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134話 ララノア神

前回のあらすじ「シリアスは壊す物!」

―昼食後「仲見世から少し離れた場所にあるお寿司屋さん」カーター視点―


「お二人共、ちょっとだけ話をしたいんだが……いいかな?すぐに終わるから」


 分かりました。と言って、ケイシソウカンという偉い職に就いている二井と一緒に薫と泉がその場から離れる。


「……皆。少しいいか?」


 総理と名乗る男性がここにいる全員に対して、自分の近くに寄るように指示してきた。 


「(あの二人の行動に要注意して欲しい)」


「(それはどういうことですか?勇者様達はこちらの為に色々と!?)」


「(いや。コンジャク大司教。そういう要注意じゃなくて……精神面で負担がかかっていないかという事です。こちら日本では魔獣なんかは出ることはありません。だから魔獣とはいえ命ある者を殺す行為とか、殺されそうになって精神的に追い詰められていないかということです)」


「(そうは見えないがな)」


「(カーターと同意見ね。二人は?)」


 サキがレイスとフィーロに尋ねると、すると二人は思いつめた感じの表情をしている。


「(あるの?)」


「(悪魔との戦いと、ボルグ火山でシェムルに切られそうになった時の夜ッスけど……泉。枕を強く抱いて怯えているように寝てたッス。朝になったらいつも通りだったんであえて訊かなかったッスけど)」


 ……前者は薫が死ぬことによる大切な人との別れによる恐怖。後者は自分が直で死を感じた恐怖……そう見えなかったが、彼女には大分負担をかけていたことに騎士として情けなく感じる。


「(薫は戦いが終わった後によく手を合わせているのです。この前のダゴンでの防衛が終わって帰る時に他の人の目を避けて静かに海に向かって静かに手を合わせていたのです)」


「(薫さんのことです……命を奪った者として最低限の礼儀として自分が殺した魔獣にさえも祈っていたんでしょう)」


「(魔獣なのに?)」


「(勇者殿のその考えは私は理解できますね。人に害を与える魔獣とはいえ生きています。こっちの一方的な主観で命を奪った以上、その生命に対して他の生物と同様に等しく弔うのが礼儀なのでしょう)」


「(それ以外にも時々、うたた寝してたり……)」


「(あ~。泉にもあるッスねそれ。周囲に誰もいない時に作業台に突っ伏している時があるッス)」


「(それってかなり負担をかけてるのではないでしょうか?……二人共、大丈夫でしょうか?)」


 ユノ様が心配そうな表情を浮かべる。いや、ユノ様だけではなくここにいる全員が同じような表情を浮かべていた。


「(……彼らは優しすぎる。それにかなりのお人好しだ。それに対して彼らの持つ情報と力は人の善し悪し関係なく大勢を魅了する。かくいう俺達もその一人だがな)」


「(悪意の持つ奴らに関しては私達と総理の方で何とかしましょう。ね?菱川総理?)」


「(分かってるって……彼らが悪意ある奴らの思惑に利用されないようにする。そのためにも情報漏洩防止と操作はしっかりしとくさ)」


「(私からもお願いします。勇者殿は謙遜しがちですが我々の手には負えない大仕事をしています。それに……最近、忙しくあっちへこっちで仕事していると話もあるので体調を崩さないか心配してるのです)」


 コンジャク大司教の意見に全員が頷く。ここ最近、あの二人は働きすぎだと思っている。こちらの世界ではウェイターと小説家として、グージャンパマでは勇者として激しい戦闘を……。


「皆どうしたの?そんな集まって?」


 俺が考えを巡らせていると、二人がこちらに戻ってきた。


「もしグージャンパマに来られる際はどのような議題をお話ししようかと。ねえ、コンジャク大司教?」


「はい。勇者様のおかげで、勇者様が住む国の代表と遠方の大国とお近づきになれたので、この関係をよりいい物にしようと思いまして」


「僕のおかげ……なのかな……?」


 薫があごに手を当てて考えている。何とかごまかせたようだ。


「まあ、きっかけはカーターさんとサキでもあるしね」


「確かに言われるとそうなんだけどな」


「ははは!それじゃあ彼らのおかげという事にしとこうか!」


「父の言う通りそれがいいでしょうね」


「……竜也。彼らに困った事が起きたらまた連絡してくれよ」


「はい」


「ということで今度はカシーという美女に会いに行くとしますか!」


「あれ?ここでお別れですか?」


「私共はこの後はあちらの会議に出席します」


「そちらはこの後、タワーにいくんだろう?」


「そのつもりです」


「なら早めに行った方がいいぞ。この後、長時間、公邸を離れた理由作りの為に、俺達が視察という形で行くからな。ゆっくりすると上に登れなくなるぞ?」


「分かりました」


「……薫。君達には本当に申し訳ない。ここまでの大仕事してるのにこちらから謝礼の一つも渡せない事に心苦しさがある。その変わりといっちゃなんだが、そちらの行動が支障をきたさないようにバックアップはするつもりだ」


 薫がその言葉に黙って頷く。


「もし、我が国にお連れしたい時は言ってくださいね!国賓級の扱いをさせていただきますので!!」


「は、はい……」


 ソフィアの言葉に薫が引きつった笑顔をしつつ返事に迷っている。一般市民である薫達からしてその扱いはかなり緊張するものなのだろう。


「それじゃ、会議に行くとしますか……二井も来いよ?」


「それはいいが…俺より長官はどうなんだ?」


「彼女はヘルメスの対策で打ち合わせ中だな。なんやら怪しい情報が入ったらしくてな」


「なるほど……後で俺も聞いとかないとな」


「と、そちらは今聞いたことは忘れてくれよ?内部情報だしな」


 つい聴いてしまったが……忘れるとしよう。


 その後、俺達は総理達と別れ次の目的地へと向かうのだった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―およそ2時間後「日本で一番高いタワー」―


「すごい……遠くの景色もしっかり見えます」


「ええ……」


 あれから町散策をしつつ二人が外の景色を見て感嘆していた。今日は天気も良く、遠くにある富士山も見ることができた。少し離れた場所では泉がカーターと鞄にいる精霊三人娘に外の説明をしている。


「コンジャク大司教。あそこ、あれがこの国で一番高い山なんです」


「へえ……あの浮世絵とかに書かれているフジってやつですね」


「はい。あれも信仰の対象なんですよ」


「山がですか?」


「ええ。富士山はその独立した峰とこの国では一番高い山だったために霊峰として崇められていたんです。今では日本の象徴や観光名所としてのイメージが一般的ですかね」


「そうなんですね。イスペリアル国の聖カシミートゥ教会のような物なんですね」


「そうですね。現在も活火山である富士山の噴火を鎮めるために浅間神社が祭祀されていて、そこに浅間大神と木花之佐久夜毘売(このはなのさくやびめ)という神様を祀っているそうです」


「なるほど。薫さんの国の神様は本当に色々な神様がいるのですね。そう考えるとララノア神様は大変ですね」


「……そういえばララノア教のララノア神ってどんな神か聞いていなかったような」


「そうなんですか?」


「僕はただあちらでは広く一般的に信仰されている神様ですぐらいかな?」


「ララノア神様は我々の先祖に魔法の使い方に魔獣との戦う為の知識、国としての決まり事、何より各々が協力し助け合う事を啓示された方なんです」


「一人でそこま仕事するなんて、大変な神様ですね」


 絶対、仕事としてはブラックだな。と思って少し笑ってしまう。


「昔、荒廃していた世界にいた私達の先祖にララノア神様はそれらの知恵を与え、そして最後に異世界の門(ニューゲート)を使って、神の世界に帰ったとされています」


「え?異世界の門を?誰が作ったか不明なんじゃ?」


「あくまで伝承ではそうなっていますが……これは後々に話に尾ひれがついたということになっています。なんせ異世界から戻ってすぐに死んだ者の中には、人が住めるようなところではない。あれは地獄だ。と言って果てた者もいましたから。それに完成した異世界の門を使っても薫さん達の住む世界に行き来する事が出来るだけで神の世界では無かったですしね」


「そうなんですね……じゃあ始めて会った時、少し残念だったのでは?」


「実は少しだけ」


 コンジャク大司教は笑顔で応える。


「でも、こちらの世界も我々と変わらない人々が暮らしていると分かってホッとしたところもあります。神には会えなくても女神には会えましたしね」


「僕、男!」


 笑顔で言ってるのでコンジャク大司教なりの冗談なのだろう。しばらくの間の後、今度は二人して笑い合った。


 でも、どういうことだろう?異世界の門はいつ作られたかは知らない。しかし、伝承ではララノア神はそれを使って神の国に帰ったという逸話がある。もしかして3つ目の世界でもあるのだろうか?それともここにララノア神という神は来たのだろうか?


「それとララノア神様は異世界の門を使ってグージャンパマを去る前に、先祖に言葉を残したそうです」


「それは?」


「この先、資格無き者は決して来てはいけません。その資格は毎回変わり、それらを耐え抜ける者のみがいけるのです。その事を肝に銘じて下さい……。と今風に訳すとこんな感じですね」


 ユノが僕たちの話に加わって来て、説明をしてくれる。


「ユノ様の言う通りですね。それだからカーターさんの先祖であるプライムとタリーさんがその試練を乗り越えたとなってるんですが……それも違うかもしれないですね」


「二人は異世界について何もしゃべらなかったんでしたっけ?」


「いいえ。お父様から聞いたのですが、どうやら先々代の王が直々にお二人から訊いたそうですよ。ただ所々うろ覚えということをおっしゃていたそうです。その状態でも米、じゃがいも、玉ねぎなどの種を持ち帰り、それらを育てるのに必要な技術を習得していたことから神様によって記憶を一部消されたのでは?となっていて、お二人もその説を主張したそうです」

 

「それは僕のおばにあたるアンジェという魔物と会っていたからと推測してるけど実際はどうなんだろう?……それに、ララノア神様の言葉って何か来てはいけないって言ってるのに、来て欲しいみたいな言い方ですね?」


 コンジャク大司教は僕のその言葉を聞くと、外の景色に視線を向け、少し間を空けてから再び話始めた。


「私もですよ勇者様。そこでなんですが……我々はどこから来たのか。という疑問は無いですか?」


「あるよ。グージャンパマと同じように神話としてもあるし、それにこの世界には科学的なアプローチから一応、生命の生まれた経緯は仮説として立てられてるけど……それがどうしたの?」


「私はララノア神様のその話を聞いて、子供の頃にふと考えた疑問があったのです」


「……それは?」


「……荒廃した世界にいた先祖達は一体それまでどこにいたのだろう。っと、そこに人がいるならその前はどうなっていて、どんな生活をしていたのだろうって思ったことがあるのです」


「だから、我々はどこから来たのかなんですね。確かにコンジャク大司教の言う通り疑問ですね……あの~薫?どうかしましたか?」


「ん?ゴメン!少し考えていただけ小説のネタとしてはいい情報だなって」


「ははは!それならお話をさせてもらった身としては大変喜ばしい事です。勇者様の書いた小説でララノア神教に興味を湧いてくれるなら嬉しいですから!」


「善処します」


 そう言って、僕たちはララノア神の話を切り上げ再び窓の外に広がる景色を楽しむのだった。


 でも、コンジャク大司教の疑問にはかなり気になる所がある。もしこれが神話ではなく、実際にあった史実だとしたら?それならララノア神が出る前のグージャンパマは一体どんな姿だったのだろうか?……小説のネタとして想像する一方で、これがとんでもない話の内容なのではないのかと僕は思うのであった。

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