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131話 いざ都内へ

前回のあらすじ「S級ハンターになった(中身は初心者)」

―ガルガスタ王国から数日後「電車内」―


「今度はカクテルが流行ってるそうよ。お陰で道端で突っかかてくる酔っ払いの対処が大変なんだけど……」


「誠に申し訳ありません。お詫びにこれを……」


 僕は用意していたクッキーを差し出す。


「どうも……甘~~い!!」


「何やってるので勇者様?」


「コンジャク大司教。これはただのノリですから気にしないで上げて下さい」


「は、はあ……」


 クマ耳を帽子で隠したコンジャク大司教がガチガチになりながら椅子に座っている。まあ、無理も無い。なんせこの後、あちらの代表として総理大臣に会うのだから。


 ガルガスタ王国での依頼を終え、また()()()ギルド証も手に入れて数日後、僕たちは榊さんの父親である菱川総理に合うために電車に乗っている。今回のメンバーは僕たちと泉たち。そこにコンジャク大司教とユノ。そして護衛のカーターたちである。ちなみに菱川総理の息子である榊さんはカシーさんにワブー、それと紗江さんと一緒に東京の別の場所へと向かっているそうだ。


「コンジャク大司教。そんなに肩のお力を入れずに……リラックスされては?」


「いや~……どうしても緊張してしまいまして、ユノ姫は落ち着いていらっしゃいますね?」


「薫と一緒ですから!!」


 そんな、どストレートな言葉を言われるとこっちが恥ずかしくなる。ただし、その言葉はどっちの意味だろう?


「何か三人同じ衣装で姉妹って感じでいいよね。うん。私達いい仕事した!」


 帰ってきた泉たちがムーンラビットの素材を使って、何を作ったかというとトレンド感のある色違いのカーディガンだった。さらに後で手に入れたドレイクの皮は素材を生かして同じ色のデニム。そしてそれらが3組……え?何がやりたいかって?……三つ子コーデである。ちなみに制作者である泉、そしてユノはノリノリで着る。僕は……。


「薫ちゃん……分かってるわよね!」


「……うん。昌姉」


 僕の黒歴史である写真の一つ……小学生3年生頃に着せられたアレを出されたので渋々、着るのだった。ちなみに精霊三人娘も別のトレンドを取り込んだ三つ子コーデになっている。


「それで、なんでユノちゃんとカーターさん達が同伴で?」


 それは僕も思っていた。コンジャク大司教はともかく、二人はビシャータテア王国出身。サキもビシャータテア王国に数十年ほど暮らしているらしいのでノースナガリア王国側とはいいがたい、他の国から何か言われそうな気もするのだが……。


「一応、候補として他に何名か名前が挙がってたんだが……薫とこっちの世界の繋がりが強い事を強調するためにユノ様が選ばれた感じだな。それでその同伴が他国の兵なのは……ということで俺達になった」


「ちなみにシーエとマーバは丁重に辞退したのよ。ダブルデートを邪魔する奴は馬に蹴られて死ね!って言葉があるらしいから辞めとくぜ!だって」


「で、デート!?」


 泉が頬を赤らめる。そしてその目線をカーターに向けると、その目線に気付いたカーターも伝染したように頬を赤くして目線を僕に向ける。


「いや。こっち見ないでよ?」


 イケメン男性が頬を赤らめて見つめてきても、僕はときめかない。


「男としてその対応はバットなのです」


「レイスさんの言う通りです。騎士としてその対応はどうなのですか?」


「そうッスよ」


 女性陣に徹底的に叩かれるカーター。相棒であるサキもクッキーを頬張りながら女性陣の言葉に頷いている。ちなみに平日の特急列車のせいか、周囲に他の乗客はいなそうなので精霊グループは隠れていないで普通に椅子に座ていたりする。ちなみに、もし誰かが来てもすぐに鞄の中に隠れらるようになっている。


(本日は特急~……)


「あっという間だね」


「特急だもん。いつも僕たちが乗っている普通列車とは違うよ」


「となると次ではあれが見えるわね」


「あれ?」


「この国で一番高い建物ッスよ。テレビで何回か見たッス」


「他の建物と比較しても全然違うのです」


「そんなにか?」


「見れば分かるよ」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―それから十数分後―


「いや……デカすぎだろう。これ」


「は、はあ~……」


 一駅前ですでにビックリしていたが、最寄り駅に近づくにつれて、そのあまりの高さにさらにビックリしている。


「ここで……」


「ううん。ここじゃないよ」


「へ?」


「ここの先、終点で下車するよ」


「あ、あの薫?ここには寄らないのですか……?」


 ユノが凄く残念そうにしている。


「帰りに寄るから安心して」


 それを言うと、ユノは途端に顔を綻ばせる。


「それで、そこで何をするの?」


「何って……観光だけど?レイスたち言わなかった?」


「え?総理大臣と会うのではなくて?」


「ちょっと時間があるから、それまで名所を見たり食べ歩きをしましょう♪」


「芋ようかんに雷おこし……」


「人形焼きに抹茶ソフトにお団子……」


 イェーイ!!とレイスとフィーロがハイタッチする。二人には事前に行く場所を教えているので、その場所の美味しい物はすでに調査済みである。


「どんな食べ物なの?」


「これを見て欲しいのです」


 レイスとフィーロが鞄から旅行雑誌を協力して取り出して、椅子の上に置いてページを開く。


「これなのです」


「な、なにこれ!!」


「これは美味しそうですね」


 サキだけでは無く、他の異世界グループも本を眺める。


「この角々したのも食べ物なのか?」


「芋ようかんだね。これもお土産として古くからある有名な品だよ」


「お土産にも出来ます?」


「うん。ただ日持ちは短いから早めに食べないといけないけどね。それと荷物は気にしないでね?アイテムボックスがあるから」


「それでしたら……お願いしますね」


「りょーかい♪」


 僕はそれは敬礼ポーズで応える。


「薫兄。笑顔でその返事の仕方するなんて……女性でもドキッ!と来るよ」


「……泉さんの言う通りで思わず、お姉さま!って言いそうになりました」


 アイドルとか俳優がやるようなカッコいいポーズをイメージしたのだがなんでそうなる……と、とりあえず持ち物はアイテムボックスがあるから問題無い。懐具合は……多少厳しいけど問題無い!


「(……私もちゃんと出すからね)」


「(ありがとう)」


 皆が楽しそうに話している中で、僕と泉はそんな打ち合わせをするのだった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―「某提灯が有名な門の前」―


「この提灯……どう思う?」


「すごく……大きいです」


「ユノ。その言葉にその返しはあまり言わない方がいいよ。というか!泉とフィーロ!!変な事を教えない!!」


「何が変なのかな?ねえフィーロ?」


「そうッスね~♪」


 ユノはこのデカい提灯を見てそのまま感想を述べたのだろうけど……そこに泉たちが悪戯心でユノに悪魔のささやきをしたのだろう。口笛を吹きつつ僕から目線を逸らす泉と泉の持つ鞄の中に隠れるフィーロ。もう変な事を教えないでよ!!


「お~……これは」


「変わった建物ですね」


「コホン。気を取り直してと……これは、このお寺の表門だよ。左が雷神で右は風神。風水害から建物を守ってもらうために祀られていて、さらに五穀豊穣に風雨順時の祈りも込められているんだ。真ん中の大きい提灯は市民からの奉納で江戸時代……およそ230年程前からだね」


「薫兄。よく知ってるね」


「ネットの知識だけどね」


 記念に皆で写真を撮ろうとすると、人力車の若い男性が僕たちを見てノリノリで写真を撮ってくれた。理由は……目線で何となく察する。撮り終えた僕たちはそのまま門をくぐり仲見世通りを歩いていく。


「(あ、あれは雷おこし!)」


「(あっちに人形焼きッスね)」


「お参りしてからにしましょうね~……」


 泉のその言葉に、え!?と鞄に隠れていた精霊組がリアクションする。いや、そこまでとは……。


「ゆう……薫さん。お参りの仕方は?」


「コンジャク大司教は前回の案内で分かりますよね?3人は……」


 二人に歩きながら参拝方法を指導する。本堂の近くになると小屋で線香を買って常香炉で煙を浴びたり、お水舎で清めたりして本堂の前に到着。こっそり精霊三人娘もお賽銭を入れて全員で参拝をする。また、あちらのララノア教の最高位にいるコンジャク大司教のために内陣に上がり観世音菩薩へお参りする。


「これがこの国が信仰する宗教の一つなんですね……それに中は賑わってますね」


「それは……」


「今日はご縁日ということで特別な日だからですよ」


 聞きなれないその声に僕たちが振り向くと、スーツ姿ではあるがカジュアル向けのジャケパンコーデのイケてるおじさんとラフな格好の異国の女性がいた。いやこの男性、よく見るとテレビで見た事があるけど!?


「どうしてここに……菱川総理?」


 僕の言葉に全員が凍り付く。そして周りをよく見ると、服だけならそう見えないがいかにも護衛ですという感じの人たちがこちらを監視している。


「なんせ大切なお客様だからね。ここはこちらが出迎えるのが普通さ」


「あ、あの!私ですが!」


「おっと!ここでは静粛に。それに私もお忍びで来てるので……とりあえずお参りを一緒にさせていただいても?」


「は、はい!」


 コンジャク大司教が慌てた様子で僕たちへの確認もしないで許可するが、その意見に文句を言う人はいない。お参りが済んだ僕たちは本堂を後にして一緒に仲見世通りを歩いていく。


「バレないんですかそれ?」


 グラサンをかけて変装をしている総理。その隣を無言で歩く異国の女性。


「案外、堂々としているとバレないもんだよ。それに私みたいに似たような人物なんて多々いるもんさ」


「そういうもんなんですかね?」


「そういうもんさ。しかし……この歳になって精霊、獣人を目にするとはね」


 総理は僕が持っている鞄の中にいるレイスと目を合わせる。困ったようなそれでいて優しい笑顔だった。


「となると私の事もすでにご存じで?」


「はい。ユノ姫様。それでなんですが……何で三人そろって同じ服を?」


「三つ子コーデということですが何か……?」


「……こっちの世界を楽しまれているようで何よりです」


 総理がそう言うと、黙っていた異国の女性も笑い出す。何故かその視線は僕に向いている気がする。


「少女よ。強くあれ……」


「僕、男!しかも少年っていうほど若くないからね!?」


 総理のボケに僕は全力でツッコむのだった。

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