128話 クエスト終わりはカクテルで
前回のあらすじ「2個目の聖獣の素材ゲットだぜ!」
―「ガルガスタ王国・冒険者ギルドに隣接する酒場」―
「今回のクエストクリアを記念して!カンパーイ!!」
「「「カンパーイ!!」」」
乾杯をした僕たちはグラスに注がれたワインを飲み、ヒパーニャさんとゴルゴッサさんはエールを飲み仕事の疲れを癒している。精霊の二人はお酒は無理ということで水を飲んでいる。
夕方にガルガスタ王国着いた僕たちはその足でヴァルッサ族長に報告。そして依頼されていたムーンラビットの素材を渡す予定だったのだが……。
「まさかムーンラビットの素材は全てこっちで売っていいとはね……」
そう言って、ヒパーニャさんはグラスに入った酒を一気に飲み干して次を頼む。結局、ドレイクという竜の下種の素材が大量に手に入る予定なのでこちらはほぼ用済みとのことだ。
「まあ、ドレイクの素材が手に入った以上、その気持ちは分かるっすよ。それにプラスで追加報酬を貰えるなら文句は無いっすよ」
「だな。このカーバンクルの魔石も幾つかもらえたしな。これを武器に装備できればかなり強力な火属性の武器になるな。と、お前らはどうするんだ?」
ゴルゴッサさんがこっちに訊いてくる。
「うーん。どうしようかな……」
「私は武器強化だね」
「そうッスね……というかレイス?鵺の強化して無いんッスか?」
「変な事をすると、今の可変性が失われるのが怖いらしいのです」
「あ~~……なるほどね。でも、私も何回かしてるけど問題無かったよ?」
「それでも心配なんだよね……」
鵺の最大の特徴は何にでも変化できるということだ。自分に合う武器の形態である籠手、城壁、黒刀の3つをメインに使っているが、橘さんに護身用に教えてもらった中には薙刀、両刀もあるので今後の戦いでは使う事があるかもしれない。さらに黒星を使う際には玉にしないといけないのでなおさら困る。
「強化しても悪くないように思うが……まあ、魔法使い専用の武器のことだし素人が口出す事じゃあないか」
「ドルグとメメに相談しようかな?」
「二人共、薫兄に会いたがってたよ。ここ最近あってないでしょ?」
「そういえばそうなのですね」
「だね。今度行こうかな」
「そんな話より~……飲め飲め!!」
ヒパーニャさんが酒をグイグイ勧めて来る。テーブルの上を見るとヒパーニャさんの前には空いたグラスがすでに4つもあった。
「凄い勢いで飲んでるのです!!」
「だから姉御は嫁の貰い手が今も無いんっすよ……ぐふぉ!!!!」
チューサーさんの失礼極まりない暴言に対してヒパーニャさんは回し蹴りで返事を返す。チューサーさんはそのまま酒場の壁に叩きつけられた。
「全く。何やってるんだか……姉御。つまみも摘まんだらどうだ?」
「そうだね~……」
そう言ってヒパーニャさんはゴルゴッサさんが摘まんでいたチーズを食べた。そしてエールを一気に飲み干す。良い飲みっぷりだな……。
「おーい!!ヒパーニャはいるか!?」
酒場の入り口から勢いよくライオンと狐の獣人が入って来る。
「あれ?こんばんは。ギルドマスターであるお二人がなんで?」
「ああ。勇者であるお前さんたちとヒパーニャ達に話があってな。二人していっしょに来たんだ。嬢ちゃん!俺達にも同じ物をくれ!酒は火酒!こいつにはワインを!」
は~~い!と猫耳のウェイトレスさんが厨房へと入っていった。
「ギルマス。俺達に話とは?」
「今回のムーンラビットの素材の買い取り、そして……」
「カーバンクルの魔石です!!まさか、そんなレアものが大量に手に入ってるなんて!!」
商業ギルドのギルドマスターである狐の女性獣人が目を輝かせている。
「と、こいつの言う通りだ。ヒパーニャ達のパーティの素材の買取は全部こっちでやってやる。で、お前さんたちのそれは明日イスペリアルで他のギルドと混ぜてやる」
「それは……ありがたいっすね」
壁に叩きつけられたチューサーさんが復活して椅子に座り直した。
「僕たちの場合は……この前の冒険者登録の件ですか?」
「ああ。と、その前にゴルゴッサとチューサー。お前さん達は酔ってないから後でヒパーニャに言って欲しいんだが……お前さんたちのランクをAにするからよろしくな」
「Aだと!」
ゴルゴッサさんが大声を上げながら、凄い勢いで立ち上がった。
「そ、そんなにすごい事なんですか?」
ゴルゴッサさんの大声でうっかり食べようとしていた料理を落としそうになった泉が恐る恐る訊く。
「言っただろう?Aになると英雄とか呼ばれるような存在だ。通常ならBが頂点のような物なんだが……」
「ああ。ゴルゴッサの言う通りだ。それとだが、カーバンクルの魔石を使っての武器強化もタダでやってやる」
「ほ、本当っすか!?」
「ああ。というのも、これからのギルドの仕組みの都合上でな」
「仕組み?」
「異世界の住人である二人は聞いていませんか?魔石使いの武器について……」
「確か、魔石を使った武器を持つには登録が必要なんですよね?」
「ああ。ランクは5段階。Eからまず始めて武器による戦闘の技術や野草の採取による知識の習得を身に付ける。Dで大型との戦闘だったり集団との戦闘経験。そして礼儀やマナーが備わって、かつギルドが保証できる奴はCランクになって魔石を使った武器を持つことを許される。Bランクはその中で大きな実績を持つ者となるんだが……この前の集まりでAランクの決まりを変更したんだ」
「変更ッスか?」
「ああ変更だ。それで決めた内容が聖獣から取れた素材を使った武器の所持だ。お前さん達がソーナ王国でユニコーンの角を少し提供しただろう?あれが規格外で強くてな……この前のダゴンでの戦闘の際に役立ったって話だ」
「なるほど。それで今回、都合よく聖獣の素材を手に入れた俺達がなることになったと」
「そういうことだ」
冒険者ギルドのマスターがウェイトレスが持ってきたお酒をぐいっと飲む。ライオンの獣人であろうその筋骨隆々とした肉体に火酒を一気に飲み干す姿は非常に似合っていた。商業ギルドのマスターも僕たちと同じワインを飲み始める。
「僕たちもAランクですか?」
「Sだ」
「「「へ?」」」
その言葉に僕たちは、何それ?と言葉が詰まってしまった。
「今度、新しく作ったSランク。それがお前達だ」
「Sランクはさらに精霊と契約を結んだ魔法使いになった者に与える予定だ。悪魔が倒されて洗脳が解けた今、魔法使いが増える可能性を見越したランクなんだが……それに契約したらすぐにとはいかず色々と条件を付ける予定だ。で、お前さん達は予定している基準を問題無く満たしているから問題無い」
「でも……いきなりSって」
「ゲームとかだと終盤位だよね。その称号……」
「ちなみに商業ギルドは以前からの最高ランクAで登録させていただきます。こちらは持ち込まれている素材が非常に入手困難な物であること、また薫さんは飲食関係の貢献、泉さんは服飾関係での貢献が鑑みされています。お二人のお陰で今まで価値の無かった物に付加価値が付けられたのも大きいです。特にピリピリの需要が高まったのは大きいですね」
「ああ。唐辛子のことか」
ピリピリというのは唐辛子のことだ。粉上にして投げて相手を退散させる道具の材料として使用されていて、食用には今までは見向きもされなかった物だったのだが、僕の入れ知恵によって色々な料理に使われるようになったとのことだ。
「あれを使ったピリ辛料理はこっちでも人気だからな。と、噂をすれば……」
ウェイトレスさんが鍋を持ってきた。中の色は赤である。
「これと酒は合うんだよね~!」
一人酔っ払って黙々と枝豆みたいな物を食べていたヒパーニャさんがそう言って、お玉で一人取り皿によそって食べ始める。
「う~~ん!うまい!」
「ったく。随分酔っ払てるなこりゃ」
「ですね。あ、僕よそいますね」
「ありがとうございます。美人さんにやってもらうのは同じ女性でもいい気分ですね……」
「そうっすね……」
「……僕、男」
「お母さ~ん。うちもッス!」
いつ誰が、精霊のお母さんになったのかな?
「お肉入れないよ?」
「か、勘弁して欲しいッス」
「全く……」
僕は皆の分を取り分けた後、その料理を口にする。味付けに少し物足りなさを感じるが、それでもピリ辛で美味しいと思える料理だと思う。
「あ~……ピリ辛料理……カクテルが欲しい……」
少し酔ったのか、頬を赤くした泉がボソッと呟く。ただ、そのつぶやきはそんなに小声では無いので丸聞こえである。
「カクテルってなんだ?」
それにゴルゴッサさんが興味を持って訊いてくる。
「複数のお酒やジュースを混ぜ合わせて作る飲み物……薫兄出来ない?」
泉に訊かれて、少しだけ考える。ここは酒場でエールビール、ワイン、火酒……ジュースなんて物は無く、果物も……付け合わせのレモンぐらいしか置いていない。
「って無理か……」
「泉の思うようなカクテルは無いね」
「薫がそう言うってことは……作れるのですか?」
「うーん二つなら……ここってミルクは置いてるかな?」
畜産業が盛んな国なんだから、酒場にも置いてないかなと淡い期待をする。
「ありますよ?」
あるのか……それなら。
「泉。ブラック・アンド・ホワイトでいい?」
「何それ?」
「ビールカクテルの一つ。後はビアスプリッツアーっていうワインとビールのカクテルぐらいかな?」
「甘い方で……」
「じゃあ……」
僕はウエイトレスさんにミルクを持ってきてもらい。グラスをレイスにも協力してもらい凍結によってキンキンに冷やす。後はビール、ミルク、ガムシロップ……はないので砂糖水を作り代用する。ビールとミルクの比率は3:2ぐらいにして砂糖水は適量である。後は軽く混ぜて……。
「はい」
「おお!見た目コーヒー牛乳!?」
「プロだときれいな2層になるらしいけどね」
「薫~……私も~……」
「あ、はい」
僕はすぐに作ってヒパーニャさんに渡す。
「く~~!!!!これいい!美味しい!!」
「俺はビアスピリッツアーってやつを……」
ゴルゴッサさんから注文を受けたので、またグラスをキンキンに冷やして、そこにビールとワインを1:1でいれる。最後にレモンを……。
「どうぞ」
「いただく……すっきりしていて飲みやすいな。うっかりすると飲みすぎるなこれは……」
二人の味の感想を聞いたチューサーさんと両マスターもそれぞれ注文する。すると、それを見ていた他のお客からも頼まれたので一気に作る。
「おい!!」
すると店の店主らしき人がこっちへすごい剣幕でやってくる。勝手に人の店でこんなことをやれば怒るのも……。
「俺にもくれ!二つともだ!新しいメニューにちょうどいい!」
「え!?……はい」
こうして、僕はバーテンダー(仮)として、この後大量にお酒を提供することになったのだった。ちなみにお酒を飲んでいた中で僕と泉以外の人が、翌日、二日酔いになったのは言うまでもない。




