139話 雑草駆除
前回のあらすじ「ノリで造れる地下施設」
―「笹木クリエイティブカンパニー・地下通路奥の部屋」―
「(………!!)」
通路から中の様子を耳で伺う僕たち。扉は全て開け放たれていて声は奥の部屋からしていた。
「どうやらまだ生きているみたいだな」
「マダーウッドの相手は僕たちがするから」
「頑張るのです!!」
「お願いしますねお二人共」
ゆっくり……ゆっくりと奥の部屋に近づく僕たち。そして扉の近くに来た僕とレイスは頭だけを出して中をうかが……!!
「ど、どうした二人共!いきなり顔を両手で押さえて!?」
「まさか目も当てられないような惨劇に……!!」
「……いや……その生きてはいたよ……」
「なのです……」
「うん?それならどうして……」
あまりの光景に目を逸らした僕たちを通り抜けて直哉たちも中を伺う。
「お~これが触手プレイというやつか……生で見……」
「社長!見ちゃダメです!!」
すると、顔を隠して見えなかったが、恐らく紗江さんが、ガンッ!!と何か堅い物で直哉の頭を全力で叩いた。いや、この音って撲殺したんじゃないのかな……?
とりあえず……色々凄かった。枝が触手のように女性スパイを拘束し、枝で口を塞ぎつつ、ビリビリに破かれていた服の隙間から、その枝で女体を舐めるかのように堪能していた。女性は最後の抵抗なのだろうか、必死にあそこを守ろうと足を動かして頑張っていた……。
「……~~~!!!!」
頭の中に焼き付いて忘れそうにないよ~!!どうしよう……!!あの人の肌すごくきれいだったし!!片方の胸が丸出しで……!!
「そ、それで薫さん、レイスさん大丈夫ですか……」
「う、うん。何とかするよ。レイスはまだ未成年なんだからここで待ってて」
「魔法は?」
「いざとなったらお願い。それまでは持ってきた道具で何とかするよ」
「頑張ってください薫さん!薫さんは同性なんです。だから問題ありませんよ!」
「そ、そうだぞ……だから早グフェ!!」
倒れていた直哉に対して全力の蹴りをかます。誰が同性だ!!とりあえず、僕はアイテムボックスから例のアレを出して、部屋へとそのノズルを向ける。マダーウッドは女性に夢中なようでこっちには見向きも何にもしてこない。
「ぐ、お茶目なジョーク……って、薫。それ農薬散布する機材だよな?」
「え、植物が相手だからこれで……」
直哉からマダーウッドが出たと聞いた僕は広い庭の雑草駆除に使用している農薬散布機を倉庫から持ってきたのだった。
「相手は魔獣!!植物じゃなーーい!!」
「根をコンクリートの上に張ってるんだから同じでしょ?ってなことで」
僕は電源を入れて農薬を散布していく。
「いや!?いくら何でも無理だからな!?相手は異世界の魔獣!それが効いたら苦労は……」
「ぎぃしゃあああああああーーーーーー!!!!」
「効いたーーーー!!!!いや、お前、魔獣だろう!!何で効くんだ!!」
「どっちの味方何ですか社長?いや。気持ちはおっさししますが……」
二人が各々感想を述べている中で、僕はそのまま散布し続ける。すると、扉付近にあった枝を下げてきたので、僕はそのまま中へと入っていく。
「はいはい。危ないのは消毒しましょうね~」
苦しむマダーウッド。枝を使って僕を攻撃しようとしてきたので、避けてその枝に直接農薬をかける。
「ぎゃあ!ぎゃあーー!!」
木なのにどこから声をだしているのだろうか?そんな事を考えているとここで予想外の事が起きる。農薬の噴霧する力がどんどん弱くなってきたのだ。
「あ、電池切れ……」
「ぎしゃああ!!」
すると、好機と見たマダーウッドが枝で僕の体を拘束。捕まってしまった。
「薫!!」
「薫さん!」
「レイスいる?」
「は、はいなのですというか捕まったのに何、余裕の構えなのですか!?」
「いや。まあ……動く植物と分かると何となく冷静というか……」
「薫さん!早く何とかしないと!このままだと薫さんが触手プレイの餌食に!!薫さんの初めてが奪われますよ!?」
「いや、紗江さん。何、興奮しながら言ってるんですか」
「……男性の触手プレイ。少し見て見たい気が……」
「……レイス。湯玉」
「あ、はい。分かったのです」
紗江さんの期待を粉々に打ち砕く為に、拘束されて動かせない腕を掌だけを広げて下に向ける。
「湯玉って、つまりお湯だよな?」
「うん。沸騰したお湯の玉を発射する技だよ」
「熱湯で枯死出来るか!!相手は魔獣!!植物じゃなーーい!!」
「湯玉」
直哉のツッコミを無視して、僕は捕まって動かしにくい手を動かして、なるべく根に当たるように沸騰したお湯を連続で撃つ。
「ぎぃしゃあああああああーーーーーー!!!!」
「効くんかい!!お前、魔獣だろう!!根性を見せろ!!」
「ぎ、ぎしゃああああ!!」
何故か直哉の主張に誇張したキラーウッドが僕の締め付けを強くする。
「……痛いじゃないか。セイクリッドフレイム」
捕まる直前に手に持っていた魔石を発動させるために静かに僕が呪文を唱えると、僕に巻き付いていた枝が燃え始める。すると、枝はすぐさま僕を解放して、その火を消そうとあっちこっちへと振り回す。
「危ないよ」
僕は沸騰したお湯でそれを消火。ただ、熱湯なので火傷のダメージがキラーウッドに入る。するとついに女性スパイを締め付けていた枝も緩み始めたので、僕はその体を片手で支える。その間も間髪入れずにお湯を浴びせていく。
「ぎゃあ!!!!ぎゃあーーーー……」
一際、甲高い悲鳴を上げたキラーウッド。すると枝は力なく地面に垂れ下がり、ついには動かなくなってしまった。
「倒したのかな?」
「おそらくはな。どうやらスパイ二人はこいつに返り討ちにされたみたいだな」
直哉が指差す方向には壁に打ち付けられたのだろうぐったりとした男性がいた。
「くっ!この……」
「あ、ごめんなさい。寝てて下さい」
僕は女性スパイに腹パンを決めて気絶させた。
「薫さん!女性になんてことを!!男として恥ずかしくないのですか!!」
「さっき僕を同性とか言ってませんでしたか!?というか紗江さんいつもと調子が違いますよね!?」
「あ~……こいつ遅くまで起きるのが無理なタチでな。こうやって無理矢理テンションを上げてるだけだ……そろそろお眠なんだと思うぞ?」
「……紗江さん。終わったので寝てもらっていいですよ?」
「……はい。それじゃあ……お先に失礼します……社長。仮眠室お借りします」
「ああ。ゆっくり休めよ」
「はい……」
紗江さんがゆっくりと地上の階段がある方へと歩き出していく。
「それでどうするのです?」
部屋を見渡すと、熱湯でビショビショのコンクリート床にキラーウッドの死骸。それとスパイ二人……。後処理が山済みである。
「そうだな……うん?」
直哉が何かを言いかけたところで地面にあった通信機を拾い上げる。その通信機からは若そうな女性が大声で呼び掛けている。
(ミリー!!大丈夫ですか!!ミリー!カイト!)
「ああ。お宅のスパイは生きてるぞ。気絶はしてるがな?」
直哉が呼び掛けていた相手に返事をする。
(誰ですか……あなたは)
「ここの社長だ。それでラエティティアはうちの会社に何の御用だ?」
(話すとでも?)
まあ普通に話せと言って話す奴はいないだろう。そこで僕も通信機の相手に聞こえるようにワザと大きな声でハッタリを仕掛ける。
「直哉。相手はレルンティシア関係者だよ。こんな指示をするのだから軍部担当や情報部担当とかのお偉いさんじゃないかな?」
(だ、誰です?いや、何故それを?)
「こちらの情報網を甘く見ないで下さい。こちらは全て知ってるんですよ?あの魔法陣を使ってあなた方があちらへと何かをしようとしていたのは」
(成島……薫ですか……)
「僕の家の異世界の門にロックの魔法陣が追記されている可能性を考えたあなた方は魔法陣を爆弾で破壊したのち、すぐに模写して誰よりも速く新たに設置した異世界の門を使ってあちら側に行こうと試みた。ところがその魔法陣はいくら頑張っても発動しなかった。それだからアレが偽物で本物は笹木クリエイティブカンパニー……しかも厳重な防犯設備を要するこの地下が怪しいと踏んで侵入……違いますか?」
(な……)
「残念ですね。あの爆発はフェイクですよ?あなた方を騙すための……ね。日本にアメリカ、そしてビシャータテア王国の連携、見事だったでしょ?」
(そ、そんな……)
よし!こちらのペースに持ってきたぞ!調子に乗った僕は蔵で得た女性スパイの情報と小説のネタで少しだけ調べていたレルンティシアの内容から、通話の相手に思い切って吹っ掛けてみる。
「見事なスパイでしたが……まんまと引っかかって助かりましたよ。アリーシャ女王?」
(……)
相手が完全に黙ってしまった。確かレルンティシア王国が亡びる直前の女王がエルフで名前はアリーシャ・フリードリアだったはず。でも、まさかそんな人がこんな風に直接指示を出している訳無いよね!
(参りました……その通りです。あなた方の仰る通りです)
へ?と心の中で僕は声を出す。すると通信機の向こうからガヤガヤと他の人の声が聞こえ始めて、さらにはアリーシャ様と呼んでいる人もいる。え?まさか女王様が直々に指示してたの?
(彼女達は私の国の大事な国民です。しかし日本とアメリカに目を付けられ、そして未来ある若いスパイと技術者を人質に捕られた以上こちらの敗北です。でも、願うなら私の首一つで……)
敗北とか何か自分の首を差しだすみたいなことを言い始めちゃった!!直哉も、どうするんだこれ!って通信機に向かって指を差している。
「ちょ、ちょっと待って下さい!!申し訳ないんですが誤解してますよね!?」
(誤解!?何をですか!!)
その言葉に、何ふざけたことを言ってるのお前は!!という強い意思を感じる。とりあえずなるべく落ち着いた口調でグージャンパマの現状を教える。
「えーと……グージャンパマの戦争はつい数か月前に終戦しました」
(はい?)
「戦争が魔族と呼ばれる者によって操られていたことが分かりまして……3ヶ月程前に各国が終戦を公表してます」
(……へ?だってビシャータテア王国って……)
通信の相手……アリーシャ女王様が非常に困ってらっしゃる。恐らくあちらの世界が今だに戦争中で、僕はそのいずれかの国に加担しているのだと思ってるのだろう。
「僕はどこかの国に加担しておらず、他国の方々と平等にお付き合いさせていただいてます!だからもう一度いいますけど戦争は終わってます!!あちらに帰るなら、僕の口利きで多分すぐに帰れますよ!!」
(え……え~~----!!!!)
通信機から多くの驚きの声が聞こえる。やっぱりあちらの世界が今だに戦争中だと思っていたらしい。この後、夜が明けるまで僕たちはアリーシャ女王に簡潔だがあちらの今の状況を説明するのだった。




