12話 魔道具入手
前回のあらすじ「出会いは突然に」
―「カフェひだまり・駐車場」―
「よし着いたよ」
ある一件の店の前に車を止める。
「ここは?」
カーターが聞く。
「ここが僕が働いているカフェひだまりだよ」
カフェひだまり。看板ではローマ字でそのまま書かれている。古い木造の家を改築して開いた昌姉夫妻の店である。主なメニューはパスタやオムライスにケーキ、コーヒーとコジャレた洋食屋さんだ。ちなみにケーキは全てテイクアウト可能ということで買いに来る客もいる。この町にはテレビに紹介される観光名所があり、この店もその近くにあるが、リピーター獲得のためどちらかというと近所の方々が良く集まる憩いの場所として力を入れている。
「おはようございまーす!」
扉を開けて挨拶をする。
「あらあら。おはよう薫ちゃん」
「おはよう昌姉!」
「あら、泉ちゃんも来てくれたの?」
「うん! あ、マスターおはよう!」
「おう。おはようさん」
カウンターの奥からマスターである武人さんが手を挙げて答える。
「今日は設置と掃除だよね?」
「ええ。どこに物を動かすか指示するからよろしくね」
「それなら昌姉。私も手伝うよ」
「泉ちゃんもありがとうね」
そんな会話のやりとりしていると、昌姉が扉の近くにいるカーターたちに気付く。
「あら? あちらの方々は? コスプレしてるみたいだけどお二人の友達?」
昌姉はレイヤーでもあるため、2人の格好を見ても驚かない。マスターも昌姉のファンだったため同じくだった。
「それについて話すために来てもらったんだ。サキ、ワブー出て来て」
カーターたちの影に隠れていた2人が飛びながら店に入ってくる。
「「……」」
流石にいつも笑顔で大体の事は、あらあら、うふふ…。と流してしまう昌姉も驚くのでは。そう思いながら泉の方を見ると同じ事を考えているのだろう。二人して昌姉の反応に注目している。
「……あらあら。妖精さんが来るなんてステキねえ。いらっしゃい可愛いお客様。今日は開店準備でたいしたおもてなしができないけどゆっくりしていってね」
「「普通に対応した(してる)!?」」
「2人とも?そんなに驚いてどうしたの?」
「いや。この2人見たら驚くでしょう普通は!」
泉のツッコミを聞きながら、僕はカウンターにいたマスターの方を見ると、目をこれでもかと開け口も無意識に開けてこちらを凝視している。あれが普通の反応だろう。
「確かにビックリしたけど、明日のリニューアルオープン前にこんな可愛いお客様が来るなんて縁起が良いじゃないの。薫ちゃん。とりあえず席に案内してもらえる? 武人さんはコーヒーの準備。私は試食用のケーキを持ってくるから」
そう言って店の奥に行く昌姉。
「「流石だよ。昌姉……」」
「いや。薫もあんな感じだったと思うぞ…」
「薫兄……」
泉が冷ややかな視線をこちらに向ける。いや、僕はもっと驚いていたから。ただ努めて冷静なふりをしていただけだからね。
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―「カフェひだまり・店内」―
「……というわけでして」
ということでカーターが説明をする。
「なるほどね~」
カウンターで食器の片付けしながら昌姉はその話を聞く。僕はマスターと一緒に棚や椅子など大きい物を片付ける。
「さっき見せてもらった水出したり火を出したり、本当に凄かったわ」
カシーさんたちが自分たちの紹介をかねて、バケツに水を出してくれた。おかげで、これがドッキリじゃないと理解してくれたのはありがたい。
「本当に凄いわ…。というか凄すぎて何をどうツッコめばいいのかしら」
コップなどを包む梱包を外しながら泉が話す。
「あら。ファンタジーの世界があちらからやってくるなんて最高じゃないの?」
「嬉しいよ? ゲームやアニメの衣装も頼まれて手掛けてるし。ただ、それを直ぐに現実と受け入れることができないだけで」
「……まあ、確かにな」
「ほら。マスターもああ言ってるからね」
3人がおのおの感想を述べる。一方で異世界組は。
「美味しい~~!!!!」
「ええ……。お菓子なら食べたことはあるけど、あれとは全然比べ物にならくらいに甘いわ」
「果物の甘味と酸味が良く合っている」
「このコーヒーもいい。このお菓子と合っている……」
基本のショートケーキにモンブランあとはティラミスを4人に試食してもらっている。泉が羨ましそうな目でカーターたちのケーキを見る。
「泉ちゃんの分は残してあるから、後で食べてね」
「やったー!」
無事にケーキを食べられることに、片腕をガッツポーズにして喜ぶ。
「マーバ羨ましがるだろうね」
「というより既に王様達が羨ましがっている」
運んでいた棚を下ろした後、今の話で気になった事を聞く。
「カーター…それって王様に何か持って帰らないと不味いんじゃ……」
カーターとサキがそれを聞いて、あ!というような表情をする。
「た、確かにな…」
「……なんなら持ち帰りように俺がクッキーとかスティック菓子とか作ってやろうか?」
「いや。これ以上ご馳走になるのもアレですし」
プロが作るお菓子をタダで貰うわけにはいかないのだろう。当然だがカーターたちはこちらのお金は無い。今のお菓子だって試食として評価をして欲しいということで食べてもらってる。いわばちょっとしたお仕事なのだ。
「だったら僕が作ろうか? 練習用だから売る訳にもいかないし味の評価もして欲しいし」
「あら。それはいいかもしれないわね」
「そうだな。そちらもどうだい?」
「うーーん……分かった。よろしく頼む」
「薫ちゃん。そしたら注文してた食材取りに行ってもらえる? これを見せればいいから」
カウンター越しに昌姉から伝票を貰い見る。
「かなりの量だね」
「リニューアルオープン記念でサービスとしてクッキーを配ろうかなと思ってるの。それに常連さんが祝いだとかいって食事に来るって予約もいれてくれたから」
「それじゃあ取りに行ってくるよ」
「俺も手伝おうか? ご馳走になってばかりだしな」
「いいよ。完徹で疲れているんでしょ? それにその格好は流石に目立つしね」
さずかに鎧姿の男が出歩いてたら通報、職質ってなるのが見え見えだし。どこから来ましたかって聞かれて異世界なんて行っても通用しないだろう。ということで自分1人で行こうと店の入り口へ向かう。
「そうだ。ちょっと待ってもらっていいかしら?」
カシーさんが食べるのを止めて僕を呼び止める。そして、こちらに近づいて僕に指輪を手渡す。
「これは?」
「助けてもらったお礼として王様から預かってきたの。カーターが持ってる物と同じアイテムボックスよ。本来なら王様が直々に手渡すのがいいんだけど、直ぐには無理だからとりあえずこれだけでも先に渡しといて欲しいだって」
―魔道具「アイテムボックス」を手に入れた!―
効果:生き物や魔道具以外なら大抵何でも入れることが出来る。ただし時間は経過するので食品とかは悪くなるので注意。また重量制限があるのでそこは実験して確かめましょう。(現段階では段ボール30箱はOK。)
某ゲームの音楽を頭の中で鳴らしながら「アイテムボックスを手にいれた!」と思わずイメージしてしまった。
「ごまだれ~」
泉が口にしてくれた。僕は両手を挙げてポーズした方がいいのかな?
「指輪を着けた手を対象に向けて「収納」と念じれば入るし、逆に「解放」と出したい物をイメージしながら念じれば出てくるわ。ただし、生き物や魔道具なんかはダメだけどね」
僕は試しに指輪を着けて、掃除用に置いてあった水の入ったバケツに向けて念じるとバケツが一瞬にして消える。そして今度はバケツだけをイメージして念じると出てくる。更にバケツの中に手をかざして水をイメージすると水が出てくる。
「凄いわね~♪」
「やったね薫兄。ついに名実とともに本物の魔法使いになったよ」
泉……それ以上は言わないでね。30歳童貞からしてその発言はすごく悲しくなるから。
「それじゃあ取りにいってきます」
「いってらっしゃい」
店を出て車に乗り込む。ここから目的の場所は車で10分程度でありこの店の常連さんでもある。
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―「鈴木食材店」―
駐車場に車を停めて、店に向かって歩く。倉庫をそのまま店舗にした業務用の食材も取り扱うこの店は、ある程度の注文に応えてくれることから地元の個人経営している飲食店には大変重宝されている。僕も何回か品を受け取りに来ており、今ダンボールから商品を出している店長とはすっかり顔馴染みである。
「おう。薫ちゃんじゃねえか! いらっしゃい!」
「こんにちは! 頼んでいた食材取りに来たんだけど」
「ああ。それならこっちに準備してあるよ」
店長に連れられて、店の一画に移動する。
「これが注文されたやつなんだけど一度確認してくれや」
「えーと」
伝票に書いてある品目があるか確認していく。山のように積まれたりはしているが見やすいように置かれており直ぐに確認が出来た。
「うん。大丈夫。全部あるよ」
「そうか。それなら今回は代金は先にもらっているから、直ぐに持っていってもらっていいんだが……。量が量だからな。流石に薫ちゃんが男とはいえ大変だろう。若いやつに手伝わせるからちょっと待ってな!」
そう言って店長がこの場を離れる。見えなくなったところで僕は指輪を着けた腕を前にかざし頭の中で唱える。
(対象は目の前の品物。収納)
すると、目の前にあった山のような品物が消える。どうやら上手くいったようだ。この位の表現でも問題ないのは本当にありがたい。
「薫ちゃん。若いやつ連れてきたんだ……。あれ?」
店長が若い男性を連れてやってきてくれたのだが、品物は全てアイテムボックスに回収済みだ。
「すいません。さっき運び終わりました」
「え!? いや段ボールで15箱ぐらいだぞ。あの量をこんな短い時間で運ぶなんて……。薫ちゃん何やったんだい?」
「企業秘密です」
そう言って指を口の前に出して「しーっ。」のポーズをする。僕を知らない呼ばれた男性の顔が赤くなってることに気付く。
「おい。薫ちゃんは男だぞ」
男性が見とれていたことに気付き店長が肘で脇腹をつつきながら注意する。それを聞き男性は僕と店長を何度も見返すのだった。その後、運んだ方法を適当に誤魔化して車に乗り込み僕は戻るのであった。