて水気を取っている。そして火照っている体はバスタオルを巻いている。長年童貞として過ごしてきた僕にとってそのバスタオル姿は非常にインパクト大である。特に谷間が……。
「う、うん!それじゃあ僕も入って来るよ!あ、これお茶ね!」
僕は慌てて目線を逸らし、アイテムボックスからペットボトルのお茶を出してテーブルの上に置く。
「ありがとうございます薫」
「それじゃあ入ってくる!!」
さらに手帳をアイテムボックスに収納した後、僕はすぐに椅子から立ち上がりユノの横を通り過ぎて浴室へと入っていく。通り過ぎた時に石鹸の甘い香りが僕の鼻をくすぐった……いい匂いだった……少しの間だけ、僕は浴室で手で赤面した顔を抑えつつ、その場にうずくまるのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―薫の入浴後―
寝間着に着替えて浴室から出ると部屋の灯りは消えていて、備え付けのライトの下で寝間着を着たユノが椅子に座りながら書類を真剣な眼差しで見ている。
「何を見てるの?」
「書類を……あ、すいません!勝手に消してしまって……」
「気にしなくていいよ。それで……」
「この街の鉱山からの鉄の採掘量です」
ユノが書類を見せてくれた。ただグージャンパマの言語で書かれているために読めない。
「こんな時のこれ!」
僕はベットの傍にある鞄からつい最近完成した眼鏡型魔道具を取り出す。
「それが新しい魔道具セシャトですか」
「うん。このレンズの近くにある魔石が文字を翻訳する機能があって、魔道具の名前は古代エジプトの文字を司る神様から取ってるんだって。と、いうことで」
セシャトを掛けて書類に目を通す。すると文章の上に翻訳された文章がうっすらと出てきたので僕はそれを読む。……確かにここ数年産出量が減ってきている。
「確かに減ってるね」
「はい。ただハリル達が率いる隠密部隊がある非合法の商品を売っていた密売人を捕えた所、どうもここの鉄も扱っていた形跡があったそうなんです」
「つまり鉄を横流ししていたと?」
「その可能性もありますね」
「……これってユノじゃないとダメなの?本当に危険な臭いがするんだけど?」
「これも王家の務めですし、お父様やお兄様は転移の魔法陣を使ってもっと遠くの場所をいくつも視察したりするので忙しいですから……。だから私も王家の人間として仕事をしっかりとこなさなければいけないのです!」
ユノが力説しながらグイグイと僕に近づいてくる。ユノの大きな二つの山が体にぶつかってきて、男として嬉しい反面、このままだとマズいので止めて欲しいとも思ったりする。
「それにこの9月から翌年1月の時期は貴族の方々が社交界を開いたり領民から得た税の審査、必要なら次期領主への権利の移行とかを行ったりなど慌ただしい時期なのです。それだから王都の学校も来月辺りで長期のお休みになって、通っている次期領主候補は家に戻って仕事をしたりします」
「それがどうしたの?脈絡を得ていないような……」
今までの話と関係ないような話が出て来る。
「1週間前にここの領主の娘がこっちに戻っているのです。それだから何かあったのではないかと思えるのです」
「なるほど……後少しで学校が休みになるのに、それを前倒しして帰るなんて何かあると。それにもしその娘と交渉する場合、歳が近く同じ女性であるユノが適任だったと」
「大当たりです。ここの領主の娘、クオーネ・アリッシュは王都の学園では好成績を修めて、周りからの人望も厚い方でして。私も何度かお話をしているのですが悪事を働くような方では無いと保証できます」
「というと?」
「顔に出やすいタイプですから。お話をしているとコロコロと表情が変わって可愛らしい子ですよ」
嘘は得意では無いという訳か。
「それに王都にいるクオーネにも調査が入ったのですが、特に変わった所は無かったそうです」
「なるほどね。それだと怪しいのは現領主様?」
「もしくは長男であるルオット・アリッシュ様ですかね……ただ」
「ただ?」
「誰かが悪意ある噂を流している可能性もありますけどね」
そう言いながらユノは椅子から立ち上がって、僕をベットへと押し倒す……へ?
「後は明日の鉱山を視察してからにしましょう!……という訳で」
ユノがベットの上に倒れた僕の上にのりかかって押さえ付ける。
「これって泉が教えてくれた眼鏡彼氏を逆に襲うシチュエーションでしょうか?」
いっずみーー~~!!!!心の中で僕は思いっきり叫ぶ。何を教えてるの!?自分はカーターと健全なお付き合いをしてるくせに!!
「ふふふ♪」
ユノの顔が近づいてくる。あのお風呂上がりのシャンプーのいい香りが強くなる。このままだと僕の理性がマズい!!
「ゴメン!!」
僕は全身の力をフルに使って体を起こして、逆にユノをベットに押し倒す。
「きゃっ!」
ユノが驚いた目で馬乗りになった僕を見る。
「……襲いますか?」
「襲いません!!」
「冗談ですよ♪」
その後、僕とユノは一つのベットに並んで眠る。何かされるかなと思っていると意外にもユノはすぐに眠ってしまった。
「疲れてたんだね……」
ユノのかわいい寝顔から寝息が聞こえる。
「お休みユノ」
僕は寝ているユノに言葉をかけて眠ろうとする。僕がそんな油断をしてると突如、ユノが僕に抱き付いてくる。寝たふり!?と思って振り向くが……寝ている。
「寝れるかな……」
ユノは僕を抱き枕みたいに抱き付くので、色々と……あ、寝間着が崩れて胸の谷間が……。
すぐに僕は目を瞑り、しばらくの間、悶々としながら眠りに就くのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―ほぼ同時刻「ミリー達の部屋」―
「見た目は百合だぜ……いや?何の展開無しって、それでも男か?……zzz」
「マーバは何を言ってるのかしら?」
「なのです」
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―早朝「アリッシュ鉱山・坑道前」―
「ふぁ~……」
「眠そうだけど、ヤったの?」
「いえ。私が先に寝ちゃて……」
「僕は慣れない枕で中々寝付けなかっただけだよ」
「がっかりだぜ」
何かユノを除いた女性陣から不満が漏れている。
「君たち?ここには仕事で来てるんだからね?」
「皆さん。見えてきましたよ」
先頭を歩ていたシーエさんに言われて前を見る。
「おお……ここが」
目に入る鉱山。テンプレでよく見る鉱山の入り口だ……。周りには屈強な男性が仕事をしている。
「でも、この格好って目立つのでは?」
「いいえ。あちらのような人達もいるから目立ちませんよ?」
ユノが指差す方向。そこには鉱夫たちに混ざって露店を出して商売している人がいる。
「鉱山の持ち主、つまり領主の許可があれば露店を出したり、坑道内での販売なんかも出来るので誰でも入れますよ」
「密かに行動している私達は?」
「大丈夫です」
するとユノが鉱山前に立っている門兵に近づく。
「フリージアですが……」
「はい。話を聞いてます。どうぞ」
ユノが中に入っていくので、僕たちもその後に続いて入っていく。
「許可証とかじゃないの?」
「この時間の門兵はハリルの部下がやっていますので♪さっきの名前は合言葉です」
「なるほどね」
どうやって門兵になったか気になるが……まあ、気にしないでおこう。坑道は大きく作られていて、これが現実世界ならトラックを乗り入れても問題無いくらいだった。また等間隔に照明の魔道具が設置されていて坑道内を明るく照らしている。
その坑道をしばらく歩くと開けた場所に出る。この開けた場所で採掘している者もいれば、ここから無数の坑道があって、その中へと入っていく者もいたりする。
「それでは薫。あれをお願いしますね」
「りょーかい」
僕はなるべく人目のつかない場所でアイテムボックスから駅弁なんかを売るのに使う立売人携帯容器を取り出し、その上に汚れた手で持っても大丈夫なように紙で包んだホットドックとベーコンエッグを挟んだコッペパンを一杯になるように載せる。
「美味しそうだぜ……」
「皆の分は別に取ってあるから安心してね」
僕たちはそれを4セット用意して、精霊を除いた皆がそれを担ぐ。これで売り子となってそれとなく鉱夫から話を聞き出そうという算段だ。
「それとこれを」
するとミリーさんが皆に時計を渡す。これも精霊用のは無いのでレイスとマーバを除いた人たちでそれを腕に付ける。
「今日は二組になってそれぞれ鉱夫達から聞き込み、メンバー分けはユノ姫と薫、レイス。で、私とシーエ隊長とマーバ。制限時間はこの時計で一時まで。それまでには再びここへ集合。オッケー?」
「分かりました!」
「いいけど……この分け方おかしくない?」
「きちんと魔法使いである私達が分かれてるので問題ありませんよ」
「そうだぜ♪」
シーエさんにマーバ。あなた方はビシャータテア王国の騎士団の隊長だよね……?お姫様の護衛はいいの?
「じゃあいくわよ?ミッションスタート!」
ミリーさんの掛け声に合わせて、僕たちは情報収集のために分かれて行動するのだった。
―クエスト「鉱山の町にはびこる闇を暴け!!」―
内容:ここの鉄が横流しされている可能性があります!証拠を見つけて真相を暴きましょう。ちなみに鉱山内に魔獣は出るので警戒して下さい。




