122話 いざ、草原へ
前回のあらすじ「依頼内容の確認」
―「ガルガスタ王国・冒険者ギルド前」―
「目立つね……」
「そう……だね」
「しょうがないッスよ」
「そうなのです」
僕たちは着替えて、いつもの魔法使いの服になっていて待ち合わせの冒険者ギルドの入り口付近にいる。冒険者は荒くれ者が多いらしく、僕が中に入ると絡まれるから注意した方がいいと、カーターに言われてるので外で待っているのだが。
「う、美しい……」
「俺、声かけようかな……」
……こうなるだろうとは思っていた。しかし、ここから何時もと違う展開になる。
「待て!!あれ!勇者だ!!」
「え?あの悪魔を焼き尽くしたって……あ、あぶねえ……で、でも隣の……」
「あっちは魔導士だ。悪魔を使役する術を持っているらしい……だからやめとけ」
「お、恐ろしいな……」
という具合で、さっきからナンパしようとする男共は近寄って来ない。そこはよかったのだが……。
「何か変な通り名が……」
「そうッスね」
「待たせたかい!?」
「いいえ。僕たちも今、来たところですから」
荷物をくくりつけた馬を連れてヒパーニャさんたちがやってきた。
「って!あんたら荷物は?」
「この手提げ袋と……ここに」
僕は指に着けていた指輪を見せる。
「アイテムボックス!いいな~……羨ましい」
「……これ多分、軍事用のアイテムボックス……普通は買えない」
「ひえ!さ、流石、勇者って言われるだけはあるね……まさか、そっちの魔導師さんもかい?」
「……あっちは買える。ただ、金貨10枚」
ゴルゴッサさんが回答する。
「え?そうなんですか?私、もらったから……」
「それをポンと渡せるって!?いや……あんたら王様と知り合いなんだから当然か……」
「……しかも、そのかばんに入れている魔道具……最低でも金貨1枚はかかる高級品の水筒。さらに匂いを消す魔道具まで所持してる」
ゴルゴッサさんの言葉を聞いて、さらにヒパーニャさんが顔を引き吊っている。
「ゴルゴッサさん。分かるんですか?」
「魔道具はよくチェックしている……仕事に必要になるかもしれないしな」
「泥棒からしたらいいかもだよ。そんな軽装だし……」
確かにあちらは金属製の防具を少なからず装備している。そんな人たちからしたら僕たちの服装はそう見えてもしょうがない。
「姉御……彼女達の服装、全部、魔法の布っすよ。ちなみにそちらに訊くんっすけど素材には何を?」
「えーと……ワイバーンに悪魔……」
「すいません。もう結構っす。とんでもない防具だって分かったっす」
そう言ってチューバさんは頭を押さえる。
「勇者って……そんな感じなのかね……」
「あの~。それでしたらこちらをどうぞ」
そう言って、泉が三枚の色違いの布を出す。
「私が作ったバンダナです。ここに、この魔石をはめると速度強化と風による身体の防御強化になりますよ」
「うちも手伝ったッスよ!」
「うわ!これフルールじゃないっすか?しかも、この魔石……品質に技術申し分無いッスよ!」
「これだけで今回の依頼料の10倍はもらったな……」
「そうだねゴル……これをプレゼントって明日はここ雪でも降るのかな……」
「姉御。どの色がいいですか?」
「ピンク……」
「どうぞ」
「ありがとう……気を取り直してっと、じゃあ出発するかい。で、これは話を聞いてるんだけど……飛んでいくのかい?」
「いや。呼びます」
「へ?」
「じゃあ……お願い!ユニコーン!」
泉が手を前に出して魔法陣からユニコーンを呼び出す。すると、周囲にいた人からどよめきが起きる。
「あれって……聖獣ユニコーン!!??」
「嘘……初めて見た!!なんでここに!?」
「ユニコーンに手を合わせると願いが叶うらしいぞ!!」
「いい男と結婚できますように、いい男と結婚できますように、いい男と結婚できますように…………」
願いが叶うと聞いていきなりヒパーニャさんが拝み始めている……。
「姉御……」
「必死だな……」
気迫のこもったヒパーニャさんのその姿に仲間が少し引いている……。
「……町中で呼ぶもんじゃないね」
「なのです」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―およそ一時間後「ガルガスタ王国・南の草原」―
王都を出てから一時間。風を感じがら、僕たちは草原を駆けていく。
「ユニコーンに跨れる男なんて初めてだよ」
「ははは……」
「しかし、聖獣と一緒に旅できるなんて……。記念になるっすね」
「ああ。というより俺らいるのか?」
「え?どういうことですか?」
「まあ、普通の魔獣じゃ太刀打ちできないユニコーン、さらに悪魔さえも退ける賢者クラスの魔法使いに超高級品の装備……ここまでの奴らの助けって何を?って感じかな」
「でも、僕たちの本職は違って……僕は姉のお店でウェイターをしながら小説家を」
「私は衣服を仕立てて売ったり、着たりして……だから、捕獲とか採取は初心者なんです」
「あんたらみたいな初心者って……しかし、そんなんで仕事になるの?」
「あっちでは娯楽も商売になるんです。むしろ、これからこっちの世界もそうなるかもしれないですよ?」
というのも、ロロックたちが倒された後、ビシャータテア王国でも大道芸をしてお金をもうらう人が出て来たりしている。また、それはビシャータテア王国内だけではなく、他の国でもその現象は起きている。
その理由として、この世界の硬貨が変更されなかった事が原因とカシーさんは言っていた。ロロックを倒した後、徹底的にロロックたちが使っていた部屋や施設が調べられて、中には隠し部屋なんかもあったらしい。そして、それらの中で行われていたのは人の欲望やら幸福なんかを操る術、そしてそれの実験台になったたくさんの死体……。ハリルさんたちの調べだと浮浪者に孤児、重罪人などいついなくなっても怪しまれない人々を使い、実験していたらしい。
僕が、らしい。と使うのは、それらを直接は見ていないのだ。ただ、実験内容の書かれた本を読んだ一人であるサルディア王は、読まなくていい……いや、もうあんな事を起こさせてはいかん。と出血するんじゃないかというくらいに両手に力を込めながら話してくれた。
それで、最初の話に戻るが、当然ながらロロックが使ったその魔法についての記載もあり、硬貨の模様は魔法陣で、その内容は持った者に軽い精神操作がかかる魔法をかけるという物で、その中でエーテルの役割はその魔法効果の持続延長効果のために使われたいたらしい。そしてその効力が完全に切れるのがこの時期らしく、そのためか前より人々が娯楽を求める傾向が出て来ているらしい。今まで抑えられた分、その欲望が問題ごとを生み出さないか各国は警戒をしているとのことだ。
「(悪魔がいなくなって、人は真の自由を得たのだー!って感じなのかな?)」
「(さあ?精神操作もかなり軽い物らしいから何とも言えないっていってたね)」
僕は泉と小声で話す。ロロックたちの魔法を解いたのが本当によかったのかどうかは僕たち次第になるのだろう。
「まあ……最近は犯罪者をすっ飛ばす仕事もしてるッスけどね」
「それは納得っすね」
「でも、無償なのです」
「無償!?え。金とってないの!!」
「まあ……その代わりですけど、色々裏で融通を利かしてもらってるので……」
「あ、なるほどね」
「まあ、俺達も族長達に貸しを作ることもあるから、その報酬には納得だな」
「今回もそれでヴァルッサ族長からもらえたっすからね」
「そうなんですね……そういえば、今回どこに向かっているんですか?というか場所が……」
僕たちはヒパーニャさんの後を追って走っているのだが……見渡す限り草原……目印になる物がないような……。
「あれだよ!あれで場所が分かるんだよ」
ヒパーニャさんの指差す方向を見ると、そこにはこの草原に似つかわしくない棒がある。
「あれは魔道具でね。魔獣とかに倒れないように頑丈に作られた物なんだ。あれがあっちこっちに設置されていて、後はその棒の模様でどこにいるかをこの地図で確認するんだ」
「本当に大丈夫なのです?」
「確かに絶対に棒が倒れないっていう保証はないっすけど、それ以外に……例えばあそこの岩とかも目印にしてるっすよ」
「棒以外の目印もなんだかんだでたくさんある。だから迷う事はないから安心しろ」
すると、ヒパーニャさんが僕たちの横に付けて並走するように馬を走らせる。
「それで……今回の目的はここでね。で、今はここ」
地図を見ると、目的地には赤色の三角マークがついていて、今の場所から大分離れている。
「この距離だと一回どこかで野宿して、そこからこの目的地だね」
「それでどこで野宿を?」
「ここだよ。日がくれる前にはここには着くよ」
ヒパーニャさんが教えてくれた場所は目的地に近い場所だった。
「え?何で目的地の手前なんですか?」
「そうッスよ。この距離なら着けるんじゃないッスか?」
「もしかして野営地ですか?」
「流石、勇者様だね!夜になると魔獣の奇襲とか怖いからね。ここは開けていて比較的安全で他のパーティーもここを使うようにしてるんだ。大勢いればそれだけ負担が減るからね」
「この辺りって多いのです?」
「もちろんだ。家畜を守るのと魔獣の毛皮は重宝してるからな」
「農業は?」
「夏季が短くてな。農業は難しいという事でそれなら思い切ってそこは魔獣から出る素材の売却、家畜から出来た物を売ったりして、必要な野菜とか果物を近い村々から仕入れているんだ」
「家畜から出来た物?」
「ああ。ミルクっていいんだよ!それが色々な加工が出来てね。チーズっていう物やヨーグルトって物になるんだよ……」
「……ビシャータテア王国にそれ輸出している?」
「ん?それは無いっすね。なんせはるか遠い王国っすから。それこそ転移魔法陣がなければ数ヶ月の旅っす」
「そうか……」
ビシャータテア王国の乳製品の増産は最近で、まだまだお値段が高め……安定供給の為に、そしてスイーツを求める王宮のメイドさんたちのために、この件でメイドさんたちから後ろ指を差されている王様のためにも教えてあげよう。僕は心の中でそう決めるのだった。




