141話 ひだまりの変化
前回のあらすじ「薫の知らない場所で起きている変化」
―早朝「カフェひだまり・店内」マスターの視点―
(昨日、タワーで起きたヘルメスの襲撃事件ですが……)
店の開店準備をしていると聞こえてくる昨日のニュース。
「あの子達、また派手にやったわね」
「そうだな……しかし、飛べる化け物とはどんどん面倒ごとに巻き込まれてるなアイツら」
「ええ……」
野菜を切り、今日のオススメスープであるミネストローネの取り下ごしらえをしていく。
「昌」
「どうしたの武人さん?」
「そろそろ新しいバイトを雇うかと思うんだが……どうだ?」
「バイトを?」
「ああ。今は薫が手伝ってくれているが、アイツも小説家、妖狸、勇者と色々忙しいからな。いつここを辞めてもおかしくないだろう?だから忙しくなる平日の夜や休日だけでもいいから雇うのもいいかと思ってたんだが……まさか騎士団の隊長に副隊長を正式のバイトにするわけにもいかねえしな」
「ふふ。それもそうね。でもそうなると……二人かしら」
「そうだな……常連にアイツらのお陰で観光客もよく来るようになったから、その位の余裕は出来たしな」
「でも、肝心なのはバイトの子よね。口の固い子じゃないと」
「だな。精霊も訪れる店なんて、あっちこっちに知れたら面倒だしな」
「それに薫ちゃんの替わりになるんだから、かわいい子じゃないと!」
「そんな都合よくいねえよ……」
昌のバイトに求める要望があまりにも高かったのでツッコミをかましつつ、店を開けるのだった。
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―お昼「カフェひだまり・店内」マスターの視点―
(ヘルメスの持つ未知の技術力に多くの専門家達が頭を悩ませていますね)
(それを言うなら妖怪達もです。あれらを退ける力を持ちながらも、表舞台に全く現れない。彼らも危険なテロリストでは無いかという話がでてますね)
「妖狸をテロリストなんて分かってねえなあ~。なあマスター?」
「うん?ああ。そうだな」
カウンター席に座るじいさんがオムライスを頬張る。昨日の一件の際にヘルメスの化け物を死亡させた事でそのような話が出てしまったらしい。そしてネット上でもそのような心無い書き込みが増えているという。
「それで薫ちゃんはどうした?ここ最近、見てねえけど?」
「小説家として頑張ってるんだよ。アイツもアイツの人生があるしな」
「そうか……寂しくなるねえ~」
「そうだな」
(……でも、妖狸がアメリカの大使を助けて無かったら、両国の関係にヒビを入れかねない事態でしたよね?それにケガしたSPに対して治療を施したりしてますし)
(それに今までの彼らの功績を考えたら、危険とは……)
(むしろ、俺は赤鬼という男性型の妖怪の登場には驚きですね~!てっきり妖怪は女性だけかと思ってたんで!)
その芸人の発言に若干の笑いがテレビから起きる。そしてカウンター席のじいさんが、そうだそうだ!とテレビに向かって言っている。店にいる他の常連も妖怪の方を支持するような素振りをみせている。
「まあ、大丈夫そうだな」
「何か言ったかマスター?」
「いや」
俺は厨房に入って、次の料理を作り始めるのだった。
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―昼時過ぎ「カフェひだまり・店内」マスター視点―
「うーーんっと!やっと一息つけたわね」
お客がちょうど掃けて、これから夜に向けての仕込み作業とお茶を楽しむばあさん達の時間になる。しかし、今日は平日なのにいつもより客が多かったな……。
「昨日アイツらが思いっきり暴れたしな。まだまだ妖狸騒ぎでここは忙しくなりそうだな」
~♪~~♪
「いらっしゃ……あら」
「お久しぶりでーす!ほーら、あみも!」
「お久しぶりです」
「あらあら。雪野ちゃんにあみちゃん!本当に久しぶりね。そうしたらこちらへどうぞ」
「「はーい!」」
大学受験の息抜き中に来た以来、久しぶりになる彼女達がやってきた。
「いらっしゃい」
「マスター!お久しぶりです!」
「お久しぶりです」
「おう。それで注文はどうする?」
「いつものケーキセット。私はミルクレープと紅茶で!」
「私は……モンブラン。飲み物は雪野ちゃんと同じで」
「私がやるわ。武人さんは仕込みの準備をしてて」
「おう」
俺は夜のために仕込みを始める。とは言っても早めに仕込みを行えたため、今日はすぐに終わるだろうが。それから一時間程で仕込みが終わったので休憩しようとカウンターの方へ移動すると昌達が話で盛り上がっていた。
「盛り上がってるな」
「仕込みは終わったの?」
「ああ」
昌は、お茶を入れるわね。と言って、カウンター裏でお茶を淹れ始める。
「仕込みってこの時間でもやってるんですか?」
「うん?そうだな……そういえば、二人は大学で調理師を目指してるんだっけか?」
「大学でななくて、正しくは専門学校ですけどね。それで雪野ちゃんと一緒にお店をやろうと思って……」
「二人して勉強中です!」
「そうか。まあ、聞きたいことがあれば教えてやるぞ」
「ありがとうございます!」
それから二人が飲食店を始めるにあたって、必要な事や出す料理とかを訊いてくるので丁寧に返していく。すると、昌の方もお茶を淹れて戻ってきた。
「どうだ?」
「ためになりました!ありがとうございます!」
「あら?何してたの?」
「二人が飲食店やりたいって言うからな、やるに当たってのアドバイスさ。まあ、実際にアルバイトした方が身に着くと思うけどな」
「いや~……それが」
「どうした?」
「二人でアルバイトしてたお店が潰れて……」
「あ~なるほどね」
昌が二人に対して紅茶のお替わりを入れていく。二人は、頼んでいない。と言ったが昌がサービスということで淹れていく。
「すいません」
「いいえ……となると二人は今、フリーってことかしら?」
「はい。それで暇になったのと、たまたま今日が休校になったので久しぶりに行こうと思って」
「自宅から通ってるの?」
「はい」
「専門学校って事は土日は休講。平日もだいたい5時には終わるわよね?」
「え?そうですけど……」
昌がグイグイと体を前に出して二人に細かい質問していく。
「昌さん。こ、怖いです」
「あら。ごめんなさい!ちょうどアルバイトを募集しようか朝、二人で話してたの。それでちょうど予定してた人数が二人だったから」
「え?募集中なんですか?」
「まあ……そうだな。実は薫も本業が忙しくなってきてな。それで新しいバイトを雇うかと思ってな」
「やります!」
「雪野ちゃん!?」
「このお店、SNSでは知る人ぞ知る名店なんだよ!そんなお店で働けるなら、私達のレベルアップにもなりそうじゃん!」
「それは……そうかも」
「それに、二人共、薫ちゃんの手品の事は話してないでしょ?」
「それは勿論です!」
あみの方も首を縦に振っている。
「どうかしら?二人なら問題無いんじゃないかしら?」
「そうだな……調理師の卵っていうなら調理も任せられるしな……」
調理師専門学校に通ってるぐらいだし調理もイケるだろう。また、高校時代から度々うちに来てるので二人の性格ある程度分かるし素直な子達だとも思う。
「……そうだな。いいかもしれない」
「それじゃあ!」
「今週の土日からいけるか?」
「はい!大丈夫です!」
「あみと同じです!」
「それじゃあ……よろしくな!」
「「はい!」」
これで薫不在時の戦力を補えるだろう。後で必要な書類とか用意して、薫達にも伝えねえと……。
~♪~~♪
すると、玄関からちょうど薫達がやってきた。
「お疲れ様。マスター、昌姉」
「あ、お久しぶりです!薫さん!」
「お久しぶりです」
「あ、二人共、久しぶり!って4人で集まって何してたの?」
「ほら。薫ちゃん色々仕事があって店を空ける時間が増えたからね」
「あ、ゴメン!今日も色々あってさ」
「朝に聞いてるから分かってるさ。それで二人にうちの手伝いしてもらおうと思ってな。雇う事にしたんだが……」
俺は神妙な面持ちで、薫の方を見る。
「……あれは?」
「まだ伝えてない」
「「あれ?」」
「この店の最大の秘密だ。だから二人にはこの事を誰にも話さない。いいか?」
「は、はい!分かってます。レシピとかはお店の命ですもんね」
「それが一番の問題じゃないのよね」
昌が手を頬に当てて答える。
「それじゃあ何が?」
「とりあえずだ。黙っていられるかどうかだ。どうだ?ダメそうならここが引きどころなんだが……」
「大丈夫ですよ!このお店の雰囲気からして怪しい事じゃないんですよね?だから問題ありません!」
「雪野ちゃんがそう言うなら私も……」
俺は再び薫の方を見る。
「それじゃあ……二人共、覚悟はいい?」
「どんなことがあっても驚かないですよ!」
「分かったよ……レイスいい?」
「はいなのです」
薫の持つ鞄から精霊であるレイスがふわりと飛び上がり、二人の座る席のテーブルに着地する。
「初めましてレイスといいます。よろしくなの……」
「「え、ええぇぇーーーー!!!!」」
目を丸くして固まっていた二人が突如、大声を上げる。普通なら営業妨害になるが店内のお客は二人だけなので問題無い。俺もそれを分かっているからこそレイスに自己紹介してもらった訳なのだが……二人があまりの出来事にパニックになっている。
「……まあ、そうなるのです」
「だな……」
その後、二人を落ち着かせた俺達はこの店の重大な秘密を説明をするのだった。




