136話 たとえ飛べても
前回のあらすじ「WARNING!WARNING!」
―「某日本で一番高いタワー・下層」―
僕はソフィアさんを地上に降ろすために、タワー入り口前の広場へと降りる。
「大丈夫ですか!」
下で待機していた護衛の方がこちらへと走ってくる。僕はソフィアさんをその場に降ろす。
「ありがとうございました。それで何故、妖狸が?」
この質問。実は降りるまでの間に打ち合わせした物で、周りにいる野次馬に不審がられないようにするためだ。
「観光だ。まさかこんな事件に遭遇するとはな」
「か、観光ですか……?」
「ああ。それでさっきのバケモノはなんだ?」
ソフィアさんを落としたバケモノはろくに確認もせず、すぐにまた展望台の中へと入ってしまったのでよくは見えていなかった。
「ヘルメスのメンバーで……ハーピィみたいな鳥人間です。あっちこっちがつぎはぎで顔は男ですけど」
「迦陵頻伽みたいな奴か……男だが」
「どんな奴なのです?」
「後で見せてやる。とりあえず片づけるぞ」
「あの上には総理、それにまだ多くの人が……!」
「安心しろ。今回は赤鬼たちもいるしな」
「赤鬼?」
展望台へと飛んで近づいていく影に指を差す。
「あっちから来てる奴らだ。と、いう訳で妾たちも行かせてもらうぞ!」
「総理の事…お願いします」
「なかなか責任重大だな」
そう言って、僕たちも展望台へと向かうのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―「某日本で一番高いタワー・展望台」カーター視点―
「中に逃げたッス!」
「まだ人がいるのに!?どうしよう……」
今回、倒す相手はバケモノ一人。人質は多数……。
「バケモノは俺達が相手する。二人はケガ人がいたら手当てと避難を……いいよなサキ?」
「ええ。しかしハンター服だっけ?これがここで役に立つとはね。黒い服も似合ってるわよ」
「こんな状況じゃ無ければ素直に喜ぶんだがな。さあ、無駄口はここまでだ」
俺達はバケモノが割った窓から建物内に侵入する。入ってすぐさまバケモノを捜すと総理とその護衛を襲う奴の姿が見えた。
「妖狐!と何だアイツは?」
「角……鬼?オーガ?」
逃げようとしている人々がこちらを向いて何かを言っている。その言葉に反応したのかバケモノもこちらへと首を向けた。
「ヨウコ……キケンS……ハイジョスル!」
そう言ってバケモノが少しだけ浮き上がって鉤爪を前に出しながら妖狐達へと突進する。俺はその射線上に入って剣をアイテムボックスから出して、剣で攻撃を受ける。
「ジャマモノ……ハイジョスル」
「そうか……出来るのならやってみろ?フレイムソード!」
剣に炎を纏わせて、その鉤爪をぶった切る。
「ナ!」
「二人共!ここは私達に任せて手当てを!」
「うッス!」
二人が倒れている護衛に近づいてポーションを使って手当てを始める。
「キケン!ハイジョ!ハイジョスル!!」
切断した足がまるであの巨大悪魔のように治り、そしてバケモノの標的がこちらへと移る。
「あちらも本気ってところかしら?油断大敵よ赤鬼?」
「ああ!サキいくぞ!!」
俺はバケモノに目掛けて突っ込むのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―カーターが戦闘開始したのとほぼ同時刻「某日本で一番高いタワー・展望台」―
「もう戦闘が始まってるだろうな」
「どうするのです?」
「とりあえずは……」
展望台に近づいていく。すると展望台の窓が割れて、そこからバケモノとカーターたちが飛び出てくる。
「赤鬼!」
「二人共?先に行ったはずだろ?」
「人が落ちていくのが見えたのでな。救助だ」
「そうか」
僕たちは赤鬼の隣に移動する。
「ヨウリ!!ハイジョ!!」
バケモノがこちらを睨みつける。全体的に人間要素が多い。しかし手は翼、脚は鉤爪状に変化していて、全身に痛々しいつぎはぎが見える。
「これが元人間……か。不気味な物だな」
「……あんたのその話し方、変よ」
「それを言うな。妖狐たちは?」
「中で倒れた護衛の応急処置している」
「なら、こいつの相手は妾たちで……」
「俺達がメインでやる。妖狐たちは何かあった時のバックアップを頼む」
「二人で?」
「ちょどいい腕試しだ。なあ、サキ?」
「ええ」
「はあ~……被害が出ないように頼むぞ」
「お前には言われたくない……いくぞ!」
赤鬼が敵に目掛けて接近する。バケモノも敵と見なしたようで突っ込んでくる。
ガキーン!
バケモノの鉤爪、そしてカーターの剣がぶつかり金属音を立てる。そしてそのまま二人が戦闘を続ける。
「あれが人間とは本当に思えないな。まさか足が金属とは」
「人型で金属……ゴーレムとかみたいな奴なのです」
「……え?ゴーレムっているの?」
「え?いますよ?知らなかったのです?鉱山とかに現れますよ?」
ゴーレム……となると魔法で作れるのかな?もし、それなら某ゲームのあのご定番のゴーレムを使役出来るのかな……?いや、というか作れるかも……。
「妖狸、戦闘中なのです」
「ああ、すまん」
試しにやってみよう。というより半年以上経って、この事に気付かないなんてうっかりしていたかも。
僕が考えるのを止めて戦っているカーターたちを見る。お互い剣と鉤爪で攻撃し合っている。しかし、あれはどう飛んでいるのだろう。こっちは魔法で飛んでいるに対して、あっちは魔法で飛んでるのか、それとも物理的に飛んでるのか……。
バサバサ……
手を休めずに動かし続けているということは、鳥みたいに飛んでいるのか?となるとあいつの体はかなり軽いということになるのだけど……。
「そんな事は後でいいか……赤鬼!羽を切り落とせるか?羽が無くなればこいつは落ちると思うのだが!」
「お安い御用だ!こいつそんなに強くない!」
「ツヨクナイ?」
カーターの言葉を聞いて、バケモノの攻撃がより激しくなる。しかし、カーターは丁寧にそれを剣で受けたり、体を逸らして避けたりする。無駄な体力を使わない洗練された戦い方をしている。
「空中戦でのいい模擬戦だったよ。フランベルジュ!」
フレイムソードより上級の炎の大剣で左の鉤爪、さらに左腕を切断すると、バケモノがそのまま落ちていく。
「妖狸!」
「ああ。黒星!」
このまま地面に落ちると、バケモノの下敷きになってしまう一般人がいる可能性があったので黒星の威力を調整してゆっくりと地面に降ろしていく。切った箇所が燃え続けているせいで再生はしていないようだ。
「歯ごたえがなかったな」
「これならワイバーンの方が強かったわね」
剣を肩に担いで赤鬼が感想を述べる。その姿に疲れた様子は見られなかった。
「こっちではあのレベルで危険視扱い。となると妾たちがどれほど危険か分かるという物だな」
僕はため息を吐く。あのバケモノが黒の魔石を使用してだが最新テクノロジーをふんだんに使った存在だろう。それをあっさりと倒す所でレベル差がうかがえる。
「これほど文明が進んでるのにな」
「結局、こっちには魔獣や魔物などの脅威がいないのです。一番危険なのが同族や熊や猪などの猛獣なら必然的なのです」
「そんな奴らしかいないのなら私達の仕事が随分、楽になるわね」
「そうだな」
そんな雑談をしつつ、ゆっくりとタワー前の広場にバケモノと一緒に降りる。周りの人々はすでに退去させられていたお陰でお巡りさんやソフィアさんを守っている護衛しかいない。
「倒したのか?」
そう言って急いで近づくのは二井さんだった。その間、バケモノはピクリともせず、切断した箇所は現在進行中で燃え続けている。
「たぶ……」
赤鬼が言い切る前にバケモノが突如起き上がり、二人に攻撃をしようとする。
「呪縛!」
すぐさま僕たちは呪文で抑え付ける。その状態でじたばたするバケモノ。
「念のために構えててよかったな」
パキン……
じたばたするバケモノの切られていない右足が突如折れて、そこから大量に出血する。それでも止まらないバケモノ。
「なっ!」
周りにいるお巡りさんたちがこの異様なバケモノの行動に驚いている。
「とにかくハイポーションで……!」
「妖狸、無駄だ。この出血はもう助からない。いくら切れた腕を治すハイポーションでもな」
「ああ。そうだな。この出血の仕方は尋常じゃない」
二井さんと赤鬼がそう言った瞬間にバケモノは自身の血で出来た血だまりで急に動かなくなった。他のお巡りさんが近づいて首の脈をとり首を横に振った。
「……済まない。もっと手加減するべきだった」
「いや……これ以上の被害を生む恐れがあったんだ。これでも万々歳な結果だ」
そう言って二井さんが姿勢を正して敬礼をする。
「犯人確保への協力感謝する!」
警視総監である二井さんの行動を見て、他のお巡りさんもこちらに敬礼をしてくれた。
「とりあえず、しばらくは妾たちもここにいよう……これで生きてる可能性もゼロではないだろうしな」
「剣は出しとくが……ここだと違法だったか?」
「捜査協力として、そこは穏便に済ませとく」
「おーい!」
そこに妖狐たちがユニコーンに乗った状態で上から降りてくる。
「終わったの?」
「というより死んでるみたいッスね」
「出血多量だそうだ。妖狐。あまり見ない方がいい」
妖狐は返事をしてそちらから目を背ける。バケモノとはいえ元は人間。普通の暮らしをしている妖狐に、この死体を長々と見せる物では無い。
「それで上はどうだ?」
「治療は終わったよ。念のために病院にはいってもらった方がいいかもとは伝えてあるよ」
「そうか」
「二井!」
すると、今度はタワーの中から総理と護衛の人数人が近づいてくる。
「犯人は?」
「事が切れたよ」
「……そうか」
その後、展望台にいた人々が避難を完了したところで僕たちも帰路につくことになった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―「特急列車・車内」―
「チョコレートドリンク!!神の味なのです!!」
「ええ……!!」
精霊たちが涙を流しながら飲んでいる。あの後、列車のダイアが多少乱れたが無事に乗ることが出来た。
「薫。お疲れさまでした」
そう言って、ユノが僕の分のチョコレートドリンクを差し出してくれたので、僕はそれを受け取って一口飲む。
「はあ~……なかなかハードな一日だったな……」
「ふふ♪」
すると、ユノが僕の頭をなで始める。胸を頭に押し付けながら。
「~~!!??」
そのユノの予想していない行動に思わず持っていたドリンクを落としそうになった。
「ちょ!ユノ!?」
「殿方はこうされるのがお好きと聞いたので」
「泉!!」
妙な入り知恵をした犯人の名前を僕は叫び、少しでもこの恥ずかしさを逸らそうとするのだった。




