129話 ギルドでの一悶着
前回のあらすじ「バーテンダー薫」
―「イスペリアル国・冒険者ギルド前」―
ヒパーニャさんたちに二日酔いながらも笑顔で、また一緒に狩りにいこうな!と言われた僕たちは、いつか必ず。と約束しつつ、ガルガスタ王国でヒパーニャさん達と別れてイスペリアル国に戻ってきた。そして今はギルド証をもらうために冒険者ギルドの前にいる。ちなみに服装は普通の普段着になっている。
「ここだね」
「ガルガスタ王国の両マスターを置いていってよかったのかな?」
「二日酔いで、少し遅れて行くだって」
「そうなんだ」
僕たちはそんな会話をしつつ、扉を開けて中に入っていく。内部はしっかりと清掃されていて、おしゃれな観葉植物も置かれていた。また職員の方々がカウンター席越しに冒険者と対応している姿はお役所を彷彿させる。違う所といえば、ごっつい剣を持った厳ついお兄さんからひ弱そうだが鋭い眼光を放つ杖を持った男性。中にはへそ出しルックの両手剣を持った女性もいる。
「それで、僕たちはどうすればいいのかな?」
「列に並んで、職員の人に訊けばいいんじゃないの?」
僕たちはいくつかある列の一つに並ぶ。
「おいおい!姉ちゃんたち!ここはあんたらが来るような場所じゃねぇっての!」
「そんなことより俺達と遊ばな~い?」
並び始めてすぐにいかにもガラの悪い3人組に絡まれる。
「(あいつらまたかよ……)」
「(女だからって……)」
どうやら、こうやって絡むことがよくある奴らのようだ……とりあえず努めて冷静に。
「クエストを受けるんじゃないよ。ただ職員に訊きたいことがあって並んでるだけだから」
「訊きたいことだって~?なら僕ちんが訊いてあげるよ!ニシシ……」
「結構です。それに少々、込み入った内容なので……」
「そんなのはどうでもいいんだよ!たく!女性のクセに生意気だぞ!!だからお貴族様って奴は!!」
「おいおい。ガシル。こいつらは貴族様じゃねえって、もし貴族ならメイドなりに頼むしな……金持ちの商人の娘ってところだろうきっと。それに美人だぜ~?だから……」
男3人が何か話している。実に面倒くさい……。関わりたくないのか周りの人が僕たちから遠ざかる。ギルドの職員さんたちも慌てている。
「(どうする薫兄?)」
「(改めて来ようか。レイスとフィーロをわざわざ起こすのも気が引けるし)」
「(そうだね。露店でも見て時間を潰そうか)」
「(まさか、小説内によくある展開に巻き込まれるなんて思わなかったよ)」
「(小説家としては最高じゃないの?)」
「(まあね)」
泉と小声であいつらに聞こえないように喋る。レイスたちは久しぶりの旅の疲れもあってか、イスペリアル国に移動後、鞄の中で気持ちよさそうにぐっすり眠っている。そんな二人を起こすのは悪いのと、わざわざ騒ぎを起こす気にはなれないのでそのままゆっくりと出口に向かおうとする。
「おい!どこへ行こうとしてるんだ?」
すぐにバレて回りこまれる。はい。お約束ですね。
「ここはギルド内ですよ?変な事はしない方がいいのでは?」
「は!?女のくせに俺に命令するのか?」
「そうそう。変な事はせずに僕たちと遊ぼうよ?」
「女性は卑下にするのはどうかと思うけど……それに僕は男だよ」
「ふふふ♪男?そんなジョーク言っても無駄だよ♪」
そう言って、お腹の肉がでっぷりついているスキンヘッドが肩を掴もうとするので軽く動いて避ける。なんか脂ぎっていて不潔そうだから触られたくない。
「おい!てめぇ。逆らうのか?俺達はグリリアントなんだぞ!」
「いや。知らないですから?薫兄と私はいつも違うところに住んでいるので」
泉が、薫兄。と言った瞬間、遠くから眺めていた冒険者から、あ!!っと驚いた表情を浮かべた人がいて、その人が仲間へと何か言っている。そのお仲間さんは急いでギルド職員にへ走っていき何か力説している。誰か対応できる人、速く来てくれないかな……。
「どこ見てるんだ!」
ガシルと言われているリーダーらしき男が僕の胸倉を掴む。……うわ。酒臭い……こいつら酔っ払いか。こんな早くから飲んでるって仕事は何してるんだろう……って冒険者か。
「あの……離してくれませんか?他の人も見てますよ?」
「……ふーん」
体躯が細長の男がナイフを取り出して、僕の喉元に突き付ける。
「あまりさ~我儘言わないでくれないかな?こちら酒飲んでいい気分なのにさ?」
「だったらそのままお酒を飲んでてください。僕たちはこれから仕事があるので」
「だったら少しだけ痛い目……みる?」
僕の素っ気ない反応が癪に触れたのか、目をピクピクさせながらナイフを僕の目線上に持ってきてちらつかせる。いいかげん……。
「それって薫兄に何かするってこと?」
ふと目線を泉に逸らすと、僕と同じようにこいつらの言動に腹を立てているのだろう。少しだけ……いや。かなりイラついている泉の姿が!その右手にカーバンクルの魔石をこっそり持たないで下さい!!それかなり危険なんだから!!
「何?女のくせに?俺達に遊ばれればいいのに?」
「そうだよ~♪ぐふふ!」
「そんなゲスな方法で女性がなびくことはないですよ?カーターさんみたいに紳士的な男性じゃないと」
「ちっ!だったら少し痛い目みてもらいましょうか?」
細長の男がそのナイフを泉に向ける。
「ぐふふ♪いいね~♪」
「……薫兄♪いい実験台が目の前にいるけどいいよね♪」
あいつらをオモチャを見るかのように…それでいて瞳の奥に黒い何かが宿ってる目、さらに邪悪な笑みを浮かべる小悪魔と化した泉。あ、ヤル気だ。汚物を徹底的に消毒する気だ。
「ふ!実験台?何わけわからない事を……」
「セイクリッド・フレイム」
泉が魔石を持った手を前にして呪文を唱えた瞬間、絡んでいた二人の体が突如発火する。
「「ぎゃあああ~~!!!!」」
これがカーバンクルの魔石の効果。昨日ヴァルッサ族長が教えてくれたのだが、カーバンクルの魔石は加工せずに魔法が使える代物で先日のカーバンクルに触れようとしたチューサーさんがいきなり燃えたのはこれが原因である。
魔法名はセイクリッド・フレイム。相手に直に触れられるぐらいの範囲でしか発動が出来ない超近接魔法だが、とっさの護衛用の魔法としては破格とのこと。セイクリッドには、侵されることの無い。という意味もあるので、実に名前にあった魔法だと思う。ちなみに魔法使いが使用すれば火属性の魔法を大強化とのことだった。
そんな珍しい魔法を受けた男達はその場に倒れて、体を床にこすりつけて火を消そうとする。
「な!魔石使い!?」
「あの~……泉がこれ以上暴れないうちにそろそろ……」
「てめぇ!よくも仲間を!」
「僕じゃないよ!?」
男が乱暴に襟首から手を離す。そのせいで僕は床に尻もちを付いてしまった。すると男は脇に差していた剣を抜き、頭上に剣を構えて切りかかろうとする。その行為に周りから悲鳴が上がっている。
「鵺。籠手」
振り降ろす瞬間、僕は籠手でそれを防ぐ。籠手の方が堅かったみたいで、相手の剣がパキン。と音を立てて折れた。暴漢があっけにとられている隙に、僕はすぐに立ち上がって男の懐に潜り込む。
「おかえしだよ」
そして、籠手を装備した状態で相手の脇腹へとフックを仕掛ける。
「ぐふぉ!」
「もういっちょ!!」
体が折れた瞬間、顔面へとストレートを決める。暴漢はそのまま仰向けに倒れた。こちらが終わったところで横を見ると、火を無事に消し終えた男たちがぐったりと横たわっていた。
「すごいねこの魔石。さすがカーバンクル」
「カーバンクルって防御魔法のイメージなんだけどな……」
額の魔石が赤い光を発光させて、僕たちに物理耐性、魔法耐性、オート回復を付加するのが僕のイメージである。
「あいつら、勇者と魔導士相手に……」
近寄ってくる一人のそこそこ年老いたモノクルを着けたエルフの男性が言った言葉に、気付いていない人たちからどよめきが起きる。
「自業自得でしょう?ガラの悪さのせいでCランクになれない万年Dランクのクセに。2日前にガルガスタ王国でドレイクの群れの討伐してる彼女たちの敵じゃないわよ」
もう一人はふわっとした雰囲気を醸し出している茶色毛ゆるふわロングの女性。
「すいませんギルドマスター。ギルド内で暴れっちゃって」
「あら?いいのよ?こういう奴らにはこの位のお灸の方がよっぽど聞いたでしょうし。ねえ、3人とも?」
狸寝入りしていたらしい男たちがすぐさま正座し直し冒険者ギルドグランドマスターであるゼシェルさんへ顔を向ける。
「次、変な事を仕出かしたらどうなるか……分かってるわよね?」
「「「は、はい!」」」
「二人はどうする?もし、こいつらが変な事をしたら、あなた達が罰を与えてもいいけど?」
ゼシェルさんから何かいい罰が無いか訊かれて、僕たちは顔を見合わせる。とっさに目でコンタクトして何を言うか決める。
「「召喚魔法の実験台」」
襲ってきた男たちが、ひっ!と声が漏れる。周りにいた人たちも暴漢たちへ、ご愁傷様です。と思わせるような表情を浮かべる。
「というわけだ。昼間から飲んでてやることがないなら出ていってくれないかしら?」
その有無を言わせない笑顔。効果音をつけるなら、ドドドド……!!が合ってるであろうゼシェルさんの気迫にビビった暴漢たちは勢いよく建物から出ていくのだった。
「まったくもう……」
「ははは。それで先ほど彼らを燃やした力はその魔石かい?」
「あ、はい!カーバンクルの魔石です」
泉が商業ギルドのグランドマスターであるカルラックさんへ魔石を渡す。カーバンクルの名前を聞いて、周りからどよめきが起きる。
「これが今回の一番の目玉になりそうだ……」
モノクルをいじりながら眺めるカルラックさん。もしかしたら、あのモノクルは魔道具なのかもしれない。
「そうだね……っとこんな所で話す内容じゃないわね。上でじっくり聴くとしましょうか。というかガルガスタ国のギルドマスターはどうしたのかしら?」
「すいません……二日酔いです」
「いや、何でお嬢ちゃんが謝るの?」
「まあ、僕に原因があるので……それと僕、男です」
「うーん……めんどくさいから嬢ちゃんで」
めんどくさい。で何で僕の事を嬢ちゃん呼ばわりするのか納得いかない。その後、この建物の3階にあるグランドマスターの執務室でお二人に事の経緯を話ししていると、他の国のギルドマスターもやってきたので、僕たちが狩った魔物の商品をテーブルの上に広げるのだった。