119話 黒の魔石の効果
前回のあらすじ「夏らしいことをたくさんした」
―「聖カシミートゥ教会・会談の間(仮)」―
「話題が山積みだな」
ローグ王が会議の中でため息混じりで呟く。その意見に各国の代表が同感の意思を示す。8月も終わりに近づいた今日。僕はこの前のアオライの現状報告をオルデ女王から聞くのと、その他諸々の問題に何かいい案が無いかという事で呼ばれてレイスと一緒に会議に出ている。今回は各国の賢者と輸出入を管理する大臣、さらにさらにで代表的なギルドをお偉いさん何かも来ていたりする。
「アオライでの魔獣襲撃……被害の方は?」
「セイレーンの蹂躙のおかげで死者は23名、負傷者は84名……最低の被害で済みました~。ただ、壊れた家屋とか船の再建には時間が掛かりそうですね~……」
「死人……出たんですね」
「あ~。そちらの世界の事情は聞いてます~。でも、他の代表からも言われたと思いますが責任とか深く気にしないで下さいね~?魔獣が出るこの世界ではよくありますし~……むしろ、あれだけの大型魔獣に襲われて町が消滅しなかった方が凄いですからね~?」
「そうだな。私達もあとで映像として見せてもらったが……」
「あれは住人の避難優先……町を捨てる覚悟ですね」
「ということですので~……」
「はあ……分かりました」
死人が出たのはショックだ。いや、今までの被害で一度も死人が出なかったというのが幸運だったのかもしれない……これから、魔族を相手にするのだから、その覚悟をしないと……。
ちなみに、オルデ女王が僕を落とすために色々な策略が裏で行われていたらしいのだが、それをソレイジュ女王とレイスの親子が事前に排除していた事を知った。……まあ実質な被害が無かったので、それらは水に流すことにした。多少は警戒するが……。
「というより……お前さんのそのキャラは維持するのか?」
「だな……すでにここにいる全員にはバレてるしな……」
各国の代表はオルデ女王の素顔がどんなのかある程度は知っていたらしい。僕にも教えてくれていいのに……。
「いいんですよ~……別にグージャンパマでは重婚オッケーですし、ダメなら愛人枠で薫に付けこむだけなので~」
「しませんから」
「でも~……気になりませんか?人魚の体の仕組みがどうなってるのか……小説に反映したいですよね~?」
そう言って、スカートを少しだけ捲る仕草をする。……確かに気になる。けど。
「……カシーさんに頼んで文献で確認するので大丈夫です」
「あらあら……必要ならいつでもいいですからね~……ふふふ♪」
絶対、新たな作戦を考えているよこの人。今後とも注意しなければ……。というか重婚オッケーだったんですね……そこに驚きです。
「話を戻していいか?……今回の大型魔獣の討伐で出た素材を売ってくれるなら、こっちからも人員出すぜ」
ヴァルッサ族長がそう言って、後ろに構えていた大臣、それにギルドの方が首を振って同意する。
「お願いします~。人員は必要なので……他の国もヴァルッサ族長と同じ提案でしょうか~?」
「ああ。そうだな」
「こちらも街道を整備して対応しますね」
「私共、精霊は力でのお手伝いは出来ないですから……食料の輸出で対応しますわ」
ノースナガリア王国の食料……それはハチミツ。なんでも蜂の養蜂が盛んらしく、その量はかなりの物になるらしい。それを知った僕がイスペリアル国の料理教室で使ったら評判になって、ノースナガリア王国の代表的な輸出品となった。
「助かります~」
「それと……くれぐれも生まれて一年以下の者には与えないように。薫さんからの助言ですしね」
あっちのハチミツと同じで乳児ボツリヌスの恐れがあるので、念のために注意している。
「重々承知してます~」
この後も各国が協力の意思を伝える。さらに、そこから流通の発展に伴って大きな街道とその通り道にある町の整備を進めるという話になった。これには冒険者ギルドと商業ギルドの双方が盛大に喜んでいた。
「それで、次だが……」
「武器開発に関しての報告ですわね」
すると、賢者たちの代表としてカシーさんが前に出る。
「予定していた開発、まず言語変換魔道具が完成しました。すでにあちらでの売り上げの動向を見るために二百個を製造をします。これにより、あちらでの外貨がより多く獲得出来るかと」
「それじゃあ、あちらの植物の苗とかが購入出来そうですね」
「はい。これで戦いに向けた食料の生産、備蓄に目途が立つかと」
「それはよかった……が、武器の方は?」
「……」
カシーさんの表情が暗い。
「あちらにある銃をモチーフにしたマジックガンですが……一応出来ました」
そう言って、他の賢者が前に出てそれをみんなに見せる。かなりごっつく、歯車が見えたりしていてスチームパンクの世界にありそうな見た目をしている。
「一応とは?」
「まあ、見てもらった方がいいかと」
すると、ガルガスタ王国の賢者が氷壁を出す。そして、それに向かってカシーさんがマジックガンを撃つ。
パァン!
銃声と共に、氷壁から炎が上がるが直ぐに消えた。各国の代表たちが氷壁の状態を確認するために近づく。
「今のは炎の魔石で作った弾薬を撃ったのですが……こんな感じの威力です」
「うーん……これなら魔石に刻印してのファイヤーボールの方が強そうだな」
「氷壁は……ほぼ無傷じゃしな」
「ですわね……」
「後は威力を高めれれば何とか実用化出来るかと」
マジックガンは形は出来ているが、コストパフォーマンスが悪いということか……。
「それで、もう一つの魔法使い用専用のパワーアップアイテムですが、まだ未完成です」
「現物は無いのか?」
「形は同じように出来ているのですが……見せてもあまり意味が無くて……」
「見てもらっても分かるような強化にならないと?」
「そういうことです。理論としては問題ないのですが……とりあえずは原因の究明をしています」
どんなパワーアップアイテムが来るかと楽しみにしていたが……もう少し後になりそうだ。
「マジックガンの方はもう少し改良を加えれば何とかイケるかと……」
開発は順調とまではいかないが、少しずつは前進しているようだ。
「後、黒い魔石の報告ですが……」
各国の代表が席に戻った所で、カシーさんが次の議題を話し始める。
「何か分かったのか?」
カシーさんが首を横に振る。
「各属性の魔法、いずれも発現しませんでした。また、魔法使い……賢者がそれを持って魔法を使用しても魔法自体に何の影響もありませんでした」
「そうか……」
「そこで……薫に試しに使ってもらおうかと」
「え?」
ここでいきなり僕の名前が出る。
「悪魔の血筋を引く薫ならもしかしたら」
周りから視線が集まる。中には僕が悪魔との関係者と知って驚いている方もいらっしゃるが……。
「どうするのです薫?」
レイスに訊かれて考える。
「とりあえず、やってみようか。カシーさん魔石は?」
「これよ。さっきの氷壁に向かって放ってみて欲しいんだけど……他の代表もいいですか?」
各国の代表がオッケーする。
「って、コンジャク大司教。本当にいいんですか?」
「大丈夫でしょう。賢者の氷壁はかなり堅いですから」
「それなら……お願いできる?」
氷壁を出してもらった獣人の賢者が、最初の氷壁の後ろに二枚追加で氷壁を作る。
「これで問題無いでしょ?」
「それじゃあ……」
僕はカシーさんから黒い魔石を受け取り、氷壁の前に立つ。まずはレイスの力に頼らずに魔法が使えるかを試す。
「……まあ、やっぱり使えないか」
「だろうな」
ワブーが両手の掌を上にして、やれやれ。というようなポーズを取る。
「じゃあ、レイス」
「了解なのです」
そして、同じように全属性……雷魔法も試したが意味が無かった。
「薫殿でもダメか」
「となると……だ。黒い魔石は純血な悪魔にしか扱えないということか……」
「そうなりますね……薫?」
「うん?」
「どうした?考えているようだが?」
「いや……」
さっき、魔法を放つ際に何か……変な感じがした。もしかしたら何か足りないのかな……。僕はあの時のロロックの使った魔法を思い出す。炎……これは単純に悪魔の得意な属性かな?どう見ても他の黒い魔石を体内に取り込んだ時の巨大化や変化がメインだよな……ああ、そういえばあのバスジャック犯もそうだったし……そこでレイスを呼んでこれからやることを伝えて、ふと思ったことを試す。僕は左手を前に出し、そして右手は魔石を持ったまま左手の手首を掴む。
「弐式……」
僕がそう言うと、魔石が黒い光を発光させて反応する。
「氷弾」
構えた僕の左手から黒い光を纏った氷が出現して発射される。それはそのまま氷壁を三枚貫いて壁に突き刺さった。
「あ、やばっ!壁……」
僕は思わず、コンジャク大司教の方を振り向いて、壁に穴を空けたことを謝る。コンジャク大司教は、大丈夫ですよ。と言ってくれたが、本当に申し訳ない。
「わ、私の渾身の氷壁を初級魔法で!?しかも三枚全部!?」
氷壁を作っていただいた獣人の賢者の方を見ると、床に手を当てて落ち込んでいた。
「……薫?今のは?」
「あの悪魔が魔石を取り込んで魔法を強化させてたから、もしかして、これ自体では意味が無くて、他の魔法と併用するのかな……って」
「でも、それを持って魔法を使った時は何も……」
「うん。僕も何も起きなかった。だから黒い魔石の為に、弐式。っていう呪文を作って、そこに使いたい魔法を唱えるって方法を取ったんだ。イメージとしては黒い魔石の力が放つ場所に注がれて、そこからパワーアップした呪文を放つイメージかな?」
「にしき?」
「上のとか、上位のって意味を込めて作ったんだけど……」
他にも、改とか改弐とか頭の中に浮かんだのだが……語呂があまりにも悪いので止めた。
「それじゃあ……黒い魔石は他属性を強化させる魔石?」
「多分、レイス。鉄壁でやってみよう」
同じように鉄壁を発動させる。見た目は同じように何も変わらない……しかし、体は確かな何かを感じる。
「すいません。アイスランスを撃ってもらっていいですか?」
「え?」
「いいから」
「は、はい」
落ち込んでいた賢者さんにアイスランスを僕に向けて放ってもらう……え?
「遅い?」
アイスランスはかなり速い速度で撃ち出されるのだが……それと比べると遅い。気分的にはキャッチボールぐらいだ。思わず僕はそれを片手でキャッチする。
「な!?」
「なるほどね……薫。私に貸してもらっていいかしら」
僕は黒い魔石をカシーさんに手渡す……何かさっきまでの勢いが消えたような……。
「も、もう一発撃ってもいいですか?氷を得意とする私にとって信じられなくて」
「え?」
「では!いきます!!」
「あ、ちょっと……」
先ほどの氷壁を破壊されたり、氷の弾丸を片手でキャッチされたりして慌てていたのだろう。僕の了解を得ずに氷の弾が同じように放たれる。それはいつものアイスランスの速度、咄嗟に避けることが出来ないので腕を前にして防御する。氷の弾丸は僕の手の甲に刺さって先端が手を貫いたところで止まった。
「くっ!!」
「お、おい!大丈夫か!?」
僕の手に氷が突き刺さったのを見て、部屋にいた皆が慌てる。
「あ、あ……す、すいません!!」
「あ~……お気になさらず」
泣き顔になっている女性獣人の賢者さんに男としての見栄を張り、涙をこらえ、激痛に耐えつつ、僕はポーションをアイテムボックスから取り出し手にかけて治療する。
「どうして?さっきは防いでたのに?」
「カシーさんに黒い魔石を渡した瞬間に何か弱くなった気がして……」
僕がそう言うと、カシーさんたちも同じように試す。そして、その魔石を近くの誰かに渡して黒い魔石を手放す。
「……なるほどね。確かにハッキリと分かるわね。所持し続けないといけないってとこかしら」
「つまり、身に付けたままじゃないといけないって事なのです?」
「そうなるね」
「これ……もしかしたら使えるかも。魔法のパワーアップアイテム!いけるわ!!」
「何か得られそうかカシー?」
「ええサルディア王!これなら上手くいけますわ!!」
その後、カシーさんたちは先ほどからヴァルッサ族長に叱られていた賢者も連れて、そのままイスペリアル国に造った笹木クリエイティブカンパニー研究所へと会議室を後にするのだった。
「よかったわね」
「そうですね~」
皆が武器開発に希望を持てたことに安堵しつつ先ほど賢者が出ていった扉の方を見ている。
「(……大丈夫か?)」
「(……すごく!痛かったです!)」
皆がそっちに気が逸れている間に、小声でサルディア王に手の心配をされて、僕はそう答えるのだった。




