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145話 抜き打ち検査

前回のあらすじ「フラグ回収からのフラグ建築」

―「馬車内」―


「このクッションというのはいいですね!長く座ってられます!」


「それは良かった。馬車に乗って移動するって聞いたから用意したんだ」


「ありがとうございます薫♪」


「どういたしまして」


 ……あの会議から月が替わって10月。ますます秋が深まるこの頃。こちらビシャータテア王国も同じで木々が紅葉していたり、葉を落としていたりする。そんな中を僕たちは屋根の無い馬車に乗ってある町へと移動中である。それで今回のメンバーだが……。


「ふふふ♪」


「……」


「どうしたんだぜ黙ってて?」


「いや。まさかユノが来るとは思ってなかったからさ」


「これも王家の務めですから」


 そう。今回のメンバーはシーエさんとマーバにミリーそしてユノの6人。ちなみに今、馬車を走らせているのはユノだったりする。ちなみに僕はその隣に座っている。


 ちなみにユノが笑顔で話をしているがこれから向かう場所は楽しい行楽地という訳では無い。


「でも、お姫様に走らせていいんですか?」


「ユノ様は教育の一環で馬を走らせたりしてますから問題ありませんよ。それにまさか王家がこんな風に来るとは思っていないでしょうから」


 今回は王家の人間が来ることがバレないようにしないといけないので、シーエさんもその長い銀髪を後ろで一括りにして眼鏡を掛けている。服装もゆったりとした泉たち作の白いローブを着ていて、その姿はゲームで見かけるような実に魔法使いらしい格好をしている。本人としては商人に扮しているらしい。


 シーエさんは王都では有名人で似顔絵も多く出回っているので、変装は当然とのこと。そして、勇者として知名度のある僕も変装するべき!ということで変装中なのだが……。


「……で、何で僕は女装させられるんですか?」


 泉とフィーロ作。ユノと色違いののペアルックで、こちらの世界での女性の一般的な服装をして、かつウィックを付けてロングヘアーになっている。ちなみにユノが青を基調としていて僕は赤である。なお泉たちも誘ったらしいのだが、衣服と関係ないから……。ということで今回の件は断られたそうだ。


「だってお前があの格好してたら目立つし、最悪勇者ってバレるじゃん」


「いやいや!?あれじゃなくて、こっちの男性の服でいいってことだよね!」


「それが一番目立つのでダメなのです」


「女性なのに男性の服を着てるって違和感ありまくりですよ」


「納得いかない!!」


「いや。他の皆は納得よ。違和感が無いもの」


 マフラーを巻いて動きやすそうな服装をしているミリーさんが銃の整備をしながら僕の意見に反対する。今回、彼女が同行したのはレルンティシア王国の復興のための一環として他国への協力というアリーシャ女王の命で来ている。ちなみに彼女の衣装も泉たちの作で、ゲームの役職である盗賊(シーフ)をイメージして作ったとのこと。


「僕、男!!」


「はいはい……それで今回のミッションはこの先の町の視察でいいのかしら?」


「ええ。今回の旅の目的ですが、大臣からこの先の鉱山の産出量がここ最近減っていてそれの確認となっています。伯爵家からは産出量が減っているからとなってますが……まあ、お忍びでの確認ですね」


「それでどうやって行くの?」


「まず、この先の町で今日は一泊。調査は明日からとなります」


「ギルドに話を通した方がいいかな?確かこの先の町…アリッシュにはそこそこ大きなギルドがあるはずだけど」


「止めといた方がいいぜ」


「……それってかなりきな臭いって言ってると同意じゃないの?」


「はい。王都のギルドマスターに依頼の相談したところ、アリッシュのギルド長が怪しい動きを見せているとのことでした」


「そんな所にユノ連れてきちゃダメでしょ?」


「王家の人間が確認したというのは一番の証拠になりますので……それに危険度が高いのが分かってるからこそ薫さんたちも一緒なんですよ。いざとなれば武力行使で万事解決できますから」


「平和的な解決は!?」


「私としてはそっちの方が楽なんだけどね」


「ミリーさんダメですからね!」


「大丈夫ですよ薫。いざとなればお父様が何とかしますので」


「アウトーー!!」


 ユノも何を言ってるの!!いや!なんで全てを武力や権力で解決しようとするのかな!?もっと対話とか交渉とか……戦いは最後の選択肢でしょうが!!


「さてといつもの薫のツッコミがさえわたった所で真面目な話をしようぜ」


「なのです」


「最初からしてーー!!」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―その日の夕方「鉱山の町アリッシュ・宿屋」―


 馬車に揺られ、到着した僕たちは宿屋に隣接している食堂で食事をとることにした。周りを見ると鉱夫の方々がお酒を飲んだりして一日の疲れを癒している。


「ここだけ見てると、不景気そうな雰囲気はなさそうですね」


「そうですね」


 酒の飲み方を見ると、皆が楽しそうに飲んでいるのだ。何かあったのならこうはいかないだろう。


「そういえば精霊である二人を目立つ場所で食事させていいのかしら?精霊って基本的には他種族と一緒に行動するのは珍しいはずでしょ?」


「そこは大丈夫だぜ。お手伝いしてその礼として食事をおごってもらってるだけだからな!」


「そういうことなので大丈夫なのです」


「そう……」


「ミリーさんはこっちに来てどうですか?あっちと比べたら文明が大分遅れていると思うのですが」


「いいえ。それでも都市として必要な上下水道があって街灯にエアコン替わりの魔道具。いつこっちに引っ越ししても問題無いでしょうね」


「僕としたら食事のレパートリーと娯楽が少ないのが困る所かな」


「それには同意見ね。任務とかで赴くときに音楽プレイヤーは必須だったもの」


 そう言って、ミリーさんが有名メーカーの音楽プレイヤーを取り出す。


「私も何度かあっちに伺った際に見ましたが凄いですよねあっちの音楽は!色々な楽器があって様々な音色が合わさっていて!」


「そういえばこっちだとピアノにラッパとか……後、パイプオルガンぐらいかな見たのは?」


「そうしたらこっちにロックバンドが来たら大盛り上がりでしょうね」


「ですね」


 こっちにこんな物を持ち込んだらどうなるだろうと予想しながら皆で楽しく会話をする。すると……。


「おい!嬢ちゃん!」


 酔っ払いの一人がこちらにやってくる。うわ……ガラ悪そう……。


「カワイ子ちゃんばっかりだな……こっちに来て酒を注げ!」


「どうしてそんな事をしないといけないのかな?」


 僕は男として酔っ払いに抗議する。


「は?なめてるのか?」


「なめてないよ。むしろ見ず知らずの人にいきなり酒を注ぐなんて普通は出来ないでしょ?」


「何だと?」


 ……これはダメだな。理由が全然なっていないのに、いきなり注げ!って普通はないだろうに。


「てめえ!少し教育がいるか?」


「いらないよ。こっちも明日の仕事の話で忙しいからあっちに行って欲しいんだけど?」


「このヤ……!!」


 僕は応戦しようとすると、ミリーさんが素早く男の首元にナイフを突きつける。


「ごめんなさい?私、この少女たちの護衛なのよ?ここで引き下がるならこれ下ろしてあげるけど……どうする?」


 ミリーさんは徐々にナイフを男の首に近づけていく。男はそれに驚き悲鳴を上げながら店を出ていってしまった。


「ははは!やるな!嬢ちゃん!」


「おい!マスター!あの嬢ちゃんに一杯!俺のおごりだ!!」


 黙って見ていた鉱夫たちから歓声が挙がった。実の所、他の抗夫たちがこっちを見ていていつでも取り押さえられるように構えていたので安心はしていたのだった。


「お見事ですね」


「任務であんな奴は日常茶飯事よ」


「凄いですね」


「騎士として私も関心する動きでしたよ」


「いや。この娘の方がもっと凄いわよ?なんせ鵺を纏わせた文字通りの鉄拳でアイツを殴るつもりだったみたいだし」


 今、ミリーさんのこの子の表現が女性を含んだ言い方だったのは気のせいかな?とりあえず皆がこっちを見るのでテーブルの下で隠れていて見えなかった籠手を装備した状態の左腕を出す。


「薫。それで殴ったらアイツの骨折れるぜ?」


「最悪、中の物を吐いていたかもなのです」


「大丈夫だよ。それも考慮してハートブレイクを噛まそうと……」


「それ下手したら心停止するわよ」


 お前がやっぱり一番の武力行使じゃないかと皆から言われる。しょうがないじゃないか。変態、暴漢相手に妥協という字は僕には無いのだから。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―それから30分後―


 夕食を終えた僕たちはそのままこの建物の3階の寝泊まりする部屋へと向かう……のだが。


「何で部屋を3つ?」


 男部屋と女部屋で2つが基本だろう。


「薫さんと一緒では私が安心して眠れません」


 シーエさんが涼しい笑顔できっぱり答える。


「いくら女性と間違われるとはいえ男と一緒は無理ね」


「うちらも女性だしな~♪」


「なのです」


 ミリーさんと精霊組もきっぱりと答える。


「ということで私と一緒ですね♪」


 最後にユノが答える。そうかだからユノと一緒か~……。


「いやいや!おかしいから!?ユノはミリーさんたちと一緒じゃないの?」


 皆の意見にすかさず僕はツッコミを入れる。いくらなんでもおかしいからね?その理屈は?


「一部屋に女性4人は多いんだぜ!」


「精霊って幅とらないでしょ!?」


「婚約関係なんでしょ?なら問題無いじゃないの?」


「未成年だからね?」


「こっちだと大人だぜ?」


 そうだそうだ!と皆からのブーイングの嵐。あれ?おかしいのは僕ですか?


「別に誰も咎めないんだからいいじゃないの?」


「変な所で薫は頑固なのです」


「それは周囲の目が……」


「周りの皆さん暖かい目で見てるので大丈夫なのですよ」


 果たしてレイスの言うその暖かい目というのは、男女の恋愛という意味なのだろうか?それとも百合?それとも援助交際?


「あ、ちなみに純粋な恋愛は半分位なのです」


「ダメじゃん!!」


「ここで騒ぐと他のお客に迷惑だからさっさと部屋に入ろうぜ!じゃあお休み!」


 するとマーバ、レイスとミリーさんが隙の無い動きですぐに部屋へと入り鍵を閉めた。


「はやっ!」


「ではユノ様。お休みなさいませ」


「はい」


 僕がマーバたちの動きに目を奪われていたわずかなタイミングを狙って、シーエさんも部屋へと入ってしまった。


「……」


「では、私達も行きましょうか!」


「……はい」


 僕は大人しくユノと一緒に部屋の中へと入っていく。室内に入ってすぐ横にトイレと浴室、そして奥には小さいテーブルとイスに小型のタンス。あっちのビジネスホテルとかと一緒だな……そしてベットが一つ。


「どうして一つ!!」


「薫は小柄ですから一緒でも問題無いですよ」


「男としては大問題だよ!?」


「それでは先にお風呂をいただきますね♪」


 僕の言葉を無視して浴室へと向かう。あれ?このままだとアレをする流れのような……。


「いや、明日は仕事だし……そんな訳が」


 僕はテーブルに座って、アイテムボックスからペットボトルのお茶を出して変に乾いている喉を潤すのだった。

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