144話 解決。そして謎
前回のあらすじ「やっと6話のフラグ回収できた」
―夕方「薫宅・居間」―
「お、終わった……」
「そうッスね……」
二人が机に突っ伏している。お昼を挟んではいるが丸一日中話し合いをしたのだ。疲れて当然だろう。
「ここまで長丁場になるのは大変なのです」
レイスも手を顔に当てて疲れた表情を見せる。
「お疲れ様。ってもまだ終わりじゃないけどね」
「「「え!?」」」
「最後に総括しないとな」
「という訳でこうなりますね」
笹木クリエイティブカンパニーから持ってきたホワイトボードに紗江さんが内容を箇条書きでまとめる。
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―まとめると―
1.レルンティシア王国の復興への問題
内容:元の場所に再建。ただ数百年の間に道が崩れたり、森に戻っていたりしてすぐにとは難しい
2.魔導工学のこれから
内容:異世界の門の解明、飛空艇の開発、武器開発、眼鏡型言語翻訳機の開発、通信魔道具の小型化
3.敵対戦力への対抗策
内容:ヘルメスと魔族の情報収集
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「私達としては飛空艇の開発は急ぎたいです。これがあれば復興するための資材を空から運べますし、魔族の情報収集にも役立ちそうです」
「でも武器が無いと……」
皆が思い思いに感想を述べていく。様々な問題がある中でどうしてもこちらの準備不足が否めないという判断に至った。そこで魔導工学の開発を急ピッチで行うのが最善という話になったのだった。
「ラエティティアとして働いていたメンバーで開発に携わっていた者達を日本に呼び寄せます。彼らは魔石と機械の両方を扱っていたのでお力になれると思います」
(そうしたら、日本としては長期の滞在許可が出来るように手筈を整えますよ)
(……アメリカからも技術員を送らせてもらうとしよう。優秀な人手が多い事に越したことは無いだろう)
「でもそうなると……」
皆が僕の方を見つめる。
「「「「異世界の門を増やさないとな……」」」」
「あははは……はあ~」
ここに大勢の人が往来することになる。それはここに住む僕たちに取って迷惑になるということで皆が心配する。
「薫さんたちはこの計画を進めるために必要なキーパーソンです。少しでもゆっくり休める環境を用意してあげないと」
「しょうがないですから」
「カシーさん達……賢者も頑張って解析しているのだが良く分からない事が多いとのことだ。レルンティシアの方では何か分からないのか?」
「魔法陣に使われている図形のような物は文字だということぐらいですかね。とはいってもこれはグージャンパマにいた頃から言われていますが。こちらのロゼッタストーンみたいな物があればいいのですが……」
「それなら魔法陣自体を読み解けばいいのでは?火を強くする魔法陣とか色々ありますし、見比べて共通点があれば……」
「それで出来れば簡単だったのですが……魔法陣の中の文字を全く関係の無い物に変えたのに同じように働く魔法陣が幾つもあったりしてどうしてそうなるのかさっぱりなんですよね」
「それなら図形とかは?五芒星に六芒星、後は円で囲むのではなく三角とか四角とかで……」
「……」
アリーシャ女王が黙ったまま俯いている。他国の代表も僕と目を合わせてくれない……それほどいい結果を残せていないんだな……。
「とりあえず今日の話はここまでにしようや!じゃないとここに住んでいる薫とレイスに迷惑だしな!」
サルディア王が会議の終了を訴える。もう日が暮れているのでここでお開きにしていただけると僕としてもありがたい。
「ですね。それでは会議はここまでにして撤収しましょう」
コンジャク大司教の宣言を受けて会議はお開きになった。
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―それからおよそ1時間後「薫宅・庭」―
「迷惑をかけたわ」
皆がそれぞれ帰路に着いた後にレルンティシア王国グループが僕の所へと来た。そしてミリーさんの言葉と共にカイトさんが一緒に頭を下げてくれた。
「いいですよ。これからは協力していければと思うのでよろしくお願いします」
「こちらこそだよ。君達のようなレベルの高い魔法使いが味方なら心強いしね」
「私はこれからの為に一度組織に戻らないといけないのですが、二人にはここに残ってお手伝いをしてもらうのでお願いします」
「分かりました」
「これからよろしくお願いしますね薫」
「こちらこそアリーシャ女王様」
僕たちは握手を交わす。ミリーとカイトの二人はこれで釈放。今後はグージャンパマとこの世界の為に働いてもらう事で話が付いた。
「それで……どうしても確認したいのですが」
「何か?」
「本当に男性なんですよね?」
「……はい」
アリーシャ女王たちが睨みつけるような目線で、僕の体を見てくる。
「「「男性に見えない……」」」
「誠に遺憾です……」
こうして、また一つ問題が解決して僕たちは一歩前進した。しかし……。
「薫」
アリーシャ女王を見送った直後、名前を呼ばれてそちらへと振り向く。
「どうしたの直哉?」
「話したいことがある」
「……例のアレ?」
「お前に頼まれていたアレだ」
僕たちは玄関から居間に戻る。そこにはレイスがいたが……会議で疲れてテーブルの上で寝ている……。
「どうする?お前の書斎で話すか?」
「そうだね」
僕たちはレイスが起こさないようにそっとそのまま二階へと上がり書斎へと入る。僕たちは適当な所に座って話を始める。
「結論を言う。ビンゴだ。そちらの予想通り一致した」
「……そうか。直哉はどう思う?」
「驚き半分、納得半分だな。これまでの事を考えるとおかしいところばっかりだったしな」
「うん。でも、これでいくつかの疑問は解けたね……でも、一体誰が?」
「誰。ではなく奴らだろうな。一人では無理だ」
「そうだね……でも、そうなるとララノア神…それにグージャンパマの住人って……」
「皆も言わなくても分かる……となるとグージャンパマの存在もどう解釈するべきかだな」
「異世界ではない?」
「可能性もある。それによっては異世界の門の解析の方向性が全然変わってしまうしな」
「この事は?」
「私とお前だけだ」
「……しばらくは僕たちだけで調べた方がいいかな?」
「そうだな。ただ異世界の門の解析に使えそうな所は公表するがいいか?」
「もちろん。あくまでこれは僕の個人的な疑問。これを知った所で今の皆にはメリットが無いしね」
「だな。でも……必要なプロセスでもある」
「ありがとう。調べてくれて」
「気にするな。それでこれからどうする?」
僕は書斎の机の上に置いていたいつもの手帳を開き、そこからある一ページを破ってそれを直哉に渡す。
「あっちでこれらを調べてくれないかな」
直哉が破ったページを確認していく。
「なるほどな。分かった。これらを大至急調べよう」
「大至急じゃなくていいよ。今日の会議の方が急ぎでしょ?」
「何を言ってるんだ?これがお前の考え通りじゃなければ開発の際に使う計算式に影響を及ぼすんだぞ?」
「ああ。そういえばそうか」
「ということですぐに調べる。お前にもサンプルの回収を頼む。この解析には大量のサンプルが必要だ」
「分かった」
僕が返事をすると、直哉は手を組んで目を瞑り、その場で何かを考え始めた。
「……1ついいか?」
直哉がその状態のまま、僕に尋ねる。
「何?」
「薫。これが小説だとしたら……お前は何てタイトルを付ける?」
これに何とタイトルを付ける。という直哉の質問。それは僕が出している小説のタイトルではなく、その小説に僕が本当に付けようとしていたタイトル名の事にもなる。
「……ファンタジーが向こうからやってきました。かな」
「ふっ……そうか。確かに今の私達はそのタイトル通り受け身の状況だな」
「だね……」
その後、直哉との秘密の話し合いを済ませた僕は直哉を見送った後、夕食を作り起きたレイスと一緒に晩御飯を取った。僕は料理の間も、レイスと今日の会議を話題にしつつ食事をしている間も僕の頭の中ではこの疑問が失念することが無かったのだった。
そして……この時すでに新しい問題が起きている事に僕たちは知る由が無かったのだった。
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―「ビシャータテア王国・国境付近」シュナイダー視点―
深い森の中、我らは追手から逃げ続けていたが……どうやら巻いたようだ。
「ケケケ。何とかなったな」
「ふん。魔法さえ使えればどうともなる」
「それでどうする?アテでもあるのか?」
「ハッキリ言ってない。他の国に逃げても同じだろう……とりあえず寝床を」
「ほーう。訳アリの魔法使いかこれはちょうどいいな」
いきなり現れたそれに視線を向ける。木々から漏れる僅かな木漏れ日に照らされた男。金属製の鎧とかは着ておらず、革?のような服を着ている。体は筋肉質で普通なら屈強な男で済む話なのだろうが、この男の肌は青く眼が一つしかなかった。
「ま、魔物?」
「残念だが俺は魔族だ。それでどうだ?俺の配下にならないか?」
「何?」
「俺は魔王様の命令で人間共の国を襲うつもりだ。その際にこちらに詳しいお前らのような奴が欲しかったのだ」
「そう言って、利用するだけなのでは?」
「そうだ。しかし、お前等にも利があるぞ?なんなら一つの国をお前らにやってもいいくらいだ」
「本当か?」
「ケケケ。信じるのか?」
「信じなくても結構だが……」
すると目の前の悪魔が指を軽く振ると、我の後ろにあった木々が切断された。つまりここで断れば殺すという訳か……。
「いいだろう。どうせ我らには後が無いのだからな」
「シュナイダーに賛成!魔族様お強い!」
キクルスも今の攻撃を見て、敵わないと判断したようだ。相手のご機嫌どりをしている。
「ふん。ではいくぞ」
「かしこまりました!それでひとつご確認したいことが……」
「なんだ?」
「あなた様のお名前を」
「あ?そういえば言ってなかったな。俺の名はアクヌム!魔王軍四天王のアクヌムだ!」
「は!アクヌム様へ変わらぬ忠誠を!」
「忠誠ヲ!!」
歩き出すアクヌム様の後を我らは追う。成り上がってみせよう。例えこの魂を悪魔に売ったとしても。




