124話 穏やかな朝そして狩り
前回のあらすじ「キャンプではなく若干グランピングな気がする」
―次の日「ガルガスタ王国・野営地」―
「ふぁ~あ~~……」
日が昇り始める。時計を見ると時刻は6時を差していた。
「何も起こらなくてよかったのです」
「だね……うーーん」
レイスとお喋りしながら、背筋を伸ばす。初めての野営は何も起こることなく朝を迎えることになった。
「少し冷えるのですね」
「さてと」
僕はアイテムボックスから調理台を出して、他に食材なども出す。
「卵……ベーコン、ソーセージに後は野菜にパンと……」
「朝ご飯はモーニングセットですか?」
「うん。後、今日のお昼用にサンドイッチも作っておこうと思って」
「ツナマヨも入れて欲しいのです♪」
「りょーかい……じゃあお手伝いよろしく」
「はいなのです!」
僕は取り出した卵とソーセージを、水の入った鍋にそれぞれ別に入れて火にかける。そしてそのまま、サンドイッチ用に出したバゲットを食べやすいサイズに切る。
「ツナは油をきって……マヨネーズ…後、隠し味に麺つゆを少々…っと、レイス混ぜてもらっていい?」
「オッケーなのです!」
「後は……」
そのまま、朝食用のサラダを用意しつつサンドイッチにも詰め込む。ドレッシングは麺つゆを使っての僕オリジナルをサラダにかける。
「ふぁああ~……おはよ~」
「おはよう。ヒパーニャさんは?」
「まだ寝てる……何かかなり快適とか言ってたよ?」
泉が髪をしばらずに下ろしたままの状態で起きてきた。
「フィーロは?」
「寝てると思うのです。起こさない限りは起きないのです」
レイスが問いに答える。
「私達に会う前に二人で旅してたっていうけど……もしかしていつも……」
「起こしてたのです……」
その言葉に、レイスが毛布に包まって気持ちよさそうに寝ているフィーロを揺さぶりながら起こす光景が目に浮かんだ。
「おはようさん……」
「おはようございますゴルゴッサさん」
「って、姉御は?」
「ヒパーニャさんならまだ……」
「ははは!……よほどそっちのテントが快適だったみたいだな!仕事中の姉御はいつも早起きだしな!」
「そうなんですか?」
「ああ。朝早くから狩りに出かけないといけないからな。だから外が明るくなると起きる癖が出来てるんだ」
「気持ちよさそうに寝ていたので起こさなかったんですけど……起こした方がよかったですか?」
「いや。もう少し寝かしやってくれ。チューサーも起こしてないしな……」
「二人ともこれ。ホットコーヒー」
僕は早起きした二人が会話をしている間に用意したインスタントコーヒーを出す。
「ありがとう!少し寒いと思ってたんだ!」
「これは?」
「コーヒーです。あっちではポピュラーな飲み物なんです」
「ほーう……では、いただくぞ」
「どうぞ」
僕はそう言って、ベーコンを焼き始める。
「うまい……お茶ともミルクとも違う。苦味に渋み……クセになりそうだな」
「広々とした草原でこんな風にゆったりしながら飲むって贅沢ね……コックさんもいるし」
「インスタントコーヒーだけどね……目玉焼きとスクランブルエッグ、どっちがいい?」
「スクランブルエッグ!」
「俺もそれで」
「はーい」
僕は溶いた卵に牛乳を加えて卵液を作る。
「薫。これぐらいでいいのです?」
「うん。ありがとう。そうしたら今度はこれを混ぜてもらっていいかな」
「了解なのです」
「私も手伝った方がいい?」
「それなら、茹で終わった卵の殻をむいてもらっていい?お昼のサンドイッチの具材にするから」
「分かった」
僕は二人にそれぞれ仕事を任せて、茹でたソーセージを今度は焼いていく。
「おはよ……すっかり熟睡しちまったよ」
すると今度はヒパーニャさんが起きてきた……フィーロを手に掴んだ状態で。そしてそのままフィーロをテーブルの上に置いた。
「あんなことされてるのに……寝てる」
「そのお菓子はうちのッス……zzz」
寝言を言いながら気持ちよさそうに寝ている。
「とりあえず起こすのです」
レイスがそう言ってフィーロに近づいて……風魔法で強烈な爆発音を起こした。
「zzz……朝ッスか?」
フィーロはそのままのっそりと起きた。いやいや……あれだけの音を出されたのにあの反応は……。
「今の爆発音は何なんっすか!!」
うん。チューサーさんの方が正しい反応だ。手には杖を持っている。あ、馬も驚いて起き上がっているよ。
「な、なかなか刺激的な起床方法……だね」
「俺も予想外だった……あ、馬に餌を……」
ゴルゴッサさんが席を外れて、テントから馬の餌を出して起きた馬をなだめつつエサやりをしている。
「魔法が使えるようになればこんな物なのです!」
なかなかやんちゃするなレイス……。チューサーさんはゴルゴッサさんに何があったかを聞いたところで武器をテントに置いて椅子に腰かけた。
「さてと……」
焼けたソーセージにベーコン、そしてスクランブルエッグをサラダを乗せた皿にのせてワンプレートにする。そして食パンはバターを乗せて……。
「レイス。食パン炙ってもらっていい?」
「あ、はいなのです。フィーロは顔を洗って下さいなのです」
「あ~~い……」
そのままフィーロがシンクの蛇口の栓を捻って水を出して顔を洗う。
「冷た!!……あ~起きたッス……泉は何やってるッス?」
「卵の殻割り。今日のお昼はサンドイッチだって……薫兄!終わったよ!」
「こっちも終わったのです」
「じゃあ、とりあえず朝ご飯が出来たし冷めないうちに食べようか」
「はーい」
出来た料理をテーブルに置いていく。馬のエサやりを終えたゴルゴッサさんも椅子に座る。
「うわー……豪華」
「そうっすね……」
「だな……」
「どうぞ」
「あ、ああ」
ヒパーニャさんがフォークとナイフを手に取りソーセージを口に入れる。
「うまーーーー!!!!」
「このスクランブルエッグにかかっている赤いソース……いい」
「それはケチャップっていって、ソーセージにつけても美味しいですよ」
「この野菜サラダもいいっすね……いつもの塩とコショウとは違って味に奥行きが……」
「このトースト焼き加減がバッチリッスね……流石レイスッス」
「何回も薫の家でやってるので!」
えっへん!とポーズを取るレイス。僕もトーストを口に入れるが、うん。カリカリとした食感とパンの柔らかさ……そこへバターの風味。レイス……いい仕事をしている。
「いつもは沸騰させたお湯に干し肉を入れたスープに堅いパンだけど……ああ。このメシは最高だね!」
「異世界のキャンプだとこんな感じなのか?」
「うーん……一泊ぐらいなら何とかいけるとは思うんですけど……長期となると薫兄の持つアイテムボックスにシンク、それと魔法使いで料理スキルが高いおかげってところですかね……」
「ははは!俺達にはかなり無茶な話だな!」
「それでも温めるだけでいいレトルトもあるから何とも言えないかな?」
「レトルトって何だい?」
「すでに出来た料理を常温でも長期保存できるようにした物なんです。疲れて料理する気が起きない場合それになるんですけど……」
「こっちのあの干し肉とパンみたいな物か……」
そう言ってヒパーニャさんはコーヒーに口を付ける。きっとレトルト食品を食べたら、なんだこれ!って驚くだろうな……。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―それからおよそ30分後―
「よし!すっかりくつろいだことだし準備しないとね!ごちそうさん薫!」
「いえいえ」
「今日のメシがこんな感じだと思うとテンションが上がるな」
「そうっすね」
「それじゃあ、しばらくしたら出発するから準備しておくように!」
お替りしたコーヒーを飲み終えたヒパーニャさん達がテントに戻っていく。
「それじゃあ、私達も準備するね。行こうフィーロ」
「うッス!」
「レイスも準備してきていいよ」
「いいのです?片づけとか……」
「後は一人で大丈夫だからいいよ。それと出来れば泉のテントで着替えてもらっていいかな?」
「分かったのです」
僕は準備できたサンドイッチを用意した紙に包む。
「よし……じゃあ、収納」
サンドイッチをアイテムボックスに収納。取り付けてある魔石を外しシンクも中に入れて、他の魔道具以外の物も収納する。
「アイテムボックスを最大限に利用してる気がする……」
今まであまり利用しきれてなかったアイテムボックス。ここにきて大量収納が出来る事のありがたみを知る。
「さてと……僕も」
僕もテントに入って着替えるのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―それから数時間後「ガルガスタ王国・ムーンラビット生息地」―
「アイスランスっす!」
「泉!そっちに行ったよ!!」
両手にナイフを持ったヒパーニャさんが声を上げる。
「オッケー。フィーロ!!」
「いくッス!」
二人がウィンドカッターで飛び上がったムーンラビットを攻撃。そのまま首を跳ねる。ちなみにユニコーンは強力な聖獣ということで、においに敏感なムーンラビットがもしかしたら逃げる可能性もあるということで呼んでいない。
「よし!!これで3匹目っす!!」
「順調だな」
あれから、野営地から出発した僕たちはムーンラビットがいると思われる場所までやってきた。そしてそのまま狩りを始めて順調に数をこなしていく。
「よし。解体するか」
ゴルゴッサさんが武器である斧を脇に置いて、解体用のナイフを取り出す。
「それじゃあ私は周囲の確認してますね」
そのまま、泉たちはヒパーニャさんとチューサーさんと一緒に周囲の偵察。
「ああ。薫は大丈夫なんだな?」
「男なのでこの位は……」
「……あまり無理するなよ」
「なのです」
正直言うとキツイのだが、今後の事を考えると覚えておかなくては……小説のためにも!!
「ここをこう切って……」
「そうそう……それで次はここで……」
料理する際に肉を切るとはまた違う感触、濃い血の匂いを嗅覚で味わい、血に染まった肉を目に焼き付けつつ解体する。そしてこの時、僕が思ったことは今日のお昼を肉の入っていないサンドイッチにして正解だったなということだった。




