121話 ガルガスタ王国
前回のあらすじ「MAKOTOの登場はおそらくこれで最後」
―「ガルガスタ王国・王都」―
僕たちが転移魔法陣のある建物から出ると、そこには遊牧民の住居であるゲルのような建物が大小たくさん並んでいる。さらに、周りを見ると……平たい。さらに地面は舗装されておらず草が生えている。
「テントみたいな建物しかないね?」
「うん」
「それはそうだ。なんせ俺達の国は移動するからな」
声のする方を振り返ると、そこにはヴァルッサ族長と数人の兵士がいた。
「移動ッスか?」
「ガルガスタ王国は移動王国なのです。住人の大半が放牧関係に従事していて、その家畜のためと防衛の為に移動します」
「防衛の為って?」
「移動することで、他国に位置を悟らせないって役割があるってことかな」
「そーゆうこと……で、仕事の話をするから、まずは俺の居城まで案内するぜ」
「はい」
「よろしくお願いします」
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―「ガルガスタ王国・巨大ゲル内の一室」―
ヴァルッサ族長の後を付いていくと、一際デカいゲルに案内される。すると中には色々な獣人が大きな長テーブルを囲うように座っていた。
「待たせたな」
「いいえ。我らも今集まったばかりなので問題ありせんのじゃ……」
「それに、今回はそこの異世界の客人……しかも、あの恐ろしい悪魔を倒す勇者と、逆にその悪魔を使役する魔導士が来るって言われれば、少しくらい待つなんて安い物だ」
少し年老いた猿の獣人、それに下半身が馬になっている若く筋骨隆々な獣人……他の獣人たちも同じような事を話していく。
「それで……そちらの方々が?」
ウサギの獣人が僕たちを見て、訊いてきたので自己紹介をする
「私は成島 薫。こちらは相棒のレイスです。先ほどの会話で出た勇者と呼ばれる者になります」
「お、おお~。なるほどあなたたちが……これが女性だったら……な」
そう言って、男獣人たちががっくりと肩を落とす。いや、失礼じゃないかな君たち……?
「それで……私は多々良 泉。相棒はこのフィーロになります」
「そ、それでこっちが悪魔召喚士ですか……」
今度は全員が青ざめた顔になる。魔導士以外にそんな呼び名が付きましたか……。
「……私達ってそんな風に呼ばれてるの?」
「あ~……この前のアレを見せたからな。全員が、え!?っていい反応してたぜ……」
そう言ってヴァルッサ族長が手にしているアレとはこの前の戦いの画像が入ったタブレットである。各国の大臣に連絡する際に画像は大変便利ということで、笹木クリエイティブカンパニーから貸し出ししている。ただ、こちらでは充電は出来ないので、ことあるごとにタブレットを回収して充電、さらに回収時に新しいタブレットを貸し出すという事で何とかしている。ただ、この手順はとても面倒ということでイスペリアル国に造った笹木クリエイティブカンパニー・イスペリアル国出張所でも充電が可能にするようにする。と直哉が言っていた。
「それで、ここにいる人たちは?」
「それぞれの族長だ。実際の俺はガルガスタ王国の北東を管理する族長、あっちはその反対側の南西の族長で……こっちは北の族長……って感じになっている。俺はその中の代表として出ているだけだ」
「へー……そうなんですね」
「以前は王はいたのでじゃが……いかんせん、暴君でな……」
「何の獣人なんですか?」
「カバだ」
「カバ?」
「ああ。力が強く獰猛な方でな。問題ごとが多すぎたのじゃ」
年老いた猿の獣人が答えてくれる。
「今はガルガスタ王国にある炭鉱場で厳重な管理の元で罰を受けているから安心してくれていいぜ」
カバの王様か……百獣の王ライオンとは言うが、アフリカではカバの方が危険とされているらしく、それの獣人と考えたらかなり強そうだ。
「で、話を戻すがここにいる族長達と連携してムーンラビットの現在の生息場所を割り出したから、そこへ行って欲しいって訳だ」
「分かりました……仕事の内容を聞かせて下さい」
その後、ヴァルッサ族長を中心に今回のクエストの詳細を聴く。目的の場所はここから南に位置する場所で馬でも半日以上はかかる距離にいるらしい。つまり、捕まえるのにしばらくそこに滞在。往復も考えると4,5日は掛かる内容とのことだった。そこはある程度聞いていたので泊まり込みの準備は出来ている。
「そして、必要なのはムーンラビットの前歯だ。ムーンラビットにとっての一番の武器であって、これを素材に使った武器は強力な物になる」
「それで何体捕まえるッスか?」
「おいおい!捕まえるってアレは無理だぞ!?」
「無理?」
そして、今度はムーンラビットの情報になる。ムーンラビット……ラビットと名はついているが、体長は成人男性の身長位で肉食。風属性魔法を使っての高速での移動と跳躍が武器でさらに獰猛だそうだ。
「ウサギ……かわいいと思ってたのに……」
まあ……そう言う事もあるだろう。
「基本的には集団で群れることは無いから、見つけて狩る。を繰り返す必要があるな。こいつの厄介な所は跳躍という上からの攻撃が強力なんだが……お前らの方が上だからな。少ない人数と最小限の被害に抑えられると思って頼んだんだ」
「なるほど」
「それでだが……今回、一緒にギルドに所属する冒険者パーティーを同行させる。ここいらの魔獣に精通している奴らだし、異世界の住人であるお前等だけってことは無いから安心しろ。ってことでヒパーニャ!入って来てくれ!」
ヴァルッサ族長の声と共に入り口から猫型の女獣人と猿型の男獣人、それとネズミの男獣人と思われる方々が入ってきた。
「あんたらが今回同行する勇者パーティーかい!アタシはヒパーニャ!このパーティーのリーダーさ!ヴァルッサ族長に頼まれて請け負った冒険者だよ!」
「俺はゴルゴッサ……よろしく」
「おいらはチューサー!よろしくっす!」
自己紹介されたので僕たちも自己紹介をする。
「男……」
「ゴルゴッサ……おいらも分かるよその気持ち……」
「あんたら!失礼でしょうが!!……とまあ、私もちょっとだけショックだけど……」
「解せない……」
僕を男と知って、全員がショックを受けている……が、何か解せない。
「しょうがないッスね」
「いつも通りなのです」
「美女はいつも孤独なのよ……」
……酷い言われようである。
「それじゃあ、あまりゆっくりしている訳にもいかないし……さっそく出発でいいかな?」
「いや!まだ、荷物は宿に置いてるんだ。だから、ちょっとだけ時間が欲しいんだけど?」
「じゃあ、冒険者ギルドに集合。全員が集まり次第出発ってことでオッケーかな?」
「ああ!それでいいよ!ゴル!チュー!仕事だよ!!すぐに準備!!」
「「アイサー!!姉御!!」」
そう言って、ヒパーニャさんたちはゲルを後にする。
「じゃあ。まかせたぜ薫。もし準備が必要なら今のうちに済ませとけよ?」
「はい」
ヴァルッサ族長の言葉に返事をし、他の族長さんにも軽く挨拶をしてから僕たちもゲルを後にするのだった。
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―「ガルガスタ王国・商店街」―
「あ、これと……」
少しだけの時間を使って買い物……というより生地の購入である。
「これで秋の新作が作れるッスね!」
「ええ!」
今回は日常で着る用の服の生地を購入しているようだ。
「それで、二人はいいの?」
「私は本を買ったので……薫は?」
「僕は……」
特に購入する予定は無い。キャンプも必要な道具は持ってきた。しかも鵺という何にでも変身できる道具があるし……食材?いや、ここにある物って基本的にビシャータテア王国と変わらないし……。
「薫兄って……こっちによく来てるのに異世界の道具とか買ってないよね」
「そうだね……基本的にレイスの衣服とか道具。この前、両親に魔石を使った冷温が自由に調整できる水筒を買って……」
「自分のは買ってないと?」
「うん……」
そう。そんな訳で、なんだかんだで金貨も大分溜まっている。こっちの硬貨を多量に持っていてもしょうがないしな……まさか、金という素材をあっちで売る訳にもいかないし……。
「あそこはどうです?魔道具なら欲しい物があるのでは?」
レイスの指差す方向には魔道具販売店があった。
「どうだろう……」
「本当に欲が無いというか……」
「直哉にも言われたよ。食材……香辛料をグージャンパマで売りさばけば大儲け出来るのに。ってね」
そう。昔、コショウが金と同等の価値があったように、こっちでまだ出回っていない香辛料はそれだけの可能性があったりする。ちなみに異世界間を行き来して、貿易に精を出す……ネタにいいかもと思ってはいるのだが、これをやるとこっちのためにならないと思い、農業支援で止めていたりする。
「とりあえず、まだ少し覗いてみませんか?」
レイスに言われて、魔道具屋に入ってみる。中には色々な物があって、ビシャータテア王国でも見たことのある物もあれば、何に使うか検討がつかない物もある。でも、これから長期間の旅だし、アイテムボックスに入れられないから……買うとしても持ち運び出来る物が……。
「うん……?」
ふと、ある物が目に入る……レイスに何が書いてあるかを尋ねてみるとなかなかいい物かもしれない。少々お高いが問題無い。
「いいんじゃない?」
「そうだね……皆もいる?」
「いるッス!」
「欲しいのです」
皆に言われて、僕は金貨4枚、それともうひとつ気になる商品を購入するのだった。
「美人さんにはおまけだ!!」
「はは……ありがとうございます」
おまけで火の魔石を使って作られたライターをもらうのだった。




