135話 異常事態発生!
前回のあらすじ「意外にも疲労困憊の二人」
―「某日本で一番高いタワー・下層」―
「それじゃあ!帰る前にショッピングを楽しみましょう!」
ユノと精霊三人娘が、おーう!と声を上げる。上で景色を楽しんだ後、下にある水族館を巡り、そしてシメのショップ巡りをしようと歩き出そうとする。
「総理が来てるって!」
そんな声がするのでその方向を見ると、さっきの姿とは違ってお堅いスーツ姿で話ながら歩いていく二人。そしてその周りは警備員と護衛がいて、周りにいる見物客が入って来ないようにしている。すると、総理と目が合う。総理は手を振ってエレベーターの方へと向かっていった。
「あ、薫さん達に会えましたね」
すると後ろから紗江さんたちがこちらへと歩いてやって来た。ただし、そこに榊さんはいない。
「榊さんは?」
「家族でこの後、食事を取ってから帰られるそうです。会うのも久しぶりらしいので」
「そうですか。けど合流するなら連絡を寄こしてもらえれば……」
「いいえ。そこまでの事では無かったので。ここに来たのも社員へのお土産を買っていこうと思ってカシーさん達と一緒に来ただけですよ」
「そうなんですね」
紗江さんの後ろにいるパーカーコーデのカシーさんを見ると大分お疲れのようだ。
「カシー?どうした珍しく疲れてるじゃないか?」
「珍しいとは何よカーター?まあ、疲れてるのは本当だけど……研究以外の話もして疲れたのよ。この話をするなら大臣や商業ギルドのグランドマスターとか経理や商売に詳しい人を連れていきたかったわ」
「全くだ」
フードに隠れていたワブーが顔を出す。研究者であるカシーとワブーはそろって大きくため息をついている。
「エンチャントリングの最終チェックもそろそろしないといけないのに」
「なんですかそれ?」
「薫さんが楽しみにしていたパワーアップですよ」
「紗江さん!それって完成したんですか!」
泉が興味津々で訊いてくる。隠れていたフィーロも鞄から顔を出して目を輝かせていた。
「後は細かいチェックをしたら完成です。4人にも協力してもらうのでお願いします」
「分かりました!新たな呪文をいくつか考えているから楽しみ!」
「そうッスね。あのラスボスが使っていたあの魔法とか!」
「それどんな危険な呪文だ?」
ゲームのラスボスが使う技なんて殺意むき出しの技しか考えられない。
「止めてよね?危なそうだし」
「なのです」
「「「お前もだよ!」」」
「危険な技って麒麟ぐらいだと思うんだけどな?」
「思いつかないのです」
「無自覚って恐ろしいわね」
「そうだなカシー」
二人が白けた目でこちらを見る。いや、僕たちの技って地味だと思うんだけどな……。他の皆の方が派手だし。
「それよりカシーさんとワブーさん。ここまでせっかく来たんですから、どうです?何か食べませんか?抹茶アイスにチョコレートドリンク、クレープ。ここにはたくさんの甘味がありますよ!」
「……オススメは?」
「甘すぎず、冷たい。さらに抹茶の風味が何ともいえない抹茶アイスですかね。有名なお店が上の階にあるはずですよ」
「じゃあそれで」
「……チョコレートドリンクは帰りの列車の中で飲むのです」
「「レイス……天才か!」」
まだ食べますか精霊三人娘。今日だけでも結構な量を食べてると思うんだけど、その小さな体でどこにはいるのだろうか……。
「そうですね。帰りの切符を用意してもらえたし、レイスの案でいきましょうか!」
「それじゃあ行きましょうか」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―それからおよそ2時間後―
「満喫しました!」
「ふふ……それはよかったですわユノ様。それで今日も泉の家にお泊りで?」
「はい。明日の朝に帰りますね」
「分かりました。王様にお伝えしておきます。泉よろしくね」
「分かってますって!今日も面白そうなゲームを紹介するよ!」
「お願いしますね!」
「レイスも来るッスよね?」
「いいのです薫?」
「いいよ。怪しい二人も今日は引いたみたいだから」
「それなら安心なのです」
「でも、二人共あまり夜更かしし過ぎないようにね?」
二人は笑顔でいい返事して泉たちと今日の夜の計画を立てている。この調子だと朝早く帰れるのか心配である。そんな話をしながら駅まで歩いていく。
ドオーン!!
すると上の方から何かが爆発する大きな音。その後ガラスの割れる音に人々の悲鳴。
「空飛ぶバケモノが現れたみたいだ!」
「上には友達が!」
周囲にいた人々から情報が集まる。話をまとめるとタワーの展望台に空飛ぶバケモノが現れて人を襲ってると……。
「こっちにもそんな魔獣がいるんだな」
「いないですからね!勘違いしないで下さいねカーターさん!」
「では、一体何が?」
「申し訳ありません。お話よろしいでしょうか?」
声のする方へ振り向くと、スーツをビシッと決めたサングラスを付けた細長の男性がいた。
「誰だ?」
「……菱川総理の護衛の一人ですか?」
「その通りです。それで薫さん。あなた方にお願いしたいことがあります」
「……菱川総理の救出ですか」
「上にいる仲間からヘルメスを名乗るバケモノの襲撃を受けたそうです。一応、武器で応戦しているそうですが歯が立たないようで……」
「……分かりました。どこか目立たない場所有りませんか?」
「用意してあります。こちらへ」
「レイス行こう!」
「りょーかいなのです!」
「私達もいくよ!」
「やってやるッスよ」
「……俺も行く。サキ?」
「カシー、ワブー。護衛頼んだわ」
「ええ。頼まれたわ」
「って、僕たち二人でも……それに武器は?」
「アイテムボックスに入っている」
そう言ってカーターが右手を見せる。そこにはお馴染みのアイテムボックス機能がある指輪とは別にメタルシルバーの指輪をつけていた。
「その指輪は?」
「あなた達が手に入れたミスリルを使って作った最新のアイテムボックスよ。容量は通常のアイテムボックスには劣るけど、その代わりに魔道具関係さえも収納可能よ」
「ということで俺の剣はここにあるから問題無い。それにここで一国の王に恩を売っておくことはいい事だしな」
「いいけど……顔を隠すのは?」
「さっき仲見世で泉がこれを」
そう言ってカーターが出したのは……。
「鬼だね」
「名付けて赤鬼!」
「ということでよろしくな」
「分かったよ」
「それではこちらへ」
空飛ぶ謎の相手に魔法使い3人。十分な戦力だと思う。
「じゃあ!いくッスよ!」
―クエスト「タワーを襲うバケモノを退治せよ!」―
内容:タワー上層。展望デッキに襲撃した空飛ぶバケモノを退治しましょう!特に被害者が出ないように気を付けましょう!
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―「某タワー上層・展望デッキ」ソフィア視点―
「何よ……あれ」
「俺が知りたいぐらいだ」
私は菱川総理とこのタワーの視察ということで来た。この展望台から外の景色を見ながら今日一日で得た情報の整理、これからのグージャンパマとの付き合い方と話題が尽きることはない。
大統領からも所属する組織からも特命を私は受けている。グージャンパマが持つ魔石の価値、魔法使いの戦闘力、さらにあちらに生息する魔獣そしてその素材どれを取っても喉から手が出るほどの価値がある。これを当事国である日本の次に得られるようにするのが私の任務だ。組織からは彼らには明かしてもいいとお墨付きを貰ってもいた。
そして今日、結果としては悪くない印象を持ってもらえたと思っている。今後のこちらの動き、必要な人員にスキル……菱川総理と話しつつ同時進行でこれらを考えていた。すると、いきなり展望台にいた人々が騒ぎ始めて、気付いたらガラスの割れる音と振動を立てながら、この両手は翼、脚はワシやフクロウのような鉤爪を持ち、全身が縫合箇所だらけの人間……いや、巨大なバケモノが目の前に現れた。
「……モクヒョウ………カクニン」
バケモノがこちらを見ながら言っている。
「お二人とも下がってください!」
「急いでこちらへ!」
「ハイジョスル!!」
私達の前に何人かのSPが前に出て、拳銃を取り出しそれを止めようとする。私たちは他のSPに連れられてその場から離れる。
「エレベーターが止まってるぞ!」
「非常階段へ!!」
周りにいた人達が押しかけているせいですぐに降りることが出来ない。私達もその場でもたついていた。
「ぐあっ!」
すると、私達の横を人が勢いよく通り過ぎて、展望台のガラスに衝突。割れて落ちる事は無かったが窓にはヒビが入っている。後ろを振り向くと拳銃を持っていたSP達は血だらけになって横に倒れている。そして……その場にあのバケモノは無傷で立っていた。
「くそっ!」
近くのSPが銃でバケモノの体を撃ち抜く。その発砲音に周りにいた人々から悲鳴が上がった。しかし……。
「……本当のバケモノだな」
穴が空いた体から撃った弾がはじき出されて、その傷は蛆虫が這いずるように塞がっていく。それを見た人たちから先ほど以上の悲鳴が上がる。私自身もこの絶望的な状況に額から変な汗をかいている。
「ハイジョ」
すると、そのバケモノがこちらへ飛んで突進してくる。私は左に思いっきり飛んでそれを間一髪の所で避けた。私は急いで体を起こそうとしたが、その前に何かに私の体が掴まれた。振り向くとバケモノが……。
「ヒョウテキ……」
バケモノはそのまま飛び立ち割れた窓から外へと、私を掴んだまま出ていく。ここまで来たら何をされるかは予想したくないがついてしまう。
「ヒトリメ……」
バケモノは上空でその掴んだ足を離し私を自由にする。
「あ……」
自由になった瞬間に、もの凄い勢いで近づいていく地面。死ぬ……いやだ。こんな所で……こんな死に方……。目から出る涙は落下の勢いですぐに後ろへと流れていってしまう。せめて、少しでも死への恐怖を和らげるために目を瞑り、両親に先に死ぬことに心の中で謝った……。
「黒星!」
何もいない空で誰かの声が聞こえた。その声が聞こえた瞬間、落ちていく私の体がいきなり後ろに引っ張られるような衝撃が加わる。目を再び開けると落ちる速度が少しだけゆっくりになっていた。
「大丈夫か!」
今度は声のする方へと目線を向けると、ユニコーンに乗った巫女服という変わった衣装とお面をつけた女性……いや、男性と相棒の精霊がいた。
「か、薫さん?それとレイスさん?」
ユニコーンに乗った薫さん達が私の所までやってきて、私を抱きかかえてくれた。
「このまま下に降りるぞ……それと妖狸で頼む」
「は、はい」
この状態……白馬に乗った王子様に抱っこされるというシチュエーションであることを思い出し、少しだけ私は恥ずかしくなるのだった。




